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果ての畑でメシイモを  作者: 鰤金団
見紛うほどのイモの茎
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13/23

発掘 されこうべの山

 村に戻ってからは特別な事など何もなく、メシイモのお世話で日々汗を流していた。

 メシイモはすくすくと怖いくらい成長し続けている訳で、盛り土の作業をする度に怖くもなる訳で……。

 百科事典に収穫はまだなの? と何度繰り返したか。

 尋ねる行為が当たり前になった頃のある日の朝。

 百科事典が目覚めたばかりの私に言う。

(ついに今日という日を迎えました)

 寝ぼけている時にそんな事を言われても全く理解出来ず、私は着替えていた。

 着替えの間、何を言い出したのかとずっと考え、着替えが終わった時に理解した。

「それって、つまりは……そういう事ね!?」

 期待に声の調子が上がった。

 町に出かけてからのこの三か月。私はメシイモと向き合い続けてきた。

 いや、別に他にする事が無かったからとかじゃなくて。

 その苦労が報われる。でもまだはしゃいではいけない。だって、明確な回答を得られていないのだから。

(収穫の時を迎えた、という事です)

 聞いた。私は聞いたぞ。私の初めての畑で、初めての野菜を育て切ったと。

「あ、ちょっと待って。父さんに行ってくる。父さん? とうさ~ん」

 部屋を全力で飛び出して、家の傷みも気にしないで、私は呼んだ。

「どうしたんだい、ルイシア?」

 興奮する私に、父さんは珍しいものを見たと驚いていた。

「あのね、育った。育ったの。ついに収穫だっていうから、一緒に来て。見てっ」

 父さんの手を取り、外へ引っ張る。

「おお、やり切ったね。こうしちゃいられない」

 私達は急いで畑に向かった。



 私の畑には今、日暮れ前に被せた土から少し顔を出しているメシイモが列を成している。

 皆、早く抜いてと訴えているようだ。これが今まで畑仕事では感じる事の無かった、一から全てを成し遂げた達成感か。

「じゃあ、さっそく引っこ抜くね」

 一番手近なメシイモの茎を掴む。メシイモと言えば、芋づる式なんて言葉があるように、茎を持って引っ張ればズルズルと一緒に引き釣り出される。

 私の畑のメシイモ達は、既に今までの見知った大きさを優に超えているけれど、こうしないと収穫とは言えない。そう、メシイモ農家の矜持が許さない。

 両足でしっかり大地を踏みしめて、茎を握る手に力を籠める。

 思い起こされるのは、開墾作業からの日々。

 この先に見るのは、いったいどれほどの成果か。既に例年よりも二回りは太い茎を握る手に緊張が走る。

「よいしょっ」

 掛け声と共に体重を後ろへかける。でも全く動かない。寧ろ、体重を後ろに向けた分、足がメシイモへと引っ張られた。

 今までのだったら簡単に引っこ抜けたのに、これは違う。例えるなら、巨木の引っ張っているような感じだ。

(このままでは腰を痛めます。手彫りにしましょう)

「え、手掘り?」

 百科事典からの提案。まさか、メシイモを手彫りするだなんて……。

 メシイモは確かに傷付けないけど、一気に引き抜けないからその分手間がかかる。

 それに、今日という日を迎えるまでに何度かけ土をしたか分からない。

 分からないほどやったという事は、底が相当深いという事。

 それを手掘りとか、考えるだけで震えてくる。

 明らかに成長が違うとは思っていたけど、まさかこんなにをしっかりと根付いていたとは……。

 やっぱり、もっと早い段階で収穫した方が良かったんじゃないかな。

 一度や二度じゃない考えがまた浮かぶ。

(繰り返しますが、それでは収穫には早過ぎます)

 かけ土と同じくらい繰り返された答えが返ってきた。

 例年の大きさで収穫しても日数の速さしか分からない。

 成長の速さもだけど、合わせて同じ日数でどれほど成長するのかを知る必要があった。

「仕方ない。手掘りかぁ……」

 まだ初めてもないけれど、既にうんざりしていた。でも頑張ってみよう。

 土から顔が少し出ているのから始めたけれど、まあ、結構土をどかした。手で引っかいたりしないようにもしないといけないから、感覚が分からない間は結構神経を使う。

 最初という事で特に慎重に進め、第一メシイモの収穫に成功した。

 全身が見えた時点で、もう既に今までの私達からしたらおかしい大きさだった。

 二個目、三個目とそれ以降も収穫を続け、こんな大きさ何だと大体把握も出来た。

 まさか、私が抱えるには三個が限度な大きさのメシイモばかりとは。

 一つの苗から取れるメシイモの数としては今までのメシイモと変わらず十個前後が収穫出来た。

 でも、その大きさが今までと比べると違い過ぎた。

 苗五から八本で取れる収穫量と同等の量が一本の苗から取れていた。

 おまけに大きさが丁度人の頭くらい。なので頭蓋骨を埋めていたんだっけ? とちょっと想像してゾッとした。積み重ねた山を見るとより引ける。

「ねえ、父さん。この畑に妙なの埋めて無いよね?」

「ルイシア、落ち着きなさい。村の人よりも数が多いだろう」

 父さんの視線を追って私の畑を見渡した。

 今まではただ育っているなぁとしか感じなかった畑。でも収穫後に見てみると、メシイモが無くなった箇所はボッコボコに穴があり、何か大変な事が起こった後のようにも見える状態だった。

 父さんの先ほどの発言と合わさって、事件現場みたいだ。

「だ、だよね。いや、私の例えも悪かったけど、父さんの正し方も怖いね。はは」

 どうも嫌な印象のせいで上手く笑えない。父さんはどうして変わらず普段通りなのか。

「収穫量は凄いけれど、収穫が大変だね。こんなに大きなメシイモを運ぶ時にこの通りの狭さじゃ私らくらいだとおっかない。これじゃあメシイモを踏んだり、尻に敷いて潰してしまいそうだ」

「あ、それ私も思った。収穫後の穴もあるし、道幅広くした方が良さそう。この大きさがごろごろ取れるんだから、収穫量としては増えてるよね。かけ土の事もあるし、もう少し深め、幅広でやってみようかな」

 一度終えたおかげで、今後の問題点がいくつも出てきた。百科事典が最初から最適解を出しているのだと思っていたのだけど、違うみたいだ。

(その土地の状況に応じて対応が必要になります。この場所で最適な条件を出した所で、他の場所では合わないという事もあります。今回二人が感じた問題点は、どの土地の畑でも怒るものです。それらは今後必要な対策を理解するための実体験になりました)

 私もこの育て方でどれだけの大きさや量を収穫出来るのかは想像出来なかった。

 けれど体験のおかげで、距離感や収穫の問題点が分かり、より相手に伝えやすくなったのは間違いない。

 多分、次の時に改善策をしてみても何かしらの問題が生まれると思う。けど、その問題を確認する事で、これから新たに生まれるメシイモの農家の助けになるだろう。

 私はこれから試行錯誤を繰り返し、負担を減らしてより良く、楽になるように努めよう。

 なんだか使命感みたいなのが芽生えた気がする。やる気が出てきた。

「それにしても、私でもこんな大きさだっていうんなら、熟練農家だったらどうなるんだろうね」

「見た所、一苗五から八本分くらいか。うちよりも人手がある家でやったら、運び出しようの荷車が足りなくなるだろうね。そうなったら、各家の食料的にも余るかもしれないから、収穫祭なんていうのを開いても良さそうだ。その時にはメシイモの大きさを競っても面白いかもしれない」

「あ、面白そうだね、それ。優勝者のメシイモは村の一日分の食事を賄えるくらいになるかもしれないね」

 それくらいになると味はどうなるだろう。興味は尽きないけれど、まずはそんな催しをするためにも村の皆に育て方を広めないといけないわね。

「一人で全てを収穫するのは骨が折れるだろう。今日は手伝うよ」

 自分の畑の収穫はまだだからと、父さんが言ってくれた。

「ありがとう、父さん。でも無理しないでね。父さんは腰が折れる心配があるからさ」

「もちろんだとも」

 こうして私達はメシイモの収穫を続けた。

 それからしばらく二人であれこれ話しながら作業をしていたら「ル~イシ~アさ~ん」とのんきな声を出す来訪者がやって来た。

 まだまだ人手が欲しい状況での来訪だもの、嬉しくない訳が無い。

「メイティア~。待ってたわー」

 何時もよりも歓迎全開で呼び寄せる。メシイモを抱えて彼女の方を向くと、ギョッとした表情に変わった。

「る、ルイシアさん。そこの凄い大きな石の山は何ですか? それにその持っている物は?」

「ああ、これね。これ、人の頭だよ」

 しれっと言う。

「あたぁっ!?」

 声が裏返り、そうそう人からは聞こえなさそうな音を出すメイティア。

「ごめん、嘘」

「う、嘘ですか。ビックリしたぁ。もう、変な事言うから、驚いちゃったじゃないですか。神様への貢物かと思いましたよぉ」

「ははは、違うって。……ねえ、私ってそんなに猟奇的に見える?」

 彼女は百科事典の事を神様扱いしている。だから貢物なんて単語が出たのだろう。

 だから不安に思った。だって、そんな彼女から貢物とか言われたら、私が村の人から危険人物扱いされるんじゃって思うじゃない。

(現実から目を背けてはいけませんよ)

 認めない。百科事典が余計なつっこみを入れてきても認めない。

 そして返さない。これは言葉を返しちゃいけない所だから。

「それでルイシアさん。この大きな塊の山は何ですか? メシイモ畑にまた手を加えるんですか?」

 なんか逸らされた上に答えをメイティアに急かされた。

「これ、メシイモ。今、収穫中なの」

 畑のメシイモが減っているでしょ? と開いた畑を指す。

「ええっ!? このされこうべの山が!?」

「されこうべって……」

 今日日、村の年寄りだって使わないって……。

 教会の人間だから? とも思うけど、教会でそんな言い方するのかな?

 何時か尋ねる機会があったら聞いてみよう。

「ついにやっと収穫の時を向かえたのですね。おめでとうございます」

「ありがと、メイティア。で、どう? おっきいでしょ?」

 既に感想は貰っているけれど、やっぱり例えとかじゃなくてしっかりと聞きたい。

 そう思っていたら、また百科事典がそれを指摘してきた。

(あまり成果を自慢しては反感を買いますよ)

 うるさいなぁ。初めての達成感に水を差すんじゃないよ。それに、メイティアだからに決まってるじゃない。

 メイティアは畑の最初の方から成長を見守ってきた仲だもの。

 私が町に出た時以外は全て自分でやり切った初めての畑の成果を分かち合いたいじゃない。

 その結果がこんなだけ大きいんだから、自慢の一つくらいしたくなる。ううん、三つでも四つでも足りないかも。それに見せびらかしたいって思うじゃない。

 うん、これは自慢じゃない。発表ね。

(言葉遊びと感情が大爆発していますね)

 そう言われると心にすごくグサリと刺さる。

「と、とにかく。普段みたいな収穫が出来なくて全部手掘りなの。だから人手が欲しいんだ。手伝ってくれたらお礼に何個かあげるからさ、手伝ってもらえない?」

「何を言うんですか、ルイシアさん。お友達のお願いです。もちろん手伝いますよ」

 良い子だ。良い子過ぎるよ、ルイシアさん。

 このやり取りを父さんは終始緩んだ表情で見ていた。それに気付いてからは、私は恥ずかしくて父さんの方を向けなかった。

 三人で作業を頑張り、何とか夕方には全てを掘り出す事が出来た。

「ふぅ。で、どうしよ、これ」

 思った以上の豊作に私は困った。

 既に何度も家の保管庫に運んでいるけれど、これ以上運んだら父さんの畑分が入らない。

 食べるにしても、メイティアに分けるにしてもまだ数が残っている。

「お裾分けするにしてもなぁ。ねえ、メイティア。これをいきなり持っていったらさ、その相手はどう思うかな?」

「されこうべを持ってきたと思うかと。それから、次は自分の番なのかと身構えるかと」

「それは何? 死をお裾分けしに来ましたって思われると? そんな、ねぇ……」

 流石に無いでしょと思って、置き場所に困ったメシイモの山を見る。

 メシイモの山に伸びたて覆った樹の影が風に揺れる。メシイモだと分かっているはずなのに、影のせいでメシイモ感が無くなると、メイティアの話が冗談とは思えなくなった。

「村長の所に持っていこう。まだ誰も収穫はしていないはずだから、倉庫は開いているはずだよ」

 父さんの提案にその手が在ったかと驚いた。

 この提案は、後の事を考えると都合が良いとも思えたし。

「じゃあ、ちょっと村長の家に運びに行くね。でもこれ、あそこまで一人で引っ張れるかな?」

 村長の家までに普段なら気にならないちょっとした傾斜がある。以前までなら荷車を引いても気にしなかったけれど、私のメシイモは大きいし、一つ一つが重い。

 だから坂道で荷車を抑え込めるかと不安に思った。

「私も手伝いますよ、ルイシアさん」

「娘一人に任せる訳が無いじゃないか」

 父さんとメイティアが手伝うと言ってくれた。

「ありがとう、二人とも」

 親と友人の好意が嬉しい。でも、この後に悲劇が訪れた。

 早速三人で運ぼうとした時だ。父さんを先頭に、私達二人が押す形で進もうとした途端、前方から短い悲鳴が聞こえた。

「と、父さん!?」

 前へ行くと、直立の姿勢から動かない父さんが。

「え、あっ、腰。腰だね?」

「うぐぅ」

 痛みに耐えているせいでちゃんと会話が出来ない父さん。でも既に何度も腰に問題が起きた時の反応は見ているからすぐに分かった。

「父さん、ゆっくりで良いから。まず、ここから動こう」

 父さんの手を荷車の持ち手から離し、荷車をゆっくりと傾ける。

 駄目だ。今はしゃがませられないし、膝ほどの高さまで下がった持ち手を跨がせる事も出来ない。

 残った手段は、私達で父さんを横倒しで運ぶ? 人一人を運ぶ力は流石に無い。

 もう助けを呼ぶしかないと思った時だった。

「ルイシア。父さんを信じるんだ」

 この状況で父さんの何を信じろと言うのか。でも、決断した男の顔をしていた。

「娘のまで情けない姿など見せるものかぁぁぁ」

 魂の咆哮と共に後ろへ下がったかと思ったら前のめりで倒れる父さん。

 いや、両腕で衝突は避けていた。

「はぐぅっ」

 やっぱりだ。腰を痛めた人間がしていい動きじゃない。それに、その姿勢は腰にものすごく悪い。だというのに、父さんは姿勢を維持したまま言う。

「はぁはぁ。こ、これだけは真似するんじゃないぞ」

 何をするのかと思えば、両手を足代わりに動かして進み始めた。

「私はこのまま家に戻る。だから、ルイシアは自分のやるべき事をしておいで」

 父さんの背中が遠くなる。傷みに堪え、それでも進む姿に視界がぼやける。

「父さん……。もう情けない姿なんて見慣れてるのに……」

 二人暮らしをしているのだから、腰痛に悩んだ姿なんて隠せるはずも無い。

 それに、その進む姿の方が情けない姿よりも見たくない。だってなんか、気持ち悪いんだもの。

 数日は寝込みそうな動きだし、家に帰った後が大変そうな予感しかしない。

「ルイシアさん。お父様の気遣いを無下にしないためにも急ぎましょう」

 何故か声を僅かに震わせて言うメイティア。いや、凄いとは思うけど、そんな感動的な場面じゃないと思うよ?

(親とは子に弱い姿を見せないように生きるものです。それだけは分かってください)

 百科事典も何故か父さん寄りの発言をする始末。

 うん、深く考えちゃ駄目なんだな、これ。

「……じゃ、行こうか」

 私はこの吐けない感情のやり場にモヤモヤしつつ、村長の家に向かった。


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