獣魔皇の一角、白い悪魔、白殺虎
「……あ……ああ……と、虎?……なんで?……どう言うことなんだよ?なんでここに……こんな……化け物がいるんだよ?……夢か?夢なのか?だってありえねーだろ?こんな事……」
ガシャ!謎の、大きさが俺の何倍もある虎が右足を踏み出して、魔物特有の赤い目で俺の方を見る。
「……っ……」
ガシャ!ガシャ!謎の虎は俺の目の前まで僅か二歩で壊れた家を踏み、俺の目の前に、その大きい顔を近づける。
死ぬ!絶対に死ぬ!く、喰われる、殺される!
内心はひたすらどうすることも出来ず、ただ死を待つばかりだった。謎の虎がついに口をこちらに近づけてる。俺を喰らうつもりだろう。そしてよく見たら口の周りにも、まだ新しい血が付いている。家畜か人の、どちらのだろうか?どっちでも結果は変わらないが。
チワ、ルナ、ハズク、悪いな。やっぱりそっちには帰れそうに無いぞ。当然向こうの世界にもな。雪、父ちゃん、お爺ちゃん、お婆ちゃん……先に行くよ。みんなのこと、待ってるからな。出来れば天国は地球もこの世界も同じだったら、チワとかにも会えるのにな。
そう考えながら俺は最後の時間を過ごしていた。俺は虎から決して目を逸らさない。最後まで。よく分からないが、それが俺のせめてもの意地だ。最後までみっともない姿なんか見せられっか!
そしてついに口が目の前に来た。
カタカタ!俺は全身震えているので、その振動が崩れた木材などに伝わり音を出す。
そしてついにその時がーー
いつまで経ってもこない。虎は固まって俺の方を見ている。そしてーー
舌を出して俺の頬を……舐めたのだ。
え?は?……どう言う事だ⁉︎俺は驚きのあまり、声も出ずひたすらぼーっとし、立ち尽くしていた。
そしてその後、虎は俺とは反対方向へと首を回して向き、村の住民を……食い殺した。当然家畜もだ。
「ギャーーーー!!!」
「イダイーーーーーーー!!!」
「くっ、来るなーーーー!!!」
ヒヒーン!!!
「あ、ああ!やめろ!やめろよ!やめろよーーーーーーー!!」
俺はそう叫ぶ。ただ叫んで、他の人が喰い殺されるのを見ているだけだった。体は依然震えっぱなしで、足が動かない。ただ、虎が人を喰らうのを見ているなかで、楽しろうにではなく、どこか、悲しそうな感じがしたのは俺の気のせいなのだろうか?
そして虎は村の人たちを全員喰い殺した事で、満足したのか、喰らう対象が無いことに気づいたのか、ものすごいスピードで走り去って、消えていった。
シーーーン
静かだ。今日見た、生きていた人たち全員が、既に死んでいる。あたりは赤く染まり、血の匂いが立ちこめている。前に人を殺していなければ思いっきり吐いていた光景だ。今でも、強烈な吐き気はするが。
『ひ、火よ、辺りを照らせ。《灯火》』
今は夜のため、月光だけではよく見えないので、魔法を使って灯りを出した。
「……う、うぅ……」
どこからかうめき声がした。まだ誰かが生きているのか!そう考えて俺は咄嗟に
「誰かー!生きているなら返事をしろ!」
「……こ、こっちじゃ……」
それ今にも死にそうな声だった。その声は以外に近くから、ニーナの家の方から聞こえて来たのだ。
「どこだ!……いた!ガストさん!」
生きていたのはガストさんだった。潰れた家の下敷きとなり、いろんなところから血が出ている。おそらくそのおかげで虎には見逃されたのだらう。
「安心してください!今助けますから!……はぁ!」
俺はそう言ってガストさんの上に覆いかぶさる屋根を退けようとする。だが俺一人の力ではビクともしない。
「クソ!上ぁがれ!上ぁがれよーー!!」
「もう……宜しいです。それよりも……話が……あります。ここに……ニーナがいます」
なっ!よく見るとそこにはガストさんが咄嗟にかばったのか、ニーナちゃんが気を失って倒れていた。それでも所々に切り傷が残っている。
「ニーナちゃん!無事だったんですね!分かりました。まずはニーナちゃんから救出します」
ここで俺は選択ミスをした。本来の救助活動の場合はまずはじめに、ガストさんを助けるべきだったのだ。
実際の災害現場での話でこんな事があった。レスキュー隊が災害の起こった、とある場所に行くとそこには、壁を止めている大の大人と、その下に赤ちゃんがいる。この場合どちらを先に助けるべきか?答えは男の人の方だ。現在この男は『赤ちゃんを助ける』と言う目標があって、『火事場の馬鹿力』効果で壁を支えられている可能性がある。間違って赤ちゃんの方を救出した場合、男の人は力尽き、壁に潰されて死んでしまったという話だ。
そんな話など俺は知らず、まずは小さい子供から優先的に、なんて言う考えが働き、ニーナちゃんを先に助けたのだ。
「ガストさん!ニーナちゃんは無事です!今助けますから!」
「冒険者様……あとを…ニーナのことを……頼み……ます……」
「ガストさん!ガストさん!……ちっくしょー」
ガストさんが死んだ。孫の無事を確認して、力尽きた。俺はもう既に叫び続けて喉が痛い。そのため、最後の方はほとんど聞こえないぐらい小さかった。
その後、何分間かぼーっと頭が真っ白に、目の前が真っ暗になっていた。
その何分か後に
(帰らなきゃ……伝えなきゃ……国に、この事を……!)
ということを考えた。次にそのための手段を。
(帰るためには……ハクちゃん!……生きて……いるわけ無いよな……)
そう考えつつも、ハクちゃんを預けた小屋の方へと向かう。ニーナちゃんは俺が持つ。その途中でヤンの死体を見つけた。無残にも体が半分に千切れ、下半身が無いことから、おそらく食べられたであろう姿で。
俺はその姿に一番吐き気を覚えたが、無残にも殺させて、さらに知り合いにその姿を見られて、吐かれるなんて、死者を冒涜するのに等しい行為だと思い直し、グッと我慢をした。
そして馬小屋へと向かう。その途中で何人もの死体を見た。その度に、ニーナちゃんをできるだけ汚れていない地面に置いて、手を合わせる。
そのことで気づいた事がある。全員共通で……顔だけは必ずあるのだ。しかも、血で汚れたなどは除くが、今まで見た村人全員の顔が一人も食べられていない。
(せめてもの配慮?ただの虎がそんなことをするはずがない。そもそもあの虎はなんなんだ?白くて、でかくて、人を食べて、村を襲って、俺だけ喰わなくて……一体なんなんだよ。……白殺虎か⁉︎獣魔皇の一角、白い悪魔の異名を持つ、そう言えば、ギルドでも最近現れるって言っていたような?)
そうだと仮定しておこう。国に話せば分かるだろう。
それよりもハクちゃんだ。そして馬小屋につく。
「……居ない?……ハクちゃん?どこだ?」
そこにあったのは数頭の馬の死体だけだった。ハクちゃんの死体が見つからないことに、少し安堵しつつも早くに帰れない事が分かった。
(ハクちゃん……どこへ行った?逃げたのか?他の馬は残らず殺されているのに、ハクちゃんだけが?)
「あぁー!訳わかんねーよ!」
ブルルルル!!
突然の鳴き声に驚いて、体全体をびくっと震わせる。
だが、その鳴き声にはちゃんと聞き覚えがある。
「……ハクぢゃん……よかった……生きてて……」
俺そう言ってハクちゃんに向かって行き、抱きしめる。初めて俺の味方になってくれた人、じゃなく動物。ハクちゃんはしばらく俺が抱き、俺が落ち着くまで、大人しく待っていた。
その後は作業だ。具体的には村人の死体を一箇所に集めて、俺の魔法で火葬する。本当ならやり方も知らないし、葬儀の仕方が古代エジプトのミイラみたいな感じかも知れないし、そのまま土葬かも知れないので、素人が下手にしないほうがいいかも知れない。
だが、それを理由にこの状態を放置した場合は、他の動物が血の匂いに誘われて死体を……喰うかも知れない。そうなるくらいなら、自分で一箇所に集めて火葬したほうがいいだろう。
そう考えて村人みんなの死体を村の中心に集める。ヤンやガストさん、他の村人も全員だ。そして……火を点けた。
「……せめて安らかに……」
両手を合わせて、目を瞑り、俺はそう呟いた。骨は近くにあった、村の中心のひらけた場所に埋葬した。
「ん?……そうか、もう朝か」
朝日が昇っていた。そのことにも気づかないぐらい、俺は集中していたのだ。いや、必死で周りが見えていなかっただけかもしれない。
「ふぅ……さて、帰るぞ。この事をいち早く伝えるためにも」
そう言って俺はニーナちゃんを抱きかかえながら、ハクちゃんに乗る。そして全速力でカンラン村を後にして、バロン王国を目指したのだった。
面白かったら誤字脱字報告、ブクマ、ptお願いします。
あと、私のもう1つの連載作品の
『普通を求めて転生したら勇者の息子だった件』
も、是非読んで見てください。




