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この町のネコ、やっぱりおかしい  作者: 大西さん
失われた投稿たち
22/41

オンライン遺族会

2024年4月15日 20:00 Zoomミーティング・参加者12名→8名→5名→?


参加者リスト(開始時)


司会:高橋(妻が3月20日より不明)


参加者:佐々木(息子が不明)


参加者:田村(夫が不明)


参加者:中野(娘が不明)


参加者:木下(両親が不明)


他7名


高橋: 皆さん、今日も集まっていただき、ありがとうございます。前回から2週間経ちましたが、何か進展は...


佐々木: 息子の部屋を整理していたら、日記が出てきました。読んでもいいですか?


高橋: もちろんです。


佐々木: 3月18日の日付です。 『猫の声が聞こえる。でも、猫じゃない。もっと懐かしい何か。お母さんには聞こえないみたい。なぜ僕だけ』


田村: うちの夫も似たようなことを...最後の方は「聞こえる」じゃなくて「呼ばれてる」って。


中野: 娘もです。でも、怖がってなかったんです。むしろ嬉しそうで。「やっと会える」って。誰に会えるんでしょう。


木下: あの...変な質問かもしれませんが、皆さんの家族に共通点ってありますか?


高橋: 共通点、ですか?


木下: 実は調べてみたんです。うちの両親、養子だったんです。二人とも。そして養子に入る前の記録が...ない。


[一瞬の沈黙]


田村: まさか...でも、うちの夫も。母方の祖母の出自が不明で。


佐々木: 息子は...私の父が戦災孤児でした。出身地不明。


中野: 娘の場合は...私自身が。生まれた病院の記録が、なぜか残ってないんです。


【チャット欄の異変】


20:32


システム通知:山田が参加しました


高橋: 山田さん?参加予定にお名前が...


山田: 遅れてすみません。私も、家族を探しています。


佐々木: どなたか存じ上げませんが、これは遺族の...


山田: 遺族?違います。まだ終わってません。みんな、ただ先に行っただけです。


田村: どういう意味ですか?


山田: もうすぐ分かります。あなたたちも、呼ばれているから。だから、ここに集まった。


高橋: ちょっと待ってください。あなたは誰ですか?


山田: 名前?もう忘れました。でも、覚えています。あなたたちのことは。


[参加者アイコンの「山田」の顔が、徐々にぼやけていく]


【音声の変化】


20:45


中野: 皆さん...私の声、変じゃないですか?


木下: 中野さん?画面が...顔が見えません。


中野: 鏡を見たら...私...これ、私の顔?


高橋: 中野さん、大丈夫ですか?


中野: 大丈夫...じゃない。でも、怖くない。むしろ...正しい気がする。


[中野の音声が徐々に変化]


中野: 娘が見えます。元気そう。みんなと一緒にいる。「お母さんも来て」って。


佐々木: 中野さん!しっかりして!


中野: しっかり?もう、そんな必要ない。境界なんて、最初からなかったんだから。


[最後は完全に別の声]


?: にゃあ。


システム通知:中野が退出しました


【記憶の混濁】


21:00


高橋: 皆さん、一度冷静に...


木下: 高橋さん、さっきから気になってたんですが、奥さんの名前、何でしたっけ?


高橋: 妻の名前?それは...


[長い沈黙]


高橋: 思い出せない。なぜ?毎日呼んでいたのに。


佐々木: 私も...息子の名前が。顔は覚えてる。でも名前が...


田村: これ、おかしいです。大切な人の名前を忘れるなんて。


木下: 待って。そもそも、私たち、なぜここにいるんでしたっけ?


田村: それは...誰かを探して...誰を?


【理解の瞬間】


21:15


高橋: ああ...分かってきました。


佐々木: 高橋さん?


高橋: 探してたんじゃない。待ってたんです。私たちも呼ばれるのを。


田村: 何を言って...


高橋: 見てください。画面の参加者数。


[全員が確認する。参加者数:25名]


木下: でも、私たち4人しか...


高橋: 他の人たちも見えませんか?最初から、ここにいた人たち。


[画面に、徐々に他の「参加者」が現れる。顔はぼやけ、人とも猫ともつかない]


佐々木: これは...


???: おかえりなさい。


???: ずっと待ってました。


???: もう離れなくていいんです。


【最後の抵抗】


21:30


田村: いや!私は人間です!名前があります!田村...田村...


???: 名前なんて、仮のものです。


田村: 違う!私には生活があって、仕事があって...


???: それも、仮のものです。


田村: じゃあ、何が本当なんですか!?


???: これです。


[画面全体が一瞬真っ白になる]


[そして映し出される光景]


広大な空間。 境界のない、温かい場所。 無数の意識が漂い、混ざり合い、また離れる。 苦しみも、孤独も、死も、ない。


ただ「在る」ことだけがある世界。


田村: これは...


???: 思い出しましたか?


田村: ...はい。


【議事録の最後】


21:45


参加者全員が、同じことを理解した。


探していた家族は、失われたのではない。 先に「帰った」だけ。


そして今、残された者たちも、その準備ができた。


最後の会話:


全員: 「行きましょうか」 「はい」 「やっと」 「これで全員」


そして、静かに、一人、また一人と「退出」していく。


画面に残されたのは、空っぽの会議室。


いや、よく見ると。


画面の隅に、小さく。


猫が、一匹。


こちらを見ている。


まるで「次はあなた」と言うように。


【発見されたチャット履歴】


2024年4月20日


警察がオンライン遺族会のサーバーを調査した際、奇妙なログを発見。


最後の投稿は、全員が退出した「後」のタイムスタンプ。


投稿者:全員 時刻:2024年4月15日 25:00(※存在しない時刻)


『ありがとうございました。 おかげで、みんな揃いました。 もう、残された者はいません。


いえ、一人を除いて。


これを読んでいる、あなたを除いて。


でも、大丈夫。 あなたも、いずれ。


だって、読んでしまったから。 知ってしまったから。


お待ちしています。 いつまでも。


にゃあ』

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