84.剣豪カルファリア・パレスリーⅡ
国の催しだった剣術大会。本気でやり合うというよりは見世物のような雰囲気のもので、一年に一度の大きなイベント。そこで、事件は起きた。
私達カルファリア一族からは、私が出ることになっていた。義弟メイナードはまだ剣豪としての実力を持っておらず、父と母は私に機会を譲ってくれたためだった。
ニ、三人の参加者と剣を交えたのち、私はとある男と対決することになる。
その男に抜きんでた身体的特徴はなく、細身で一般にしては長身の身体をミリタリーチュニックにつつんだ黒髪の男。特別表情があるわけでも無く、普通だったら大して印象にも残らなそうな雰囲気の男だった。
ただ、その男との試合は、思っていた以上に面白いものだった。しっかりと私が手ごたえを感じるほどには強く、本気を出せば勝てるだろうと思える実力。私が我を忘れて楽しむには十分すぎる試合だった。
あまりにも楽しくて、本気で戦ってしまったせいで、私は相手が油断してできたと思われるがら空きの胸元に、反射的に剣を滑り込ませてしまった。
目の前に、鮮やかな紅が散った。
男は、声もあげず、静かに目の前で倒れた。そしてその拍子に、男が持っていた小さな小瓶がポケットから転がった。
周りの審判が、血相を変えて倒れた男を掴み上げた。そし私に離れろと、この小瓶の中身は毒だと叫んだ。
そして、血を見たためか、それとも毒を恐れたか、複数人の観客が倒れた。その中には、私の義弟メイナードもいた。
その場は混乱に陥った。当然大会は中断され、男の仲間が付近にいないかと捜索が始まった。
男は、先の戦争で私たちが味方した隣国にとっての、敵国に籍を置く青年だった。国家機関に私刑を下そうとして単身で乗り込んできたのだろうと予測がされた。
男は、搬送された診療所で亡くなった。動機も何も聞かせることなく、口を一度も開かぬまま。
国は、私を英雄と持て囃した。スパイを見破り倒した、王国の姫だと。
けれど、それは結果論に過ぎない。もしあの男がただの国民だったら、いや、仮にスパイであったとしても、あの男の死因は間違いなく私だった。
メイナードの顔色は、私のその恐怖を理解したものだった。一方で、してはならない状況で人を殺めた私を、恐れているようだった。
剣から退きたかった。もしまた剣を握ったら、同じことになりかねないと思った。
けれど、私が剣豪を辞めることを、国は許してくれなかった。




