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婚約者が私にだけよそよそしい?  作者: 四折 柊


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9.突撃

 アダリーシアは混乱した。それでも頭の一部は冷静だった、いや冷静ではなかったのだろう。御者に城に向かうように告げたのだから。冷静なら屋敷に戻ったはずだ。先ほどの光景は動揺するほどショックだった――。


 エラードが気安くする相手がオズワルトなら納得できる。でもロゼットに対してもあれほど気安いなんて受け入れられない。ロゼットと過ごして半年、アダリーシアとは婚約して一年経っていた。それなのにこの差は何なのか。衝動的な怒り、これは嫉妬だ。

 

 王家がレッドモンド侯爵家にエラードの婿入りを打診したのは他に相応しい家がなかったから。お父様は権力欲がないので、王子が婿入りしても野心のある貴族をある程度納得させることができる。これは政略結婚。それでも幸せになりたい。せっかく初恋の人と縁を結ぶことができたのに、心を通わせられないなんて悲しすぎる。

 アダリーシアは城でエラードが戻るのを待ち、この気持ちをぶつけることにした。知ってしまった以上、知らなかった振りはできない。気持ちに勢いがあれば、どうしてアダリーシアにだけ心を開いてくれないのか問い詰められる。

 そうだ。ついでに旅先で購入したものを本当にロゼットに贈るのか確認しておかないと。


「アダリーシア様。どうされたのですか? 明日、エラード殿下がレッドモンド侯爵邸に訪問される予定でしたのに」


 アダリーシアは約束なしのままエラードの部屋に来た。そこで迎えてくれたヒルダが急な訪れに驚きながらもエラードの部屋に入れてくれた。


「約束もなしにごめんなさい。私、どうしても今日中にエラード様とお話をしたくて」

「アダリーシア様ならいつでもお部屋に通していいと申しつかっておりますからかまいません」


 ヒルダはアダリーシアの表情がこわばり、思いつめている様子を察知したようで、穏やかに頷いてくれた。すぐにお茶を出してくれた。


「どうぞ」

「ありがとう」


 ヒルダの淹れてくれたお茶を飲んだら落ち着きを取り戻した。少し気持ちに余裕が出てきたところで、ふと訊ねてみた。


「ヒルダさんはエラード様の乳姉弟だったのですよね?」

「はい。さようでございます」

「それなら普段エラード様とお話しするとき、砕けた感じになるのかしら?」


 我ながら馬鹿なことを聞いているとは思う。乳姉弟といえども立場が大きく隔たる。王族と使用人であれば弁えているはずだ。それでも自分だけなのか、それともオズワルトやロゼットだけが特別なのか知りたかった。

 ヒルダはアダリーシアの質問に困惑顔になる。


「基本的には使用人としての立場を超えたことはありません」

「基本的には?」

「はい。殿下から相談を受けたときは、多少親しくお話させていただいていますが、アダリーシア様が懸念される類のものではございません」

「ああ、違うのです。ヒルダさんとの関係を疑っているわけではないのです。ただエラード様は私の前だと口数が少なく感じて……。でも他の人の前では違うことに気付いてしまって……」


 ヒルダはきょとんとしたあと「ああ、これは裏目に出てる」と呟いた。


「そうだったのですね。アダリーシア様はそれが寂しかったのですね」

「はい。それを確かめるために来たのです」


 決意を込めて膝の上の手をぎゅっと握った。ヒルダはアダリーシアを勇気づけるようにニコリと微笑んだ。


「エラード殿下はアダリーシア様を悲しませるなんてダメ男ですね。それなら今日は徹底的に問い詰めましょう」

「はい! そうします」


 不安や寂しさを感じるのはエラードを想っている証拠。ここに来たのはエラードとの関係を確かなものにするため。

 ヒルダと話したことで力が湧いてきた。エラードが政略結婚の義務以上の気持ちを持つことに前向きになってほしい。

 一緒に幸せになりたい。そのためならロゼットと戦うこともやぶさかではない。

 ロゼットにはロゼットの魅力があるだろうけれど、アダリーシアにだって何かしらの魅力があるはずだ。エラードを悩殺してみせる! お父様をメロメロにしているお母様からアドバイスをもらおう。


(ああ、私、誰にも渡したくないほどエラード様のこと、好きなのだわ)


「やっと終わったな、勇者様」

「騎士殿もお疲れ様」

「もうロゼットと会うことはないな。寂しくなるんじゃないのか?」


 しばらくするとエラードとオズワルトの話し声が聞こえてきた。普段から二人はこんなふうに会話をしているらしい。オズワルトの揶揄う声にアダリーシアは体に力が入った。


(私だって砕けた会話がしたいのに!)


「馬鹿なことを言うな。明日は――」


 エラードが話しながら部屋の扉を開けた。アダリーシアは綺麗な姿勢でソファーから立ち上がりエラードを迎えた。


「お帰りなさいませ、エラード様」

「え? アダリーシア? どうしてここに? いや、それよりもお帰りなさいって夫婦っぽくていいな。ただいま!」

「おい、エラード、顔と口調!」


 エラードが嬉しそうに頬を上気させて返事をした。その姿にアダリーシアは驚いて茫然とする。いつものポーカーフェイスはそこにない。ちょっと可愛い。

 すぐにオズワルトがエラードを小突いて意味の分からない注意をする。うしろでヒルダが小さく溜息を吐いた。


「エラード殿下は旅が終わって気が緩んでおいでのようです。そろそろ格好つけるのもおしまいにしたほうがよろしいのかもしれませんわね。ふふ」


 ヒルダはアダリーシアだけに聞こえるように小さく呟くと、オズワルトの腕を掴んで有無を言わさず部屋を出て行った。格好つける? エラードはそのままで格好いいと思うけれど、どういう意味だろう。

 エラードはキリリと無表情になると、コホンと気を取り直したように口を開いた。


「アダリーシア。明日会う約束をしていたはずだが、何か急ぎの用か?」

「はい。私、エラード様にお聞きしたいことがあるのです」

「……それは?」


 エラードはやや警戒するように眉を寄せた。まさか、やましいことでもあるのか。アダリーシアは後には引けないと、大きく息を吸うと、一気に早口で問いかけた。


「どうしてオズワルト様やロゼットさんには気さくに話すのに、私には打ち解けてくださらないのですか?」

「…………はっ?」


 エラードは思ってもいなかった問いかけを投げかけられたようで、返事もできずにポカンと口を開けた。






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