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王技

目の前のバルバロッサが剣を構えながら、


「良いか、ファフニル辺りは手の内を隠せ、と言うだろうが。しかし、そのような必要は我らにはない」


そう言ってきた。


俺の生き方を全て否定するかのようなその一言に思わず俺は、


「何故だ、手の内がばれれば一巻の終わり、対策を練られてしまうではないか」


すると、バルバロッサは苦笑し、


「なら何故俺が王なのか、と言う話になるのだが。万人に手の内がばれていよう。にも関わらず竜族は反乱も起こさぬ、法を破ろうともせぬ。何故だ、考えろ」


考えろ、と言われても、な。


「手の内がばれても問題ない、対策のしようがない技がある、からか」


呟くように答えていた。どうにもそれしか思い浮かばなかった。


「正解!」


そう言いながらバルバロッサが剣を振ってくる。それを受け止め、石突きで攻撃を返そうとしてすぐに回避される。


動きは、やはりと言うべきか。バルバロッサの方が早かった。


鎧を纏っていてなおこの速さ、尋常ではない、と思う。


「よく受け止めた」


その一言を聞きながら、ごくりと唾を飲む。


「まあ、安心しろ。手加減してある。本来なら魔力を込めて一撃加えるんだがな」


「そうだろうな、魔術を使って問題ない部屋を選んでいるくらいなのだから」


そう言って今度はこちらから槍で薙ぎ払う。


が、それを受け止められ、弾かれ思わずよろめく。何という力だ。


そのまま突き攻撃を繰り出され、俺は回避も出来ず微動だにすら出来なかった。喉元に剣の切っ先が突きつけられ、まだまだだな、と笑われた。


「確かに槍は人間が作った武器ではよく考えられてるよな。間合いもあるし、練度が低くても使い方次第でその能力を補える。が、一度隙を見せてしまえば、この通り」


そう言うなり、剣の切っ先が喉元に当たり、チクリと痛んだ。


「さて、どうこの弱点を補うか、だが。ここからが実戦練習よ」


そう言ってバルバロッサは剣を引き、下がった。ここまでは前座であるかのようにゆっくりと歩いて距離を取る。


「良いか、ヴェルファリア。ここまでは人間、魔族の戦い方。俺達竜族には、竜族の戦い方がある。それを見せよう」


そうバルバロッサは言い、黄金色の羽を展開する。その枚数はロゼッタと同じ六枚羽。


「お前も羽を展開せよ。どうやら二枚が限界のように考えているようだが、最低6枚は出せるようにしておけよ」


「───は」


「何を驚いている。竜族の戦いにおいて二枚羽は自殺行為に等しい。魔力を増幅し、戦闘力を高める羽は展開出来れば出来るほど良い」


とにかく羽を展開しなければ、さらに竜の眼も使う。


「どうやら竜眼も羽を展開しなければ上手く扱えないようだな。常に使えるようにしておけよ」


「は、はい!」


思わず返事をしていた。


「良い、次。竜族独特の戦い方其の一、魔術と物理攻撃を同時に行う。魔族と違うのは、こういう使い方をするからだ」


そう言い、バルバロッサは自身の周辺に光の槍のような物を展開し、


「いいか、単体でも槍隊は作れる。このようにな」


その光の槍を左右横並びに展開する。


「防御しろよ、ヴェルファリア」


言われるまま羽を前に出し防御した、瞬間。目の前の光の槍が一気にこちらに飛んできた。


「なっ」


幾つかは羽で打ち消したが、残りは後ろに飛んでいったようだった。


「何を驚く必要がある、これと物理攻撃を同時に行う。行くぞ」


「行くぞって、おい」


冗談だろう。


そう思うのも束の間。再び光の槍を展開し、今度はバルバロッサ自身もこちらに攻撃してくる。


これをどう防御しろと。


───回避、回避しかない。


そう思い後ろに飛んだ瞬間、


「甘いな、防御しろよ」


バルバロッサは地に足付き、右の人差し指をくいくいと動かした。


なんだ、こちらに来い、という事か。が、しかし俺は後ろに、


と思ったのと同時。背中に衝撃が走る。


「ぐっ、は・・・」


何が、と思い後ろを見ると、先ほど飛んでいった光の槍が空中で止まっており、それが後ろから飛んできたのだ。


「雷竜の爪、と名付けている。どうだ、便利だろう」


「く、そ」


こちらも負けじと氷のつららを展開し、素早く飛ばす。


が。


「何故氷の魔術なんだ、お前の得意魔術か」


バルバロッサは無防備にそれを受け止める、どころか、


「魔術反射、と言う物もあるんだが知っているか」


と言われ、先ほど自分が飛ばした氷のつららがバルバロッサの手前でぴたりと止まり、こちらに飛んでくる。魔術妨害があるから大丈夫、と思っていると、


同時に光の槍が再び飛んできた。


回避、と思うが間に合わない。思わず防御姿勢を取るが、


「後ろ見ろ、後ろ」


見れば首の後ろで光の槍が止まっていた。


「実戦なら一回死んでるな、だから羽の枚数はそのまま防御力、攻撃力に繋がると言うことが見にしみて分かったろ」


「そ、そうか。二枚の羽で前を防御し、もう二枚で後ろを防御、残り二枚で出来る限りの防御若しくは攻撃に転じるわけか」


「理解が早くて助かる」


言うのは簡単だ、理論も理屈もわかる。しかし、実践出来ない歯がゆさともどかしさに思わず歯噛みしていた。


「悔しいか、圧倒的なこの差。が、しかしこれが現実。竜族と一言に言ってもこれほどの戦闘能力差があるのだ。特に雷竜の戦闘能力は万能だ。弱点なき竜、それが雷竜だ」


「く、そ・・・」


圧倒的強さに俺は膝を屈しそうになる。


だが、このままでは負けていられない。今度は内面魔術を使い自己強化、さらに影の魔術を展開し、同時攻撃。


そう思い魔力を展開した所し、羽根に魔力を込め加速。一気に突きを繰り出そうとした所で、


「遅いな、後こんな魔術の使い方もある」


そう言ってバルバロっサが右手を上に掲げたと思うと地面から光の槍が突き出てきた。


「勿論、上からも降らせることが出来る」


そう言うのと同時、俺の周囲は光の槍で囲まれてしまった。


が、影が背後から攻撃をする。


決まる、そう思ったその時、


「よく考えているが、ファフニルがよくやる手なんだよなそれ」


そういって、黄金の剣で背後の影を突き刺す。影は攻撃する間もなく消滅した。


「うーん、まだまだだな。まだ幾つも技があるのだが、今のままでは死んでしまうから見せようがない。とりあえず、氷の魔術やら何やらに頼るのはよせ。雷竜だろ、雷の魔術で勝負せよ」


「と、言われても制御が難しいだろう」


「まあ、確かに。基本的に天候操作の魔術だしな。雷を落とすのも安定感がない。が、狙って出来ないこともない。膨大な魔力を使うことで狙い撃ちすることが可能だ。使い道は限られるだろうが」


それはとてつもなく強い魔術だと思った。てっきり天候や、近接で人を操る能力しか有していないと思っていた雷の魔術だが、どうやら攻撃にも転化出来るようだった。知らなかった。


「良いか、ヴェルファリア。お前はこれから強くなる。きちんと魔力を操るのだ。雷の魔術、きちんと使いこなしてみせよ。まずは初歩、雷竜の爪から試してみよ」


「試してみよ、と言われても。具体的にどうするんだ」


掌に雷の魔力を込めた事はあった、だが周囲の空間に雷の魔力を放出などしたことがない。


「何、氷の魔術と要領は同じだ。ただ、難易度が桁違いなだけで」


とにかく周辺に魔力を集中させる。と、同時に自身の羽がさらに黄金色に輝くのが目に見えてはっきりと分かった。ばち、ばち、と電撃が走る音がする。


「そう、その調子だ。その電撃が走った瞬間を逃すな。電撃を捕まえる感覚だ」


さらに魔力を込める、もっと、もっと。


そうして目の前に掌を出し、電撃の塊を想像し、創造する。光の玉のようなものが出来た。


「おぉ、凄いな。いきなり出来るか。後はそれを槍状にすれば一本完成だな」


はっはっは、笑いながらそう言われて冗談じゃないと思う。


ここから形態を変化させることはとてつもなく難しいことだった。


「出来るか、出来るかなあ」


煽ってきて、それが癇に障った。


「待てよ、案外こういう使い方も出来るんじゃないか」


その軽い苛立ちが、新しい技を俺に繰り出させようとしていた。


俺は一足飛びでバルバロッサに近づき、羽から魔力を噴出し加速。光の玉を直接殴りつけるように、叩きつけるように思い切り押し付けた。


「は、嘘だろ!?」


思わずバルバロッサが防御の姿勢を取る。あまりの速度に防御しか出来ないようだった。


「な、直接使う奴があるか!」


「ええい、いきなり槍状になんて出来るわけないだろう、流石の俺も頭に来た」


そしてそのまま光の玉を投げつけるようにバルバロッサに当て、バルバロッサが後ろに少し飛んだ。地面を擦る音がした。


どうだ、一発くらわしてやった。


「ほう、やるではないか。油断した。まさか飛び込んでくるとは。が、今はとにかく飛び道具として使えなければ戦いにならぬ、と教えたいのだが」


そう言うなり、バルバロッサの魔力がさらに増大し、羽が黄金色に輝く。桁違いの魔力だ。


「ちなみに、近接攻撃とは、こういう物を言うのだ」


そう言った瞬間バルバロッサが目の前から消えた。


ミリアとは違う、歩法に工夫等と言った物ではない。消えたように見せる技法ではなく、本当に視えなかった。


───早すぎて。


「がっ!」


消えたと思った瞬間、俺の腹にバルバロッサの拳がめり込む。さらに回し蹴りが入り、俺の身体は後ろに飛ぶ。そして壁に直撃し、あまりの衝撃で意識が遠のいた。


瞬間、上から下から光の槍が格子状になり、俺の周囲を囲んだ。まるで牢屋のようだ。


「しばらくそこで頭を冷やすんだな」


そう言った瞬間、バルバロッサがごほっと咳をした。口から血が出たように見えた。


「お、おい。だ、大丈夫か」


と、光の槍に触れた瞬間ばちり、と反発する。


「今ので十回は死んでいたな、普通ならば」


まあ、命が十もある化け物はいなかろうが、もしいれば、の話だがとバルバロッサは続けた。


「え」


「その光の槍、通常の人間が触れれば即死する。お前の魔術抵抗が高いおかげで死なないだけの事で。さらに先ほどの通常攻撃の一撃一撃にも電撃、雷撃、ありとあらゆる雷の一撃を加えてやった、にも関わらず意識が飛ばないだけ、見事よ」


そう言ってバルバロッサはその場に座った。


「良いか、ヴェルファリア。ファフニルから教わった技法は、それはそれで尊いものだ。魔族としては最上位にあると言っていいだろう。が、竜族は違うのだ、持っている魔力、魔力の使い方が。戦い方が」


残念そうに、バルバロッサは言った。


「俺は、やはり信用されてはおらんか」


「い、いや。そんなことは」


あった。確かに親父、ファフニルに教わった戦い方そのものだった。さっきの光の玉を直接叩きつけるのだって、従来の近接攻撃となんら変わらない。強いて言うなら内面強化して殴るか、雷の魔力の塊を直接叩きつけるかの違いで。


勿論、そこで生死の差はあるだろう。明らかに雷の魔力を叩きつける方が圧倒的に強いし、何より雷の魔術を打ち消せる、若しくは抵抗出来る者など竜族しかいまい。


が、今はそういう問題ではないのだ。純粋に、その戦闘方法に明らかに問題があったのだ。


「どうする、お前がその調子では何の意味もなさぬよ」


俺の心を見透かすようなその一言が、俺の心に突き刺さった。


別にバルバロッサを疑っていたわけではない、信じていないわけでもない。


だが、信じているわけでもなかった。心の何処かで、基本は同じ、と考える所があった。


違う、違うのだ。根本的に、戦い方が。


ここまで圧倒的な差を見せつけられ、それで尚こうして身動きすら取れずにいる。その結果が全てを物語っていた。


───俺は、俺は。


「すいません、私が、間違っておりました」


光の牢屋の中で、俺は自然とバルバロッサに土下座をしていた。


おそらく、ミリアが見ていれば「最低です」と言われただろう。


リリスが見ていれば「そのような情けないこと、なされないで下さい」と言うだろう。


土下座をしながら、そんなことを思う。


事実、情けなかった。


けれど、何より俺自身の心のありようが、一番情けないと、俺自身思った。


この王は、本気で、本当に俺に全てを教えようとしているのだ、と改めて思い知った。


「面を上げよ、ヴェルファリア。分かってくれたなら良い。俺も事を焦りすぎた。親子として何もしてやれなかった焦りがそうさせたのだ。すまぬ」


そう言われ、顔を上げる。


「お前がファフニルを尊敬していることは承知している。だが、分かって欲しいのだ。俺が、本当の父で、全てを受け継いで欲しいのだと」


バルバロッサは懸命に訴えてきた。


「すいませんでした、父様」


王に、この大陸の王が、俺に、ただ一人俺のためを想い、接してくれている。この事に、俺は感謝が足りていなかった。


心の何処かで「それもそうか」と、「当たり前」だと考えていた。


だが違う。これは実際、王の役目ではない。王が、ただ一人のために時間を割くなど本来ないことなのだ。


知らず知らずのうちに、そういうことを忘れ、思い違いをしていた俺の罪は重い。


もし許されるとしたならば、最初に公言した通り、「全てを受け継ぐ」事でしか許されない、そう思えてならなかった。


「王よ、父よ。今一度、どうか、この私に機会を」


思わずそう言っていた。焦っていたのだろう、気づけば今一度土下座をしていた。


「そう滅多に頭を下げるものではない。良い、ちょうど良いからその光の槍、打ち消してみせい」


「はっ」


先ほどまで羽で抵抗するのが精一杯だった。だが、しかし。さらに魔力を高め雷の魔術妨害、否。魔術反射まで扱えるようにならねば戦いにはなるまい。


心を入れ替え、俺は魔力を静かに、焦らず高め羽に集中する。目を瞑り、羽にのみ意識を集中する。


感じる、周囲の魔力を。その周囲の魔力を羽に吸収させるように、魔力を調整していく。


と、同時に。


パリン、と割れる音がした。目を開けると周囲の光の槍が折れていた。


「どうやら、出来たようだな。雷の、否。全魔術妨害の意味、分かったか」


「はい、魔力の塊を羽で吸収するのですね。若しくは魔力そのものを砕く、という表現が正しいか」


「良い、そのようなものは感覚だ。出来れば良いのだ。では、次。先程も言ったが最も初歩的な雷竜の爪から、練習せよ」


「分かりました」


王の、父の言葉にただ頷き、俺は魔術の練習に励んだ。


その日、俺は雷竜の爪の初歩的な使い方を覚えた。


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