ニーナの両親と正体不明の怪物の襲撃
いつもよりも少し短いです。
その夜、俺は空き部屋を借り、眠ろうとしていたところだった、その時だ。
コンコン、扉を叩く音がした。
「冒険者様、少しお時間宜しいですかな?」
「空いてますのでどうぞ」
俺がそう言うと、ガストさんは入って来た。
「……冒険者様は気づいていると思いますが……ニーナは親がおりません」
……やっぱりそうか。親の誕生日会にも顔を出さないなんて、何か理由があると思ってはいたが……。て言うか、クエスト内容になんで親のこと書いたんだ?こう書いた方が優しい人が受けてくれると踏んだのか?
なら、嘘が付いていることがバレて向こうは微妙な顔をするんじゃ?8歳だからそんな事はグラシアの花が届いた事でニーナちゃの中じゃうやむやになっているのかもな。
「そう、ですか。それでそのことが……一体何を言いたいんですか?」
「少し話をしましょう」
ガストさんがそう言ってきた。
「分かりました。どうぞ」
「はい……ニーナの両親は冒険者でした。腕利きのBランク冒険者です。名を、ニルヴァ・ベルン、ナナ・ベルンと言いました。母親の方は魔法適性がほんの少しだけありましたが、戦闘で使えるレベルでは無かったと記憶しています。
そして今から5年前、ニーナがまだ3歳の時のことです。2人は獣魔皇の一角、白い悪魔の異名を持つ白殺虎と出くわしたらしいのです。その時、2人は喰われたと思われる血の量が辺りに広がっていて、ニルヴァの下半身だけが見つかりました。その事はあとでそこの調査をした騎士に聞きました」
「…………」
「……そしてわしも、もう長くはない。誰か村の者に任せようにも……と考えておった時じゃよ。冒険者様を見つけたのは。今はまだまだひよっこじゃが、魔猪を倒せる、将来有望な冒険者を。任せるならこの者じゃろうと」
「まてまてまてまて!その冒険者って俺の事だよな!
つまり……あの時、ニーナちゃんを嫁に出したいと、言った時から、ニーナちゃんの結婚相手を俺に決めたってことか?」
確かに大体の男の人は魔猪の時に亡くなってしまったが、まだヤンとかがいるんじゃないのか?出会ったばかりの俺よりもマシなんじゃ?
「……わしはニーナの幸せを願っておる。今のあの子の夢は……冒険者なのじゃ。両親がそうだったように、あの子もそのあとを追うように。じゃが、わしが死んだらあの子は1人になってしまう。その時はおそらく……次の村長候補の息子の嫁へと出されてしまうんじゃ。それじゃあ、あの子の夢は?幸せは?どうなるんじゃ?そうなるくらいじゃったら、冒険者様のお側にいさせた方があの子の、ニーナの幸せにつながるんじゃないだろうか?そう思ったのじゃ。わしの誕生日会での態度から、冒険者様に懐いていることは分かりましたからの。ですから冒険者様、お願いします。ニーナを……嫁に貰ってやって下さい」
そう言ってガストさんは俺に土下座みたいな頭の下げ方をした。
「……すいません。俺は……今はまだ……そう言ったことは……それにニーナちゃんの事も、ニーナちゃん自身の気持ちがあと7年経っ経った時に、俺に気持ちが向いてるなら……その時にまた考えます。ですから、ニーナちゃんを1人にしないためにも、ガストさんには必ずあと7年は生きていただかないとこちらとしても困ります」
「ふむ……分かりました。必ず後7年は生きましょう。ですからその時は……」
「それはその時になった時に、ニーナちゃん自身が決める事です」
「……そうです……ね。わしも……焦っていたんでしょうな。あの子を一人にしたくないがために、あの子の道を狭めてしまっている。今の夢は大人になった時には変わっているかもしれない。そんな、当たり前のことにも気づかず……今回は冒険者様には無駄な時間は過ごさせてしまい『無駄じゃないです。その気づき1つでこの時間は無駄じゃなかったと、確信を持って俺は言えます』……そう、ですか。ありがとうございました、冒険者様。明日は早いんでしょうから、ぐっすりとお眠り下さい。では」
そう言ってガストさんは俺の借りた部屋から出て行った。
「……お嫁か。……俺の目的は向こうに帰ることなんだよな。……でもその時、チワはどうするんだろう?
チワは俺の奴隷だ。俺が帰った後は……奴隷に逆戻りなんじゃ?なら、ルナにでも預けるべきか?チワは俺が向こうの世界に帰ることを知っている。でもルナは?それにハズクにも。……二人には帰る直前に伝えるべきか?……少なくとも今はまだ、だな」
そう言って俺は布団に入り寝る。
「とにかく明日は早いんだ。寝よう」
そう呟き、俺は眠りに落ちた。
それから何時間が経っただろうか?
バキバキズドーン!
突如発生したとてつもない音ともに俺は目を覚ました。その音の正体はこのガストさんの家とその隣の家が俺がいるところ以外のほとんどが潰れているからだ。壊れた隙間からあたりを見ると他にも潰れた民家やフラフラと家の中から出てくる人々がいる。俺は急いでベッドから降りて、二人の方へと急ぐ。
ガストさん!ニーナちゃん!ヤン!みんなは無事なのか⁉︎なんて考えが頭をよぎる。ガストさんもニーナちゃんも潰れた家の中にいるはずで、出てこないと言う事は既に……と言うことにもこの時の俺は気づいていない。
「な、なんだ?なんなんだよこれ!」
ザッ!ザッ!
何かが歩く足音がした。その方向を見て、俺は凍りついた。目の前にいたのは確実に5メートル以上はあるだろうと思われる高さをした、全身が白く、所々に黒い縦模様が入った大きい虎が目の前にいたからだった。元の世界の虎の大きさは基本的に3メートルも無い。だが、この虎はその倍はあるだろう。見た目はホワイトタイガーが近いだろうか?
その、出会ったら逃げなきゃ確実に死ぬレベルの虎が俺の目の前に現れたのだった。
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あと、私のもう1つの連載作品の
『普通を求めて転生したら勇者の息子だった件』
も、是非読んで見てください。




