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果ての畑でメシイモを  作者: 鰤金団
見紛うほどのイモの茎
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17/23

狂乱イモ会議

「あー、緊張してきた」

 今までに経験した事の無い緊張が私を襲う。もう事実を内に留められなくて、声に出てしまった。

 村長の台所に居るせいだろうか。だって今日は、私のメシイモの説明会。

 昨日までは見知った顔に説明するだけだからと、何にも感じていなかったのに。

 今だって頭ではただ顔馴染みの前で会話をするだけと理解しているのに、体が妙な反応を起こしている。

 料理の方はフドクルさんとメイティアがやってくれているから大丈夫。だけど私の方が大丈夫じゃなかった。

(ここで認められなければ世界が滅びますからね)

 追い打ちをかけてくるんじゃないよ。

「あんたはもう先が分かってるから気楽なんでしょうね」

(失敗も大失敗も見えていますよ)

「このままじゃ全部駄目になるって言いたいの?」

(あなた次第ではそうなります)

 だからどうしてそんなに追い込むのか。腹立たしくて顔が歪む。

「はいはい、落ち着きなさいな。ルイシア、今日の朝は食べたの?」

 フドクルさんが試食用の料理を私の前に置いて質問してきた。

「ううん、食べてない。なんか、起きた時の調子が良かったから、このままの方が良いような気がして」

 そう答えると彼女はため息を吐いた。

「もうその時点で緊張してたんじゃないかい。まずはね、これを食べる。急がず、何回も噛んでね」

「でも、お腹空いてないけど」

「空腹を感じられていないだけ。ほら、まずは食べる」

「あ、うん」

 言われるままに摘まませてもらった。

 出来立ての料理は熱くて、下手をしたら口の中が火傷しそうだった。

 でも、そんな温度でも租借をしてから喉に通せば熱を感じない。そう思っていた。

 けれど、微かにだけど食べた物が体の中を通って行くのを感じた。寒い日でも無いのに不思議で、なんだか気が緩んだ感じがした。

「少しは落ち着いたかい?」

 言われてから確認してみると、心にゆとりが出来た気がした。

「人間、食べていないと滅入るものさ。ルイシアは準備をした。食事もした。後は集まった人に自分がやって来た事を説明するだけじゃないかい」

 お腹に物が入ったおかげか、フドクルさんの言葉がすんなり入る。

「ルイシアさん。困った時には神様からのお言葉と言えば大丈夫ですよ」

 教会の人間だというのに、そんな軽く扱うような発言をして良いんだろうか?

 そんな疑問が浮かんだと私の表情を見て察したのか、メイティアが続ける。

「チートの素晴らしさを伝え、広げる行動を咎めはしませんよ」

 実際の所、彼女の言葉通りだし、問題は無いんだろう。うん、そう思おう。

「おーい。人が集まったぞ。ルイシア、準備はどうだ?」

 自分の家が会場という事もあり、中へ招く役目を買って出てくれた村長。

 出迎えをするはずだった私を村長が最終確認をしておけと台所で待機させた。

 今思うとその時から緊張しているように見ていたのかも。

「大丈夫。ありがとう、村長」

 本当に大丈夫と強がり無しで答える。

「気にするな。全ては俺の未来の妻のためだからな」

 私達三人は、村長をとても残念な目で見ていたと思う。さりげなく気を使ってくれるのにこういう所で下げるんだよなぁ。

「じゃあ二人とも、行ってくるね」

 メイティアとフドクルさんが頑張ってと見送ってくれた。

 移動中、村長が一度足を止めた。

「どうしたの、村長?」

「皆の前に出る前に言っておこうと思ってな」

「どうしたの、怖いんだけど」

「怖がらせるような事は言わないぞ。今日集まった人達は皆、ルイシアの先輩だ。敵じゃない。新人の成長した姿が楽しみだし、新しい発見が本当に大丈夫なのかを見定めようと厳しい目で見るだろう。けれど、村の未来を担うルイシアを潰そうとしている訳じゃないという事は片隅で良いから見える範囲においておくんだぞ」

 これは激励だろう。さっきの一言があるから、村長らしい事を言ってもどうも決まらない。

「それで、本音は?」

「さっきも言っただろう。ルイシアの今日の結果次第で村の、俺の未来が変わるんだ。頼んだぞ」

 やっぱり、こっちの方がいつもの村長らしくて安心する。

「仕方ないなぁ。村長のお嫁探しのためにも頑張るわ」

 自分とか世界の未来とかよりも、村長のお相手探しを意識した方が普段通りでいけると思った。失敗しても、村長が独身続けるだけだしね。

「じゃあちゃちゃっと終わらせちゃおうっ」



「皆、待たせた。これからメシイモに関して新しい発見があったから、ちょっと聞いて欲しい。見つけたのは、ルイシアだ」

 それまで世間話に花を咲かせていた人達が、村長のあいさつで静まり、私の名を口にした瞬間に視線をこちらに向けた。

 見知った人でも集まる視線の多さにひるんでしまう。でも大丈夫。村長も言っていた。

 皆、私の話をちゃんと聞こうとしているだけなんだ。

 その考えがあるおかげで怯まずに前に出る事が出来た。

「今日は呼びかけに応じてくれてありがとうございます。皆には、私が作った物を見てもらいたくて呼びました」

 予め部屋に布をかけて置いておいたメシイモを持ってくる。

「これです」

 布を取り、初めて見た人なら皆驚く私のメシイモを見せる。

「おいおい、でっかい岩じゃないか」

「人の頭かと思ってびっくりしたぞ」

 皆がざわつく。でも、誰もメシイモだとは思っていないみたい。そんな中、一人が言う。

「自慢話のために呼んだのか? そんな岩を見せるために」

 良い振りを貰ったと思った。

「これ、岩じゃないから。ついでに人の頭でも無いからね」

「岩でも頭でも無いって、じゃあ何なんだ?」

「土固めたとかいうのか?」

 皆、未知の物にかなり関心を持っている。

 私に良い振りをくれた人が静かに言う。

「まさか、メシイモとか言わないよな?」

「どうしてメシイモだと?」

「この顔ぶれを見りゃ、共通してるのはメシイモやってる家の連中だからな。村長が集めた理由が分からんかったが、今ので分かった」

 村長に呼びかけを頼んだけれど、メシイモ農家という共通している部分を強調せずによんだらしい。

 にしても、察しが良い上に欲しい所で欲しい振りをくれる。後で試食の品をお包みしよう。

「分かったのなら、話が早いわ。そう、これはメシイモ。この村で作っている同じ種芋から育てたメシイモよ」

 ありえない、そんな馬鹿な、嘘こけぇ、と色々な声が出ている。その反応の良さがなんか癖になってくる。

「皆、信じてないけど本当だから。それで、皆にも同じ育て方をしてもらいたいと思って集まってもらったの」

 呼んだ理由を皆に告げる。

「そんな育ったの、食えるのか?」

「味がぼけて落ちるんじゃ意味無いぞー」

「食えんもんは作らんぞ」

 うんうん、食用足りえるのかを皆が疑問に思ってくれている。

 私は、皆の声を聞きつつ、村長に視線を送った。静かに頷き、部屋を出る村長。

「皆、作り方よりも味が気になってるね。じゃあ、味が良かったら作り方に興味を持ってくれる?」

「そりゃあ、美味いならな」

「手間かけずに美味いもんを食えるならそりゃ聞くぞ」

 育てる手間なら惜しまないけど、村の質素な食事には時間をかけたくない。

 うん、実に良い反応。集まった皆から言質を取っていると、部屋の扉を叩く音が。

「じゃあ、焼きと茹での味を確認してみてちょうだい。入って来て」

 私の掛け声で、大皿を持った村長とメイティアが入ってきた。

 最初に持ってきたのはこね丸メシイモ。

「これは茹でたメシイモを潰して丸めただけの料理。お皿から一個ずつ摘まんで食べてみて」

 見た事の無い状態のメシイモ料理に戸惑いつつも手を伸ばすと、手触りや硬さを確認した後に皆は口の中へと入れた。

「甘い。甘いぞぉぉぉぉ」

「違う。今までの茹でメシイモと違う」

「これが茹でたメシイモ? じゃあ、今までのは茹でじゃなかった?」

「カスや。今までのはカスだった……」

 村で今まで口にしていた物の中で一番の甘みに皆が驚く。

「えーっと、後で作ってくれた人が来ますけど、本当に茹でて丸めただけだからね」

「メシイモからこんな濃い味が出せるだなんて……」

「何倍も大きくなったのにこんなにも。こんなにも……」

 感動か、納得か分からないけれど、まだ受け入れられない反応もちらほらと。

 お皿が空になったようだから、次をお願いと二人に合図。

 次で落ちない人は絶対に居ないと自信を持って提供する一品がすぐに運ばれてきた。

「も、モリモリだ。モリモリだぞっ!!」

「大食い大会でもさせようってのか? 食えるかっ」

「そうだ食える訳がねぇ。あんな量、食いきれねぇよ」

 私が呼びかけるよりも前に反応が。

 これでもかと盛った細長焼きを木の大皿に盛り付けて、三人で運んできたんだから当然か。

 さあ、我を忘れて食べるが良い。

(魔王のような事を考えていますね)

 これからの事を思うと高笑いをしない分だけ抑えていると思ってもらいたいわ。

「さあ、この焼いたメシイモも食べてみて」

 量に圧倒されている皆に勧めし、手前に居た人達が手を伸ばした。

「思ったよりも一本は大した事ないな……。うん、無いな……」

 手に取った大きさを気にしつつ、一本をすぐに食べ終え、また手を伸ばす人。

「カリッとしてるな。ん? 太さが違うのが混ざって……。ふぅん、厚いとホクッてるな。歯応えか。ああ、歯応えだな」

 カリカリが気に入った人は、意図的に細めのを探して摘まんでいた。

「分かってねぇな。何事も太い方が良いんだよ。だから俺は太めを選ぶぜっ」

 その言葉の通りか、体格の大きい人は太めを探して摘まむ。

「お前らさっきから食感しか言ってねぇな。味を見ろよ、味を。ああ、塩気と次が欲しくなる余韻が堪らんぜ」

 止まらぬ手に掴まれるの細長焼きが一本から二本と、更に三本と増えていく人も。

 彼らの食べ方に、まだ食べていない人達の関心が強くなる。

「こっちにも回せ。本気食いするなよ」

「元の量を考えろよ。食いきれる訳が無いだろ」

「半分は減ってるぞ。急がないと食い損ねてしまう」

 争奪戦みたいな感じになって、お皿に手が伸びる。

 運んできた当初の反応は既に無く、止められない魅惑の味について注目が集まった。

「これ、樹塩だけじゃないな」

「こんな味、フドクルさんの店でも食った事無いぜ」

 未知の味の美味しさに、全員がその正体を探ろうと話し合っていた。

 この間中も細長焼きが減っていき、お皿には何も残らなかった。

 自分でその美味しさは経験していたけれど、大勢の人の様子を見るとその熱量に割って入る事が出来なかった。

 圧倒されていた私が自分の役割を思い出したのは、まだ口惜しいとお代わりを求める皆の視線が向けられてから。

「えーっと、まだまだ食べたい?」

 私の問いかけに皆の声が揃う。思いは同じだから。

「もちろんだっ!!」

 野太い声に体が押された気がした。

「これ、皆が育て方を覚えてくれたら、もーっといっぱい。なんなら、フドクルさんのお店で食べられるとは思わない?」

 食に魅了されたみんなの期待に輝く目に火が灯る。

「やってやる。俺は……。いや、俺達はこのメシイモを作るぞ。なあ、皆?」

「もちろんだ。腹いっぱい食ってやる。全力で、全力でだっ」

 そんな意気込みが次々に。

 私は、フドクルさんの方を見た。仕込んだ分はもう全部出てしまったから、一からになってしまうのだけど、フドクルさんはそれも了承済みで頷いてくれた。

「じゃあ、次が出来るまでの間、どういう育て方をしたのかを説明するから、しっかり聞いて」

 野太い返事が返ってきた。それから私は自分がやって来た事、経験した苦労を交えて皆に話した。

 皆が一番嫌がると思っていた廃棄場からの肥料回収も、あの味のためならと怯む人は誰もいなかった。

 全てを説明し終えた後、何かあれば私が直接手伝うという約束もし、説明会は終わった。

 私のやり方を受け入れ、皆が乗り気になってくれている。その表情には期待と希望が混ざり、良い顔をしているように思えた。

「さあさ、出来たよ。ほら、たんとお食べ」

 大皿では押し合いになるだろうと、小分けで持ってくるフドクルさん達。

 待ってましたと挙って群がる皆を見つつ、ホッと私は息を吐いた。

 一先ずやるべき事が出来たと。

(どうやら張り切り過ぎたみたいですね)

 百科事典が謎な発言をした。

「どういう事?」

 尋ねてみると、その答えは百科事典ではない相手から出てきた。

「ルイシア、出来たぞ。蒸し器ってのが」

 細長焼きに夢中になっていた皆の動きが止まり、静けさが生まれる。

「も、モクディル!? なんで村長の家まで?」

「お前から聞いた話が楽しみでよ。徹夜でも関係なくやり切ったんだぜ。めちゃくちゃ美味いんだろ、蒸したメシイモってよ」

 それは細長焼きよりも美味いのか? と最も食に関心が高まっている集団の視線が突き刺さる。

「ルイシア」

 村長が私の名を呼ぶ。

「何かな、村長」

 次の言葉を聞きたくない。だって、村長の顔が……。

「何人必要だ?」

 持ち込んだメシイモは既に無い。だから、取ってくる必要があると村長は分かっているのだ。

「う……あ……」

 後で楽しむつもりだったのに、メシイモは残るんだろうか?

 この日、村の皆全員に蒸したメシイモが振舞われた。

 後に祭りとなる大メシイモ祭の始まりである。

 それは、収穫時期にその収穫量を祝い、持ち寄ったメシイモで作った料理を食べるというもの。

 まだ名も決まっていない最初となったこの日。私はメシイモの消費量に人知れず涙を流した。



 皆がメシイモに狂喜乱舞したその日。

 私はまだ眠らずに空を眺めていた。

(心は落ち着きましたね。表面上は)

「表面とか言うな、馬鹿」

 倉庫に置ききれない量があったのに、今じゃ辛うじて一箱が残っているのみ。

 この箱の行く先は既に決まっている。半分は町の酒場に渡し、もう半分は村長に任せて税の支払いが可能かの確認用だ。

 こんな端の村まで税務官が来る事はまず無い。やって来るとしても隣町までだ。だって遠いから。

 そもそも不正をしようにもそれで私腹を肥やそうものなら、たまに来る商人が密告をする。だって、国からの信頼と報奨金が貰えるんだから。商人的には最果ての地の賄賂よりもよっぽど魅力的だろう。

 そんな訳で、次の収穫までたまの楽しみにと考えていたのは全て無になってしまった。

 今は村の発展に一役買える事になったと大人みたいに取り繕っているけれど、ちょっとでも突けばまだまだ荒れ狂う事が出来る状態だった。

(すぐに笑い話になりますよ)

「何よ、慰めてるの?」

 自分のチートに慰められるなんて、それはそれで心に来るんだけど。

(今、随分と酷い事を考えていますね)

「分かっているんならほっときなさいよ。今は傷心中なんだから」

(明日からは家のメシイモの収穫に、他の畑を回って最良の状態を伝える作業が待っているんですよ)

「そういう話だったわねー」

 まだ立ち直れない心には重すぎる予定が詰まっていた。

(この村から広がる事は世界を救う事になるのですから、しっかりしてください)

 当初の話通り、食糧事情の第一歩になっただけで、被害無く平和になった訳では無い。

「ねえ、百科事典」

(何ですか?)

「その原因が分からない怖い未来って、絶対に起こらない事には出来ないの?」

(現状ではその可能性を見つけられていません)

「そうなの」

 避けられない絶望とか、考えたくもないわ。

(ですが、あくまでも現状での可能性です。この村から生まれた波が他の波を起こし、遠くの未来を変えたり、新しい可能性が生まれたりします。なので、最後の最後まで確定とは言えませんよ)

「そういえば、そんな事を最初に言われた気がするわ。でも、ただのメシイモ農家に出来るのはここまでよ。私からは波なんて起こせないわ」

 そうだ。私のメシイモの育て方を村の皆に伝えたら、後は流れに任せるだけ。

(傷心と燃え尽きの両方が起こっていますね。波はこちらから生まれずとも、あちらからやって来るのですよ。今この時も、どこかで波が生まれ、波がこちらに向かってきているのです)

「じゃあ、それが届かないようにしなくちゃね。私の目的は楽な生活なんだから」

(そうなると良いですね)

 声のせいか、ただ流されたようにも聞こえる。

 面倒事になんて絶対に巻き込まれてやるものですか。

 村で楽な生活をするために、その足場作りを明日も頑張るんだから!!

 心の中で決意を新たにし、空を見た。

 夜空で幾つかの星が瞬いて、私を応援してくれているみたいだった。


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