81.アナリーの暴走 中編
俺はゴウに連れられて、途中で出会ったルームメイトの世話焼きガドロブ・ボーワと共に大ホールへ向かった。体中に走る痛みは、敢えて無視をする。大ホールへと一歩一歩近づいていくごとに、鉄がぶつかり合う鋭くて重い音が確かな輪郭を持って聞こえてくる気がする。
先ず、なんでアナリーが自暴自棄になってるんだ?悪魔に呑み込まれたあのとき、頭の中を侵略されてたのか?というかそもそも、悪魔を撃退できるような指輪をアナリーに渡したのは誰だ?って、どうせトリエミア家の子息か……。
頭の中がごちゃごちゃと騒いでいて落ち着かない。それを振り切るように、俺は走った。そして大ホールの扉前に立ち、力づくで押した。
目の前の大ホールステージで、ローズレッドの長髪が舞っていた。
鈍色の剣を持ち、C班のウィリアン・ネーロやフュラオ・ミオニを切り殺す勢いで走り回っているアナリーの姿。ウィリアンやフュラオが必死の形相だというのに、アナリーは感情も肉体も捨て去った機械のような無表情だった。
「……あっ、メリノ!申し訳ないが、手を!」
俺の姿に気付いたナルシスト・フュラオが、聞いたことないくらい切羽詰まった声で叫んできた。後ろの戦い好きな暴れ馬・ウィリアンは、フュラオが戦線離脱したからか、アナリーと一対一で鎬を削っていた。
「何が何だか知らんが、もう少し目を合わせてはくれぬものか!アナリー!!」
……あのウィリアン見ると、楽しそうに見えちゃうの俺だけ?
「何、俺はどう動けば良いんだよフュラオ?」
「とにかく、彼女の動きを止めたい!しかし気をつけてくれ、下手に動くと致命傷になるだろう!」
はいよー……と、俺が自分の指輪に手を触れて魔法を使おうとした瞬間、ウィリアンに向き合っていたはずのアナリーの目がぐるんと俺の方を向いた。
気持ち悪っ!その首の動かし方、人間味の欠落した動きなんだけど……。
アナリーにビビる余裕もくれず、彼女はウィリアンの胸元を蹴り飛ばすように俺の目の前に跳んできた。そしてそのまま、俺の鞘にある剣を勝手に引き抜き、俺に持たせた。
「……殺して。私を、殺して。殺せないのなら、私を殺してから、貴方も死んで。」
冗談じゃない目の濁り方だった。エメラルドの虹彩に灰が撒かれていた。
言ってることもやってることも滅茶苦茶だ。
「自暴自棄って……、そういうことかよ……!」
声が震える。俺に剣を持たせようとする握力からも、ただの一般的な少女じゃないことが感じられて、先程言われていた「剣豪カルファリア・パレスリー」という正体を実感した気がした。
集落『スファラ』のリーダー、ユーリス・ビディは、此処へ来た乙女を殺すことを何より恐れている。それを目の前から突きつけられたら、きっと冷静ではいられなかったはずだ。
此処にいたのが俺たちでよかった。バトル好きの狂人ウィリアンに世話焼きのガドロブ、そして俺。ナルシストのフュラオは意外と気にしがちだけど、今はそんな余裕もなさそうだ。
……一度だけ仲間を見る。既に戦っているフュラオとウィリアン、そして負傷している俺と、なんとか無傷のガドロブ。
絶対に勝てるわけがないけど、絶対に勝たせるわけには行かない攻防戦が、幕を開けた。




