10.真相
「いや、そのようなことはないと思うが」
「いいえ。いいえ! 私、見たのです。オズワルト様は側近で幼馴染ですから気心が知れているのは理解できます。でもロゼットさんに対しても同じくらい親しげに話していました」
エラードは本気でわからないという表情で首を傾げた。
「ロゼットと話しているのをいつ見たのだ?」
「今日、王都を周って休憩するために天幕に入っていくところを見ました」
「来ていたのか? それならどうして声をかけてくれなかったのだ。そうか、それでアダリーシアは街娘の格好をしているのだな。その服も可愛いな。アダリーシアは何を着ても似合う」
「あ、え、ありがとうございます……そうではなくて、私の服はいいのです。あのときロゼットさんとの会話が、まるで恋人同士のように見えました。私……」
誉められたことで頬を染めてお礼を言ってしまったが、話がそれたことに気付き修正した。
「ロゼットと恋人? あり得ない。私にはアダリーシアがいる。あんな女には興味ない」
彼の本心を知りたい。顔を上げてまっすぐにエラードの目を見た。あんな女呼ばわり? ……わざと貶しているわけではなく、声には僅かに嫌悪感が滲んでいる。
「ですが私と話すときは距離を感じます。私たちの婚約は政略だからですか? 私のことは義務以上に思えませんか?」
「政略? 誰がそう言ったのだ? この婚約は私が陛下に頼んでやっとのことで結んでもらったものなのに?」
エラードが怖い顔になって思いがけない言葉を口にした。
「待ってください。エラード様が望んだとは本当ですか?」
「ああ、本当だ。どうやら誤解があるようだ。とにかく座って話さないか?」
「はい」
エラードに促されソファーに座る。いつもは対面なのになぜか隣に並んでいる。
エラードがアダリーシアの顔をのぞき込みながら、真剣な表情でまっすぐに見つめてくる。お互いの息遣いがわかるほどの顔の近さに、アダリーシアの心臓はドキドキと早鐘を打つ。
「まずこの婚約は私にとって政略ではない。アダリーシアは憶えていないかもしれないが、数年前に夜会でアダリーシアが酔った男に立ち向かっていたことがあった。からまれていた令嬢を助けようとしていた、その強さと凛とした姿に惹かれた。ただ向こう見ずだとも思い心配になった。できれば私が守りたいと」
アダリーシアの胸の奥が熱くなった。アダリーシアがエラードに恋した瞬間、彼も自分に好意を抱いてくれたのだから。それならばと勇気を出して自分の気持ちを伝えた。
「覚えています。私、あのときエラード様に恋をしたのです」
エラードは目を見開いて驚いたが、すぐに破顔した。
「そうか。それは嬉しいな。本当はもっと早く婚約を申し込みたかったのだが、私には隣国から縁談が来ていてそれを断るのに苦労した。しかもレッドモンド侯爵もなかなかうんと言わないので苦労した」
エラードはアダリーシアの告白に顔を明るくして事情を説明してくれた。エラードが婚約するために尽力してくれていたことが嬉しくてたまらない。
「でもそこまでしてくださったのに、どうして他人行儀のままだったのですか?」
「それは……アダリーシアはおしゃべりな男は嫌いなのだろう? 婚約を打診する前に調査した」
「あ……」
確かにお父様のようなよくしゃべる人よりも、寡黙な人が理想だと友人には話していた。
「本当の私はどちらかといえばしゃべるほうだ。もちろん身内や友人限定だが。素のままだとアダリーシアに好かれないと思い自制していた。ああ、それとロゼットへの態度が気安く見えたのなら、それはどうでもいい相手だからだ。アダリーシアは特別なんだ」
(特別! どうしよう。嬉しい。しかも私の理想の男性になるように振る舞ってくれていた!)
「私、寂しかったです。これからはたくさんお話してくれますか?」
「ああ、アダリーシアが私を嫌わないでくれるのなら」
「嫌いになったりしません」
エラードの態度は全部アダリーシアのためだった。エラードに愛されていると知って天にも昇る心地だ。
「あ、あと一つお聞きしたいことがあるのですが」
「一つと言わず何個でも。アダリーシアに誤解されたくないからな」
「エラード様が旅先で買われた物を、別室に保管しているのをヒルダさんに教えてもらいました。あれはロゼットさんのためのものなのですか?」
心が狭いと思われても、むやみに女性に贈り物をしてほしくない。
エラードは首を横に振り否定する。
「ヒルダが教えてしまったのか? なんだ。せっかくアダリーシアの驚く顔が見られると思ったのに残念だ。明日、馬車に積んでレッドモンド侯爵邸に運ぶ予定だったのに。あれは全部アダリーシアのためのものだ。ただ私が旅先で選んでいるとロゼットも欲しいと言ってきたので、従者に命じて適当に購入しロゼットの家に送るように手配はした。代金は聖女としての予算から引いているからロゼットが自分で購入したことになるな。私は選んでいないし、アダリーシア以外に贈り物をしていないから誤解しないでほしい」
「そうだったのですね。安心しました。誤解してごめんなさい」
もう心配事はないと明るい気持ちでエラードを見たら彼もアダリーシアを見ていた。目が合うとエラードは嬉しそうに頷いた。
そしてアダリーシアの肩を抱いてその体を引き寄せると、おでこに優しい口づけを落とした。
アダリーシアは一瞬で顔がボッと赤くなる。嬉しいけど恥ずかしい。気持ちを伝え合った途端、積極的でびっくりしてしまう。でも止めてほしくないので、心の中で「お手柔らかに」と願った。




