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この町のネコ、やっぱりおかしい  作者: 大西さん
失われた投稿たち
21/41

発見されたスマートフォンの記録

機種:iPhone 14 Pro 所有者:篠田悠真 最終更新:2024年3月28日


ボイスメモ(文字起こし)


2024年3月28日 04:32


テスト、テスト。


[深い呼吸音]


篠田悠真です。まだ自分の名前は覚えてる。


今、祢古町にいます。正確には...祢古町だった場所に。


[風の音...いや、違う。風が吹いていないのに、何かが擦れる音]


ここに来るまでの記憶が曖昧だ。気がついたら、廃駅にいた。看板の文字は剥がれ落ちて、かろうじて「祢」の字だけが読める。


静かだ。風の音も、虫の声も、何も聞こえない。


でも...


[息を呑む音]


空気が、重い。湿度が高いわけじゃない。なのに、呼吸するたびに肺に何かが溜まっていく感じ。甘い匂いがする。腐った果実みたいな、でももっと...懐かしい匂い。


肌がピリピリする。静電気?いや、違う。何かに撫でられているような...


[足音。砂利を踏む音が異常にはっきり聞こえる]


あ、今気づいた。自分の足音が、二重に聞こえる。少し遅れて、誰かがついてきてるみたいに。


振り返っても誰もいない。でも、見られている感覚がある。


首の後ろが、ざわざわする。


カメラロール


写真#1871 - 2024年3月28日 05:15


[錆びた駅の看板。「祢」の文字以外は判読不能]


写真#1872 - 2024年3月28日 05:18


[駅のホーム。線路は草に覆われているが、その草が不自然に整列している]


写真#1873 - 2024年3月28日 05:20


[遠景。廃墟と化した町並み。建物の窓がすべて同じ方向を向いている]


写真#1874 - 2024年3月28日 05:21


[猫。動かない。置物のよう]


写真#1875 - 2024年3月28日 05:21


[同じ場所から撮影。猫の数が3匹に増えている]


写真#1876 - 2024年3月28日 05:21


[同じ場所。猫が7匹。すべてカメラ目線]


メモアプリ


2024年3月28日 06:00


見綴通りを歩いている。


商店街の看板がまだ残ってる。でも店の名前が...変だ。


「猫田薬局」 「三毛屋食堂」「虎斑書店」 「白猫美容院」


すべて猫の名前。でも、看板は古い。昭和の時代から、ずっとこの名前だったような風化具合。


あ、郵便局を見つけた。中に入ってみる。


2024年3月28日 06:45


郵便局の中は...異常だ。


カウンターに手紙が山積みになってる。全部開封されてない。


宛名を見たら、すべて同じ。


「名前のない人へ」


差出人の欄は空白。


一通開けてみた。


『お帰りなさい。 長い旅でしたね。 もう迷うことはありません。 あなたの部屋で待っています。』


部屋?


写真(連続撮影)


#1901〜#1956 - 2024年3月28日 07:00-07:30


[郵便局内部。薄暗い] [カウンターの手紙の山] [手紙のアップ。筆跡がすべて同じ] [局内の壁。無数の猫の写真が貼られている] [写真のアップ。人間の顔に見える猫] [別の写真。猫の体に人間の手] [鏡。自分を撮影...瞳孔が縦長になっている]


ボイスメモ


2024年3月28日 08:15


音無神社に着いた。


[重い木材が軋む音]


鳥居が...おかしい。上下が逆さまだ。


いや、違う。俺の認識がおかしくなってるのか?


[石段を登る音。一歩ごとに響く]


石段が、湿ってる。雨は降ってないのに。触ると、ぬるっとした。生暖かい。


手を見ると...何もついてない。でも、指先にまだ感触が残ってる。ねばつくような、生き物の体液みたいな...


[嗚咽を堪える音]


境内に入ると、猫がいた。数十匹。でも動かない。石像みたいに固まってる。


近づいてみる。


[慎重な足音]


目が...全部こっちを見てる。瞬きもしない。


そして気づいた。呼吸してない。胸が動いてない。でも、なぜか生きてる気配がする。


いや、もっと強い。普通の生き物より、ずっと「在る」感じが...


[息が荒くなる]


一匹に手を伸ばしてみる。


[沈黙]


冷たい。でも、皮膚の下で何かが脈打ってる。ドクン、ドクンって。


俺の心臓と、同じリズムで。


本殿の扉が開いてる。


中から...光?いや、これは...


[長い沈黙。かすかに、濡れた足音]


匂いが強くなった。甘くて、鉄っぽくて、獣臭い。


舌の上に味が広がる。血?いや、もっと古い何か。


地下への階段がある。


[木の軋む音]


手すりが、べたつく。温度がある。人肌...いや、もっと熱い。


階段を降りていく。一段、また一段。


[足音が響く。次第に、別の足音が混じる]


深い。想像以上に深い。


耳が詰まる。水中にいるみたい。でも息はできる。むしろ、息をするたびに、何かが肺の中に入ってくる。


意識が、ぼんやりしてきた。でも、感覚は鋭くなってる。


壁に手をついた。


[驚きの息]


脈打ってる。壁全体が、巨大な心臓みたいに。


そして、壁の感触が...毛?いや、もっと細い。人間の産毛みたいな。


[嗚咽]


吐きそう。でも、同時に、懐かしい。


子供の頃、母親に抱かれた時の感触に似てる。


なぜ?


テキストメッセージ(下書き)


2024年3月28日 09:00


宛先:不明


地下は想像以上に広い。


人工的な通路じゃない。まるで、生き物の体内みたい。壁が脈打ってる。


部屋を見つけた。


たくさんの、部屋。


ドアに名前が書いてある。


「田中」「佐藤」「鈴木」...


そして。


「篠田」


俺の、部屋?


写真


#2001 - 2024年3月28日 09:30


[地下通路。有機的な曲線を描く壁面]


#2002


[無数のドア。病院の個室のよう]


#2003


[「篠田」と書かれたドアのアップ]


#2004


[部屋の内部。壁一面に写真]


#2005


[写真のアップ。すべて猫...いや、人間?]


音声認識メモ(自動文字起こし)


2024年3月28日 10:00


[激しい呼吸音]


部屋の中...俺の部屋...


[紙の擦れる音]


壁一面の写真...全部...俺?


いや、違う...猫だ...でも顔が...


[吐き気を堪える音]


匂いが...獣の匂いと、人間の匂いが混じって...でも、不快じゃない。


むしろ、落ち着く。


なぜ?


[ページをめくる音]


日記がある...俺の字だ...


『やっと思い出した。俺は最初から...』


[息を呑む]


ダメだ、読めない。文字が踊ってる。


いや、違う。文字じゃない。これは...爪痕?


でも、読める。意味が、直接頭に入ってくる。


[パニックの呼吸]


鏡がある。見たくない。でも...


[足音。ゆっくりと近づく]


鏡の前に立つ。


目を閉じてる。開けたら、何が見える?


心臓が、さっきの壁と同じリズムで脈打ってる。


息を吸う。あの甘い匂いが、もう自分から出てる。


目を、開ける。


[絶叫]


違う!これは俺じゃない!


でも...


[呼吸が落ち着いていく]


触ってみる。頬に手を当てる。


温かい。柔らかい。毛が...いや、これは髭?もっと細くて、全体を覆ってる。


目が...縦長だけど、よく見える。むしろ、今までより鮮明に。


舌を出してみる。


[ぺろりという音]


ざらざらしてる。でも、これが正しい気がする。


俺は人間だ!篠田悠真だ!


[声が徐々に変化]


名前が...名前を忘れちゃダメだ...


しのだ...ゆう...ま...


し...の...


[深い呼吸]


あれ?


怖くない。


むしろ、楽になってきた。


名前って、重かったんだな。


人間って、窮屈だったんだな。


[穏やかな声]


ああ、そうか。


思い出した。


俺は、最初から...


にゃあ。


カメラロール(最後の写真)


#2012 - 2024年3月28日 10:43


[鏡に映る姿。人間の体。しかし顔は...]


#2013 - 2024年3月28日 10:45


[部屋の壁に新しく書かれた文字:「おかえり」]


#2014 - 2024年3月28日 10:47


[自撮り。表情が穏やか。目は完全に猫]


Twitter/X(最後の投稿)


@yuma_explores 2024年3月28日 11:00


この町のネコ、やっぱりおかしい。


でも、もう怖くない。


だって、思い出したから。


僕も、ネコだったって。


みんなも、きっと思い出す。


本当の姿を。


本当の名前を。


にゃあ。


[位置情報:祢古町] [画像:屋根の上に立つ人影。逆光でシルエットのみ]


【祢古町資料館 - 後日発見された記録】


発見日:2024年4月15日 発見者:解体業者


手書きノート(篠田悠真のものと推定)


みんな、ごめん。


でも、もう戻れない。いや、戻る必要がない。


ここは楽園だ。名前も、個人も、苦しみも、全部いらない場所。


ただ「在る」だけでいい。


猫として生きるんじゃない。 人間として生きるんでもない。


その「間」で生きる。


境界のない、自由な意識として。


こっちは、あったかいよ。


壁に書かれた文字(複数の筆跡)


「ただいま」 「やっと帰れた」 「もう一人じゃない」 「みんな一緒」 「永遠に」 「にゃあ」


古い写真アルバム(昭和32年のもの)


[集合写真:音無神社の前] [写っているのは町の人々。しかし、よく見ると...] [全員の影が、猫の形をしている]


写真の裏に走り書き:


「最初の帰還者たち。 彼らは選ばれた。 次は1000年後。 準備は整った。」


【研究者の手記】


2024年5月20日


篠田悠真氏の部屋から回収された資料を分析した。


恐ろしい仮説に行き着いた。


もし、人類の一部が、元々「別の何か」だったとしたら?


猫として地上に現れ、人間に進化し、そして今、元の状態に戻ろうとしている。


祢古町は、帰還のための港。 次元を超えるための、中継地点。


そして、「呼ばれる」のは、元々向こう側の存在だった者たち。


彼らにとって、人間でいることの方が、仮の姿だったのかもしれない。


【最後の記録】


2024年3月29日 - 監視カメラ映像より


祢古町跡地の定点カメラが捉えた映像。


深夜3時33分。


廃墟の屋根の上に、多数の人影。 いや、人とも猫ともつかない、何か。


全員が同じ方向を向いている。 月に向かって。


そして、一斉に姿を消した。


残されたのは、無数の足跡。 人間のものと、猫のものが、混在している。


そして、地面に書かれた文字。


「また会おう」


【エピローグ音声】


発信源不明 - 2024年4月1日 00:00


[ラジオのノイズ]


こちらは...特別放送です。


祢古町への立ち入りは...禁止されています。


繰り返します。


祢古町は存在しません。


都市伝説です。


猫は普通の動物です。


あなたは人間です。


名前を大切にしてください。


個人として生きてください。


決して、呼び声に耳を傾けないでください。


にゃ...いえ、なんでもありません。


放送を終了します。


良い、夢を。


[放送終了]

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