表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バグ・ハンティング  作者: えぬ氏
第8章:生存戦争(デイモン編)
PR
42/50

第42話:走れ!

 俺は反転し、腰を落として再び長柄斧槍ハルバードを両手に構えた。

 ルシアンは一本を残して大型両手剣ツヴァイヘンダーを消滅させた。

 ブリジットはぴょんぴょんとその場で飛び跳ねている。


 準備は整った。

 覚悟はできている。

 あとは始めるだけだ。


「いくぞ!」


 俺の合図でルシアンとブリジットも走り出した。

 狙いは三キロ先にある瞬間転移システム。

 敵は戦争反対派。

 俺たちはクローヴィスが援護する中、立ち塞がる奴等を切り捨てて進むつもりだった。


 第三唯生園まで一キロを切ったあたりで、集団の一人が俺たちに気づいた。

 誰かが「おい! 気をつけろ!」と言い、別の誰かが「迎撃するぞ」と息巻いた。


 ルシアンが俺の前に出た。


 大型両手剣ツヴァイヘンダーを右手で握り、剣身の平らな面を左手で支えた。

 鼻の先で構えた剣はある種の盾のようだった。

 俺は長柄斧槍ハルバードを斜めに保持し、ルシアンの背中を追った。

 ブリジットはすぐに視界から消えた。

 正確には、俺たちの膝より下の高さに身を潜めた。


 第三唯生園までの距離が百メートルを切ったところで、俺たちは更に加速し、戦争反対派の集団に突撃する。


 正面にいた奴等は例外なく盾を構えていた。

 身体を寄せ合い、隙間無くし、大きく強固な塊となった。

 しかし、ルシアンは意に介さない。

 減速せずに体当たりを実行する。


 重量や数の力のみで勝負すれば、ルシアンに勝ち目はなかっただろう。

 ただ、大型両手剣ツヴァイヘンダーは敵を次々に弾き飛ばした。

 前線にいる奴等は衝突の直前、ブリジットに足を削られ、踏み止まれなくなったからだ。

 こじ開けられた道を進みつつ、俺は左右の敵を切り伏せた。


 最初の衝突から十メートルほど食い込んだあたりで、ルシアンは大型両手剣ツヴァイヘンダーを振り回した。

 防御できなかった奴は上下に両断され、盾で防げた奴も後方へ吹き飛んだ。

 ブリジットは相変わらず地を這うような姿勢だ。

 盾の隙間や視界の外から、ブリジットは敵の足首を狙い続けた。

 俺は二人を援護し、反撃された場合はルシアンやブリジットの代わりに防御した。


 俺たちは順調に瞬間転移システムまでの距離を縮めていた。

 特にクローヴィスの存在が大きかった。

 乾いた破裂音が聞こえると、直後に誰かがバランスを崩す。

 弾丸は速く、数も多かった。

 飛び上がって上から攻撃を仕掛けてくる奴等は、もれなくクローヴィスに仕留められた。


『なあ。本当にまたワイズマンと戦うつもりか?』


 黒いなにかは視界の右隅で問いかけた。


『――やめとけよ。ヴァイオレットなんて諦めろ。どうせ助けられないんだから』

「もう出てくるな」

『そもそもおまえはヴァイオレットを救いたいわけじゃない。自分の良心の呵責を消したいだけだろ?』

「しつこいぞ!」


 俺は頭を振り、こびりつく幻覚を意識の外へ追いやった。

 黒いなにかは「偽善者め」と吐き捨て、すっと姿を消した。


「壁だ! 壁を作って射線を切れ! あの狙撃を封じるんだ!」


 瞬間転移システムの近くにいた誰かが叫んだ。

 その命令に前衛の一部が反応し、重なるようにして隙間のない壁を造った。

 場所は俺たちとクローヴィスのあいだだ。

 次の瞬間、クローヴィスの放った複数の銃弾が、ガンガンガンという音を立てて盾の表面で弾かれた。


「安心しろ! 狙撃はもう来ない! 全員で押し潰せ!」


 動揺していた集団が、意思を取り戻したようだった。

 後方に控えていた奴等も雪崩のように殺到する。

 俺たちは一歩も進めなくなった。

 間の悪いことに、最初の衝突で切り伏せた奴等の傷が回復しつつあった。


「どいてよ! 邪魔!」


 ブリジットが湾刀ククリを振るうが、敵は損傷を気にせず向かってくる。

 もはや個の暴力だけでは押し返せなくなっていた。

 俺の長柄斧槍ハルバードも、ルシアンの大型両手剣ツヴァイヘンダーも、狭い空間に殺到する群衆の中では思うように使えない。


 重い。

 アバターたちの質量が、俺たちの足を完全に止めた。

 二百以上対三という数の差は歴然としていた。

 誰かが前に立ち塞がり、誰かの手が俺の脚を掴み、盾が四方から押し当てられた。

 倒しても倒しても新しい敵が湧いて出てきた。

 まるでワイズマンの軍勢を相手にしているようだった。


「一人ずつで良い! 奴等を地面に縫い付けろ!」


 誰かの怒号が飛んだ。

 最初に狙われたのは俺だった。

 長柄斧槍ハルバードの柄の部分が敵の盾とぶつかり、勢いを殺された瞬間、左右から無数の手が伸びてきて、俺の身体を拘束した。


「くそっ!」


 もがく俺の上に、何人もの戦争反対派が折り重なった。

 次にブリジットが押さえ込まれ、最後にルシアンが盾の下敷きとなった。


「終わりだ。参戦者ども――縛り上げて、隔離施設へ連れて行け!」


 俺は首を捻って、上空を見上げた。

 高度約三キロの座標で召喚した計二百本の長柄斧槍ハルバード

 特攻を始める前に移動させ、高度五百メートルの位置で待機させていた。


「ルシアン! ブリジット! 自分の身は自分で守れよ!」


 渾身の力で叫んだ。

 奥の手を発動させる合図だった。

 俺は計三百本の長柄斧槍ハルバードを解き放ち、唯生園の前の畦道へ狙いをつけた。

 破壊力のある銀色の雨は、武具を砕き、身体を切断し、地面を抉った。

 悲鳴はほとんど聞こえなかった。

 出せるほどの余裕がないからだ。


 敵と味方の区別もない。

 俺の背中に乗っていた奴等が串刺しになり、俺自身の右腕もどこかへ消えた。

 肩や脇腹に傷を負った。

 ルシアンやブリジットも同じような状態だった。


 ただ、拘束は解けた。


「いまだ! 走れ!」


 俺は立ち上がり、瞬間転移システムを最短距離で目指した。

 ルシアンは近くに刺さった長柄斧槍ハルバードを杖代わりに立ち上がり、ブリジットは戦争反対派を蹴り飛ばしてから進んだ。

 事前に雨が降ることを知らない奴等は、まともに攻撃を喰らったようだ。

 串刺しになったアバターの残骸が、墓標のように林立している。


 もはや俺たちの前進を妨げる者はいない。

 ただ走った。

 遥か遠くで発砲音が聞こえた。

 たぶんクローヴィスの挨拶だろう。


 俺とルシアンとブリジットは、瞬間転移システムの中へ足を踏み入れた。

 また黒い水のようなものが全身を包み、ズブズブと下へ落ちていく。

 ルシアンとブリジットは戸惑っている様子だったが、泣き叫ぶようなことはなかった。

 俺の落ち着いた様子が安心感に繋がったのだろう。


 しばらく落下すると、俺たちの脚先は、黒い水の底に到達した。

ここまで通して読んでくださり、ありがとうございました。


予定では残り8話で完結です。


最後まで集中して書きますので、お付き合いいただければ幸いです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ