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果ての畑でメシイモを  作者: 鰤金団
見紛うほどのイモの茎
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16/23

とても身近な隠し味

 村の外に出ると改めて思う。本当に自然以外に何も無い場所だと。

「私達だけでも外に出られるんですね」

 女三人。持っているのは樹液採集用の瓶と傷を付けるための小刀一本。そんな恰好で問題無いとされた事に驚くメイティア。

「そりゃあ、男衆が見回って、必要なら数を減らしたりしているからね。今は丁度静かな時なのさ」

 だからフドクルさんは私達を誘ったみたいだ。

「樹塩が取れる木って、村にもあるよね。なんでそこからじゃないの?」

 村の数か所に何故か分けられているその木から取る方がお手軽だろうにと、私は思った。

「あれは非常用なのさ。まあ、そんな緊急な事態なんて起こった事が無いけどね。それと、とんでもなく不味い。塩ではあるんだけど、顔の全ての部分が中心に集まるほどにね」

「うわぁ……」

 想像もしたくない。でもなんで村の外ならただしょっぱいだけの塩になるんだろう?

(育つために必要な栄養の中に苦み成分を含んだものがあり、それは内部に蓄積されていきます。定期的に採取される木は、傷の修復でその栄養を使うため、採取されない木から取った樹塩よりも苦みが無くなるのです)

 珍しくためになる話だった。という事は、村の木も定期的に採取した方が良いって事か。これは教えてあげないと。

「フドクルさん。村の木からも樹塩を取った方が良いみたい。最初は苦いかもしれないけど、そのうち森のと変わらなくなるってさ」

「へえ、そうなのかい。って、誰からの話だい?」

 ああ、いけない。メイティアならこういうのはすんなり受け入れてくれているから抜けていた。えっと、どうしよう。

「フドクルさん。それは神からのお告げです。ルイシアさんは神からお言葉を授かるチートを持っているんです」

 ドヤ顔で説明してくれるのメイティア。これ、地味に恥ずかしいから悩んでるんだけどなぁ。

「じゃあ、最近の奇行もその神様から言われてだったのかい。因みに成果は?」

「それは、あのメシイモですよ」

「はぁ~。ありゃあ確かに神様から教えてもらわないと出来ないねぇ」

 納得してくれたらしい。

「なら、さっきの細長焼きに欠けている味についても教えて欲しいもんだわね」

「あ、それなら多分、教えてくれると思う。ひゃ……かみさまぁ~が行くべきだって言ってたし」

 自分のチートを神様扱いするってとんでもなく恥ずかしい。チラッとメイティアを見ると、チートが崇められている様に満足して肌がつやつやしている気がする。何それ、信仰するだけでそんな風になるの?

「さあさ、お二人も今後更にチートに感謝し、感謝の祈りを捧げましょう」

 上機嫌で本当に修道女みたいな事を言い出した。いや、そのものではあるんだけど……。

 そんな感じで話していたら森の入口に到着した。

「フドクルさん、中に入るの?」

「この辺りにも生えているからここで済ませるわ」

 という事で木を探し始めた。注意するのは樹液を取るために付けた切り傷の部分が明るめな木から取らないという事だけ。同じ木から取り過ぎるとその木が駄目になってしまうらしい。

 そうしてどんどん木を変えて樹液を採取していく。持ってきた瓶が全て満杯になる頃にはお腹の重たさはすっかり消えていた。

「じゃあもうそろそろ戻ろうかね」

「うん、分かった」

 それなりの重さになった瓶を持ち帰る前の小休憩が終わり、私達は立ち上がった。

「ルイシアさん。そういえば神様からのお告げはあれからありましたか?」

「ん、無いよ。何だったんだろうね」

 今まではそんなに引っ張らずに結果が出ていたから不思議だった。もしかして間違った?

(違います。樹液を集め終えるまで待っていました)

 私のチートってそんな気遣い出来るんだ。知らなかった。

(樹液を集める前、またはその途中で伝えると村が滅ぶ可能性がありましたから)

「うえぇぇい!?」

 とんでもなく恐ろしい事を言い出したよ。

「ルイシアさん!? どうしたんですか?」

「聞いた事無い声出てたけど大丈夫かい?」

 奇声同然の声驚く声を出してしまったから心配されてしまった。

「いや、神様からの声が。で、採取が終わるまで待ってたんだってさ」

 滅ぶ可能性については言わない方が良いだろうと思い、隠させてもらった。

「それであの奇声? 驚きすぎじゃないかい?」

 勘の良い大人だ。にしても、何で途中だと村が滅ぶのよ。

(樹塩とそれを混ぜても危険はありません。ですが、採取中の瓶に毒を発生させるものが入ってしまう可能性がありました。毒を含んだ樹塩が村人の口に入り、全滅という事になります)

 私ら、そんな危険と隣り合わせの生活をしていたの?

(いえ、たまたま風に吹かれて混入される可能性があったというだけです)

 それ、防ぎようの無い感じの危険じゃない。

(その可能性を防ぐために終わるのを待っていたのです)

 納得はした。でもこの先も同じような事があるかもしれない。その時はどうしたら良いんだろう?

(それでしたら簡単です。完成した樹塩を水の中に入れ、水が無くなるまで煮るのです)

 煮るというと、長時間火で温め続けて水気を飛ばす事よね。料理ではまずしない行動だわ。

 樹塩は樹液を乾燥させた物を使うだけだし。

(煮詰めるとより塩気を強くする事が出来ますし、ふるいにかけると不純物を取り除く事が出来て純度の高い樹塩が出来ます。炒めると角が取れた味になります)

 味に違いが出ると聞けば興味が湧くけど、今の生活じゃ試すだけの余裕は無い。

 後でフドクルさんに話してみようっと。

「ルイシア?」

 っと、いけない。百科事典の話に耳を傾けすぎてた。

「急に声が聞こえたから驚いただけだよ。さ、神様からのお示しを探そう」

 強引に誤魔化してみる。さ、百科事典。早くお目当ての何かの場所を教えて。

(……。あちらの木の根元に生えている草を採ってください)

 草? と思いつつ、言われた場所へ向かう。なんか草の間に小さなぷっくりとした何かが挟まれている見た目の草だった。

(それを千切り、中に入っている種を取り出してください)

「え、この丸っこいの種なの?」

(はい。集めて乾燥させ、すり潰してから樹塩と混ぜると新しい味になりますよ)

 やり方は分かったけど、味については教えてくれないのね。まあ、やってみれば分かるから良いか。

(根から掘り起こして持ち帰れば村でも育てる事が可能ですよ)

 追加で情報をくれた。皆が気に入ったらこれの栽培もやってみると良いかも。

「メイティア、フドクルさん。この草を探して集めて。とりあえず片手で持てるくらいの量だけ持って帰ろう」

「この草って食べられるのかい? ちょっと、見た目が悪いんだけど」

 まあ、何かを植え付けられているんじゃないかと思う見た目ではある。でも、百科事典が言うにはこの種が重要らしい。

「使うのは中に入ってるのなんだってさ」

 私の言葉に疑う感じの二人。私も百科事典が言わなかったら集めようとも思わないからお互い様だ。

 この後、草を集め終わった私達は村に戻って種を取り出してこの日の作業を終えた。



 持ち帰った種を乾燥させる事二日。

 三人で細長焼きの二回目の試食をする事となった。

 種の状態とやる事は百科事典に確認済み。

 種をすり潰した後はお好みで樹塩をと混ぜるだけらしい。

 言われた通りにしてみると、嗅いだ事が無いけれどなんか良い匂いが少しした。

「これがこの種の匂いなんだ」

「料理から香っても良いのは分かるけれど、食欲をそそるかというと少し匂いが弱いねえ」

 フドクルさんが求める材料足りえるようにはまだ思えなかった。

「えっと、焼いている時に振りかければ良いんだね?」

「はい。神様が言うには、熱を加えると香りが広がるみたい」

「この控えめなのがねぇ……」

 嘘か本当か疑いつつ、細長焼きを作るフドクルさん。

 熱が通り、表面がカリカリになると百科事典の声が聞こえてきた。

(これくらいで振りかけてください。濃すぎず、薄すぎずの味になります)

「フドクルさん、今くらいで振り返るってさ」

 メイティアがそれを聞いて混ぜ合わせ済みの器をフドクルさんに手渡す。

 慣れた手つきで器を振るい、全体にかけていくフドクルさん。

 鍋を動かし、細長焼きを動かすと今まで嗅いだ事の無い食欲をそそる良い匂いがしてきた。

「お腹がなっちゃいましたよ~」

 鍋の音で聞こえていなかったけれど、自白するメイティア。分かる。今、この匂いを嗅いだ瞬間からお腹が動いているから。

「あんなに弱い香りがこんなにも広がるなんてねぇっ」

 未知の食材に出会ったと、フドクルさんの声が弾んでいた。

 完成した細長焼きを食べてみる。

 表面がカリッとした食感は変わらない。

「塩気だけじゃ感じなかった後味を感じるっ」

 一本じゃ足りないと、二本目、三本目に手が伸びる。

「樹塩だけでも良いと思っていましたが、これは……。これはっ」

 細長焼きを見つめつつ、手を進めるメイティア。

「これだわ。足りないと思っていた味がここにあるっ!!」

 感動と一緒に手が止まらないとフドクルさん。

 気付けばもう食べ終えるという恐ろしい事態に。

「フドクルさん。これ、本当に出すの?」

「もうね、これだけ出せば勝ったも同然じゃない?」

 これは良いと、怪しい笑みすら浮かべるフドクルさん。完全にお店で出すつもりだ。

「ね、ねえ、ルイシア。あなたのメシイモ、先に少し分けてくれない?」

 迫る圧に後退らずにはいられない。

「やだ」

「悪いようにはしないって。先に、先にね。皆に食べさせるっていうのはどうだい? 出所は明かさずにさぁ」

「や、やだぁ」

 食が絡んだ本気のフドクルさんが怖い。これ、一人でも楽しむつもりな気がする。

(むしろ研究用と称して自身が食べるつもりですよ)

 百科事典から要らないお墨付きが出た。

「と、とにかく。料理は決まったね。うん、決まった。じゃ、後は説明会の日取りが決まったら連絡するから」

 逃げ出したくなった私は、強引に話をまとめて飛び出した。

 当日、試食した皆はどんな反応をするだろう。想像すると走っているのに体が寒く感じた。

「後で、モクディルのとこに行かなきゃ」

 現実逃避をするように急にそんな事が浮かんだ。


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