発見されたスマートフォンの記録
機種:iPhone 14 Pro 所有者:篠田悠真 最終更新:2024年3月28日
ボイスメモ(文字起こし)
2024年3月28日 04:32
テスト、テスト。
[深い呼吸音]
篠田悠真です。まだ自分の名前は覚えてる。
今、祢古町にいます。正確には...祢古町だった場所に。
[風の音...いや、違う。風が吹いていないのに、何かが擦れる音]
ここに来るまでの記憶が曖昧だ。気がついたら、廃駅にいた。看板の文字は剥がれ落ちて、かろうじて「祢」の字だけが読める。
静かだ。風の音も、虫の声も、何も聞こえない。
でも...
[息を呑む音]
空気が、重い。湿度が高いわけじゃない。なのに、呼吸するたびに肺に何かが溜まっていく感じ。甘い匂いがする。腐った果実みたいな、でももっと...懐かしい匂い。
肌がピリピリする。静電気?いや、違う。何かに撫でられているような...
[足音。砂利を踏む音が異常にはっきり聞こえる]
あ、今気づいた。自分の足音が、二重に聞こえる。少し遅れて、誰かがついてきてるみたいに。
振り返っても誰もいない。でも、見られている感覚がある。
首の後ろが、ざわざわする。
カメラロール
写真#1871 - 2024年3月28日 05:15
[錆びた駅の看板。「祢」の文字以外は判読不能]
写真#1872 - 2024年3月28日 05:18
[駅のホーム。線路は草に覆われているが、その草が不自然に整列している]
写真#1873 - 2024年3月28日 05:20
[遠景。廃墟と化した町並み。建物の窓がすべて同じ方向を向いている]
写真#1874 - 2024年3月28日 05:21
[猫。動かない。置物のよう]
写真#1875 - 2024年3月28日 05:21
[同じ場所から撮影。猫の数が3匹に増えている]
写真#1876 - 2024年3月28日 05:21
[同じ場所。猫が7匹。すべてカメラ目線]
メモアプリ
2024年3月28日 06:00
見綴通りを歩いている。
商店街の看板がまだ残ってる。でも店の名前が...変だ。
「猫田薬局」 「三毛屋食堂」「虎斑書店」 「白猫美容院」
すべて猫の名前。でも、看板は古い。昭和の時代から、ずっとこの名前だったような風化具合。
あ、郵便局を見つけた。中に入ってみる。
2024年3月28日 06:45
郵便局の中は...異常だ。
カウンターに手紙が山積みになってる。全部開封されてない。
宛名を見たら、すべて同じ。
「名前のない人へ」
差出人の欄は空白。
一通開けてみた。
『お帰りなさい。 長い旅でしたね。 もう迷うことはありません。 あなたの部屋で待っています。』
部屋?
写真(連続撮影)
#1901〜#1956 - 2024年3月28日 07:00-07:30
[郵便局内部。薄暗い] [カウンターの手紙の山] [手紙のアップ。筆跡がすべて同じ] [局内の壁。無数の猫の写真が貼られている] [写真のアップ。人間の顔に見える猫] [別の写真。猫の体に人間の手] [鏡。自分を撮影...瞳孔が縦長になっている]
ボイスメモ
2024年3月28日 08:15
音無神社に着いた。
[重い木材が軋む音]
鳥居が...おかしい。上下が逆さまだ。
いや、違う。俺の認識がおかしくなってるのか?
[石段を登る音。一歩ごとに響く]
石段が、湿ってる。雨は降ってないのに。触ると、ぬるっとした。生暖かい。
手を見ると...何もついてない。でも、指先にまだ感触が残ってる。ねばつくような、生き物の体液みたいな...
[嗚咽を堪える音]
境内に入ると、猫がいた。数十匹。でも動かない。石像みたいに固まってる。
近づいてみる。
[慎重な足音]
目が...全部こっちを見てる。瞬きもしない。
そして気づいた。呼吸してない。胸が動いてない。でも、なぜか生きてる気配がする。
いや、もっと強い。普通の生き物より、ずっと「在る」感じが...
[息が荒くなる]
一匹に手を伸ばしてみる。
[沈黙]
冷たい。でも、皮膚の下で何かが脈打ってる。ドクン、ドクンって。
俺の心臓と、同じリズムで。
本殿の扉が開いてる。
中から...光?いや、これは...
[長い沈黙。かすかに、濡れた足音]
匂いが強くなった。甘くて、鉄っぽくて、獣臭い。
舌の上に味が広がる。血?いや、もっと古い何か。
地下への階段がある。
[木の軋む音]
手すりが、べたつく。温度がある。人肌...いや、もっと熱い。
階段を降りていく。一段、また一段。
[足音が響く。次第に、別の足音が混じる]
深い。想像以上に深い。
耳が詰まる。水中にいるみたい。でも息はできる。むしろ、息をするたびに、何かが肺の中に入ってくる。
意識が、ぼんやりしてきた。でも、感覚は鋭くなってる。
壁に手をついた。
[驚きの息]
脈打ってる。壁全体が、巨大な心臓みたいに。
そして、壁の感触が...毛?いや、もっと細い。人間の産毛みたいな。
[嗚咽]
吐きそう。でも、同時に、懐かしい。
子供の頃、母親に抱かれた時の感触に似てる。
なぜ?
テキストメッセージ(下書き)
2024年3月28日 09:00
宛先:不明
地下は想像以上に広い。
人工的な通路じゃない。まるで、生き物の体内みたい。壁が脈打ってる。
部屋を見つけた。
たくさんの、部屋。
ドアに名前が書いてある。
「田中」「佐藤」「鈴木」...
そして。
「篠田」
俺の、部屋?
写真
#2001 - 2024年3月28日 09:30
[地下通路。有機的な曲線を描く壁面]
#2002
[無数のドア。病院の個室のよう]
#2003
[「篠田」と書かれたドアのアップ]
#2004
[部屋の内部。壁一面に写真]
#2005
[写真のアップ。すべて猫...いや、人間?]
音声認識メモ(自動文字起こし)
2024年3月28日 10:00
[激しい呼吸音]
部屋の中...俺の部屋...
[紙の擦れる音]
壁一面の写真...全部...俺?
いや、違う...猫だ...でも顔が...
[吐き気を堪える音]
匂いが...獣の匂いと、人間の匂いが混じって...でも、不快じゃない。
むしろ、落ち着く。
なぜ?
[ページをめくる音]
日記がある...俺の字だ...
『やっと思い出した。俺は最初から...』
[息を呑む]
ダメだ、読めない。文字が踊ってる。
いや、違う。文字じゃない。これは...爪痕?
でも、読める。意味が、直接頭に入ってくる。
[パニックの呼吸]
鏡がある。見たくない。でも...
[足音。ゆっくりと近づく]
鏡の前に立つ。
目を閉じてる。開けたら、何が見える?
心臓が、さっきの壁と同じリズムで脈打ってる。
息を吸う。あの甘い匂いが、もう自分から出てる。
目を、開ける。
[絶叫]
違う!これは俺じゃない!
でも...
[呼吸が落ち着いていく]
触ってみる。頬に手を当てる。
温かい。柔らかい。毛が...いや、これは髭?もっと細くて、全体を覆ってる。
目が...縦長だけど、よく見える。むしろ、今までより鮮明に。
舌を出してみる。
[ぺろりという音]
ざらざらしてる。でも、これが正しい気がする。
俺は人間だ!篠田悠真だ!
[声が徐々に変化]
名前が...名前を忘れちゃダメだ...
しのだ...ゆう...ま...
し...の...
[深い呼吸]
あれ?
怖くない。
むしろ、楽になってきた。
名前って、重かったんだな。
人間って、窮屈だったんだな。
[穏やかな声]
ああ、そうか。
思い出した。
俺は、最初から...
にゃあ。
カメラロール(最後の写真)
#2012 - 2024年3月28日 10:43
[鏡に映る姿。人間の体。しかし顔は...]
#2013 - 2024年3月28日 10:45
[部屋の壁に新しく書かれた文字:「おかえり」]
#2014 - 2024年3月28日 10:47
[自撮り。表情が穏やか。目は完全に猫]
Twitter/X(最後の投稿)
@yuma_explores 2024年3月28日 11:00
この町のネコ、やっぱりおかしい。
でも、もう怖くない。
だって、思い出したから。
僕も、ネコだったって。
みんなも、きっと思い出す。
本当の姿を。
本当の名前を。
にゃあ。
[位置情報:祢古町] [画像:屋根の上に立つ人影。逆光でシルエットのみ]
【祢古町資料館 - 後日発見された記録】
発見日:2024年4月15日 発見者:解体業者
手書きノート(篠田悠真のものと推定)
みんな、ごめん。
でも、もう戻れない。いや、戻る必要がない。
ここは楽園だ。名前も、個人も、苦しみも、全部いらない場所。
ただ「在る」だけでいい。
猫として生きるんじゃない。 人間として生きるんでもない。
その「間」で生きる。
境界のない、自由な意識として。
こっちは、あったかいよ。
壁に書かれた文字(複数の筆跡)
「ただいま」 「やっと帰れた」 「もう一人じゃない」 「みんな一緒」 「永遠に」 「にゃあ」
古い写真アルバム(昭和32年のもの)
[集合写真:音無神社の前] [写っているのは町の人々。しかし、よく見ると...] [全員の影が、猫の形をしている]
写真の裏に走り書き:
「最初の帰還者たち。 彼らは選ばれた。 次は1000年後。 準備は整った。」
【研究者の手記】
2024年5月20日
篠田悠真氏の部屋から回収された資料を分析した。
恐ろしい仮説に行き着いた。
もし、人類の一部が、元々「別の何か」だったとしたら?
猫として地上に現れ、人間に進化し、そして今、元の状態に戻ろうとしている。
祢古町は、帰還のための港。 次元を超えるための、中継地点。
そして、「呼ばれる」のは、元々向こう側の存在だった者たち。
彼らにとって、人間でいることの方が、仮の姿だったのかもしれない。
【最後の記録】
2024年3月29日 - 監視カメラ映像より
祢古町跡地の定点カメラが捉えた映像。
深夜3時33分。
廃墟の屋根の上に、多数の人影。 いや、人とも猫ともつかない、何か。
全員が同じ方向を向いている。 月に向かって。
そして、一斉に姿を消した。
残されたのは、無数の足跡。 人間のものと、猫のものが、混在している。
そして、地面に書かれた文字。
「また会おう」
【エピローグ音声】
発信源不明 - 2024年4月1日 00:00
[ラジオのノイズ]
こちらは...特別放送です。
祢古町への立ち入りは...禁止されています。
繰り返します。
祢古町は存在しません。
都市伝説です。
猫は普通の動物です。
あなたは人間です。
名前を大切にしてください。
個人として生きてください。
決して、呼び声に耳を傾けないでください。
にゃ...いえ、なんでもありません。
放送を終了します。
良い、夢を。
[放送終了]




