狂信者達の集い
農作業で鍛えられた両足で大地を踏み、鍬で鍛えた両腕で教会の扉を勢いよく開ける。
「神父様、まだ生きていますか!?」
「メイティア。私はこの通りピンピンしている。彼はこの通りピクピクしているよ」
二人のやりとりに付いて行けない。非常時じゃないかったのだろうか?
騙されたのかもと思いつつ、神父様に近づく。
私の視界に虫の息でピクピクしている男の人が居た。
「はあ、まだ生きていましたか」
修道女らしからぬ発言。
「メイティア?」
「いえ、本格的に危ない人だったので」
「いやまあ、ほんとに危ない人だよね。これ」
目の前で横たわっている人の様子は言葉通りで、ただの農家の娘にはもう何もできそうにない。というよりも、最初から何もする事が無い。
「これはもう、ヌルネキッソスの船に乗ってますよね?」
「ぬるねき? ああ、お命お運便の事。そっちじゃそう言うんだ。ニルネッガ教の用語だよね?」
「そうですが、お命お運便って何ですか?」
「こっちだと皆そう言うけど。え、方言?」
「教会内では全く聞かなかった単語ですね」
うっそ、言わないんだ。お命お運便……。まさかの方言発覚に戸惑う。
「め……」
微かな呟き。弱々しい声量は近くでも聞き取れるかどうかというほどだった。
あ、いけない。地域差に驚いていてこの人を忘れてた。
「あなた、誰? 私に何の用があるの?」
面と向かって話しかけている最中も、この人誰だっけ? と頭の中は疑問で一杯だった。
そもそも、村に出入りしている人じゃない。
「めし……」
「めし?」
「い……も……」
私の方に震える手を伸ばす。いや、誰かも分からない人の手なんて取りたくないんだけど。
それに今聞き取れた単語を合わせると“メシイモ”になる。飢えている様子じゃないし、絶対関わりたくない感じだ。私の中の私(百科事典ではない)が訴えている。
「ねえ、メイティア」
「何ですか、ルイシアさん」
「この人、今から流さない?」
「……はいっ。それも一つの自衛ですね」
とても良い返事だった。
私もけっこう本気だったけれど、まさか彼女がこの提案に乗って来るとは思わなかった。駄目で元々の精神で提案してみただけだったのに。一体彼女とこの人の間にどんな深い溝があるというのか。
彼女はいつも明るくニコニコ穏やかなのが売りの修道女だったはずなのに。
「こらこら、二人とも。何を恐ろしい事を言っているのだ。そもそも、運んできた君がそんな事を言ってはいけないだろう」
ああ、メイティアが第一発見者だったんだ。
「行き倒れと言うべきなのでしょうか。そんな状態の人を放っておくのは流石に……。とあの時の私は思ったのです。その後は……。最低限の温情をかけただけなのです」
ずいぶんとこの倒れている人の事を悪く言う。メイティアがこれほどまでに言うという事はよっぽどだ。
「ねえ、メイティア。見つけた時の状況を教えてくれない?」
「そうですね。そこを説明する暇が無く、神父様も困惑しているのですよね」
ちゃんと話せば理解してもらえるとばかりの発言。一体どうして、彼女がこんなにも難色を示しているのか。私達は彼女の口から語られる真実の物語に耳を傾けた。
メイティアが歩いていると、一本道の先に何か大きな塊が転がっているのに気づいた。
この平和な村でそんな迷惑な事をする人がいるなんてと憤る彼女は、一人では動かせそうにないそれが何かを確認しようと近づいた。
段々と形がはっきりしてきて、背中側みたいだと思うメイティア。
それでもまだ距離があり、近づいて新しい発見がある度に、あれ? もしかして? いやいや、まさか……。と思考を巡らせていた。
実際に触れてみないと分からないと思いつつ、反対側に回って正体を確かめる。
ほぼ確信していたそれは、やはり人がうずくまっている姿だった。
「まあ、大変。大丈夫ですか? 病気ですか?」
どこの家の人かと、見えにくかった顔を動かして確認するメイティア。
「旅の人?」
村で二年過ごしている彼女が知らない顔。周囲を見ても馬車がある訳でも無い。たった一人で旅の荷物も持たずに倒れている事を不審に思わない訳が無い。
村を揺るがす事件の可能性もあると、緊張にメイティアの喉が鳴る。
「だ、誰かいるの……か?」
横たわる人から聞こえたのは男の声。辛うじて意識はあるようだが、苦しんでいるらしい声を聞き取るにはかなり耳を近づけなければいけなかった。
「はい。この村のニルネッガ教の修道女です。何がありました? 傷は?」
状況が分からなければ対処のしようがないと、問いかけるメイティア。
そんな彼女に対し、男は絶え絶えに言う。
「めし、いもぉ……」
男から聞こえた強い意志を感じる声。周囲の時が止まったような錯覚を覚えるメイティア。
「すみませんが、もう一度言ってもらえませんか?」
苦しんでいる状況で申し訳ないと思いつつも、彼女は自分の耳に問題があったのではと思い、聞き返した。
「めしいも……」
間違い無かった。何故か余所者が人様の村で倒れ、メシイモを求めている。
メイティアには訳が分からなかった。
「お腹が空いているのですか? すみませんが、食べる物は持っていなくて」
「違……う。私は……メシイモ……」
「えぇ!? ルイシアさん、ついに話せるメシイモを!?」
「いや、待って」
話の途中だったけれど、止められずにはいられない。
「どうしました。ここからなんですよ」
「いやいやいや。この人をメシイモだと思った時点でおかしいんだけどね。なんで私なら話せるメシイモを作れるとか思ったの?」
ただのメシイモ農家の娘にどんな可能性を見出しているのかを追求したかった。
「お告げがあればルイシアさんなら行うかと」
「行わないわよ」
(残念です)
「残念です」
ん? 今なんか、声が重なって聞こえたような。
「まあ、その時はそう思ったんです。話を続けても?」
「ああ、うん。お願い」
もっと否定したいところだけど、ここは抑えよう。
「ルイシア? それがあのメシイモの名」
「いえ、彼女はメシイモ農家なだけです」
「彼女? そうか、女性か。では、女神か」
男は辛そうな体をゆっくりと起こし、メイティアに言葉を続けた。
「今すぐその女性に会いたい。お願いだ。私をその女性に会わせて欲しい」
「え、嫌です」
彼女はチートでは無く、単純に男に嫌悪感を抱き、拒否した。
「何故だイモ? 私は絶対に会わないといけないんだイモ」
「何故急に語尾にイモを?」
「人として駄目ならば、私はイモの精になるイモ。ならば何も問題は無いだろうイモ?」
「その発想に至るのがもう駄目です。お引き取りください」
「お断りだ。私はね、ここに来るために全力疾走したんだ。分かるかい? 私の胃の中から引き出されたメシイモの力が。ここのメシイモを食べたおかげで引き出された想像を超えた力が。いいや、分かるまい。ニルネッガ教が崇拝するチートが関わらない力だからね。あのメシイモはチートよりも素晴らしい物だった。さあ、分かったらメシイモを出すんだ。いや、メシイモに案内するんだ。メッシイモ。それ、メッシイモ」
手拍子加えてメシイモと連呼しだす男。そこには先ほどまで会いたいと言っていたルイシアの名は存在せず、何を置いてもメシイモだった。
助けようとしたはずの相手がメシイモに侵食された危険思想の持ち主だった。
(決めました。逃げましょう。急いでこの場から離れて、村長経由で危険人物が現れた事を伝えましょう。そうしてルイシアさんを守るのです。大丈夫。他所から来た人だという事はすぐ分かります。だって、この村では手に入らない上質な生地の服を着ているんだもの。振る舞いと相まって絶対皆は警戒するはずです。広まる前でも絶対に大丈夫)
決断したメイティアの行動は速かった。
「そうですかぁ~。ではぁ……」
と続きがあるように言葉を溜め、体勢を直す動きを取る。そこから流れるようにスッと立ち上がると全速力で走り出した。
「のぁっ。待つんだメシイモぉっ」
男の状態的に動けないだろうと踏んでいたメイティア。
しかし背後から声が聞こえ続けている。おかしいと思い振り返ると、両手両足を器用に使って男が追いかけていた。
人のそんな姿を見た事が無かった彼女は、声の出し方を忘れてしまい、悲鳴を上げても誰にも届かない。
その一瞬で速度が落ちたと判断した男は、両手で強く大地を押し返すと綺麗に二足走法に移った。
上体を前のめりで走るその姿は異常であった。
だが、男は前のめり過ぎていた。重心が前に行き過ぎた結果、走る勢いそのままに高速前転で転がりだした。その勢いは物凄く、先を走るメイティアを抜き去るほど。
体が何回転しただろうか。男は地面との接触を繰り返して速度を落とし、ようやく回転が止まった。その時の男は、両手足を広げ、仰向けの状態でピクリともしなかった。
メイティアは、先程までの事があって怖くて声はかけなかった。生きていないと思っていたのに触れたら急に動き出す生き物も居るので、それも警戒していたのだ。
静かに様子を伺う少し。演技にしては上手過ぎると思い、男が今度こそ危ない状態だと思った彼女は苦渋の決断で教会へ運んだ。
「という事があって今に至るのです」
「とても怖かったわね」
知り合いの狂気だって怖いのに、赤の他人ならなお怖い。
神父様はこの事態をどう思っているんだろう。
神父様の方を見ると、そこだけ空気が違っていた。
「メイティア。確認したい事があります」
「何ですか?」
「この男は、チートを劣ると言いましたか?」
静かだったけれど、声的に本当に普段と変わらなかったけれど、何故か迫力を感じる。
「チートよりも素晴らしいと言っていましたね」
答えたメイティアの雰囲気もなんか……。あれ、なんか二人の様子がおかしい。
(これは大変な事になりましたね)
百科事典も困惑する状況なの!?
「どういう事?」
(ニルネッガ教はチート至上主義です。先程の話の中でそこの彼は、素晴らしさを表現するためにチートよりもメシイモの方が素晴らしいと表現しました。例え比喩であっても二ルネッガ教の信者には聞き捨てならない台詞です)
「いやいや、それは流石に……」
ちょっと心が狭すぎない? と言いかけたけれど、現に二人の様子がおかしい。
考えてみれば日常生活で、チートが上とか下とか言い合うのって、自分のチートを自慢する時くらいか。村じゃ見かけないけど、町の方じゃそんなやり取りを時折見かけた。
あの時はメイティアも居たけれどこんな反応を見せなかった。だから私は今、心が狭いんじゃないかと思ったんだ。
でもよくよく考えていると、町で見かけた言い争いの内容って、どちらのチートが素晴らしいかを競っていて、チートを讃えているから今回みたいな雰囲気にならなかっただけなんだ。
(チートを崇めよ。チートは何時も良き隣人である。チートの前に王とて等しく人である。チートが国を作り、チートが皆を幸福へ導く光となるのだ)
「何言っちゃってるの?」
(二ルネッガ教の基本理念です。これを聞けばあなたでも一線を踏み越えた発言だったと分かるのでは?)
国教だけど、信者という自覚すらないから忘れてた。
村の皆もチート便利、チート凄い。程度の印象しか持ってないし。
(村がどうであれ、そういう認識なのです。彼女でも)
普段ゆる~いメイティアでさえこれなのだから、神父様ならなお怒り心頭だろうと、っ百科事典。
「よし、メイティア。ルイシアさん。私は少し野暮用が出来ました。教会もしばらく閉めますので、出てもらえますか?」
腹を決めた男の顔をする神父様。
「それ絶対駄目なやつぅぅー!!」
神父様の目が笑っていない。血走りというか、狂気というか。いや、そういうのを全て一まとめにしてぐつぐつと煮込んで凝縮したような感情の目をしていた。
だから絶対に止めないといけないと思った。
「何も心配しなくて大丈夫です。少々教会を空けるだけです。さて、大きな荷物を入れる袋は何処にしまったか……」
もう相手を物として認識してる。
「待って、神父様。そもそも“よし”って言うのが間違ってます。それ、何かを決めた時に出る言葉ですし」
「ははは、これは異なことを。歳を取ると人は意気込まないと動けないのですよ。先ほどのはその“よし”ですよ」
神父様は、慈愛に満ちた笑みの表情で答えた。でもその瞼、完全に閉じてますよね? 僅かな隙間も無いですよね?
(感情を悟られまいとしていますね)
百科事典が言うのなら間違い無い。神父様の言う事に従ったら間違いが起きる。
私では止める力が足りない。困っていると、そこに息を切らせた村の最高権力者がっ。
「すみません。こちらに国家税務官殿は来ていないだろうか?」
「村長っ!!」
何て良い時に来てくれたのか。
「え、ルイシア!? 神父様にメイティアちゃんも。三人で集まってどうしたと――」
話しながら近づく村長は、横たわっている人物を確認すると言葉を詰まらせた。
「ムゼーラン税務官殿!? 何があったんですか?」
神父様は、驚く村長の前に立ち、言う。
「いえいえ、村長。ここに居るのはチートを侮辱した愚か者。国を支える税務官などではありませんよ。ありえませんよ」
「そんな事は無い。何度かお見かけした事がある。確かにムゼーラン税務官殿で間違い無い」
国の中枢に居る人だと、彼の名を繰り返す村長。後ろに国が控えている事を繰り返されては、神父様だって迂闊な事は出来ないはず。
「国が関わるのなら、本部に連絡をしなければ……。むぅ」
本部を引っ張り出して何をしようというのか。物騒な事を小声で繰り返す神父様。
「少し、胃腸に余裕が……」
自分の生死がかかっているのを知らず、この状況の中でのんきな事を言って男は起き上がった。
「おや、ここは?」
あれ、なんか常識人っぽい雰囲気だ。さきほどの話は盛られていた?
チートの恨みだった? と疑問に思う。
「ここはニルネッガ教の教会ですよ」
私は状況を把握できていない彼に教えた。
「ニルネッガ教の? はて、何故その様な場所に? うう、記憶に欠落が……」
「何処まで覚えているんですか? あ、落ち着いて、冷静に話せる範囲で大丈夫です」
来たばかりで状況を把握しきれていない村長よりも自分が言った方が良いと思い、声をかける。ここでうっかり国の秘密とかを聞かされたら困るから、予防として釘を刺しておく。
「私は町で有名だという料理を出す店を入ったのは間違いない。ああ、そうだ。あの味に魅了されて、居座って、通い詰めて……」
なんか余りよろしくない情報が漏れてきている。少し嫌な感じが……。
「お、思い出せない。料理を食べた事は覚えているのに、あまりの美味しさに記憶が無い。あるのは満たされる胃の感覚と治まらない欲求。今食べなければしばらく食べられない。その衝動が私を突き動かした。いや、動かされていた? 限界はあったのだろうか? 私は店の人と何を話した? 今はいつだ? 何日経ったんだ? 動けなくなった時、誰かの声を聞いた気がする。あれは何の声か。私は導かれてここに来た?」
とても早口で言葉が止まらない様子。私が作ったメシイモは何かとても危ないものが入っていたのだろうか?
(落ち着いてください。そのような危険な物は入っていません。ただ、彼の口にこれでもかというほどに合ってしまっただけです)
という事は、他にもハマる人が居たらこんな風になっちゃうって事?
うわ、大勢の人のこんな姿を想像したら怖すぎるんだけど。
(安心してください。一過性ですよ)
いや、それでも嫌なんですけど。
百科事典の発言に対してこんな感想を抱いていたら、男の人の記憶に進展が在ったみたいだ。
「思い出した。メシイモだ。私はここにメシイモの女神が居ると知り、やって来たのだ。そしてはち切れそうなほどの胃痛で倒れた。それからほどなくして修道女のあなたに声をかけられたのだ。あの時、たしか……。そうだ、女神の名前を言っていたね。たしか、め……め……」
まだ一部、記憶に問題が残っている。
勝手にとんでもない存在にされるのはどうかと思うけど、女神と呼ばれたら悪い気はしない。
「メシィーモ。そう、メシィーモだ」
「一文字しか合ってないわっ」
期待していたのに、ただ同じ音が入っているだけで、並びも合っていない。あんまりにもメシイモに頭の中を支配された発想に、生産者本人としては許せず、抑える事の出来ない衝動を声に出していた。
「ん? 君が女神なのか!? 私を魅了して止まないメシイモのっ!!」
感情を抑えられずに指摘してしまった結果、自ら身を明かしてしまった。
どうしよう。この人の言葉の後で、はいそうです、と言いたくない。メイティアに伝えた熱いメシイモ愛を聞いたせいだろうか?
「勘違いも甚だしい。彼女は女神では無く、チートの言葉を伝える巫女なのです!!」
「メイティア……」
とても珍しいメイティアの強い言葉での否定。
私のチートの事は彼女には話しているから、庇ってくれているのだとは思うのだけど……。。
でもね、その表現を全く知らない人にすると、私が祭り上げられる危険が出てくるんだけど。。
「み、巫女? ならばもっと適した場所に身を置いてもらわなければ困る。急ぎ馬車で王都へお連れしなければ」
急に立ち上がった彼。その膨れたお腹が激しく上下に揺れた。
「うっ……」
まだ消化されないたっぷり詰まったメシイモのせいだろう。お腹とお口を抑えていた。
いや、それよりもだ。彼は今、村の事を悪く言った。巫女では無いけれど、巫女にはこんな何も無い僻地の田舎は合わないと。今、そんな意味合いを含んだ事を言ったよね?
こんな時、百科事典なら答えてくれるはずだ。
(問われれば答えますが、彼は警護の観点から適さないと判断しただけですよ)
私のチートが私以外を擁護している。いつもの事か。。
どうやら、この人は意図せず周囲にチクリと棘を刺すのが得意なようだ。
分かった所で許すまじ。故郷を悪く言って良いのは、その故郷で生きた人間だけだと言う事を教えなくちゃいけない。
(では、どのようにするのですか?)
「そんなの簡単よ。あいさつ回りに始まって、肥料作りに畑仕事。開墾作業でみっちりよ」
自分が口にした食べ物がどんな苦労の末に育っているのか、その身にしっかりと刻み付けるのよ。
「教えて欲しい、神父よ。何故女神はあのような独り言を? 何か、気に障るような事が?」
あ、いけない。村以外の人が居るのにまた百科事典と話しちゃっていた。
それにしても、本当に自覚が無いらしい。
「チートを侮辱したからでしょう」
「チートを? いや、その様な話はしていない。女神にはより良い場所に暮らしてもらおうという話だったのだが」
今の暮らしで十分満足しているから、余計なお世話だった。それに、村が嫌ならとうの昔に町に引っ越している。
「とにかく皆、冷静になろう。ムゼーラン税務官殿も一旦、一旦間をおいてください」
村の住人の殺気立った様子を一番敏感に察していた村長は、なるべく穏便に場を収めようと努めていた。
まあ、私はともかく、ニルネッガ教の二人は治まるかな?
そんな事を考えていたら、この最悪の空気の中に乱入者が。
「話は聞かせてもらったぜ。ここは油の料理人ユーイルが預かったぜ!!」
見知らぬ上に関わりたくない感じの青年が現れた。
「君、話がややこしくなるから出てってくれないか?」
村長が穏便に帰そうとする。
「そうはいかないんだぜ。ここには俺の油を熱くする。そう俺の油感が熱々に示しているんだぜ」
意味が分からない上に、存在に水をかけたくなる。
(いけません。熱した油に水はいけません)
百科事典がまた止める。そして続ける。
(ここは彼に任せましょう。村の今後を考えても重要な人物です)
また知らない人を庇ってる。しかもこの口ぶりだと、メシイモ狂いの人も重要って事になるんだけど。
「ええ~、こんな暑苦しいのがぁ?」
百科事典の言葉が信じられない。料理人ならフドクルさんが居るし、間に合っているじゃない。
(この村に、新しいメシイモの料理がまた一つ)
「何ですって!?」
蒸す以上の発見がこの人によって生まれるっていうの? そう言われては気になる。何より、ちょっとお腹が空いてきた。
「いいわ。あなた、ユーイルって言っていたわね。この場の空気を変えてみなさい」
食欲に従い動いた私は、自分でもよく分からない立場で場を仕切った。
「なんか一人だけ芝居が凄い姉ちゃんだけど、こっちに油が流れてきたな。スルッと良い展開だぜ。油だけに」
「村長。早速村の皆を集めましょう。メシイモ農家にはメシイモ持参を呼びかけるのを忘れずにね」
「私を無視して何かが始まっているが、この際だ。置いておこう。何より、新しい料理の予感だ。村を更に栄えさせるためにも、やってやろうじゃないか」
村長はそう言って教会を出て行った。
「メイティア、神父様。私達は舞台の準備よ」
「では、広場にテーブルを」
「私はフドクルさんに調理道具を借りてきます」
「修道女の姉ちゃん。底深な鍋を頼むんだぜ」
私達は、各々でやるべき事を見つけ、教会を出た。
「え、あの、私は?」
ぽつんと残された食い倒れの事なんて、もう誰も気にしてはいなかった。




