包丁使いと試食
育て方以外にも訴える手段が必要だという事で、私とメイティアはフドクルさんの家に向かった。
「メイティアって、フドクルさんと話した事ある?」
「出会うと挨拶をするくらいですね。皆さんみたいに料理に関して尋ねるような事はしていませんね」
「そうなの? もったいないなぁ。フドクルさんの料理はね、とっても美味しいんだから。って、話しぐらいは聞いた事あるか」
とてもあたり前な事を言ってしまったと思った。
「神父様に誘われた事もありますが、酒場ですからね」
「町の酒場と違って、こっちは仕事終わりに酔うためって感じの場所だからね。飲まないなら行かないか」
村でのお祭りでは村の人を仕切って料理の用意をしてくれるけど、メイティアが来てからはまだお祭りをしていないんじゃないかな。だから評判だけなのかも。
「実はけっこう楽しみにしているんですよ。噂の料理上手の手料理ですから」
「私も。自分の育てたメシイモがどんな料理になるのか楽しみよ」
お腹も隙間を感じる時間帯に、私達はフドクルさんのお店を尋ねた。
「フドクルさん、居る~?」
「こっちだよー。おいでー」
奥の方から声が聞こえてきた。仕込みの作業中かな?
誘われるままに向かうと、フドクルさんはメシイモの皮向きをしていた。
「こんにちは、フドクルさん」
「おやまあ、ルイシアじゃないかい。隣に居るのは、メイティアちゃんじゃないかい」
「お邪魔します、フドクルさん」
「二人してどうしたんだい? おやつの献立にお悩みかい?」
時間帯としてはそう思われる頃合いだったか。
「ううん、違うの。実は、フドクルさんにお仕事の依頼をしたくて」
「ルイシアが仕事だって? 家の畑を継ぐんじゃないのかい?」
「継ぐは継ぐんだけど、まずはこれを見て」
持ってきたメシイモを彼女の前に出す。
「立派な物を持ってきたじゃないか。メシイモに似ているけれど、似た種のものかい?」
村長やメイティアとは違ってちゃんと野菜と思ってる。流石、村一番の料理上手だ。
「似たも何も、メシイモだよ。これ」
「いやいや、メシイモはこれでしょうよ。ほら、これ」
自分が手に持っていた物を見せてきた。
「これはね、私が皆とは違う方法で育てたメシイモなの。それで結果がこの大きさなんだ」
「はは、ルイシアもそんな冗談を言うようになったんだねぇ」
彼女の視線がメイティアに向けられた。
「いえ、本当にこの村で育てられているメシイモと同じ物ですよ。育て方が違うだけです」
メイティアの真面目な反応。これにフドクルさんも違うと気づいたみたいで、両手に持っていた物を置いてこっちにやって来た。
「触っても良いかい?」
「はい。持っても大丈夫だけど、かなり重いから気を付けてね」
「分かったよ」
フドクルさんは私のメシイモを撫でた。
「手触りは確かにメシイモの皮と同じだねえ。どれ、ちょっと持たせてくれるかい?」
慎重に、彼女の足に落ちないようにと、フドクルさんが両腕と胸の三点で抱えた事を確認してから離した。
「こりゃあ、確かにずしんとくるねぇ。いやはや、あたしゃこんな大きなのを見たのは初めてだよ」
頑張って育てたメシイモを褒めてもらえるとやっぱり気持ちが良い。
「それで、これで料理を作らせたいって事かい?」
「分かるの?」
察しの良さに驚く。
「そうじゃなかったら、見せて回っているかだよ。それで、一応の確認なんだけどね、食べて大丈夫なのかい? ほら、育ちすぎると大味になったり、普段なら大丈夫でもこの大きさなら毒性が強くなるとかさ」
色んな食材に関心があるからだと思うけど、私や村長じゃ考えもしなかった部分の疑問だと思った。百科事典からは何も言われてないし、そういった注意も無かったけれど、確認した方が良いかな。
(安心してください。毒性を含んだ環境で育てられていなければ、そのような心配はありません。この村でも意図的に混入しなければ問題は起こりません)
メシイモはとても強い植物だ。だから、他のなら負ける毒でも取り込んで育ち切ってしまうらしい。
「わざと毒を持ち込んだりしなかったら大丈夫だって」
「だってって、今聞いたみたいに言うねぇ」
「それは私から説明します。ルイシアさんは神の声が聞こえるのです」
「はっはっは、ルイシアが巫女様って事になるじゃないか。二ルネッガ教に熱心じゃないこの子に神様が? 神様っていうのは、物好きなんだねぇ」
「物好きって酷くない?」
「いやあ、ごめんよ。あんまりにもルイシアが巫女様って柄じゃなかったからねぇ。こういうのはさ、敬虔な信者がご褒美に授かるもんじゃないのかい?」
「そう言われたら私もそう思うけどね」
実際は神の声なんてものじゃないから気にしないけれど、メイティアの誤魔化しに頼っていたら、この先もこんな反応をされ続けそうだ。
「いいえ、フドクルさん。敬虔な信者では無いからこそ、ルイシアさんのチートには深い意味が生まれるのです」
「ルイシア、そういうもんなのかい?」
「分かんない」
「ルイシアさんまで……。良いでしょう、じっくり説明をしましょう」
「ごめんね、メイティアちゃん。話が長くなるなら店が無い日で頼むよ」
「私も、その手の話は子守歌にしかならないから、部屋に戻ってからが良いな」
「国教である二ルネッガ教がこの扱い……。私以外の人が聞いたら泡吹きますよ」
「まあまあ。話を戻すよ。長居したら開店に間に合わなくなっちゃうしさ」
「うう……。はい」
かなり本気で傷ついているようで、弱々しい返事が返ってきた。仕方ないなぁ。
「フドクルさん。彼女の心を癒す逸品を二つ」
「もうしょうがなーー。待って。何か凄い物を期待してないかい?」
「自分の分も頼んだのに気づかれたか」
「いや、そっちじゃなくてね……。って、あ、さらっと二人分用意させようとしてたね。もうしょうがないねぇ」
呆れ口調でもフドクルさんは手際良く料理を用意してくれた。
「はい、これ」
「フドクルさん、これは?」
「茹でて潰したメシイモの形を整えて焼いた物だよ」
出された料理はこんがりとした焼き色が付いていて、さらに何かが振りかけられていた。
「フドクルさん、これは何?」
「ああ、それかい。コショウだよ。匂いが良いだろ」
言われて買いでみると確かになんだかお腹が空く匂いがした。
「これはこのまま食べるの?」
「そうだよ。焼きたてだから熱いし、表面はカリカリだから気を付けるんだよ」
ナイフとフォークも渡され、食べる準備も完了だ。家じゃやらない手間をかけた料理に期待が膨らむ。そんな私の隣ではまだ立ち直れていない修道女が一人。
「ほら、口開けて」
自分の分を切り分け、メイティアの口元に近づける。
驚いた表情で彼女は私を見た。
「一人で食べられないんだったらこうするしかないでしょ。ほら早く」
同じ姿勢で居るのは結構疲れると、メイティアを急かす。
「いただきます」
急かしたおかげでパクリと食べるメイティア。口に入った途端にハフハフ言って熱さと戦っていた。
「人の話を聞かないから」
「こ、この熱さは幸せの熱さですぅ」
駄目になっているから別方向から刺激を与えたら、今度はおかしくなってしまった。
「あんた達、仲が良いねぇ」
柔らかい表情でこちらを見るフドクルさんだった。
「それよりもフドクルさん。改めて言うんだけど、このメシイモを使って料理を作って欲しいの。村のメシイモ農家を集めての説明会で出す料理をね」
「おやおや、村の食糧事情が変わるかの境だったのかい。そりゃあ大仕事だ。務まるかねぇ」
荷が重いなんて雰囲気を出しているけど、フドクルさんの表情は新しい食材を前にした期待感でいっぱいだった。
「皆を納得させるにはフドクルさんの腕が必要なんだよ。お願い」
このままでの引き受けてくれそうだけど、もう一押しで頼む事を忘れない。
「ん~、分かった。引き受けるよ。けれど、詳しい話は明日にしてもらえるかい。午前中なら時間もあるからさ」
仕込みの量を思えば、今話し込む訳にはいかない。
「うん。時間取ってもらってごめんなさい。私でも手伝える事があるなら仕込みを手伝うよ」
「私も及ばずながら頑張ります」
「おや、そりゃあ助かるよ。じゃあ、皮むきを頼むね」
約束を取り付けたお礼にと、私達はフドクルさんのお手伝いをした。
朝。剥いても剥いても終わらないメシイモの悪夢のおかげで寝起きは最悪だった。
意外にも重労働で、家に帰って夕食を食べたらそのまま力尽きてしまった。
おかげで料理について考える暇も無かった。
「ねえ、百科事典。説明会に出す料理ってさ、昨日食べさせてもらったあれじゃ駄目かな。外がカリッとしてて美味しかったなぁ」
(あの料理でも村人は受け入れるでしょう。ですが、長期的にと考えると良い案とは言えません)
「え、なんでよ」
(コショウが村の周辺で手に入らないからです。加えてまだ外からの収入が期待できない状況で値の張る材料を使った名物を作るのは止めておくべきです)
「でも、いつものお得意の可能性だと成功するんじゃないの?」
(現状から生まれる可能性の中には所謂失敗も含まれています。そして、成功の可能性が多くとも、そこに至るまでの道筋に楽は無い事を覚えておいてください)
「ええっと、コショウを使った料理は今の状況じゃお金が無いからたくさん作れない。外から人を呼ぶにも時間がかかるって言いたいのね?」
(はい。もっとも早く人を呼ぶには人脈が必要です)
「あー、それ一番無いやつだわー」
私に村の外と繋がる人なんていない。いや、メイティアが居たか。でも次に広がらないなぁ、絶対。
(町に一人、居るではありませんか)
「町? ああ、荒くれの? あの、酒場に逃げてた」
(違います)
「なら、親切に町の事を教えてくれた受付の人?」
(そうでは無く)
他に誰か居ただろうか。本気で思い出せない。
(酒場の店主を忘れています。メシイモが出来たら渡すと約束しています)
「ああ、そうだった。私のメシイモを気に入ってもらって、店主に村の事を話してもらえば良いんだわ。あーすっごい気の長い話ね」
(ではさすらいのメシイモ売りになりますか? メシイモの移動栽培はお勧めできませんよ)
「やろうと思えば出来るんだ。いや、やらないけどね」
村育ちで自分だけで町にも行った事が無いのに一人旅なんて絶対に無理無理。
「でも、何となく見えてきた気がする。私達が普段食べている料理を作れば良いって事でしょ?」
(素材の良さを理解するにはそれで問題無いでしょう。ですが、それでは他の土地との違いを出しましたと言っても弱いですね)
「他所は知らないけど、メシイモの食べ方なんてどこの土地でも同じでしょ。味付けに工夫しろって言うの? この辺りで特別な物なんて取れないけど」
(そうですか。ではそろそろ食事をして出かける支度を済ませましょう)
そういえば、話し込んでて結構時間が経ってる気がする。
本調子じゃない父さんの食事の用意もしないといけないと思い、私は会話を切り上げた。
フドクルさんの家に向かう途中、メイティアと出会った。
「おはようございます、ルイシアさん。お迎えに行こうと思ってたんですよ」
「そうだったの? ありがとう、メイティア」
「いえいえ。所で、何か説明会に出すのに良さそうな料理は浮かびましたか? 私はさっぱりで」
「お互い料理が凄く得意って訳じゃないしね。食べ歩きなんて出来る土地でも無いし、仕方ないって」
「ですが、今回の事で思いました。もっと食べ歩きをしておけばと……」
活動費みたいな名目のお金を全部それにつぎ込んでいたとしたら、絶対に教会から追い出されていたわね。それか、出会った時には丸々と肥えた修道女になっていたか。
あの出会いを思うと、私は絶対に家の中まで押し入られていたわね。
実際にそうならなくて本当に良かった。
「ルイシアさん、どうしたんですか?」
「いえね、あなたと出会った時の事を思い出していたの」
「なんか照れちゃうな~。それにそんなに昔の事じゃないですよね」
大切な思い出と思ったのか、彼女は上機嫌だった。私がもしも家に入られていたら、なんて事を想像していたとか、絶対に気付かれないようにしなくちゃ。
この後も会話に花を咲かせてフドクルさんの家を訪ねた。
呼びかけるとすぐに出迎えてくれた。
「二人とも良い朝ね。年甲斐もなくワクワクしていたわ」
一応未知の食材になるのだろうか。フドクルさんは、自分にとって未知の食材を手に入れるとこんな感じになる。
「そんな風にワクワクしてもらえると生産者としては嬉しいけど、指切らないでね」
「あらやだよぉ。包丁のチートを持つ私がそんなへまするもんですか」
確かに、包丁の扱いなら村でフドクルさん以上の人は居ない。前にメシイモの皮を剥いて絵を描いたりしてたし。
挨拶を終えた後、フドクルさんの家に入ってテーブルを囲う。ここからが昨日の続きだ。
「二人とも、何か良い案は浮かんだかい?」
メイティアは首を横に振る。私は、朝の百科事典との会話を思い出していた。
「味だけを考えるなら、普段食べている通りで良いと思う。私達が普段食べてる焼いたのや茹でて柔らかくしたの」
「じゃあルイシアは昨日の料理を出そうと考えているのかい?」
焼きの料理で出すのなら良いかもしれない。でもそれだけで良いかが引っかかる。
だって、私のメシイモは世界を救うらしいから。その一歩として村を活気づけるための一皿として、あれが相応しいのかが分からない。もっと広く、皆が手に取るような料理が欲しい。
「フドクルさん。皆が片手間で食べられる料理なんてどうかな? 会話をしながら食べるみたいなの」
普段の食事中も家族間で会話をする。でも食べる事が軸だから、料理が出たらそれが無くなるまで食べる事に集中する。私が思いついたのは、食事の合間の会話じゃなくて、会話の合間の食事だった。
「それで言ったら、一口が大きくなったりするのは無しだわね。昨日の料理なんか良さそうだと思ったんだけどねぇ」
「でしたら、刺してもすぐに落ちる大きさも駄目ですよね。パクパク食べられる、取りやすくて食べやすい大きさ……。あっ」
閃いたと、メイティアが自身の親指を立て、人差し指を伸ばした。
「これ位の長さもメシイモを切って焼くのはどうですか? 手づかみてもフォークでも食べられると思いますよ」
それならこぼす事も少ないだろう。
「良いんじゃない、メイティア。フドクルさんはどう?」
「メシイモを千切りにしたが無いから、試してみましょ」
と、立ち上がるフドクルさん。
私のメシイモを使って色んな厚さにした長く切ったメシイモを焼き始めた。その横で水を沸かしているけど、何に使うんだろう? と疑問に思ったけれど、沸くよりも前にメシイモに火が通った。
「さあ、食べてみようかね」
言われるままに火の通った順に私達は食べてみた。
「細いとそれだけカリカリしてますね。太くなるほど中がホクホクしてますね」
「そうね。私としてはカリカリが良いわ。なんだか溜まっていた物が昇華される感じが好き」
「う~ん。これ、一口大の大きさならどんな形でも良さそうだわ。その分薪代が嵩むけど」
まだ採算が取れず、村の中だけで回す事を考えるフドクルさんは、流石だ。
「じゃあ、村の人に食べてもらうのはカリカリと中のホクホクを感じられる二種類にしない?」
「良いですね、それ。作り方を見るととても簡単ですから、自分でも作ろうとやる気も出ると思いますよ。ルイシアさん」
「そうね。私もそう思った。フドクルさんはどう?」
「ん~、食感は癖になって良いと思うけど、味がねぇ。樹塩振ってみたのも食べてみて」
私もメイティアは在りでも無しでもどちらでも満足だった。
「フドクルさんは何が気になっているの?」
「樹塩で食べるのも良いんだけど、味をもう一つ重ねたいと思ってねぇ」
私達にはよく分からない事で悩んでいるらしい。
村で手に入るのは樹塩くらい。だから、町に探しに行かないと駄目だろうな。もっと近場で、安く手に入れば、百科事典が言っていた問題も解決するんだろうけど、世の中そう上手くはいかないだろう。
「まあ、これの味付けについてはまた後で考えるとして、もう一品くらい欲しいね」
「この細長焼きって太さで違いが出てるから、これで満足するんじゃないかな」
見た目まんまの一品に適当な名前を付けて満足な私は、フドクルさんの提案にそれは欲しがり過ぎじゃないかなと思った。
「いやいや。私達って焼くか茹でるかの二択じゃないかい。これじゃあ焼きで良いのが出来ただけだよ。弱ってる時も食べるんだから、柔らかくした時の味も見ておかないと」
そっか。完全に切り替えるんだったら、茹でた時の事も皆に知ってもらわないといけないか。
「じゃあ、ちょっと茹でてみようかね」
見計らったみたいに鍋がグツグツ言い出した。
フドクルさんは最初からこれを見越していたのだろう。流石、村唯一の料理のお店をしているだけある。
それから適当な大きさにぶつ切りにしたメシイモをお湯の中に入れてしばらく待ってから味を見た。
「今までのメシイモと違って水っぽさが無いですね。 普段のは少し水を出さないとびちょびちょでしたから」
分かる。今までのは切った時には既に乾き気味だったから。
今回の二品を作る工程を思い出すと、私のメシイモは自身の水分を保っていた。
だから茹でても多くの水を吸わなかったのかも。
「これならすぐに料理に使えるね。それに味も良いわ。焼きの時よりも甘みが出ているし、おやつとしても十分だわ」
おやつ……。そこで浮かぶのは町で食べたイモパフェ。蒸しを使うと、私のメシイモはどれほどの甘さを感じさせてくれるんだろう。帰りにモクディルの所に寄って行こう。
「フドクルさん。茹での時の料理で良いのあります? 正直、柔らかさというのなら、このまま食べさせた方が良いと思うだけど」
「そうだねぇ。二人とも、昨日食べた料理は美味しかったかい?」
急に分かりきった質問をするフドクルさん。
「もちろん。茹でたのをそのまま食べる私には無い発想だったよ」
「私もです。ひと手間加えるだけであんな風になるとは思いませんでした」
「はは、そうかいそうかい。それにもう一手間加えてみようかと思ってね」
「あれ以上に? 何か混ぜるの?」
「まあ、その材料があれば良いんだけどね。その作り方が分からなくてね。でも、無くても大丈夫さ」
「大丈夫って、前にした事があるの?」
「作り方を教えてもらった事があるのさ。その時のはメシイモじゃなかったんだけどね」
「へえ、そうなんだ。で、何をするの?」
「この茹でて柔らかくなったのをこねるのさ」
「こねるって、混ぜるって事!? 料理でそんな事するの?」
パッと作ってバッと食べるのが当たり前な私達の食生活でそんな一手間を加えるなんて……。
茹でたメシイモの汁を飲むのとは訳が違う。それでどんな状態になるのか全く想像も出来ない。
「まあ、やってみようかね」
それから手で簡単に潰せるほどに柔らかくなったメシイモを敢えて全て潰すフドクルさん。
「茹でたのをそのまま食べるとどうしても塊りになるからね、それを無くすのさ」
と、木べらを使って崩していく。
そうやって出来たつぶれたメシイモをスプーンで一口大に取ってこねていく。
「フドクルさん、これってそのまま食べるの?」
「最初はそうだね。茹でた物と同じ味だろうけどね。味見してみな」
私達もフドクルさんと同じ考えだったけれど、食べてみると食感の変化に驚かされた。
「メシイモの味がするのに、茹でた時と噛んだ感じが違うわ」
「もちっとしていて、今までのメシイモよりも甘みがあるのに優しいですよ」
おやつにぴったりな味に感動する私達。ここで私は気になってしまった。
「フドクルさん。これ、焼いたらどうかな?」
さっきの細長焼きのように意外な発見があるかもしれないと、提案してみた。
「料理の楽しさが分かってきたんじゃないかい?」
良い閃きだとばかりにニヤリとするフドクルさん。
適度な焼き色が付いたこね丸メシイモを食べてみる。
「外がサクッとしてる。この歯応え欲しさについ食べちゃう」
「これは身を滅ぼす危険がありますよ」
出来た物を全て胃の中に納めずにはいられない。朝食を食べたばかりだというのに、お腹がはち切れそうになっているというのに、手が止まらない。
そうやって満足するまで食べた私達を襲うのは後悔だった。
「フドクルさん、酷いわ。こんなのを食べさせるだなんて」
「このような素晴らしい料理を食べ続けていたら、二ルネッガ教の教えを広められなくなってしまいます……」
「はは、二人が満足したみたいで良かったよ。でも、材料を持ってきたのはルイシアだからね」
自身の腕よりも私のメシイモの方が罪が重いと言いたいのだろう。
それはメシイモ農家としてはとても嬉しいのだけど、受け入れがたい心境だった。
でもおかげで説明会で出す料理が決まった。
「美味しい料理でお腹も満足でお昼も要らない感じだけど、このままじゃ不味いかな」
普段農作業で汗を掻いているから今日くらいはと思わなくも無いけれど、家にはまだたくさんのメシイモがある。つまりは、その気になれば家で食べ放題。
父さんにも食べさせたいと思うし、そうしたら私だって食べるだろう。
一度知ってしまったからには記憶喪失にでもならないともう忘れる事は出来ないだろう。
「ちょっと運動しなくちゃ」
焦りから声が漏れる。
「ルイシアも体重を気にするのかい」
意外だと驚くフドクルさん。
「いやいや、私だって太りたいとは思わないから」
「浮いた話の一つも無いから、そういうのにも頓着してないんだと思っていたよ。あんたの父さんも心配していたよ」
「ちょっと止めてよ。村で未婚の同世代なんてモクディルくらいでしょ。ステルファンは投資上だしさ」
村の男をそういう目で見た事が無いから、村の中から選ぶという考えが無かった。きっと私は独身を貫くんじゃないだろうか。
「ま、待ってください。私もまだお相手なんて居ませんよ。だから大丈夫です。問題なんて無いですよ」
「何時か村の外に行く人なんだから、どっかで相手を捕まえるでしょうよ。その時は呼んでね。今後はきっと旅費の心配もしなくて良いはずだから」
メイティアにそんな話が出る頃には外の人も多くこの村に来るはず。そうなったら、乗合馬車とかが出来て、一人旅だって問題無いはずだものね。
「では、私が村を出る時には一緒に行きましょう。そうすれば一人旅の危険とかも無いですよ。だって、教会の人とかが一緒に来てくれるはずですから」
「いや、完全に部外者。部外者だからね、私」
絶対何も知らない人から冷たい目で見られちゃう。それは避けたい。
「はいはい。おしゃべりで体力使うよりももっと良い事するから付き合ってくれるかい?」
両手を叩いて私達を止めるフドクルさん。
「良い事って、お店の仕込みの手伝い?」
「まあ、それに近いかねぇ。樹塩を取りに行くつもりだよ」
「あれを? って、さっき使ってたのにはまだたくさん入ってなかった?」
「塩にするまでに多少の手間が必要なのさ。で、手伝ってくれるかい? くれないのかい?」
私が急ぐような用事は無い。メイティアはどうだろう?
「村の人の役に立つのも役目の一つです。大丈夫ですよ。ルイシアさんはどうですか?」
私もそうだと言おうとしたら、百科事典が入ってきた。
(丁度良いので行くべきです)
この状況で出てくるって事は、細長焼きの味の決め手になるものが近くに育っているって事?
「私も手伝うよ」
色々と都合が良いのに更に百科事典からの提案もあり、私は頷いた。
「じゃあ、村の外に行こうかね」




