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果ての畑でメシイモを  作者: 鰤金団
味の旅人
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24/32

王様遊戯

「ああ、疲れた」

 お城に到着してから一夜明け、今は朝。

 村じゃメシイモで済ませていた食事もここでは小麦をこね回した物が我が物顔。

 メシイモは他の野菜と一緒に煮込まれた汁物の中にあった。

 昨日の夜はパンと焼いたお肉にメシイモといくつかの野菜。

 二回の食事から考えるに、王族が口に入れるメシイモは主食に在らず。

 因みに二回とも今までのメシイモを使っていた。私のメシイモは常時食べられるほど集まってはいないという事だろうか?

 王族との食事もやたらに緊張したし、全ての動きに不安を感じた。

 唯一味を理解出来たのはメシイモのみという、メシイモ農家らしい結果に。

 お城の寝床は当然ながら村の私の寝床よりも遥かに上質で、すべすべなめらか柔らかいという未知の物。気持ちの良さは理解で来たけれど、だからと言って体に合うかと言えば、当然馴染まない。結果、眠れたという実感は全くなかった。

 この生活に耐えられるのかと、新たな不安が生まれるほどだ。

 そんな私の前日よりもくたびれた様子を見た世話係さんが、気分転換に庭園を見に行ってはどうかと進めてくれた。

 足を運んでみて思ったけれど、やっぱり村周辺とは全く違う植物ばかり。

 丁度良く椅子とテーブルが在ったから、腰を下ろして深く呼吸をした。

 うん、道中を含めても一番心が休まる場所かもしれない。

 周囲に人の姿が無くて、なんだかやっと本来の自分の立ち位置に戻ってきた気がした。

「ねえ、百科事典。昨日のあれってどうなの?」

 私は、親睦を深めるという名目であの後に行った遊戯の事を指して訊ねた。

(王様遊戯ですね。王様にしか出来ないボケでしたね)

「あれに大爆笑していたムゼーランさんは大丈夫なのかな?」

(彼なら今、仕事で机に固定されていますよ)

「それ、ほんと?」

(はい。本当です)

 あの発言も本当の事だったんだと、私は振り返った。



 依頼を受ける事が決まった後の話だ。

 ムゼーランさんがこんな提案をしてきた。

「では王様。今後も何かと会う事になるでしょうから、親睦を深めましょう。彼女はまだ王族という事で緊張していますから。世間話が出来るくらいに打ち解けましょう」

 確かに、王様達と世間話をするくらいの関係にはなれない。というよりも、私から話題を提供するような事はどれだけ親しいと思われる関係になっても無理な気がする。

「ふむ。確かに息子が世話になる娘だ。些細な気づきでも知らせられる関係である方が良いな」

「そうでしょう、そうでしょう。そこで私は考えました。王様遊戯という遊びを」

 この人、税務官なのに王様に対しての距離感おかしくない? と私が思うほどに遠慮が無い。

「ほう、王と名の付く遊びとな?」

 彼の提案というよりも、王様は“王”と付いた所に興味を持ったようだ。

「はい。まずはこちらに用意した人数分の棒をご覧ください。棒の端の部分には色が付いた棒を一本と番号を振った棒があります」

 この人、何時から仕込んでいたんだろうと思うほどサッと取り出して見せるムゼーランさん。

「ふむ。それをどうするというのだ?」

「はい。印のある部分を手で隠し、混ぜます。さあ、棒を一本選んでください。ああ、選んだら掴んだままで、まだ抜かないでくださいね。さあ、皆さんも」

 言われ、私と王妃様も棒を選ぶ。

「では残りを私も掴みます。ここで掛け声を。王様だーれだ。はいっ」

 続けてどうぞとムゼーランさん。しかし、その前にスッと手を上げる王様。

「この場に王は一人しかおらんだろう。これの何が面白いのだ?」

 理解出来ないという顔を彼に向ける王様。

「いえ、実際の王様では無く、色の付いた棒を引いた者がこの遊戯では王様になるのです」

「なるほど。では結果を見よう」

 ムゼーランさんの手から引き抜き、隠れていた棒の先を確認する。

「おや、私が王様ですか」

 色付きを引いたのはムゼーランさんだった。

「では、私が王様という事で」

「謀反を起こすというのだな。よし分かった。死刑にしよう。ひっ捕らえろ」

 ムゼーランさんを周囲の人が取り囲む。

「ちーがーいーまーすー。とにかく最後まで話を聞いてください。誰も王座を狙ってはいませんから」

「先日、大臣補佐が怪しい動きをしていたのだが」

「遊びと政治を混同するのは止めてください。……では、気を取り直して。色が付いた棒を選んだ人。今回は私です。王様は番号棒を持った人に命令が出来ます。例えば、一番と三番は踊れ。というような感じです。因みに一番と三番は?」

「わしが三番だ」

「私は一番でした」

 二番は王妃様で、今回の命令を受けない立場らしい。

「ほう、王であるわしと踊るのは誉とされている。喜ぶが良い、ルイシアよ」

 王様自ら動き、私の手を取った。田舎の平民娘の手を取る王様とか、物語の中でも見た事が無い。

「あなた、年若い子の手を取ったからって手籠めにしてはなりませんよ」

「分かっている。それに、お前を一人にして寂しい思いはさせんよ」

「まあ、今夜は血筋が増えるかもしれませんわね」

「料理人に捗る物を用意させねばな」

 何、このやりとり。なんか意外に俗っぽい上に生々しいのに驚かされた。

 王族のいちゃつく様子を、平民の私はどう見れば良いのか。そして、踊れない私はどうすれば良いのだろうか?

 足の動きなんて分からないから、すぐにでも宙に浮く方法を身に付ける必要がある。

 だって、足なんて踏んだら処されそうなんだもの。だから教えて、百科事典。

(練習をせずに受ける訳がありません。諦めてください)

 無常は答えが返ってきた。

「時にムゼーラン。妻を不安にさせた罪で仕事量五倍の刑に処すので覚悟しておくように」

「またまたぁ。王様ったら、王族系の冗談が過ぎますよ」

 私はこの時、王様の目をしっかりと見ていた。先程までは分からないけれど、王様の目は笑っていなかった。


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