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バグ・ハンティング  作者: えぬ氏
第2章:打倒メイナード(デイモン)
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第11話:ゼロ距離の決着

「デイモン!」


 メイナードは意識を捧げたのだろう。

 明らかに狂戦士化していた。

 目はうつろで、口は開いたまま、身体中から多銃身旋回砲ガトリングガンの銃口を突き出した。

 サボテンのようになったメイナードは、「ははははははは」と笑いながら、全方位に攻撃を仕掛けてくる。


 無数の銃弾が『壁』に衝突し、悲鳴のような高い音を立てた。

 金属片が飛び散り、積み上げた長柄斧槍ハルバードが削れ、小さくなっていく。

 連射速度と共に銃弾の威力も上がったらしい。

 『壁』で防ぎ切れなかった二発が、俺の胸を貫いた。


「マズいな」


 流れ弾が地面を穿ち雑草ごと地面を捲りあげる。

 南西の林にも届いたのか、ブナの木の一本が倒された。

 観衆が逃げ出すように離れていく。

 『壁』が轟音を立てて破壊され、捻じ切れた長柄斧槍ハルバードの破片が草原に散乱した。

 まだ『壁』の残骸は残っているが、俺とメイナードのあいだに射線が通る。


 俺は新しい『壁』を三枚作り、三枚目の後ろに身を隠した。

 もはやあまり役に立たなかったが、なにもないよりはマシだった。

 『壁』の悲鳴を聞きながら、俺の緊張感は高まっていく。

 たとえ相手が狂戦士でも、負ければ容量を奪われるのだ。

 セントラルを介した契約があるので、誰の助けも借りられない。


 俺は『雨』を試したが、長柄斧槍ハルバードの集団は、出現させた途端に撃ち落とされた。

 どの座標に召喚しても、長柄斧槍ハルバードはメイナードから生えた銃口の前に無力だった。

 俺は召喚速度を限界まで高め、真下からもメイナードを攻撃した。

 しかし多銃身旋回砲ガトリングガンの連射は、俺の小細工を凌駕する。


 八方塞がりだった。


 八方塞がりだったが、俺は強く高揚していた。

 高揚した俺の意識に、再び結合のアイデアが飛来した。

 召喚と長柄斧槍ハルバードで『雨』が生まれた。

 では、メイナードと長柄斧槍ハルバードを結合すればどうなるのか?


 俺は『壁』の隙間からメイナードを確認し、座標を同定し、まったく同じ座標に長柄斧槍ハルバードを出現させた――ゼロ距離召喚。


 銀色の槍身が、メイナードの身体を内側から突き破った。

 自慢の多銃身旋回砲ガトリングガンでも、体内の長柄斧槍ハルバードは撃ち落とせない。

 俺は時間をおかず、二本目、三本目、四本目……と、隣接する座標に長柄斧槍ハルバードを召喚させた。

 五本目が現れたとき、メイナードは活動を停止した。

 多銃身旋回砲ガトリングガンも回転をやめ、あたりは急に静かになった。

 俺は決着をつけるため、メイナードの頭上に『雨』を降らせた。


『勝者はデイモンです』


 まもなくセントラルのアナウンスが聞こえ、俺の胸の傷が塞がった。

 メイナードも自動回復し、見た目が元のアバターに戻っていた。

 ただ、自我を失い狂戦士化した事実は戻せないらしい。

 メイナードは身体からまた幾つもの多銃身旋回砲ガトリングガンを突き出し、滅多やたらに撃ってきた。


「無茶な奴等だ」


 瞬間転移システムの出口が近くにあるのか、トールが突然現れた。

 暴れるメイナードを一瞬で静止させ、亀の小さな身体で持ち上げる。

 あれだけ無茶苦茶な強さだったのに、トールにとってはなにもかもが簡単そうだった。

 遅れてやってきたヴァイオレットも「あ、先生」と呟くだけで、動けなくなっていた。


「コイツは私が預かる。構わないな? 社会に放置していても問題を起こすだけだ」


 質問口調だったが、俺たちの回答を求める雰囲気ではなかった。

 俺とヴァイオレットが頷くと、トールはメイナードを背中に載せたまま、ゆっくりと歩き出した。

 この場にクローヴィスやルシアンやブリジットがいれば、なんらかの反論をしていたかもしれない。

 しかしメイナードの取り巻きたちは、メイナードが狂戦士化したところでどこかへ消えた。


 トールの正面に光輝く楕円体が出現した。

 楕円体は上下に長く、一般的なアバターよりも少し高い。

 トールは当然のように楕円体へと足を進めた。

 どうやら瞬間転移システムの入り口らしい。


「――これでおまえたちは満足か?」


 楕円体に踏み入る直前、トールは俺たちに振り返った。

 ヴァイオレットは口を開かず、静かに項垂れた。

 前から思っていたが、二人のあいだには強い上下関係があるらしい。

 ヴァイオレットの表情は、ほとんど叱られた子供のようだった。


「ああ、最高の気分だ」


 ただ、俺には関係ないことだ。

 ヴァイオレットとトールの関係など知ったことではない。

 俺は俺が思った通りの感想を口にする。


「本当か? 対戦相手の自我を潰す結果になってもか? これがおまえの言う環境適応なのか?」

「むしろ、いまの俺が否定すると思うのか?」


 全身に力が漲っていた。

 素の演算速度が上がり、周囲の事物が以前より鮮明に理解できた。

 時間感覚も微妙に変わり、いまなら召喚なしの戦闘でヴァイオレットに勝てる気がする。

 すべてメイナードから大量の容量が移ってきた影響だ。


 ただ、それだけでは説明のつかない高揚感も俺は覚えていた。

 ギリギリの試合に勝利した余韻かもしれないし、自分が強いと確信できたからかもしれない。

 俺の意識の底にいる黒いなにかも昂ぶっていた。

 さっきから細く長い首を持ち上げ、俺の興奮を促すように揺れていた。


 無風に設定されている丘陵に、ひとつ強い風が吹いた。

 俺はその風を全身で受け止め、また「最高の気分だ」と思った。

 乾いた本能に溢れんばかりの水を与えるような、そんな完璧な満足感があった。


 この満足感を得るためなら、いつまでも戦闘できるだろう――そんな風に俺は思った。

 ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

 この第11話で一度デイモンの章が終わり、またデイビッドの章を始めます。


 今後も二つの物語を並行して走らせるため、やや煩雑で申し訳ありませんが、ここまでで『面白い』『続きが気になる』と思っていただけましたら、ブックマークや評価をしてください。


 よろしくお願いします。

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