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果ての畑でメシイモを  作者: 鰤金団
味の旅人
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25/32

その平民、怪しすぎるため

「まさか、本当にやるとはねぇ。ムゼーランさん、死なないと良いけど」

(簡単に力尽きるようなら国家税務官にはなれていないでしょう)

「それもそう……なの?」

 大変だろうなとは思うけれど、本当の多忙さが分からず、疑問形で私は返すしかなかった。

 百科事典との会話に一区切りついた所で、私はずいぶんと強い口調で話しかけられた。

「おい、そこの女。誰と話している?」

 何時の間にか見覚えのない整った顔立ちの青年がこちらを見ていた。

 初対面の相手に随分な物言いだ。私はただ村に似た空気を少しでも感じようと庭園に居るだけだというのに。こういう相手は厄介だから、関わらない方が良い。だって、王様達は私を受け入れているんだから。このまま立ち去ったって良いだろうさ。

(いえ、この先関わる相手ですよ。お相手は王子ですから)

「へ~、王子。王子ねぇ……。おうじぃっ!?」

 飛びだす勢いで立ち上がると、目の前に命の危機が。

「何者だ。何が目的だ!!」

 腰に見える鞘。肝心の中身は相手が手に持っていて、その剣先が向けられているのは私。この状況での私は、そう。明らかに不審者なのです。

「ってぇ、待って待って。いえ、待ってください。私は招かれ(半誘拐)てやって来た平民です」

「招かれた平民? 城の庭園に平民が居るものか。王族以外には解放されていないのだぞ」

 う~ん、困った。私の言葉を聞いてはくれないらしい。

「では、ムゼーランさんを呼んでください。それか王様か王妃様を」

「気軽に呼べと言って呼ぶ事が許される相手では無い事を知らないのか、平民。その上、招かれたなどと分かりやすい嘘まで。ますます怪しい」

 剣を構え直し、本当に今にも刺してきそうな雰囲気だ。だというのに、焦りはするけれど、不思議と恐怖には呑まれていない自分が居た。

「良いんですか? 本当に招かれた平民だったらどうするんです? 自分で呼んでおいて、自分勝手に平民を切るだなんて知れたら、市民が暴れるんじゃないですか?」

「平民が王族を脅すのか。不敬だ。不敬だぞ」

 一度冷静になるべきだと訴えているだけだというのに、相手の感情が更に高ぶる。

 この人、人の話を聞かなすぎじゃない? 本当に王妃様達の子なの?

(王様と性格が似ているではありませんか)

 あ、王様遊戯の事を思うと確かに。顔立ちも二人の面影があるし、やっぱり息子かぁ。

「平民といっても、私はメシイモ農家です。人が生きるに必要な食事の中心を作っている者ですよ。まあ、このお城だと小麦に立場を奪われているみたいですけど。しかも、農業改革に必要とされた育成法を提唱した者です。農家を敵に回すとどうなるか分かりますか? 飢えますよ。人の基礎が食事なら、国の基礎も食事ですよ」

「うぐぐ……」

 感情に任せて動き過ぎたと気付いたのだろう。少しずつ剣先が下がる。

「おうじぃ~。待ってください、王子ぃ~」

 今にも力尽きそうな状態の叫び。声のする方を見たら全力疾走して満身創痍なムゼーランさんが駆けてきた。

「助かった。ムゼーランさん、説明しちゃってください」

 これで私の身の潔白が証明されると、強気になる。

「昨日と違ってなんて堂々とした……。昨日の交流が効果的過ぎた?」

 彼にとっては想定外な様子らしいけど、十分過ぎるほどの支えとなっているだけ。そこは強調しておこう。

「王様達が理解してくれているおかげです」

「なるほど。では、王子の誤解を解かなければ」

そう言うとムゼーランさんは王子に向き直った。

「王子、先日問題を解決する手立てがあると話したのを覚えていますか?」

「もちろんです。しかし、断りました。私は先王のような行動はしないし、民に強制するつもりも無いと考えも伝えましたよね」

「そうは言っても勘繰るのが人間です。勝手に思い込み、暴挙に走る者を王子も昔から多く見てきているでしょう。今はまだ王の庇護下ですが、いずれは王子の弱みになるのです」

 そっか。この王子が王様になったら、全ての悪い事は王様のせいになりかねない。

 いくら評判が良くても、市民が受け入れられない何かがあったらそこから駄目になる。

 メシイモの悪い部分をほっといたら広がって駄目になるようなものかな。

 だから広く食べられるようにならないと王様達は言っていたのだろう。

 それに甘い物を食べると体が疲れるという話。あれも巡り巡って悪評から命を狙おうとする相手が出てきたら、そこを狙われる可能性が高い。まだその程度は分からないけれど、ちゃんと動けない状態になると分かっているのなら、改善出来るならそうした方が良いに決まってる。

 ムゼーランさんの言葉を押しのけたいような表情をしつつも、考え方は理解しているからだろう、一方的に拒否する事が出来ずに困っている様子。

 理由を探すように視線を私に向ける王子。

 やっと良い方法を閃いたとばかりに口を開いた。

「しかしだ。見れば貴族でも無く、我らに対する礼儀も無い。あなたはそんな者に国の将来に関わる問題が解決出来ると本気で思っているのですか?」

 疑わしいかもしれないけど、随分な物言いをする王子だ。ちょっと肥料には出来ないものだろうか?

「そうでなければ招かない。それに平民という立場に不安を抱えつつも王子のために頑張ろうとしている。だというのにその発言は王族として褒められたものでは無いぞ」

 一歩も譲らないムゼーランさん。王様への接し方でもそうだけど、国家税務官ってそんなに凄い立場の役職なの?

 互いに拮抗した状況。このままでは進展は無いと思ったらしいムゼーランさんが言う。

「さ、ルイシアさん。手始めに王子の事を見てはもらえませんか?」

 この空気でそんな事を言われても……。それにだ。

「何も許されていないのに!?」

「証明するには仕方の無い事です」

 強引が過ぎるよ……。王子を見ると敵意と警戒した目のままだし。

「はぁ……」

 これで何かしらの結果出せなかったら何か言われるだけじゃすまなそうなんだけど。

 しょうがないと、私の命を繋ぐためにも、何を証明して良いのか分からないままに百科事典へ協力を求めた。

(ヌマリンス・ジュルリス第二王子。十六歳。チートは糖です)

「え、糖って何?」

 チートってその名前を聞けばこんな事が出来そうとか分かるものだけど、これは全く分からない。

(生き物が活動するために必要な力の一つです。彼のチートはその糖を操ることが可能です)

「へぇ。それって自分にしか効果が無いの?」

(他者の糖を操る事も可能です。視認出来る範囲の全ての存在の糖に干渉する事が出来ますが、今の彼はチートを制御出来ていないため、自身の体に入ってきた糖に過剰反応を起こして外に出す事しか出来ません)

「チートって与えられたその瞬間から当人が頭が追い付いていないだけで、熟練したような事が出来ると思ってた。まだ未熟って事なのね」

(はっきりと言ってしまうとそうなります)

「そうなんだぁ」

 ムゼーランさんの話を聞いた時には妙なチートだとしか思わなかったけれど、内容を知るとかなり強力な感じだ。

 だって人が動くために必要なものを弄れるとか、命を掴まれているみたいだし。

 でも実際、その糖というのを好きなように出来ると生き物にどんな影響が出るんだろう。

 王子は動けなくなるみたいだけど、他の人もそうなのかな?

「おいお前。先程から一人で誰と話している」

 王子が明らかに怪訝な顔をしていた。まあ、百科事典は見えないものね。

 理解してもらえるか分からないけれど、私は隠さずに伝える事にした。

「チートと話していました」

「チートと話す……?」

 王族だったら珍しいチートをたくさん知っていそうだと思っていたのだけど、反応に困惑が見られた。どうやら王子も昔の私と同じらしい。言葉を発するチートなんて存在しないと思っていた頃と。

「はい。その結果、王子のチートである糖について全てとは言いませんが分かりましたよ」

「この者に何処まで話を?」

 視線をムゼーランさんに向ける王子。

「王子のチートの正式な名は明かしていません。でずが、起こる状態については伝えてあります」

「ならば名前は偶然の一致である可能性が高いか。チートの扱いも推察する事は可能だろう。どうか?」

 疑り深いとは思うけれど、簡単に信じないのは彼の立場的に大切な事だと思う。

 あれだけ人に随分な事を言っていたのに、冷静に私の発言を確かめていた辺り、直情型とは言い切れないみたい。

 まあ、今のは私のチートの紹介みたいな所があった。

 重要なのは次に出す情報だ。

 内容次第で私への対応が変わる。

「百科事典。私が知らない王子のチートに関する事を教えて」

(彼がチートを使うと糖の玉が生まれます。現在の彼の習熟度では自身からその玉を生み出すのみです。玉の大きさは摂取した量で変わります)

「それって目に見えるの?」

(見えます。現在彼が確認している大きさは小石ほどが最小です)

 なら、石の廊下の上なら見つかりやすいか。

「王子様。あなたがチートを使った時、周りに小石程度からの大きさの玉が生まれていませんか? それはあなたが取り出した糖らしいです」

 聞いた事を伝えると王子は記憶を振り返るように右手で顎を持った。

「あれが……糖? いや、何故見ても居ないお前がその存在と正体を知っている?」

 私が知らない情報を出せと言うから出したらこの反応かぁ。

「それが私のチートですから」

 こう答えるしかない。

 でも、なんか自分で言ったは良いけれど、もしも嫌味な感じが出てたりしたら、不敬とか言われて罪になったりしないかと心配になった。

「……確かに、チートを授かってからは甘い物を食すといつの間にやら謎の玉が近くに転がるようになっていた。だが、それがまさか糖なる物だったとは……。他の者が触れれば消えていたが、気味が悪いからと直接触れさせずに片付けさせていたが……。間違っていた?」

 チートの内容が分からなければ、姿見の鏡で名が分かっても悪いものとしか思われない。

 もしかすると、勘違いされているチートが他にもあるのかも。

 メイティアに話したらどんな反応をするかなと思ったけれど、今は王子だ。

「どうなの、百科事典」

(大量の糖に他者が触れれば影響が出たでしょう。しかし、これまでの食事量から出た範囲では問題ありません。また、舐めても味はしませんし、調味料にもなりはしませんよ。彼の場合は高い糖を摂取して起こる拒否反応により、同量以上の糖が排出されて体調を崩していたのです)

 へぇー、そういう繋がりになるんだ。糖って怖いわぁ。

「一人で理解せず、早く説明せよ」

 すっきりしていたら急かされてしまった。

「王子が甘い物を食べて体調を崩されるのは、糖を出す時に食べた分以上に出してしまうからだそうです。後、王子以外が触れたらその人に吸収されるみたいです。同じ人が糖に触れ続けていたら悪影響が出るそうなので、先程の扱いで問題無いみたいですよ」

「なんと、あの玉はそんな存在だったのか。触れた者に変化は無く、消えていただけに見えていたが……」

「そこの所はどうなの?」

(先ほども言った通り、許容範囲の糖であれば無害です。彼がチートの扱いを覚えたのなら、任意の存在に糖を付与する事が出来ます。現在は任意での切り替えが出来ないため、時間で消滅するか、触れた生物に吸収されるかの二択です。チートの扱いに慣れたのならば、投擲にも使えるようになるでしょう。他にも活用法はありますが、全てのチートは持ち主の考え方次第です)

 つまりは、王子頑張れ、という事らしい。

「時間で消えるみたいですが、吸収するしないは王子の考え次第みたいです。持つかどうかも同じだそうです」

「そうなのか。確かにまだ私達が知らぬ情報ではあるが、検証が必要だな」

 新情報の方に関心を示す王子。

 まだ受け入れられるには先になりそう。

「丁度良いからムゼーランも共に来るのだ」

「いやあ、私はそろそろ仕事に戻らないと」

 そろりそろりといつの間にか距離を取っていたムゼーランさん。私を助けるために仕事を止めてまで来てくれたんだろう。でも、いつの間にか消えようとするなんて冷たい。

「何を言う。激務から逃げる口実を探していたのだろう?」

「いえいえ、そんなそんな」

 謙遜しているようだけど、メシイモ目当てで村まで来た人だ。多分これはサボりと明言されているための誤魔化しだろう。

「さあ行くぞ」

 私が強制参加なのは仕方ない事として、王子はムゼーランさんの背中を押して強引に歩き出した。

「王子、逃げません。逃げませんから」

 と言った事で押される事を回避したムゼーランさんに疑問に思っていた事を訊ねる。

「あの、どうして分かったんですか?」

 部屋で仕事をしていただろうから、庭園で私と王子が遭遇した事に気付かなくても不思議じゃない。寧ろ、気付かれる訳が無いように思えた。

「とても簡単な事です。王子が戻られた知らせを受けたので、あなたを探しに出ていただけの事。まさか、あんな所に割って入るとは思いませんでしたけどね」

 そう言って笑うムゼーランさん。かなり必死な感じだった。どうやらあれって、本当に私の身が危ない状況だったみたい。知ると今になってちょっと体が震えた。

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