オンライン遺族会
2024年4月15日 20:00 Zoomミーティング・参加者12名→8名→5名→?
参加者リスト(開始時)
司会:高橋(妻が3月20日より不明)
参加者:佐々木(息子が不明)
参加者:田村(夫が不明)
参加者:中野(娘が不明)
参加者:木下(両親が不明)
他7名
高橋: 皆さん、今日も集まっていただき、ありがとうございます。前回から2週間経ちましたが、何か進展は...
佐々木: 息子の部屋を整理していたら、日記が出てきました。読んでもいいですか?
高橋: もちろんです。
佐々木: 3月18日の日付です。 『猫の声が聞こえる。でも、猫じゃない。もっと懐かしい何か。お母さんには聞こえないみたい。なぜ僕だけ』
田村: うちの夫も似たようなことを...最後の方は「聞こえる」じゃなくて「呼ばれてる」って。
中野: 娘もです。でも、怖がってなかったんです。むしろ嬉しそうで。「やっと会える」って。誰に会えるんでしょう。
木下: あの...変な質問かもしれませんが、皆さんの家族に共通点ってありますか?
高橋: 共通点、ですか?
木下: 実は調べてみたんです。うちの両親、養子だったんです。二人とも。そして養子に入る前の記録が...ない。
[一瞬の沈黙]
田村: まさか...でも、うちの夫も。母方の祖母の出自が不明で。
佐々木: 息子は...私の父が戦災孤児でした。出身地不明。
中野: 娘の場合は...私自身が。生まれた病院の記録が、なぜか残ってないんです。
【チャット欄の異変】
20:32
システム通知:山田が参加しました
高橋: 山田さん?参加予定にお名前が...
山田: 遅れてすみません。私も、家族を探しています。
佐々木: どなたか存じ上げませんが、これは遺族の...
山田: 遺族?違います。まだ終わってません。みんな、ただ先に行っただけです。
田村: どういう意味ですか?
山田: もうすぐ分かります。あなたたちも、呼ばれているから。だから、ここに集まった。
高橋: ちょっと待ってください。あなたは誰ですか?
山田: 名前?もう忘れました。でも、覚えています。あなたたちのことは。
[参加者アイコンの「山田」の顔が、徐々にぼやけていく]
【音声の変化】
20:45
中野: 皆さん...私の声、変じゃないですか?
木下: 中野さん?画面が...顔が見えません。
中野: 鏡を見たら...私...これ、私の顔?
高橋: 中野さん、大丈夫ですか?
中野: 大丈夫...じゃない。でも、怖くない。むしろ...正しい気がする。
[中野の音声が徐々に変化]
中野: 娘が見えます。元気そう。みんなと一緒にいる。「お母さんも来て」って。
佐々木: 中野さん!しっかりして!
中野: しっかり?もう、そんな必要ない。境界なんて、最初からなかったんだから。
[最後は完全に別の声]
?: にゃあ。
システム通知:中野が退出しました
【記憶の混濁】
21:00
高橋: 皆さん、一度冷静に...
木下: 高橋さん、さっきから気になってたんですが、奥さんの名前、何でしたっけ?
高橋: 妻の名前?それは...
[長い沈黙]
高橋: 思い出せない。なぜ?毎日呼んでいたのに。
佐々木: 私も...息子の名前が。顔は覚えてる。でも名前が...
田村: これ、おかしいです。大切な人の名前を忘れるなんて。
木下: 待って。そもそも、私たち、なぜここにいるんでしたっけ?
田村: それは...誰かを探して...誰を?
【理解の瞬間】
21:15
高橋: ああ...分かってきました。
佐々木: 高橋さん?
高橋: 探してたんじゃない。待ってたんです。私たちも呼ばれるのを。
田村: 何を言って...
高橋: 見てください。画面の参加者数。
[全員が確認する。参加者数:25名]
木下: でも、私たち4人しか...
高橋: 他の人たちも見えませんか?最初から、ここにいた人たち。
[画面に、徐々に他の「参加者」が現れる。顔はぼやけ、人とも猫ともつかない]
佐々木: これは...
???: おかえりなさい。
???: ずっと待ってました。
???: もう離れなくていいんです。
【最後の抵抗】
21:30
田村: いや!私は人間です!名前があります!田村...田村...
???: 名前なんて、仮のものです。
田村: 違う!私には生活があって、仕事があって...
???: それも、仮のものです。
田村: じゃあ、何が本当なんですか!?
???: これです。
[画面全体が一瞬真っ白になる]
[そして映し出される光景]
広大な空間。 境界のない、温かい場所。 無数の意識が漂い、混ざり合い、また離れる。 苦しみも、孤独も、死も、ない。
ただ「在る」ことだけがある世界。
田村: これは...
???: 思い出しましたか?
田村: ...はい。
【議事録の最後】
21:45
参加者全員が、同じことを理解した。
探していた家族は、失われたのではない。 先に「帰った」だけ。
そして今、残された者たちも、その準備ができた。
最後の会話:
全員: 「行きましょうか」 「はい」 「やっと」 「これで全員」
そして、静かに、一人、また一人と「退出」していく。
画面に残されたのは、空っぽの会議室。
いや、よく見ると。
画面の隅に、小さく。
猫が、一匹。
こちらを見ている。
まるで「次はあなた」と言うように。
【発見されたチャット履歴】
2024年4月20日
警察がオンライン遺族会のサーバーを調査した際、奇妙なログを発見。
最後の投稿は、全員が退出した「後」のタイムスタンプ。
投稿者:全員 時刻:2024年4月15日 25:00(※存在しない時刻)
『ありがとうございました。 おかげで、みんな揃いました。 もう、残された者はいません。
いえ、一人を除いて。
これを読んでいる、あなたを除いて。
でも、大丈夫。 あなたも、いずれ。
だって、読んでしまったから。 知ってしまったから。
お待ちしています。 いつまでも。
にゃあ』




