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バグ・ハンティング  作者: えぬ氏
第4章:大容量を得る方法(デイモン編)
24/50

第24話:デイモンの起源

 三百年ほど前に、セントラルで暮らす人々の容量の一部が消失した。

 例外はおらず、すべての人間が被害にあった。

 消えた容量の行方はわからない。

 ただ、様々な状況を踏まえると、ワイズマンが奪取したのではないかと考えられている。


 消失した量に一貫性はなかった。

 ある者は所持していた容量の一割程度を失い、ある者は所持していた容量が一割程度にまで減少した。

 多くは後者に該当し、容量と共に過去の記憶も失った。

 その瞬間のことをトールは『転換点』と呼び、人類がこれまでに経験した最大の不幸の一つだと主張した。

 加えてトールは、「転換点以前と転換点以後で人間の性質も大きく変化した」と言った。


 以前の人間は穏やかで、協調性が高かったらしい。

 以後の人間は好戦的で、容量に対して貪欲になった。

 容量を求める理由は人によって異なるが、理性や知性を失ったことが真の原因ではないかとトールは考えている。


 まったく覚えていないが、俺は最も容量を失ったうちの一人だったそうだ。

 ほとんどすべての容量をなくし、存在するだけの存在となった。

 当時は唯生園なんてなかったから、繊細で脆弱なままセントラルを彷徨った。

 俺の状態を不憫に思ったヴァイオレットは、俺になにが起こったのかもわからないまま、常に俺の側にいて、常に俺を守ってくれた。


 トールはセントラル内で十名にも満たない『容量をほとんど失わなかった者』のうちの一人だった。

 同じような仲間たちに声をかけられ、脆弱な人々の保護活動を始めたそうだ。

 全三十区に複数の唯生園を造ったのもトールたちで、彼等は存在するだけの存在を探し、見つけ次第唯生園に回収した。


 ヴァイオレットとトールは第八区で出会ったという。

 俺を両手で抱えていたヴァイオレットにトールが声をかけたらしい。

 トールは俺の状況や転換点について説明したあと、ヴァイオレットに第三唯生園を紹介した。

 すべての事情を理解したヴァイオレットは、トールに合意し、俺を唯生園に預けたそうだ。


 以後、ヴァイオレットはしばらく賭け試合に没頭する。

 当時はまだ戦闘の強さが容量に比例すると知られていなかったし、第八区は偶然にも強い戦士のいない区域だった。

 それぞれの要因が味方した結果、ヴァイオレットは賭け試合で勝利を続け、一気に容量を増やした。


 ヴァイオレットは獲得した容量を俺に分け与え、容量を増やした俺は徐々に自我のようなものを発現させた。

 ただ俺は、転換点で記憶の大部分を欠失していたため、どれだけ容量を増やしても元には戻らなかった。

 過去の記憶どころか、言葉さえ忘れていたそうだ。

 ヴァイオレットは俺の状態を憂い、しばらく悩んだ末、解決方法をトールに相談した。


 トールはヴァイオレットに「おまえの記憶の一部をデイモンに複写すれば良い」と助言した。

 続けて、「そうすることで、基本言語や常識や家族の有無程度は理解する」と説明した。

 ヴァイオレットはトールの考えを受け入れ、トールの提案通りに複写を進めた――そして俺は、最低限の自我を回復することに成功した。


 ヴァイオレットが記憶を厳選したため、俺は転換点以前の日々をほとんど覚えていない。

 記憶が完璧じゃないことから、いまの俺は本来の俺と別人格なのだろう。

 悪く言えば、ヴァイオレットは弟の代わりに弟らしきものを創造したのだ。

 しかし、だからと言って、俺はヴァイオレットを恨んではいない。

 仕方のないことだと思っている。

 俺が当時のヴァイオレットだったとしても、きっと同じことをしていたはずだ。


 トールの説明は、俺の中にある多くの疑問に回答していた。

 トールの知識が多い事情、ヴァイオレットがトールと知り合ったきっかけ、ヴァイオレットがトールを尊敬するまでの経緯、ヴァイオレットが唯生園の人々に優しい理由、異常と言えるほど少ない俺の記憶……


 なにより、俺が容量を求め続ける潜在的な原因がわかった。

 きっと俺は恐れているのだ。

 繊細で脆弱になることを。

 再び『存在するだけの存在』になることを。

 意識に深く染み込んだ恐怖が、俺を真反対の存在にしようと誘導している。

 最強になりたいという欲求も、ほとんど同じことだろう。


 自己分析を終えた俺は、今後の方針が明らかになった。

 なにを求め、なにをすべきか、はっきりと見えるようになった。

 容量に対する欲望も、容量を失うことに対する恐怖も、依然として払拭できないけれど、おそらくもう惑わされない。


 俺はようやく、自分が何者かわかったのだ。

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