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果ての畑でメシイモを  作者: 鰤金団
味の旅人
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22/23

玉を落とした王子様

 それはある日の昼下がり。

((突然ですが、旅をするなら馬車と徒歩の場合、どちらが良いですか?)

 うわ、ついに自分から話し始めたよ。

「うわ、ついに自分から話し始めたよ」

(ここまで一致する発言も珍しいですね)

 心の声と本当に重なってしまった。

「いや、だってさぁ。今更な話だけど、チートって喋らないでしょ」

(今ここで会話していますが)

 感情を感じさせない声なのにずいぶんと感情出してくるじゃん。

「それが唐突に質問してくるとか、それもう人格あるじゃない。別人格じゃない」

(じん……かく……?)

「何でそこで初めて聞いたみたいな反応するの? そこに意味はあるの?」

(その疑問こそ必要でしょうか。上辺だけの探求による追及に意味などありませんよ。今浮かんでいる疑問も一時間後には忘れているものですよね)

「結構な頻度で疑問には思ってる鵜だけどね。まあ、二ルネッガ教みたいにとことんまでって風には思わないけど」

( ええ、分かっていましたよ。では話を戻して。どちらが良いですか?)

 どうやらとにかく先ほどの質問には絶対に答えないといけないらしい。

「はいはい。それなら決まってるじゃない。馬車でしょ。そうね。どうせ乗るなら村の荷車みたいなのじゃない、ふっかふかで最高な乗り心地のを所望するわ。一度寝たら起きない感じの」

(それはもはや棺桶では?)

「違うから。馬車って長旅が前提でしょ。やる事も無い上に乗り心地が最悪なんて、私は嫌だわ」

(少し和ませてみただけです。本当にその方向を望んでいるのなら、こちらも修正していきますから)

「ちょ、ちょい。冗談振るくせに何で本気で捉えようとしてるのさ。二年も一緒に居るんだから分かるでしょ」

(もちろんです。それにこれも冗談です。とても質の悪い)

 今日は随分と面倒な返しをしてくるじゃない。ほんと、腹立つわぁ。

(これは必要な事でした。落ち着いてください。質問の答えは確かに受け取りました。では出かけましょう)

「はい? それってどういう――」

 話の途中で家の戸を叩く音が。父さんじゃない。メイティアや村の人なら叩いた後に呼びかけてくる。

 そうしないという事は、村の人じゃない。

 警戒した私は息を潜めて去るのを待つ。

「国家税務官、ムゼーランの要請である」

 相手は痺れを切らせ、目的を言ってきた。その内容に私は耳を疑った。

「今、国家税務官とか言わなかった?」

(今外で待っている者は、先日ユーイルを追いかけて村を飛び出したムゼーランの部下です)

 記憶に新しい揚げメシイモの美味しさ。どうにかしてまた食べたいという思いが強すぎて、そんな事もあったっけ? と全く記憶に残っていなかった。

 百科事典に言われて思い出したけれど、あのおかしな人ってそんな名前だったっけ? というくらい顔が思い出せない。不審者がやってきた事実だけは思い出せるのに。

「な、何で? 私、納めるものは納めてるけど。あ、もしかして村長がやらかした!?」

 村の税とは村長が集め、管理するもの。各家庭の畑の大きさは事前申告が必要で、その情報から平均収穫量を出す。そこにその時々の収穫量と照らし合わせて各家庭の徴収量が決まる。

 因みに、新規住民や初年度に開墾した畑は一年。王国に有用な可能性のある栽培法の実験は三年以内の間なら税が免除される。

 私がやった初めての年は、これら理由に当てはまるから食べつくしても問題は無かった。

 メシイモなら従来のやり方でも絶対に成果が出るし、新しいやり方はよっぽどじゃない限り三年以内での成果なんて見込めないだろう。

 何よりも、皆は日々を生きるのに大変で今の生活に少しでも変化を足すほどの余裕は無い。

 そんな理由で、村長の家に来るならまだしも、我が家にやって来るなんて事は絶対におかしい。

 にしても、こんな一大事に父さんは何故出て来ないんだろう。今頃なら多分畑仕事中だ。

 村の外から来た集団なら目立つだろうし、すぐに気付くはずだわ。

(このままでは突入してきますよ)

 焦り、祈り、この事態を乗り越える方法を考えていたら、恐ろしい事を言い出す百科事典。

「ええ、何でよ」

(家に居る事は既に把握されていますから。)

「相手は既に調べがついてるって言うの? というか、狙いは私!?」

(事情は既にあなたの父親が聞き、許諾しています)

 ええっ、父さんが我が身可愛さに娘を売った!?

 事情は分からないけれど、それがとにかく頭を叩かれたような衝撃を感じた。

(いえ、売られてはいませんよ。悪いようにはなりませんから、早く出ましょう)

 父さんも百科事典も、なんか私に関わらせようとしている?

 でもその理由が分からない。家に突入されるんも嫌だし、もう考えがまとまらない。

「いや、今が既に最悪なんだけど……」

 文句が口から出た。駄目だ、考える事が出来ない。

 限界を超えてしまった頭で思ったのは、百科事典が言うのなら酷い目には合わないのだろうという事。

 百科事典を信じ、戸を開けた。

「確認する。あなたがルイシア嬢か?」

 なんかとんでもなく頑丈そうな鎧を纏った人が戸を開けたら立っていて、確認してきた。

「ええ、まあ。そうですが」

「あなた様を丁重に持て成すよう言われております。さあ、ムゼーラン様の居る馬車へお向かいください」

 扱いがなんかおかしい。これ、招かれたって事?

「私、持て成されるの? 何で?」

「あなた様のお父上には全て説明しました。なので事情はご本人に聞いてください」

 いや、父さんに話したんだったら、同じ事を私にも言って欲しいんだけど。

(貴族の常識では、家長の言葉は家の意思なので訴えても駄目でしょう)

 私ら平民に貴族様の常識を求められても迷惑なんだけど。というかね、父さんに話すのなら、その時に同席させるべきでしょうよ。

(その考えは貴族内には無いので、やはり無意味でしょう)

 そんな事言われても受け入れられないんだけど。

 生まれの違いによる差が酷いと動揺していると、相手が急かすように言ってきた。

「すみません。こちらも急を要するので失礼します」

 断りを入れつつ近づいてきた。

 何をするのかと思ったら、私を担ぎ上げてそのまま馬車に押し込まれてしまった。

「私物も何も持って無いんだけど!? ねぇ!!」

 私が馬車の扉を叩いて訴えるも、誰にも反応されず、動き出されてしまった。

 家から離れると、何事かと馬車を見に来た人の数が村の出口に近づくほどに増えていた。

「もう、なんだってのよ……」

 多分兵士であろう人達に囲まれて、馬車から飛び出して逃げられる訳が無い。

 八方塞がり過ぎて頭を抱えるしか無かった。

「逮捕された訳じゃないから何も恐れる事は無いよ。女神メシィーモ」

 うなだれる私を見かねてか、相席相手が私を妙な言葉で私を励ます。

 しかしそれは、私の感情を逆撫でするも同然だった。完全に思い出した、何でこの人と……。

 私は顔を覆っていた両手を動かし、頭を上げて言った。

「頭にメシイモが詰まり過ぎじゃない?」

「はは、これでも一食分しか入って無いんだよ」

 それでもまだ執着しているんだから、重症だわ。

「えっと、税を管理する人がどうして誘拐なんてしたんですか。しかも私を」

「いやいや、人聞きが悪いよ~。ちゃんと君のお父様に許しを得ているからね」

「私は一切話を聞いていないので、人さらいと同義ですよ」

 王都に行くのなら、着替えの一つや二つは必要だろうに、いきなり担がれたせいでその荷物すらないのだ。不満は絞らなくても出てくる。

「安心したまえ。これからその辺りの理由を説明するからね」

 既に事を起こした後で説明されても事実は何も変わらないんだよなぁ……。

 王都の人間の傲慢さか、貴族の横柄さなのか。これ以上の文句は意味を成さないし、うるさい一庶民だと怒りを買って切り捨てられそう。メシイモ畑じゃない所の肥料になるのはごめんだ。

「話を聞くつもりになったようだね。では話そう」

「あ、はい」

 どうせまともな話じゃないだろうと思いつつ返事をした。

「心して聞いて欲しい。実は、王子が甘い物を食べたがらないんだ」

「しょうもなっ」

 何故私が連れて行かれたのか全く分からない理由だった。

「甘いのなら私だって好きだし。それが子どもなら絶対甘いの好きでしょ。それに王子だっていうんなら毎日食べ放題でうっはうはでしょうよ」

 やっかみが過分に含まれた言葉を吐く。いや、吐きたくもなる。こっちは滅多に食べられない貴重な味というのに、相手は好き嫌いで食べないとか言ってるんだから。

「幼い頃はそれはもう毎日甘い物をねだるほどに好きだったよ。だから幼少期は歯磨きを徹底させ、歯の維持に努めていたものだ。しかしだ、ある時を境に甘い物を食べる事を嫌がるようになった」

「それ、ほんとに好き嫌いなだけでは? そもそも王子って何歳なんですか?」

「今年で十六だ」

 チートを与えられてもいるし、自分で食べる食べないを決めてもおかしくない年齢だった。

「その歳なら好みという事で好きにさせてあげれば良いのに」

「王族は好みで食事をしてはならない。平等な目を養い情報を精査する訓練の一環でもあるからだ」

「そんな事情で? 食べ物でも?」

「そういうものなのだよ」

「……私には分からないわ。それで、もしも仮に甘い物を食べなかったらどうなるんですか?」

「王族御用達の菓子屋が潰れる」

「いやいや、たった一人の好みで? まさかぁ」

 真実っぽい話に嘘を混ぜないでいただきたい。いくら王族一人が食べないからって、お店が潰れるだなんて。でもムゼーラン税務官殿の表情は緩まない。深刻だった。

「ま、まさかぁ。なんで?」

 繋がりが分からず、私は聞き返していた。

「国の頂点に立つ王がどれか一つを食べないという事は、王が食べないものを民が食べてよいのか? という疑問が生じる。王が口にしない物は王族が口にせず、その下の者にも連鎖する。結果、甘い物は不用という事になり、国内の流通は絶たれるだろう」

「王様がそうだからって、んな横暴が許される訳が――」

「あるから王なのだよ。事実、過去の王の中には辛い物が食べられず、主に辛い食材を貿易品としていた国との関係が断絶した記録がある」

 嘘っぽいと思ったけど、百科事典なら知っている?

(事実です。今からさかのぼる事、四百二十五年前の事です)

「四百二十五年前ぇ!?」

「ん? 確かに四百から五百年ほど前の間に起こった出来事なのだが、知っていたのか?」

 百科事典から出たものよりもずいぶんと開きがある。

「え、いや、何となく? それより、百年ってけっこう間が空いてますね」

「当時の王が生まれてからの事であるのは確かなんだ。しかし、完全に断ってからを始まりにするか、減らし始めた年からを始まりにするのかで意見が分かれているんだよ。また、当時の王の即位前か即位後かという所でも議論され続けている。そのような理由で特定できていないのさ」

 百科事典はその辺りの事をちゃんと把握しているから細かい年号を出せたという事らしい。

 百年間禁止だったという訳ではなさそうだ。

「王族の好き嫌いがどれほどの問題なのかは分かったけれど、なら何で王子は甘い物を食べないんだろ?」

 疑問が口を突いて出る。

 私の言葉に、ムゼーラン税務官殿が答えてくれた。

「それは、疲れるからだ」

「えっと、それは……顎が疲れるとかの意味で?」

 私は甘い味の物で疲れが出る料理を知らない。だから、王族だけが食べる特別に硬い食べ物があるのかもと思った。

「いや。体が疲れるらしい。王子のチートは糖分で、それが関係しているようだ」

 私の想像とは違い、チートが関係しているらしい。それにしても、またよく分からないチートを貰ったものだ。

 なんだそれという顔をしていたせいだろうか。ムゼーラン税務官殿はもう少し詳しく話をしてくれた。

「甘い物を食べると全ての行動に支障が出てしまい、動けないどころか思考もままならなくなるのだ。国を背負う一人であるというのにこれは非常によろしくない。国家間の関係も国の未来も危うい状況なのだよ」

 チートを貰って一年間は様子を見ていたみたいだけど、改善の兆しも見られないから動いたという感じみたい。

 うん、人に縋るほどの問題なのは分かったけれど、何で私だったのだろう?

 そんな疑問に首を傾げていると、ムゼーラン税務官殿は察して答えてくれた。

「あなたは二年前にメシイモの新たな育て方をチートから授かったというではないか。ならば、導いてくれるのではないかと思ったのだ。その後で王都でのメシイモ栽培を少し手ほどきしてもらえればと思っている」

 この人の勘の良さに驚かされた。確かに百科事典に聞けば答えは簡単に分かると思う。

 ただ、解決までとなると、そんな簡単に行くだろうか? そんな疑問が残る。

 それに、こんな状況でもメシイモに関する事を忘れないというのも凄い。

「あの、育て方は公表していたと思いますけど。村名義で」

「ええ。あれのおかげで徐々にですがメシイモに革命が起きていますよ。おかげで廃棄場を拡大する話がある地域もあります。なので大忙しですよ。働く者の人数が足りないくらいですから」

 今までは必要だけれど不人気な仕事で働き手に困っていたというのに、逆転しているだなんて。それを聞いて私が喜んで良いものだろうか。言ってしまえば臭い場所が広がるという事になる。重要な場所ではあるけれど、王都とかではこの状況を素直に受け入れているんだろうか? 理解されなくて、村出身だと知られて恨まれたりしないだろうか。

「何、安定した供給とよりよい食に繋がるのです。あなたが発表した肥料はメシイモ以外にも効果があると分かりましてね。現在試した全ての植物の質が向上されているので、ワクワクしていますよ」

私はただ自分の暮らしが楽になればと思って始めただけだから、他への影響とかは考えもしていなかった。そんな事になっていただなんて。

「それって、村にももっと色んな野菜や果物が入ってきたり?」

 扱える食材が増えるのならフドクルさんの料理の種類が増えると思った。

 今は酒飲み用の料理ばかりだけど、行く行くは町の酒場みたいに食事処になるかも。

「あー、残念ながらそれは難しいだろうねぇ」

「そんな。収穫量が増えたなら王都だけでは食べきれなくなるんじゃ?」

 一度見た夢はそう簡単には無かった事に出来ない。

「そう興奮しないで。確かに成功したら出荷量は増える。しかし、王都や他の場所から君の村までは遠すぎる。馬を不休で走らせても腐ってしまう。もっと良い流通か保存方法が生まれれば可能だろうが、そのような話も発見も報告されていないんだよ」

 なんでチートの中に空を飛ぶとか無いんだろう。あ、魔法という手が在ったわ。

「魔法。魔法でどうにか出来たりは?」

「残念ながら、先ほどと同じく距離の関係で無理だろう。人は寝ぼけて魔法を使う事はあっても起きている時からずっと同じ魔法を使い続ける事は出来ない。同じ魔法の使い手を集めて運ぶという手もあるが、君の村に着く頃には金貨が何枚必要になるか……」

 そこまでぼったくられるの? と想像するだけで背中が寒くなった。

 そういえばメシイモは長期保存に適しているから税の支払いは現物になっているけれど、他の駄目になりやすい物を育てている所は村長経由で町に買い取ってもらってるんだっけ。

 村じゃまだ物々交換の方が強いから、その代金は食材やそれ以外の物に姿を変えていて、お金を見る機会がそう無い。モクディルの所に頼むくらいかな。

 金貨とか、私らみたいな平民が手にする事は一生無いだろうし、ムゼーラン税務官殿が言った金額が本当なら遠路はるばる来ても買い手が付かないという無駄行動になってしまう。

 うん、流通が変わらないと駄目なのはその通りみたいだ。

 残念だ。魔法もチートもあるのに、何で改善されないのか。良い方法だと思ったのに……。

(方法はありますよ)

「あるの!?」

「何が!?」

 百科事典の言葉に大きく反応してしまった。

「あ、いえ。何でも無いです」

「いやいや、何でも無い事は無いでしょう。もしかして、私の話そっちのけで誰かと意思の疎通をしていた?」

 鋭いけど、ちょっと違う。話はちゃんと聞いていた。あの瞬間にぽっと言われた事に反応してしまっただけ。

「本当に何でも無いんですって」

「ほんとうに~?」

 当然の事ながら疑われている。何か、良い手段はないだろうか?

(うかつですね。仕方ありません)

 誰のせいだと思っているのか。いや、二年も一緒に居てまだ初歩的な失敗をしてしまう自分のせいだろう。認めたくない事だけど、こんな時はモヤモヤしてしょうがない。

(錯乱しましょう。そうですね、ここはメシイモに関する事で)

 そうするのが正解とばかりに言ってくるけど、メシイモで錯乱ってどうやるの?

 何が正解になるのか分からない。考えてみても想像すら浮かばない。

 見かねてか、百科事典が言う

(メシイモの花の声が聞こえます。茹でたメシイモに合う新しい量魅了の事。美味い。美味すぎるっ!! というような事を言えば、彼はとても興味を持つでしょう)

 そうかもしれないけど、結果としては絶対に自分の首を絞める事になるやつだよ。

 どういう事が聞かれても答えを用意していないから、絶対に疑われる。

「そもそも花が囁くって何よ。そんなお花畑な歳は十年以上前に終ってるんだけど」

「え、囁く? 君は何を言っているんだ?」

 いけない。つい声に出してしまっていた。でも、おかげで一つ分かった。私と百科事典の会話って、錯乱しているのと変わらないじゃないって。

「うわぁぁぁぁぁぁぁん」

 それに気付いた瞬間、私は頭を抱えて慟哭していた。

(流石です。混沌の渦中とは今この場、この時の事です)

 ムゼーラン税務官殿は突然の事に対処に困っていた。でも、これで村に引き返すような事は無かった。

 今はまだ、気づいた事実を受け入れるのに必死だった。

 まだ数日は馬車生活だというのに大丈夫なのだろうか?

 耐えられなくなった私がそんな心配をするのは、もう少し感情を発散した後だった。


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