違和感
「ごめん、次からは気をつける」
「次からって、俺にもう1回告らせる気〜?」
彼は笑いながら、そう言う。
「そういう意味では…」
「いいよ、じゃあもう1回言うわ」
彼の笑顔は、その言葉で消え
突如として真剣な顔になる。
少し照れくさそうに、目線を逸らす彼は
言葉を考えているのか、少しの沈黙がこちらもこそばゆい。
「あ〜、えっと…」
発した彼の声は少しいつもより小さくて
低くて、木の葉が語っているように聞き心地がいい。
「好きです。付き合いませんか?」
言われる事が分かっていても
緊張する言葉があるとは初めて知った。
でも、この言葉に相応しい返事を私は
持ち合わせていない。
「…」
返事に困る私は、何を言葉にすればいいのか
分からず、またもや沈黙を作ってしまう。
保健室の秒針のカチカチ音がやたらと耳につく。
「あれ?これもしかして、俺振られるやつ?」
彼が少しヘラヘラしながら切り出す。
「あ、ごめん、えっと何て答えたら良いか分からなくて」
「???」
私の返事に、分かりやすく混乱する彼。
「えっと、まず今までこういう経験がない。人と付き合ったりとか、ましてや好きとかもよく分かってない」
「え??はじめて?」
彼はそう言いながら、体をこちらに向ける。
「はい…」
彼の反応にビックリして、会話にラグが生じる。
さっきまでの静かな会話が嘘のように
いつもの彼に戻る。
その事に少し安心した私は、会話を続ける。
「今まで誰かと付き合ったことも、好きな人?が出来たことも無いから、まず好きって言うのが自分の中でピンと来ないというか…」
「まじか…てっきり経験豊富なのかと…」
「どんなイメージよ!」
「いや、変な意味じゃなくて〜。ほら!要人、男友達多いから、モテるのかな〜って」
「男友達と恋愛は関係ないでしょ」
「関係あるよ!」
「そうなの?」
この時、感じた違和感。
私はその違和感が何なのか、その時は気が付かずに
何かモヤモヤしたものを言葉に表せずに
そのままにした。
「とりあえず、恋愛とかから私は程遠い世界で生きてきたの。好意を貰うことはあったけど、今までは意味もわからず断ってたから。」
「今も好きがわかんないの〜?」
「多分分からない、友達とかに聞こうにも、何か変な空気になりそうでさ。ほら私キャラ的にも恋愛とかしなさそうでしょ?」
「そうかな?別に恋愛にキャラとか関係なくね〜?」
「そうなんだけど、何か違和感?みたいなのがあって
、言葉では上手く言えないんだけど、しっくり来ない?みたいな」
「何それ、よくわかんね〜」
キョトンとした顔でこちらを見つめる彼は
多分、普通の人間なのだろう。
普通に好きな人が出来て、付き合って、いつかは一生を共にしたい人が見つかって、その人と結婚して。
私は普通じゃない。
好きに違和感に持ったり、恋愛の理屈を考えたり
人のほとんどが本能的にできる理解を
私は出来ない。
「じゃあさ!」
彼は、私の前に座り直しこちらを向く。
「俺が教えてあげるよ」
「え?」
「だから、俺が好きがどういうものか教えてあげるってこと〜」
「それは…、申し訳ないんじゃ」
「だって、俺は要人の事が好きで、要人にも俺を好きになって欲しいし、要人は好きがどんな気持ちなのか知りたい。
じゃあ要人と俺が試しに付き合ってみれば、好きが何なのか分かるかもよ?」
名案でしょ?と言わんばかりの顔。
どうしてそこまで言いきれるのか、逆に尊敬する。
「でも、それってあんたしんどくないの?
私多分今現在ではあんたの事嫌いじゃないけど
恋愛の意味で好きではないと思うし」
「そんなん関係ないよ、俺は要人のこと好きだから
要人の役に立てるならいい、好きってそういう事〜」
「そういうもん?」
「そういうもん!」
「あんたがそう言うなら…」
「マジ??いいの?付き合ってくれる?」
「うん」
「は〜、良かった〜授業サボったかいあった〜」
緊張が解けたのか、大袈裟に声を荒らげる彼。
「まって、あんた正当なサボりってまさか…」
「ん?要人に返事聞くっていう正当な理由だけど〜
?」
「それは正当とは言わないのでは…」
「まぁまぁ、細かい事は置いといてこれからお願いします」
「こちらこそお願いします」
2人で深々とお辞儀をするのは、多分普通のカップル成立時には無い事だけは私にも分かる。
「とりあえず、付き合ったからにはまず
"あんた"呼びは禁止ね〜?」
「はい?」
「香澄って呼んでね〜!」
「わ、分かった」
「呼んでみて」
「か、かすみ?」
二ーッと笑った彼は、何処か満足げで楽しそうだ。
今まで、断ってきた人達はみんな
笑ってその場をたちさったけど
目の奥に暗い部分が残っていて、どうにも出来ない、やるせない気持ちが込み上げるあの空気ではなく
YESと答えるだけで、人はこんなにも
明るくなるのかと少し暖かくなった。




