平和を切り裂く修道女
「今年もしっかり収穫し終えたわー」
道具の片づけを終え、体を伸ばしつつ解放感を味わう。
二年前から始めた他の農家への指導は今年いっぱいで終わらせて良さそうだ。
どこのメシイモ畑でも私の畑と同じくらいの大きさのが収穫出来ているから。
「さってと、香草の具合も見なくちゃ」
私は、細長焼きに欠かせないあの草の栽培も始めていた。
と言っても、百科事典に育て方を聞いているから、間違う事は無い。
元々自生していただけあって、場所を移してもそんなに世話を焼かなくても勝手に育ってくれる所がとても良い。肥料の力もあって、自生場所よりも育ちが良いしね。
我ながらとても濃い二年間だったと思う。
私が最初に育てたメシイモのほとんどは村の皆の胃の中に消えていった。
残ったなけなしのメシイモの半分は村長へ。もう半分は隣町の酒場の店主との約束で消えた。
村長曰く、村の納税管理人に私のメシイモを渡したら、その大きさに腰を抜かしたらしい。
食用として問題無い事を確認したり、納める基準についての話し合いなど、長い話し合いが行われたらしい。
町村会議は普段なら日帰りで済むのに、この時ばかりは何日も村長は帰らず、戻ってきた時にはシュッとした顔になっていた。
相当質問攻めされたみたい。私が言われたのは、村での新メシイモ栽培が確立したら、町でもやり方を広めさせてほしいという事。
町より先にある場所だと私も気軽にはいけない。何より、自分の畑を疎かにしてしまうから、絶対に無理だもの。
町にも広がったら、そこから先は国に動いてもらうのが一番だろうし、その時の指導役は町の人間の中から選んでもらうという話になっている。
酒場の方は、持ち込んだメシイモが気に入られて、取引をするようになった。
おかげで私もお金を持てるようになって、取引を理由に町へ行くついでに買い物を出来るようになった。
メイティアと二人で町を歩いた後の締めに食べるイモパフェが楽しみになっている。
他のメシイモ農家も収穫量が増えたので、やって来る行商人と取引をしているそうだ。
新メシイモのおかげで、行商人が来る頻度も上がり、村の景気が結構良くなったとは村長の談。
因みにだけど、まだ村長にお相手は見つかっていない。
そんな感じで村の生活は徐々に楽になっている。
油断は出来ないけれど、少しだけ気を緩めても許されるような日々は、私の精神面に僅かばかりの変化を与えていた。
それを思い出させるかのように百科事典が言う。
(完全に当初の目的を忘れていますね)
「え? ああ、楽々な日々を過ごしたいって言ってたわね。でもね、気付いたのよ。追われない程度にやる事が在った方が良いってね。例えば、もっと寝たいって言葉は寝てないから出る言葉でしょ。足りてない部分が足りちゃったら、他の事をする。そうやって繰り返して言ったら、何もする事が無くなるじゃない。モクディルとかフドクルさんみたいにより良くしようって事も無いしね。適度に求められ、与えるみたいな流れの中に身を置いた方が良いって気づいたのよ」
新しい野菜を育てる気は無いし、既に良くなったメシイモをこれ以上良くしようとかも考えていない私は、身の丈で十分と考えるようになっていた。
(働く意思がある分、以前よりは改善されましたね)
口調から言葉に含まれている感情は読み取れないけれど、まあ誉め言葉として受け取っておこう。
「でしょ。歳の分だけ成長してるのよ」
私以外の誰からも見えないけれど、こんな風にあれこれ言える話し相手も居るし、満足していた。
困り事があれば百科事典が助けてくれるし、私はこれからもこうして無理のない範囲でメシイモを育てつつ日々を生きていくだろう。
「るる、ルイシアさぁぁぁぁん」
物語を締めくくるような事を考えていたら、それをぶち壊す修道女の声が。
そして壊れんばかりの勢いで扉を叩く。それから普通に扉を開けてきた。
「民家に押し入る修道女が何処に居るの?」
勝手に入るのに慣れ過ぎてない? と呆れ気味に訊ねた。
「そんな場合じゃないんです。危ない人がルイシアさんを探しているんです」
メイティアが血相を変えるほどの危険人物が私を呼んでいるですって!?
「え、やだぁ……」
そんな相手と出会った覚えは無い。それに、彼女の説明を聞いただけでもう行きたくない。
「あ、すみません。命が危ないと付け加えるのを忘れてました。その人、危ないんです。命。命キケーン」
彼女も冷静では居られないようで、説明がどこかおかしい。
「ちょ、命が危ない!? それじゃ急いで行かないと。相手は今どこに?」
このままだと私に何らかの罪状がつきかねない。ここは相手が生きている間に教会の人に証人になってもらわなくちゃ。
「教会です。すみません、急いでください」
言葉が足りないだけで扱いが変わるのは仕方が無い。
私は相手が誰か分からないまま教会へ急いだ。




