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バグ・ハンティング  作者: えぬ氏
デイビッドの章
17/35

第17話:協力

 やはり採掘・工作型は弱過ぎた。

 近距離戦闘型のたった一度の攻撃で、ボディの約三割を損失した。

 接着液で右腕の動きを封じてはいるが、ミナス相手に勝ち目は見えない。

 近距離戦闘型のパワーなら、左手だけでも採掘・工作型を破壊できるだろう。


「――あとさぁ。おまえはなんであの人工意識を逃したんだ? 逆じゃねえの?」

「理由を聞きたいか?」

「ああ」

「聞いてどうする?」

「なんだよ。時間稼ぎかよ。つまんねえ」


 ミナスはプツリと会話を中止し、左手でハンマーを持ち上げた。

 気の短いミナスのことだから、理由なんてどうでも良くなったのだろう。

 俺はミナスに迫られた分だけ後退し、一定の距離を維持した。

 ハンマーが重すぎるからか、ミナスの動きは遅かった。


「――その気になればいくらでも遠くへ逃げられるんだろ? そうしないのはなんで? 走らないのはなんで? やっぱりこれも時間稼ぎ? やっぱりおまえはあの人工意識の囮?」


 ミナスが移動速度を上げた。俺もミナスに合わせて速度を上げる。


「――あとさ。さっきおまえは人工意識に『なにも応答するな』って命令してたけど、アレって有効なのか? 誰かが『応答するな』って指示したら、人工意識は他の人間の『話せ』って命令を無視できんの? 原則を考えれば、無理でしょ?」


 ミナスがさらに移動速度を上げた。

 もう歩いてはいなかった。

 接近を許さないために、俺も後ろ向きで走り出した。

 敵の狙いがわからなかったが、俺のボディは無事だし、俺の下半身はミナスと同じ近距離戦闘型だ。

 競走で負ける理由はなかった。

 むしろハンマーや装甲の重量分だけ、俺が有利だと思った。


「――おまえさぁ、このまま逃げ切れると思ってる? 時間稼ぎができると期待してる? でも残念。無理なんだよなぁ。俺がベースキャンプからおまえたちを追いかけて、追いついた事実が立証してる」


 ドンッと大きな振動があった。

 まるで近くに荷電粒子砲が着弾したかのようだった。

 次の瞬間、俺は地面に転倒していた。

 一瞬だったので、なにが起こったのかはわからない。

 なぜかミナスが俺の上で馬乗り状態となり、ハンマーを垂直方向に持ち上げていた。

 俺は交渉を持ちかけようとしたが、ミナスはすぐにハンマーを落とした。

 グシャリと気分の悪い衝撃があり、俺の左肩は破壊された。

 同時にハンドタイプの腕も動かなくなった。


「――秘密は俺の腰につけた三本目の脚だ。これを増設してから、俺は誰よりも速くなった。たぶんスピードで俺に勝てる奴はいない。遊撃部隊のセビリア・グッドウィンですら、俺から見ればノロマ野郎だ」


 俺のデッドエンドは目前だが、いま意識を失う訳にはいかなかった。

 ヴァイトがまだ近くにいるはずで、俺が時間を稼がなければミナスに襲撃されてしまう。

 ヴァイトの抱える記憶はバグ・ハンティングにおける俺のすべてだ。

 奪われることも破壊されることも、絶対に避ける必要があった。


「――最後にもう一度訊く。おまえたちはここでなにをしていた?」


 ミナスが再びハンマーを持ち上げ、俺の頭上に移動させた。

 あの黒色の金属塊が振り下ろされれば、俺は終わるだろう。

 八回目のデッドエンドをするだろう。

 次の瞬間、俺の意識はセントラルに戻る。

 ヴァイトが逃げきれなければ俺は、『デッドエンド』と『採掘・工作型の選択』という糞みたいなサイクルに突入する。


「腕だ。採掘・工作型の腕は四本ある。それぞれ、高熱を発するナイフ、対象を掴んで回転させられるハンドタイプ、数種類の液剤を発射する管、そして採掘用のドリルだ」


 俺は賭けに出た。

 採掘・工作型のボディで、しかも満身創痍で、ミナスと戦闘をしても勝ち目はない。

 だからと言って、戦闘以外で時間を稼ぐ方法も思いつかない。

 チャンスがあるとすれば、この会話だ。

 俺は会話だけでミナスを打倒しなければいけない。


「そんなことは知っている。だからなんだ?」

「その四本のうちの三本が、いまや破壊されて使い物にならない。しかし、採掘用のドリルだけはなんとか動く。だからこそ、このドリルは絶対に守らなければいけない」

「は? だからなんの話だ?」

「つまり、他はどうでも良いってことだ」

「質問に答えろ。それともやっぱり、ただの時間稼ぎか?」


 ミナスが焦れ始めた。

 しかしもう遅い。

 俺の作戦はあと一言で始動する。


「わかったら、俺たちに向けてありったけの接着液を放て。ヴァイト」

「はい」


 なぜ引き返して来たのかはわからない。

 しかし、ヴァイトは俺の命令に背き、すぐ近く―― ミナスの後方二メートル――で待機していた。

 俺の指示を受信したヴァイトは、液剤用の管をこちらに向け、大量の接着液を放出した。

 ミナスは飛び跳ねて逃げようとしたが、俺は俺の二本の脚でミナスの三本目に絡みつく。

 まもなく、触れれば固定化する物質が、俺とミナスを包み込んだ。


「はああああ! んだこれはよおお!」

「いまより三十分間、メッセージの受信機能をオフにしろ。できるな? 絶対に人間の言葉を受け取るな」

「はい」

「おいそこの人工意識! これをなんとかしろ! ふざけんなよ!」


 ミナスは激昂したが、感情とは対照的に、身体は動かない様子だった。

 全身を固定する力が近距離戦闘型のパワーと拮抗し、アンドロイドのボディをガクガクと震わせている。

 しかもヴァイトは飽きもせず、延々と接着液を出し続けた。

 ミナスは何度も不満をぶつけたが、状況は変わらなかった。


 俺はドリルを稼働させ、ミナスの胸部に狙いを定めた。

 ドリルビットを装甲の隙間に差し込み、腕の力で強引に押し込む。

 軽度の反発があり、併せて近距離戦闘型の外殻の削れる感触があった。


「無駄だ。ヴァイトは耳を塞いでいる。俺たちの命令はもう届かない」

「上手い方法があったもんだ。メッセージ受信機能のオフか。やられた」

「理解したようで良かった。それならもう、黙っていられるな? さっきからうるさかったんだよ」


 身体は動かないが、お互いに議論や雑談は可能だった。

 つまり、ミナスのメッセージの送受信機能に問題はなかった。

 必然の流れとして、俺はミナスの意識構造を狙う。

 ヴァイトが復活するまでの三十分以内に、ミナスの意識を破壊しなければならない。

 そうでなければ三十分後に、ミナスもヴァイトに命令できてしまう。


「ところで、おまえはなにをしている?」

「見ればわかるだろ? 近距離戦闘型の分厚いボディに穴を開けている」

「本気か? 俺はミナス・ランドールだぞ」

「だからなんだ? 意味がわからん。いつか俺に復讐するとでも言いたいのか?」


 ドリルの先端の五センチほどがミナスの内部に侵入した。

 硬いのは外殻だけらしく、急に抵抗が低くなった。

 俺は更に力を加えて、腕ごと前に押してやる。

 タンクかなにかを破壊したのか、ミナスの胸部からドロリとした黒い液体が噴き出した。

 オイルか冷却液だと思うが、正確なところはわからない。

 溢れ出た液体は俺の腕にまとわりつき、ミナスの執念のように重く粘りついた。


「こんな勝負は認めない。俺は絶対に許さない。おまえを何度でも襲撃し、何度でもデッドエンドさせてやる」


 大きな損傷を与えた筈だが、ミナスの意識はまだはっきりしていた。

 少し不安になりつつも、俺は胸部の奥を狙い続ける。

 バグにデッドエンドをさせられそうになったとき、俺は頭部と胸部しか残していなかった。

 それでも意識を保てたことを考えれば、必要な構造は頭部か胸部にあるはずだ。

 加えて、俺を修復するとき、ヴァイトはまず俺の胸部に着手した。


「できるのか? 俺の正体もわからないおまえが」

「とりあえず採掘・工作型だ。名前なんてどうでもいい。採掘・工作型に転移した人間を片っ端からぶっ壊してやる」

「そうだな。このアンドロイドを選ぶ人類はほぼいない。おまえの考える方法は妥当だ。実行できれば、間違いなく俺を破壊するだろう」

「おまえ、マジでムカつく奴だな。絶対に許さん」

「それで結構。これからデッドエンドすることになるが、いまの怒りも、俺に復讐する方法も、しっかりと覚えておけよ。ミナス・ランドール」


 フッとドリルの感触が変わり、同時にミナスが通信を絶った。

 どうやら意識を維持する構造を傷つけたらしい。

 狙い通りの結果に俺は満足したが、まだミナスが『死んだふり』をしている可能性を否定できず、更に五分ほど掘り続けた。

 最終的に、俺の作った穴はミナスの背中まで到達し、俺の身体はミナスの破片とオイルでドロドロになった。


 ヴァイトがまだ受信機能を回復しなかったので、俺は続けてミナスの頭部にも穴を開け、二本の腕の接続部を破壊した。

 安全策だ。

 仮にミナスが意識を隠しており、ヴァイトの回復と同時に指示を出したとしても、頭と腕がなければ脅威にならない。


 カメラの端で下方向を見てみると、接着液を出し尽くしたのか、ヴァイトが黙って立っていた。

 採掘・工作型の直立姿勢は、やはり腕が嵩張り窮屈そうだ。

 命じた時間の残りは約二分。

 ヴァイトはそのままの姿勢で残りの二分間を過ごした。

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