焼失
次の日、バルバロッサの提案で三人の訓練は休みとなった。要は休め、と言うことらしい。
まあ、結婚して以来外出は元より、昨日まで手すら繋いでいなかったのだから有難い話ではあった。
「二人と楽しんで来い」
六人で朝食を取りながら、バルバロッサはそう言った。
「どうだ、村正。わしと今日は剣の手合わせでもしないか」
父上がそんなことを言い、村正さんの方は微笑みながら、いいですよ、と答えていた。仲の良い事で。
「あらあら、しかしいいですね。今日はどちらに行かれるのですか」
村正さんに尋ねられ、うーむ、と唸る。
「湖、くらいしか思い浮かばないのです。二人がそこで楽しめるかどうか、分かりません。ただ出歩くくらいで喜んでもらえるかどうか」
正直、今まで友人と出かける事すらなかったのでその辺りよく分からなかった。特に異性との付き合いがなかったものだから尚更のことであった。
「外で気分転換をし、何かを語らうのも悪いものではありませんよ。まあ、うちのジークフリートは不器用ですから剣で語ろうとするのですが」
村正さんのそんな言葉に苦笑し、
「村正さんがそう仰られるなら、そうなのでしょう。何を語らえば良いか、分かりませんが」
「貴方も相当に不器用なお方でございますね。後いつになったら母上と呼んで下さるのでしょう」
くすり、と微笑まれた。
「はは、面目次第もない。が、父上程でもないように思えます」
「まことに」
と、言い合った所で、
「お、おい。分かった、村正。お前の好きな所に連れて行ってやるからわしをそう苛めんでくれ」
「あらあら、そうですか。では、買い物にでも出かけましょう」
その言葉が意外だったのか、
「お、おう。分かった!」
嬉しそうな父上であった。
父上で思い出したが、ここにいない親父はどうしているんだろうな。少し気になる所ではあるが。毎日家から往復しているらしいから大変だろうに。
まあ、けど家を空けるわけにもいかないか。重要な魔術書が多いのもそうだが、母もいるしな。
と、考えた所で、余計な心配は無用、と思い直した。今はあの二人の邪魔をするべきではないだろうと思ったのだ。結婚式以来、親父も新たな道を歩み始めたように思えたからだ。きっと幸せにやっているに違いなかった。
そうでないと俺が困る。
と、考えていた所で、
「何を考えていたのですか」
と、隣に座っているミリアに尋ねられた。
「ん、ああ。いや何、少し親父のことを考えていたのだがいらぬ心配だと思ってな」
「ファフニル様、の事ですか。一体何の心配でしょう」
「大した事ではない、気にするな」
そうですか、とミリアは一言言うのみであった。
「そうだ、リリス、ミリア。お前達はどこか行きたい所はないのか。あるなら、そこに行こうと思うが」
リリスは特には、と言い、ミリアは少し考え、
「幕舎の様子が気になりますね。まあ、風呂場に隠しておいた道具類は全て城に持ち込んであるからそちらの心配はないのですが」
「幕舎、か。湖に行く時通るからその時に様子は見ておくか」
ミリアに言われるまで忘れていたが、入城するまで相当に暴れまわっていたのだ。何かされていてもおかしくはないか。
「が、流石ミリアだな。道具はきちんと回収していたか」
「ええ、訓練で真剣を使っていたのでどうしても武器の手入れが必要だったのです。ですから全てこちらに持ち込んでおきました」
「そうか、そのことすら気づかなかった」
すると、ミリアは苦笑し、
「でしょうね、部屋に引き篭もって出てこないのですから」
痛いところを突かれた気がした。
「それは昨日詫びたぞ。もう勘弁してくれ」
そう言った所で、そこにいた全員に笑われた。
そんな楽しい朝食の時間を終え、俺達は正装し、久しぶりに城を出た。
俺の左にはリリスが、右にはミリアが居る形である。全員が武器を持っている様は多少異様かもしれないが。
武器を携帯した方がいいと先に言い出したのは意外にもミリアだった。俺が言おうとしていたのだが、気が回って助かった。
リリスは、武器を持って行くのですか、と尋ねてきたが、経緯を説明すると得心がいったようだった。
まあ、あれほどに暴れまわったのだ。もし万が一彼らの目に入る事があれば荒事の一つ、起きてもおかしくはないと思ったためである。念には念を、だ。
城を出た所で、リリスがぽつり、と
「そうだ、部隊。どうなっているのでしょう」
と、左手を頬に当てながら考える様子を見せるので、
「心配なら見に行ってみるか」
と、言った所でミリアに止められた。
「よしたほうがいい気がしますが」
「俺もそう思う、一応理由を聞こう」
俺の考えと、ミリアの考えが合っているのか、少し答え合わせをする必要があると思ったからだ。
「はい、おそらく彼らは一時的に混乱したと思います。結婚式に参加する、と行って出て行った貴方が、当然戻ってくると思ったのに戻ってきたのは辞令だけでしょう。英雄的立場にいる貴方の突然の喪失に、部隊の面々がどう思ったのかは容易に想像がつきます。そんな中、貴方が戻った所で何が言えるのか、出来るのかと考えたら何も出来ないでしょう」
概ね、俺が考えていることと同じであった。そのミリアの言葉に満足し、思わず頷いていた。
「と、俺も思う。後どこまで噂が回っているのかも分からない。一体どういう辞令が出たのかも、な。結婚したことは発表したのだろうか」
すると、ミリアが、
「いえ、それは言っていないそうです。王の前で粗相があった、とのみ」
「リリスには、悪いことをしたな。本来なら将の立場にあったのに、ある意味、と言うか正真正銘の降格処分ではないか」
すると、リリスは微笑み、
「いえ、元よりわたくしには必要のない立場だったように思います。本来ならばヴェル様がなるべき立場だったのです」
「そんなことはない。お前は前線で立派に戦った、その功績が認められた事は当然の事だろう」
「それはそうでしょうが、わたくしの求める褒賞ではなかったのです。わたくしはヴェル様と一緒に居られればそれで良いのですから」
「そう、か、すまない」
思わず口にした謝罪の言葉に、リリスは少し不機嫌そうな顔をし、
「そこは、有難うと言って欲しい所、です」
と言われ苦笑した。
「有難う、リリス」
いえ、そう言いながら腕を絡め傍に寄ってこようとするリリスを刀の柄で押さえつけるミリア。
「む、何をするのですか」
「姉さん、いいですか。結婚したことは広まっていないのです。そのような様子、何処かで見られてはまずいでしょう」
「ああ、そうでした」
そう言って離れるリリス。
「甘えたい気持ちも分かりますが今は我慢して下さい。湖に行くまでは」
私も我慢しているのですから、とミリアは付け足した。
「迷惑を、かける」
「迷惑等と。ただ、難しい立場におられることは確かですね」
「とにかく、ここを移動しましょう。出来るだけ人目につかない道を行きましょう」
ミリアの提案に頷き、俺達は移動した。
まず移動したのは幕舎だ。様子が変わっていないか確認に来たのだが。
様子は、変わっていた。
───跡形もなくなっていた。数ヶ月世話になった場所が、あっさりと。
「どうやら、誰かが火を放ったようだな」
「しばらく誰もいなかった事が仇になりました。この場所もどう嗅ぎつけたのか」
俺とミリアがそう言い合う。
「父上も幕舎には戻っていなかったんだよな」
「はい、ジークフリート様はわたくしと訓練していましたから」
そうリリスが答える。それに、一言、そうか、と答えるのみであった。
「さて、どう報告したものか」
「そもそも、誰がどうやって私達の居場所を見つけ出したのか、と言うところから始まりますが」
「ふむ、差し当たって怪しいのは剣兵か」
「そうでしょうか」
俺の推測に、ミリアが一言言ってきた。
「む、何か思い当たる所でも?」
「少なくとも剣兵の連中につけられた記憶がないのですよね」
「それを言えば弓兵の方もだが」
「可能性が高いのは寧ろ弓兵の方です。数も居ますし、探させたのでは」
「ふむ、それも、そうか」
「それに微かに残る油の匂い、これは火矢に使う物では」
「なるほどな。ここ最近雨は降っていないのと合わせると、どうだろう。ここ一週間のうちに焼かれた物だと思うが」
「匂いも残っていますし、その線で当たりかと」
「幸いな事は、俺達が居なかったことと、貴重品は全て───」
大丈夫、と言おうとしたその時、
「しまった!」
思わず声を出していた。
「どうしました」
ミリアに尋ねられ、
「竜人の書、持ちだしていなかった」
貴重品は全て持ちだしたつもりだったが、あの本を持ち出すのを完全に忘れていた。
「親父と、リリスの御父さんに合わせる顔が」
と、言った所で、リリスが、
「あれならば、大丈夫です。わたくしが持ちだしておりました」
「いつの間に」
「お二人が貴重品を持ちだしていた折です。たまたま本が目に入り、持ちだしておいたのです。勝手な事だとは思ったのですが、父の書いた物ですし」
「そ、そうか。ひとまず安心だ。あれはまだ全て読んだわけではないからな。ところで、何処に持って行ったんだ」
「ええ、それが。風呂場は湿気ると思ったので自分の部隊の方に」
あの時か。武器を持ってくる、と言った時だろう。
「そう、か。しかしそれだとますますまずいことになった。とりあえず回収しなければ。貴重な文献だ」
「分かりました、わたくしが取りに行ってきます」
「済まないな、悪いが俺達はついてはいけん。一人で頼む」
それにリリスは、はい、と答えすぐに行った。
「さて、今は城に住まわせてもらっているからな。危機感が薄れていた」
「ええ。まさかこのようなことになっているとは。私がやりすぎた結果、こういう事を招いてしまって」
すいません、と謝ってくる。
「過ぎたことを言っても仕方あるまい」
もはや黒く灰となった幕舎のあった場所を眺めながらそう呟いていた。
「が、これで分かったろう。身内に敵を作ることの面倒さが」
「ええ、痛いほどに。これを危惧しておられたのですね」
「うむ、まさか火を放つとは思わなかったが、な」
とはいえ、殺す殺さないという話をしていたのだ。火を放つくらいあってもおかしくはなかった。だからか、驚きはしなかった。
「ミリア、少し移動しよう」
「ええ、来ていますね。姉さんではない誰かが」
かなり遠くに魔力を感じた。人がこちらに来ているようだった。
そっと森の方に隠れ、その様子を伺う。
遠く離れた場所で、その人間は幕舎があった場所を確認し、再び戻っていった。
「どうしますか、跡をつけますか?」
その言葉に少し考える。おそらく犯人か、犯人に関わる人間だろう。
ここで確認することは大切なのかもしれない。
「つけるべき、か」
「はい、私はそのように考えますが」
「どうする、俺が行くか」
「いえ、ここは私が。元は私が招いた事ですし」
「そこは気にしなくていい。遅かれ早かれ何かしら起こっていた、問題はない」
どういうことですか、と言われたが、説明は後だ、とミリアを追跡に向かわせた。
俺はリリスが戻るまでの間、風呂場を見に行く事にした。ここにまで手は回ってはいないとは思うが。森の中だし、ここまで入り込む人間は魔族軍にも滅多にいないだろう。
そもそもこの幕舎の位置でさえ、普通人は寄り付かない。そんな場所に設置されているのだが。執念のなせる事か。
やれやれ、と深く溜息をつき、風呂場を見ると、こちらは手つかずだった。使うには掃除が必要な状態になってはいるが、ばれてはいないようだった。
「確かに、道具類は持ちだされているようだな」
それを確認し、ミリアの言葉が嘘ではなかったことを確信する。元々疑ってはいなかったが。
しばらくして、一際大きな魔力を感知する。リリスだろうと、そっと伺うとやはりリリスだった。幕舎があった場所で左右を見ている。
「済まない、ちょっとあってな」
そう言いながら出る。
「ヴェル様、そこにおられましたか」
リリスは本をこちらに渡して来、それを受け取る。
「そっちは大丈夫だったか」
「ええ、副隊長が隊長になっておりました。心配をしていたようでしたが、遊撃隊に組み込まれ処理された事を言うと、また戻ってきて下さい。いずれ許されます、と言われました」
それまで頑張ります、とも、と付け加えられた。
「そう、か。少し誤解があるようだが、仕方がないな」
「ええ、説明出来ないもどかしさはあったのですが」
「まあ、言わぬ方がいいだろう。あの男ならしっかりやるだろう」
「そう、ですね。心配はしておりません」
「しかし、遊撃隊の事を言ってしまったのは失敗だったかもしれないな」
「え」
「問題はない、だがあの男は遊撃隊の事を最初聞いた時笑い飛ばしている経緯があるんだよな。お前は知らないだろうが」
「そういえば、そのような事を言っておりましたね。確か結婚式の折の」
「ああ。吉と出るか凶と出るかは知らないが。実戦で連携が取りやすくはなったかもしれぬな。リリスの名を出せば遊撃隊に協力もしてくれるかもしれない。が、万が一リリスに何かあれば、連携どころではなくなってしまうやもしれない。良くも悪くも興味を持たせてしまった」
「それは考えすぎでは」
「興味とは時に、こうした事態も招く」
そう言って灰と化した幕舎の方を指差す。
「そういえば、ミリアがいませんが」
「犯人らしき人間がこちらに来ていてな。今尾行してもらっている」
「そうですか」
「遊撃隊ここに在り、と活動し招いた結果がこれだ。まあ、やり方がまずかったとは思うんだよな。身内に敵を作ると言うことがどういう事か、経験出来たことはある意味僥倖と言えるか。幸い、誰にも被害はなかったしな」
「そう、ですね」
「ところで、リリス。ここに来るにあたって他に何か言ったか?いや、今はいい。とりあえず森の方に身を隠そう」
「え」
また一人、魔力を感知した。誰かがこちらに近づいてきているようだった。
急ぎ身を森に隠す。
「あれは」
その男を見て、リリスが声を出す。
「誰か分かるのか」
「ええ、部隊の人間ですね。妙です」
「妙、か。そう感じるならそうなのかもしれんな。一体何をしに来たんだ、あの男は」
「分かりません。しかし何やら焦っている様子」
「ふむ」
「どうしますか、聞きこんで来ましょうか」
「いや、その必要はないだろう。おそらく、あれも犯人の一味か、片棒を担いでいる人間なのだろうよ」
「え」
「俺達のやりとりを見ていた人間が他にもいた、と言うことだ。そしてリリス、お前つけられてたな」
「そんな」
「今日の話ではない。おそらくあの日、結婚式の日だ。武器を取りに戻ったろう。その後だ」
そうでなければ辻褄が合わない。そしてこの場所が分かった理由も。
「焦って来た理由は、おそらく、お前が遊撃隊に組み込まれたことを知ったため。現部隊長が何かしら言ったのかもしれぬな」
「なるほど」
「俺には魔力を感知する魔術がある。そしてミリアは気配が読める。だから尾行には合っていないんだ。が、リリス、唯一お前だけはそうではないだろう」
「え、ええ。すいません」
「いや、責めてはいない。が、今後は気をつけるべきかもしれないな。悪いが、遊撃隊には敵が多い。自分の身は自分で守らねば。信じられるのは俺達のみと思え」
「はい、分かりました」
「済まないな。謝って済むことではないが」
「何故謝られるのですか」
「本来ならしなくていい苦労をかけてしまっている。そして俺とミリアが解決すべき問題だったのに巻き込んでしまった」
「いえ、今はわたくしも遊撃隊。そのような寂しいことは仰られないで下さい」
と、そこで男に動きがあった。元いた場所に戻っていくようだった。地面を見ながら、とぼとぼと歩いていっていた。
「収穫もあったな。どうやら、魔族軍全てを敵に回した、と考えた方がよさそうだ」
「どういうことでしょう」
「噂とはすぐに広まる物で、さらに最初の情報が正確に伝わらぬもの。ただ、ああいった人間が片棒を担いでいる当たり、あまり良い情報が回っているとは俺には思えない」
「なるほど、確かにあの男、普段はおとなしいのですが何故今日に限って」
「おとなしいからこそ、かもしれないな。噂を聞き、遊撃隊はろくでもないとでも聞いたのだろう。さらに俺達はリリスを尋ねているし、リリスも懇意にしている様子。まあ、悪い虫がつかぬよう、と気を巡らせたのかも」
「ヴェル様、まるで見てきたかのように言いますね。根拠はないですが、何故か信ぴょう性があります」
「まあ、あくまで推論の域は出ないが。確かめようもないし、その危険を犯す必要はないだろう。今俺達は魔族軍で最も安全と思われる城にいるのだからな」
これは僥倖と言えた。もし結婚式の後すぐに幕舎に戻ってきていたら、俺達は死んでいたかもしれないのだから。そう考えると背筋が凍る思いがした。
「そろそろミリアが戻ってきてもいいはずなのだがな。少し遅いな」
と、そう言った所でミリアが戻ってきていた。こちらの気配に気づいたのか、走ってこちらに来、合流した。
「やはり、弓兵部隊の人間でした」
「そうか、少し時間がかかったようだが」
「一応あの男も尾行を注意していました。なかなかに慎重な男でした」
「そうだな、隠れる場所もあまりないしな。難しい尾行だったろう。お疲れ様」
「いえ、それほどの事でも。さて、どうしますか」
「そう、だな。差し当たっては湖にでも行くか。元々その予定だったしな」
その言葉が意外だったのか、
「いえ、そういう事ではないでしょう。犯人は分かっているのですよ。報復を」
「した所でどうなると言うんだ。それにさっき、リリスの部隊の人間もここに来ていた」
「む、それでこんな所にいたのですね」
「ああ。おそらく尾行されていたのはリリス。この場所がばれた理由も、な。そして同時に、敵は多数いる。もはや魔族軍全てが遊撃隊の敵と言って過言ではあるまい。疑わしい人間を上げればキリがないぞ。さらに敵を作るのか」
「い、いえ。そういう訳では」
ミリアが言葉を詰まらせる。
「今はリリスもいる。本来ならリリスも巻き込まれなくていい事に巻き込んでしまったのは他でもない俺達のせいだろう。これ以上事を荒立てる事はなかろう。何より、俺達の今の居場所は城なのだからな。あそこ以上に安全な場所はあるまい」
「それも、そうですね」
「うむ、だが今日のことは覚えておこう。いずれ見返す、別の形でな。それで納得してもらえるか」
「何か策があるのですね」
「いや、ない。考えられるのは次回の反乱、相当に大きな戦功を上げる事、これ以外にない。そして、次の戦、俺は手は抜かない」
「ちょっと待ってください、竜の力を使うつもりですか。大勢の前で」
リリスが俺を止める。
「使う、バルバロッサにも言われているからな。竜族には竜族の戦い方があると。ミリア、好きだろう。派手な方が」
「ヴェル、いい顔をしていますね。分かりました、時を待ちましょう」
「きちんとお返しはする。遊撃隊、ここに在りと、戦場にて知らしめる。二人共、良いな」
「けれど、反乱が起きなければ」
リリスが心配そうに言う。
「起きるさ、必ず、な。起きなければ平和でそれは何よりだが、金が絡めば必ず動く。人とはそういうものだ」
「そうでしょうか」
「別に反乱だけではない。軍の活動とは戦以外にもあろう。そこで功績を上げる、どういう形であろうとな。それが平和活動なら尚の事よしとせねばな」
どちらにしろ、功を上げる。
「ヴェル、あなたがそこまで仰られるなら従いましょう。私一人ならすぐにも報復に行っていました」
「すまないな、部隊長」
「副隊長の言うことをしっかり聞くのも隊長の努め、そうでしょう」
「成長したな、しばらく見ないうちに」
「まあ、ここまで痛い目を見れば嫌でも」
「それもそうか」
ミリアと顔を合わせ苦笑する。
「今は俺達が無事だったことをひとまずよしとしなければ。俺自身色々言っているが思うところはある。思い出の詰まった幕舎が焼かれ、腹も立っている。だが、今は生きている事を喜ばねば」
「分かりました」
ミリアが、その俺の言葉に頷き、
「はい」
リリスが、返事をする。
「今は我慢の時だ。いずれ来る、飛躍の時を待つべし」
とにかく先の事を今は言っておかねば。俺自身が押し潰されそうだった。魔族軍全てが敵。ならば、その全てが納得しうるだけの何かを打ち立てるしかあるまい。
二人に、どこまで俺の考えが伝わったかは分からない。が、想いは伝わったようだった。
何故そう思ったのか。
俺の信ぴょう性のない言葉に、この先どうなるか分からないのに、二人は。
ただただ無言で力強く頷いてくれたからだ。
これ以上の根拠は今は必要ないだろう。そう思えてならなかった。




