度重なる魔物襲来の本当の理由
「ガルーダさん!アランも。無事でしたか?」
「あぁ、トキヤも……足以外は大丈夫そうだな。それよりもヘプト!お前またか!」
そう言って、ガルーダさんはヘプトさんに説教を始めた。ヘプトさんは正座で座り込み、下を向いてひたすら聞いている。
「なぁ、アラン。あれって一体なんなんだ?」
俺はアランに近づき尋ねる。ニーナちゃんもついてくる。
「副隊長殿は戦闘の時だけ、少し楽しんでしまう癖があるんだ。隊長殿は普段はダメなんだが、戦闘になると、何故か冷静沈着な性格になる。日常と戦闘、2人で1人、正反対の性格でうまくこの隊は回っている」
……どちらかが、お互いを補い合って成り立つ隊って事か。良いペアじゃないか。
「ところで、魔法で援護してくれたのってどっち?」
俺はアランに尋ねる。お礼を言っておこうと思ったからな。
「隊長殿だ。隊長は土属性を使う。トキヤが危なかったから、咄嗟に初級魔法で助けていたが……やはり、あれは初級魔法の威力では無いな」
「初級魔法⁉︎あの威力で⁉︎」
アランの説明に俺は驚いて声をあげる。あれはルナの《水球打》より若干威力は落ちるが、俺の《火球》よりは、明らかに強かった。ガルーダさん、魔法騎士団の隊長か。やっぱり魔力もすごいんだろうな。
「2人はどこに居たんだ?無事なようだけど」
俺は2人の所在について尋ねた。
「俺たちは周囲の警護だ。こういうのは《魔素解析》を持っている副隊長殿が適任だからな。まぁ、色々邪魔が入ってこのザマだが」
よく聞くと、2人も同様に、魔狼に引き連れられた狼どもと戦っていたらしい。三十匹ほどだったらしい。
魔狼は居なかったそうだが、数の多さで苦戦したらしい。狼は基本群れを作って生活をする。そのため、数の多さは足し算ではなく、掛け算となる。しかも、強さ×数ではなく、強さ×強さの累乗が正しい計算だろう。
よくよく見ると、あちこち隊服が破れている。血こそ出ていないが、大変だったことが分かる。てか、俺は狼三匹で足に傷を負い、アランはガルーダさんと2人で狼三十匹ほどでかすり傷だけってすごいな。
「てか、なんでアランは名前じゃなくて、階級で人のことを呼ぶんだ?」
俺はずっと気になっていた疑問を聞く。
「……階級は強さだ。もちろんそんな単純なことでは無いが、ある程度は分かる。自分よりも強い相手に敬意を示す方法としては良いだろう?俺もすぐに隊長、いや団長になってみせる」
つまりアランは実力主義か。だから、俺に対しても初めはあんな当たりが強かったのか。
でも、名前で呼び始めてからなんか態度が……こいつ、友達居なかったからそう言うのが嬉しかったんじゃ?
「なんだ?ニヤニヤして?」
アランは目を細めて、俺を見てくる。
「いや、とりあえずご飯だけど……狼って食えるのか?」
「まぁまぁ食える。それに口に入って、体に害のないものならなんでも……いや、どうせならトキヤの料理みたいに上手い方が良いか」
食えるのか。いや、中国とかなら犬とかも食うしな。遺伝子的には犬と狼に違いはほとんど無いし……殺した以上は美味しく頂くべきか?(既にウサギなどを食べているので、感覚が少し麻痺してきている)
と言っても、幾ら何でもどんな料理にするのかめちゃくちゃ迷うな。後、毛皮も採っておいたら、冬に使えるだろうし。向こうじゃ昔からそうだったらしいとテレビか何かで見た気がする。
「おっ、隊長殿の説教が終わったようだ」
アランはそう言って、2人の方へと歩いていく。俺が料理について悩んでいるうちに、先にそっちの方が終わってしまった。別に続いて欲しかったわけでは無いが。
「すいませんトキヤさん、危険に巻き込んでしまい」
ヘプトさんは頭を下げる。
「いえ、こちらこそ助けてくださってありがとうございます。ガルーダさんも最後魔法で助けてくださりありがとうございます」
「気にするな。元を正せば、俺たちが守っていれば良かったことだからな」
俺がお礼を言うと、ガルーダさんも自分の失敗を謝る。
「では、とりあえずお昼ですので、ご飯にしましょうか?」
「おう、そうしてくれると助かる。軽い運動にもなって、ついでに肉も調達できたしな」
あれを軽い運動って……。魔物は不味くて食えないらしいから、魔狼は魔石と素材だけ採って、肉と臓物を処理する。
魔石は魔物の心臓の代わりだ。心臓部分を刺せば、魔石が割れるため、魔物に対しては心臓部分を攻撃してはいけないらしい。
どこを切ればいいのかは、ヘプトさん達が場所を教えてくれた。だが、俺はスキル『料理人』のおかげでなんとなくは分かっていたが、確認も出来たのでありがたかった。
……さっき、魔狼との最後の時も同じ感覚だったような……。動物の急所に勝手に体が動いたような感じだったけど。……よく分からないな。
そんなことを考えながら、ご飯を作る。今は昼だが狼の肉をふんだんに使った。重たそうだが、なかなか美味しかった。
狼の肉は数が多すぎて食べきれなかった。ヘプトさんが、森に放置しておけば、他の動物達が食べたりするので大丈夫だと言っていたので、そうした。
その後、ヘプトさん達は少し調査をしたが、特に何も収穫がなかったようで、バロン王国に帰ることになった。
ハクちゃんは無事だった。狼が一匹近くに倒れていたが、もしかしてハクちゃんが……?
もちろんガルーダさん達のハクニーは、共に行動していたので無事だった。
そしてカンラン村を後にした。俺とニーナちゃんはハクちゃんに乗っていて無事だったが、他の3人は肉ばっかだったから、すこし気分が悪くなるかな?と思っていたが結構慣れていたらしい。アラン以外は。
そして、向かう途中で夜になったので、夜ご飯を食べて体を拭き寝た。そして次の朝、昼頃にバロン王国に着いた。
「それでは皆さん、ありがとうございました。またいずれ縁があれば」
「あ、ありがとうございました!」
俺が3人にお礼を言うと、ニーナちゃんも続けてお礼を言う。
「いえいえこちらこそ」
「トキヤ、時々でも来たら相手してやるぞ」
「……トキヤ、また会おう。……今度も料理を食わせてくれ」
ヘプトさんが俺に対しての返答をして、ガルーダさんが2日前にした約束のことを、アランは何故か料理のことについて言ってくれた。
「あ!トキヤさん。また是非、うちで料理を教えて下さいませんか?それでもし、保存が効いて美味しい物を作れるなら、是非教えて欲しいのです!」
ヘプトさんがアランの話を聞いてそう言って来た。こう言うのは遠征とか多そうだから、特にそう言うのが必要になるんだよな。
アラン達が最初に食べていたのは、薄くパンを固めたみたいなものだった。ナンみたいな感じの。かさばりにくいからだろうが、保存があまり効かない。だいたい3日ぐらいが限界らしい。
「出来ればですけど……また考えておきますよ」
「ええ!お願いします是非!」
そう答えておいた。作るとしたら乾パンとかか?
「それではまた!」
そう言って、俺とニーナちゃんはヘプトさん達と別れた。
***
「ところでヘプト。なんでだ?」
現在、ガルーダとヘプトの2人は、前にトキヤが呼び出された部屋に居た。アランは居ない。
「なんで?……とは?」
「決まっているだろ。トキヤとアランについた嘘だ」
「ッ!」
ガルーダはそう言った。その言葉にヘプトは驚いた顔をして、若干の声が漏れた。
「……気づいていたのですか。……何故、その場で指摘しなかったのです?」
「決まっているだろう?お前がそう選択したなら、俺はそれに従うだけだ。それにどこが嘘かは分からなかったし。ただし、理由を説明しろ」
ガルーダはそうヘプトに聞く。ガルーダにはあるスキルがある。今回も分かったのはそのおかげだ。
そのスキルの名は『野生の勘』。嘘をついた人を半分の確率で分かることが出来ると言うものだ。今回分かったのもそのおかげだ。
ちなみにガルーダがトキヤの発言を聞いていたが、スキルは発動しなかった。これで騙される心配も殆ど無い。だが今回、ヘプトには反応したため、それを現在問いただしている。
ヘプトは嘘をついた理由を語り始める。
「……カンラン村では確かに魔法は発動していました。そして、《魔素解析》でその原因も分かりました。その結果は、その場では失われた魔法と言いましたが、本当の原因は……トキヤさん自身です」
「なに!どう言うことだ!」
ヘプトの説明していく理由にガルーダも驚く。
「理由までは分かりませんが、何故かトキヤさんから魔物を、動物から魔物化したものを寄せ付けるように魔法が、いえ、そういう類の魔素の性質が確認しました。あの魔法は最近かかっています。日付で言えばだいたい……1週間も経っていませんね。しかも、本人は無自覚でです。この事を知った場合、トキヤさんはひどく自分を責めるでしょう。なぜなら、白殺虎が現れた原因が自分にあると言われたのだから」
実は昨日のトキヤの推測は的を射ていた。だがヘプトのトキヤに対する気遣いにより、トキヤの頭からこの事は外れてしまった。
ヘプトのこの話をガルーダは黙って聞いていた。そして一言。
「……そうか。この事は絶対に話さない機密事項だ」
「当然ですね。そのために、魔狼から命を助けると言う恩を売り、料理の依頼をして、縁を作っておいたのですから」
ヘプトがそう呟く。ちなみに料理は自分の私欲も混ざっているが。
***
この頃、裏でそんな事が行われていた事など露知らず、トキヤはハクちゃんを預けて、ニーナと共に宿へと向かっていた。
そして、宿にたどり着く。部屋の料金はきちんとチワたちが支払ってくれていたようだ。
コンコン!ガチャン!
「「ただいま(〜)」」
そう言い2人は部屋に入った。
面白かったら誤字脱字報告、ブクマ、ptお願いします。
あと、私のもう1つの連載作品の
『普通を求めて転生したら勇者の息子だった件』
も、是非読んで見てください。




