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果ての畑でメシイモを  作者: 鰤金団
本が生まれた日
2/8

最適な荒れ地 まさかの目的地

「ねえ、ここが畑って正気?」

(はい。ここで間違っていません)

 百科事典に言われた通りに進んで着いた場所は、家の裏を少し歩いた場所。

 私の家の裏には林がある。立地が村の端よりである我が家。二人暮らしだから、切り開いてこの場所を畑にしても持て余してしまう。だからと家を建ててその住民に畑付きで住まわせるにも場所が狭い。そもそも新しい住人なんていないし、どこの家も現状で手一杯だ。

 父さんが腰に問題を抱えているから、独り立ちして畑を拡張する予定も無い。今ある畑を後々引き継ぐ訳だしね、

 そんな理由から荒れ放題の土地に、何を考えているのか、百科事典は私を連れてきた。

「いやさぁ。ここ、草ボーボーなんだけど。それに風かなんかで木の枝とか凄いし。どう見ても畑じゃないでしょ」

(なるんですよ、畑に。あなたがするんですよ、ここを)

「いやいや。何日かかると思ってるの。開墾するにしたって、理由は何? 私が楽して良い暮らしがしたいから畑を新しく用意したい、とか言っても誰も協力してくれないから」

(そこは方便を……。いえ、頼れないとなれば一人で片付ければ良いのです。体力がつきますよ)

 家の畑仕事が出来る分の体力はあるから、もう十分なんですけど……。

「そもそも、なんで開墾しないと駄目なの? こんな荒れ地を選んだ場所は何?」

 百科事典の考えている事が分からないから出来ないと訴えた。

(あなたが使おうとしていた畑では太陽の光を浴びすぎるのです。成育に影響が出ます)

「いままでそれで困った事無いけど? 収穫の時に小ぶりだったりもするけど、その分取れるし」

 成人女性大の大きさくらいのメシイモばかりになっても、数が取れているから総量としてはほんの少しだけ増えたりしてたりする。百科事典が指摘する問題が分からない。

「植物ってのは、空に太陽がある間は当ててた方が育つんだよ。チートなのにそんな事も知らないの?」

(では、質問しましょう。あなたは満腹になっても食事をする事が出来ますか?)

「限界が来たら食べないけど。それに、無理に食べても出てくるでしょ。酔っ払いが飲みすぎで出すから知ってるわ」

(そうですか。あなたはそうでしょうが、メシイモは拒めません。与えられた分をそのまま受け入れるのです)

「なら、もっとメシイモは大きく育つはずじゃない。どんなに育っても片手で持てるくらいの大きさしか知らないけれど」

(過剰な食事を与えられたメシイモは耐えきれなくなると根に過剰分を回すのです。すると根の別の場所に新しいメシイモが出来ます)

「ああ、それで沢山実が出来るのね。でも、それならたくさん取れて良いじゃない」

(過剰な食事だけではある程度の大きさまでしか育たないという事です。酷使された状態で十分な休息を与えられていないため、メシイモがより大きく成長出来ないのです)

「それって、今までのメシイモは未熟な物だったって事?」

(その通りです)

 百科事典から教えられた情報は、今までのメシイモ農家の中で衝撃が走るだろう。

 だって、自分達が育ててきたメシイモは駄目な物だったと言われているのだから。

「それじゃあ、どういう条件なら良いって言うのよ」

 幼い頃からやって来た事を、父さんや村の農家の人達の頑張りを、否定されたままでは終われない。

(一日中太陽に晒されない場所。特に、昼頃の強い日差しはメシイモには適しません。影が差し、休められるような場所が良いでしょう。そして、土に栄養がある場所。適度に柔らかく、過度に湿っていない土が良い土です)

 そんな都合の良い場所が村にあるのだろうか?

 私の浮かんだ疑問に答えるように百科事典は言った。

(ここがその適した場所です。林の影が昼頃には延びて、程よくメシイモを休ませてくれます。土は放置されている間に栄養を蓄えていて、最初の手間を軽減させてくれています)

 どうやらこの荒れ地は、開墾する苦労だけで本来のメシイモを育てる環境が手に入るという場所らしい。なるほど、なるほど。

「って、その開墾がとんでもなく大変なんじゃない。普通は人手を集めてやる作業でしょ」

(ですが、友達が居ないではありませんか)

「皆それぞれ、仕事してるから距離出来てるだけだから。幼馴染とか村に普通に居るし。お互いに関わる時間が取れないだけだから」

 すれ違えば挨拶くらいはするもの。世間話は……話するほどの話題が村に無いからすぐに解散するけどね。

(幼馴染も今では依頼人と顧客の関係になってますよね)

「そうだけど、そんなに私の心を抉って楽しい?」

 一人を否定するつもりは無い。基本的に父さんと二人で農作業するだけで一日が過ぎていくから、他人と接する機会が極端に少ないだけなんだから。

 それを言葉にして言われると、何故か心に言い表せない苦しみが生まれる。

(少し、事実を並べすぎました。ですが、あなたなら次の種植えに間に合います。一人でも)

 本当だろうか。にわかには信じられないんだけど……。

 知識については凄いらしいのは分かったけれど、未来というものの信ぴょう性には疑問しかない。だって、とにかく悪い感じの話しか聞いてないんだから。

「なんで一人でも開墾させようとするのよ。私なら次の種植えまでに出来るとか。なんか、急かしてる感じがするんだけど?」

 話の流れかもしれないけれど、何故か畑に関しては妙に熱心な気がして聞いてみた。

 すると、百科事典はとんでもない事を言い出した。

(よく分かりませんが、最終的に世界が滅びます)

「なんでぇ? え、待って。ちょ、待って。なんで私が自分の畑持たないと世界が滅ぶの? 私、何するの!?」

(正しくは、何もしないから滅びるのです)

 そんな隅っこの細かい所の指摘は今要らない。必要なのは、大層な妄言を言い出した理由だもの。

(このまま開墾しなければ、この世界以外の存在によって滅ぶと思われます)

「この世界以外の存在って何よ。どうしてそう思うの?」

(今、この世界にある存在から派生しない何かの影響で、現状の世界はほぼ同じ結末を迎えるのです)

「急にそんな事を言われても分からないわ。あんたにはどんな風に世界が見えてるの?」

(十分後の景色が見えるとしましょう。この世界に存在しうるものだけで構成された世界であれば、それはそのまま見えるのです。仮に一本の草が今生えていたとして、何もしなければ十分後の景色にもそのまま存在しています。今、その草を抜けば、十分後の景色にはその草は存在しなくなります。ですが、この世界に存在せず、存在する予定も無い存在があった場合は、その存在の場所だけが暗闇のように何も見えないのです)

「あんたは、ずっと先の未来を見た時にそんな状態ばっかりだったって訳ね?」

(はい、そうです)

「じゃあさ、私が開墾した未来だとどうなるの?」

(現状では人類が細々と暮らし、再生していく未来が見えます)

「細々……」

 どれだけの被害が、何によってもたらされているのやら……。

「あんたが言うそのおっかない未来っていうのはどれくらい先の事なの?」

 明日、明後日の話なら、全て諦めようと思う。

(それは今も変わり続けているので分かりません。ですが、早ければ数年後となります)

 昔の出来事を嘘か本当か分からないけれど、細かく言おうとしていたチートが数年後と曖昧な言い方しかしない。本当に読めないという事だろう。

 開墾だけでも気が重いのに、更に重い話が出てくるだなんて……。

「なんで私がそんな目に……」

 愚痴、こぼさずにはいられない。私はただ、楽を出来る人生とおい叶わぬ夢を見るただの平民なのに。

(安心してください。あなたの起こした波により、未来が大きく変わる事があります。挫けるよりも行動して良い結果になるように頑張ってください)

「それって、私のやる事なす事が最悪に繋がるって事もある訳でしょ。希望だけちらつかせるの止めてくれる?」

(希望は生き物を動かす原動力の一つですよ。さあ、悩んでいないで開墾しましょう)

 自分は何も出来ないくせに、淡々とした口調でずいぶんとやる気に溢れた事を言う。

「とりあえず、父さんに話しないと。はぁ。父さん、畑に居るかな?」

 重い足取りで私は父さんを探しに行った。



 家の畑の方に向かうと、遠くの方でしゃがんで農作業中の父さんを見つけた。

「父さーんっ」

 呼びかけると、父さんは立ち上がり、こっちに来てくれた。

「おはよう、ルイシア。お楽しみは終わったのかい?」

「ううん。今、その最中」

 父さんが言ったお楽しみというのは、チートを与えられた事を指している。

 十五歳になった人は、その日一日労働というものをしない。それは、自分のチートを知るためだったり、好ましくない結果に嘆いたりと気持ちの整理をする日という面があるから。

 私の場合は、百科事典から受けた説明なら大喜びするところだけど、そうもしづらい状況に表情は暗かった。

 それを父さんも気づいたのだろう。

「ルイシア。どんなチートだったのかは聞かないし、答えなくていい。でも、これだけは覚えておくんだよ。与えられたチートも、その名の通りの用途だけじゃないんだ。必ず別の使い方があるからね。腐らずに探り続けるんだ。それが大事だよ」

 私は父さんのチートを知らない。聞いてもはぐらかされる。

 凄いチートを貰えた人は、皆自慢するけど、父さんはそうじゃない。

 それって、つまりは望んでいないチートだったという事だろう。

 そんな経験をした父さんだから、気遣って言ってくれたんだ。

「ありがとう、父さん。それで、急な話なんだけどさ」

「ん? 何だい?」

「家の裏の荒れ地あるでしょ。あそこに畑を作りたいんだ。メシイモの畑」

「あんな場所に畑を作るのかい?」

 父さんの反応は、止めた方が良いんじゃないかという感じだ。私も、百科事典から聞いていなかったら、開墾しようなんて思わない。

「あのね、父さん。あそこで畑やるのってさ、チートに関する事なんだよね」

「チートが関わるのかい? ルイシアの身が危なかったりはする事をするつもりかい?」

「危なくは無いよ。あの場所でメシイモを作るってだけだから。ただ、その前に開墾しないと駄目なんだけどね」

 可能性で言えば、綺麗にする最中に手とかを切ったりするかもくらいだろう。

「そういう事ならやってみると良い。今まででやり方は分かっているだろうけど、一から始めるというのは良い経験になるからね」

「ありがと、父さん。それとさ。種芋も分けてもらえる?」

「娘の成長のためだ。少しばかり収穫量が減ってもかまわないさ」

 私のためなら、日々の食事量が減るのもいとわないと、親の優しさが嬉しい。

「ありがとうね。じゃ、頑張ってみるね」

 許可は得た。これで下準備は出来ただろうか?

 百科事典に聞こうとしたら、その前に答えてくれた。

(話はまとまりましたが、もう一つあります)

「え、まだあるの?」

 肉体労働を想像し他私は、既に心が疲弊しているというのに、更に要求してくるとか。

(肥料の用意です)

 まったく聞いた事の無い単語だった。

「ひりょうって何?」

 使った事も無いから、用途も分からない私に、百科事典は分かりやすい説明をしてくれた。

(簡単に言えば、土と野菜が元気で居られるようにするための食事です)

「メシイモには太陽の光だと思ってたけど、土にも必要なんだ。でもそれって、何処に行けば手に入るの?」

(次に向かうのは廃棄場です)

「ああ、あそこなんだ」

 村の中にある場所で良かったと、聞いた言葉をそのまま受け入れたけれど、少し経って頭が理解した。

「えっ、あそこ!?」

 私は思いっきり顔をしかめた。だって、あそこから何かを貰うとか絶対に無いと思っていたし。

(はい。子供に獣の骨を捨てる場所と言って教える、人々が使用するあらゆる物の終着点である廃棄場です)

 確かにそう教えるけれども……。あの場所の臭いの事を思うと気が滅入る。

(人糞をまとめている場所ですからね)

 言わないようにしていたのに……。私の考えが分かっているのなら、配慮も理解しなさいよね。

(当人だけという状況で何を配慮すると? それに、あなたが運ぶのは人糞ですよ)

「んなっ!? う、うんこを運べって言うの?」

(はい。畑に撒きます。すると畑が元気になります)

 信じられない。人が捨てた物が畑に良いとか、理解出来ない……。

(排出してすぐの物ではいけないのです。廃棄場にある、適度に日数が立ち、混ざり合った物が良いんですよ)

 百科事典が言っていたそれが肥料と呼ばれる物の正体らしい。でもまだ、私には肥料では無く、うんこという認識の方が強い。別の物とはまだ考えられない。

(あなたの理解が必要かどうかは関係ありません。さあ、話を通しに行ってください)

「えぇ~、嫌だぁ」

 と抵抗はしたけれど、百科事典が未来のためと繰り返すので、行かないといけない。

「ルイシア……?」

 父さんに呼ばれた気がしたけれど、きっと空耳だろう。今は、廃棄場からうんこをもらうという事実に対し、覚悟を決める方が重要なんだから。

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