表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
83/85

懸念

そしてその夜。晩御飯を前に、主要な人物が一つの部屋に集められた。前に結婚式が行われた部屋である。


そこには俺、リリス、ミリアと遊撃隊の面々に、バルバロッサ、ファフニル、ジークフリート、そして村正に、俺の母であるエルグランドが居た。


最初に口を開いたのはバルバロッサであった。


「めでたい事に、ロゼッタが妊娠をし、その支援をエルグランドにしてもらいたいと思っている。子供を産むにあたって大変なこと、不安なこと等あろうからその相談役となってほしいのだ」


が、母は複雑な顔をしていた。それはそうだろう。実際はバルバロッサの子ではない。俺の子なのだ。が、母はそれでも、当然というべきだろう。否定はしなかった。


「分かりました、ロゼッタ王妃のお傍でしばらく付き添います」


母はそう答えた。


「ごめんなさいね」


ロゼッタはしばらく間を開けてただ一言、そう言うのみであった。しばらく間があったのは、おそらくそれ以外の言葉が思い浮かばなかったのだと思う。


「いえ、これはめでたき事。そんな顔をなさらないで」


母がロゼッタを慰めるようにそう言って安心させていた。


親父、ファフニルは、と言うと。やはり複雑そうな顔で母と、そして俺の顔を見ていた。そうして深い溜息をつき、


「運命とは、分からぬものよな。話は聞いているが、今一度ファフニルを名乗るのか」


親父が俺に問いかけてくる。それに、一言、ああ、と答えた。珍しく親父は苛立っていた。その答えに舌打ちすると、バルバロッサの方を睨み、


「今回ばかりは一言言わせてもらう。お前はどうなんだ、バルバロッサ。ヴェルファリアの事、もはや何とも思わんのか」


「思う所はある。だが、如何ともし難いだろう。それはお前が一番よく分かっているはず。ただし、王の技は全て教えてはあるし、金銭での援助は惜しまぬ。今回の遊撃隊の事も全て手はずは整えた。それで十分だろう」


だが親父は引かなかった。


「そういう問題か。お前の実の息子だぞ。もっとよく真剣に考えたらどうなんだ」


バルバロッサも引かなかった。


「考えたさ。だが、これ以上の事は思い浮かばぬ。何よりヴェルファリアが良いと言っているんだ、元々王になる意思はなかった、致し方ない事と思うしかなかろうが!」


その後、バルバロッサはまくし立てるようにこう続けた。


「それとも何か。次に生まれてくるこの子はヴェルファリアとの子で、実の父は俺ではない、と宣言してやったほうが、生まれてきたこの子の幸せになるとでも。お前はそう言いたいのか!」


その一言に、親父は言葉をつまらせた。答えようもなかったのだろう。


頃合いか、俺はそう思い口を開く。


「親父、すまん。やっぱり俺は王になるつもりはないし、いいんだ。ようやく少し慣れてきたんだがな、バルバロッサが父だと思えるようには。だが、その気持ちはもう捨てる。所詮は他人、育ててくれた親父が父で、いい。それに母さんもいるし、それでいいじゃないか。別に王である必要はない、幸せであればそれで」


「ヴェル、お前」


親父はそう一言言うと、もうそれ以上何も言わなかった。


そうして俺はリリスとミリアに頭を下げた。


「済まない、そういうわけだから俺は王にはならない、なれない。そしてこの事は口外しないでくれ。俺はファフニルを名乗る」


リリスとミリアは顔を見合わせ、


「いえ、それは構いません。貴方が王であろうとなかろうとやることは変わらないでしょう」


ミリアにそう言われ、リリスもまた頷き、


「ええ、わたくしはヴェル様についていきます」


そう言ってくれた。


「済まないな。王妃になる選択肢もあったろうが。が、不自由はさせないつもりだ。と、いうことでいいだろうかバルバロッサ」


もはやバルバロッサを父とは言わなかった。


それを察したのか、バルバロッサは頷き、


「安心しろ、金や支援は惜しまぬ」


その言葉に、感謝する、と一言述べておいた。


「それと、母さん。ごめん」


母に謝っておいた。何に対する謝罪かは自分では分からなかった、だが言うべき言葉だと思ったのだ。


「いえ、いいのよ。いずれ貴方の子が生まれる事は分かっていた。ただ、早かったのと運命がそうさせた、それだけの事よ。貴方は悪くない。誰も悪くなんて、ない」


「そう言ってもらえると助かる」


「ただ、バルバロッサ。これだけは約束して。必ず幸せにすると」


母も珍しく怒っていた、のだと思う。声を震わせ、バルバロッサにそう言っていた。


「分かっている。できる限りの事はしよう」


「この事を知っているのはここにいる者のみ。口外は厳禁とする。いいな」


それに引っかかることがあった。


「いやまて、結婚式にいた面々全員ではない。王妃もいなければ、リリスの父もいない」


「そこは俺が直接出向き、話をつける。問題はない」


バルバロッサが全員に確認し、全員が頷き納得していた。そうしてその場は解散となった。


「ヴェル、少しいいか」


親父だった。その横には母もいる。


「どうした」


「少し、話がある」


「分かった。リリスとミリアを待たせていたから先に部屋に戻るよう伝えておく」


そう言って待たせていたリリスとミリアに、少し話があるから先に戻っていてくれ、と伝え再び親父達の傍に戻る。


「で、話とは」


「うむ、すまなかったな。可能性としては万に一つの可能性としてあった」


「その事ならば致し方あるまい。生まれてしまったものは仕方がない」


すると、今度は母が溜息をつき、


「こちらの都合に巻き込む形となって、申し訳ないと思っているわ」


他にも何か言いたそうだったが、おそらく余計なことなのだろう。それについては何も言ってはこなかった。


「いや、構わないが。まあ、次に生まれてくる子には普通の人生を歩ませてやってくれ。俺のようにややこしい存在にならぬようにな」


「普通の人生、が歩めるかは生まれてきた子次第だろう。道を違えば殺す算段もつけておかねば」


「親父もそれを言うか。大丈夫だ、親父に父上、それにバルバロッサがいれば間違えることもないだろうよ」


「それならいいのだが。最悪お前自身の手でその子を殺すこともあることは、覚えておけ」


「貴方、もうそのくらいでいいでしょう。これから生まれてくる子よ、祝福してあげましょうよ」


「母さんは黙ってて欲しい。竜族がどれほど恐ろしい存在かは竜族では分からぬ。道を違えば人間も魔族も滅びるのだ。その前に、決着をつける必要があることは今のうちに言っておく」


「それも含めて、頼む、と俺は言っている。それじゃあ、俺はリリスとミリアを愛してやらねばならないので部屋に戻る。ではな。それと忘れているようだが、俺も母さんも竜族だぞ。そこはどうなんだ」


すると母が苦笑し、


「生まれるといいわね、今度こそ貴方の子が」


そう言われ、そうだな、とその皮肉に苦笑しながら答え部屋を出た。


そうして廊下を歩いていると、お待ちください、と後ろから声がした。村正さんだった。


「どうされましたか」


そう尋ねると、


「本当に欲がないのですね。貴方様はその気になれば、王以上の存在にすらなれるでしょうに」


「別に、私はそういった事は望んではおりません。ただ平和であれば、幸せであれば良いと思っております」


「そうですか。しかし、いずれそうは行かなくなるやもしれません」


村正さんが表情を曇らせながらそう言った。


「何か、懸念でも」


「はい、先の話になりますが貴方様がご出世なさった時の事。バルバロッサ様からの支援すら受けられなくなったその時、それでもなお同じことを言えるかどうか、それが心配でなりません」


俺にはその言葉の意味が分からなかった。


「どういうこと、でしょうか」


「よくお考え下さい。次代の王がいれば、貴方様の存在は明らかに邪魔でかつ危険な存在でしょう。消されなければ良いのですが」


なるほど、村正さんははなからバルバロッサの言葉を信じていなかったのである。そして一理あった。確かに援助する必要性はないかもしれない。


「それは、考えておりませんでした。しかし、その時はその時」


「貴方様はそれでよろしいでしょう。しかしミリアがいます。ご一緒に死ねと仰りますか」


「その分の蓄えは残しておきましょう。私が死んでも大丈夫なよう、今のうちに金を貰っておきましょう。大丈夫です、彼女らは守ってみせます」


「いえ、貴方様が死ねば、あの子もまた死を選ぶでしょう」


「そんな馬鹿な。そのようなことあるはずが」


「それほどに、あの子は貴方に依存している。良いですか、貴方が王であろうとなかろうとそれは問題ではないのです。貴方はどうあれ死んではならぬ身、そのことはお忘れなきよう」


そう村正さんに釘を刺される形となった。


その後、リリスとミリアが待つ部屋に向かいながら思う。


俺は、確かに心の何処かで王でないならどこで死んでも構わないと思っていた。言われるまで気付かなかったが。


が。俺が死ねばリリスとミリアはどうなる。否、どうするのだろうか。


それは分からなかった。だから自室に戻るなり、リリスとミリアに尋ねてみた。もし、俺が死んだらどうするのか、と。


二人は躊躇いもなく、追いかける、とただ一言そう言うのみであった。


「俺は、出来れば二人に生きていて欲しい」


「ならば答えは簡単です。貴方が死ななければ良いのです。王になれなかったからと弱気にでもなかったのですか」


ミリアにそう言われ、返す言葉は、


「そのような事はないが。ただ、俺が死んだ方が都合が良い事は分かるな」


「どういうことでしょうか」


これはリリスだった。その言葉に頷き、


「俺が死ねば、次代の王の座は安泰だ。単純に考えてそうだろう」


「バルバロッサが貴方の命を狙う、そういうことですか」


ミリアにそう言われ、しかし俺はその言葉に首を傾げた。果たしてそうだろうか。


「いや、どちらかと言えば親父の方じゃないかな。親父ならやりかねないと思う」


親父は手段は選ばない者だ。俺の命も存外適当に扱うやも。


「まあ、疑ってもきりがない。今はただ生きているという実感をお前達と共有したい。だから、久しぶりにお前達を抱きたい」


俺から言うのは珍しかった。


「いつでもそう甘えて下されば良いものを。しかし生きている実感ですか」


「ああ、そうだ。生きている、と言う実感だ。お前達を抱いている時にしか今は感じられん」


そう言って俺も服を脱ぎ捨てミリアに抱きつく。


「リリスは、次な。今日は寝かせんぞ」


「期待しております」


リリスは頬を赤らめながらそう答えた。その表情に興奮を覚えた。


そうしてその夜、宣言通り俺達は寝ずに夜通し抱き合い続けた。


後悔のないよう、生きている証を今は刻みたかったのかもしれない。いつも以上に激しく二人を抱いてしまった。気づけば二人はベッドの上で気絶していた。


そんな二人にそっと布団をかぶせ、俺は服を着、外に出た。


そうして展望階に行き、一人思案する。


考えていなかったな、と。確かに、俺が死ねば万事都合よく話は進む。バルバロッサは案外俺を殺すことを考えているのだろうか。村正さんの言動から察するに、あの方はバルバロッサの事を信用はしていない。


かといって、バルバロッサがそこまでするだろうかと言う想いもある。信じたいと言う気持ちの方が強いだろうが。


やるなら親父、かもしれないな。手段を選ばない、その気になれば。


その時、俺はどうすれば良いのだろうか。策を看破し、殺すのか。育ての親を。それならば俺は甘んじて死を選ぶに違いない。


が、疑った所できりはあるまい。今はなるようになるしかない。


そんなことを遥か下でちらちらと灯された松明を漠然と眺めながら考えるのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ