初夜(後編)
性描写があります、ご注意下さい。
大浴場に行き、着替えがないことに気づき、「済まない、着替えがない」と言った所で、それは大丈夫です、とミリアに言われる。
曰く、着替えは向こうで用意してくれているらしい。至れり尽くせりとは将にこの事だろう。
服を脱ぎ、扉を開けるとそこには別世界が広がっていた。
大浴場は豪華だった。全て石畳で出来ており、柱等も美しく凝った作りをしていた。水は、きっと魔術師を使って水を入れさせ沸かせているのだろう。
しかしこれだけ大きな浴場に一体何人の魔術師を使って水を入れているのだろうか。等と疑問に思いながら身体を洗い、湯に浸かる。生き返るようだった。いい湯だ、そう思う。
そう、いい湯、のはずなのだが。
「ちょっと、お母様。どうしてヴェルの隣にいるのですか」
「くすくす、いいではありませんか。息子の隣にいて何が悪いと言うのでしょうか」
両手に花、とはこの事だろうが、どうにも生きた心地がしない。さらに正面には途中合流したリリスもいた。
「ヴェル様、どうにも納得がいかないのですが。本当にわたくしは寝ていたのですか?」
曰く、リリスもまた俺と合流したような気がする、と言うのだ。
うん、まあそうなんだけど。まさか殴って気絶させたとはやはり言えず、
「またその話か。お前達は寝ていた、邪魔しては悪いと起こさなかった。もう済んだ話はいいだろう。今はゆっくりと湯に浸かりたい」
さっさと話を切り上げたくてそう言っていた。
リリスは納得のいかぬ顔をしながらも引いてくれた。
「お母様、ちょっと。ヴェルの手をどこに持って行こうとしているのですか?」今度はミリアだった。
「あらあら、ヴェルファリア様いけませぬ。どこを触ろうとしているのですか」
村正さんが微笑みながらそう言ってくるが、こちらは何もしようとしていない。無実だ。
ええい、落ち着いて風呂に入れないではないか。
「ちょっと、済まない。俺は端っこで一人風呂に入るから三人で風呂に入ってくれ」
少し苛立ちながらそう言い、俺はゆっくりと移動した。三人は向こうで何やら話しているようだった。やれやれ、仲がいいな。
しばらく入っていると、出ます、と誰ともなく言われ、そうか、と答えておいた。三人が出て行き、一人となる。
こんないい暮らしをしてたんだな、バルバロッサというのは。やっぱり凄いな。この城もどれだけの費用をかけて作ったものなのだろうか。年月もきっとかかったに違いない。
さて、そろそろ上がるか、と思った時、扉が開き、
「ヴェル、着替え、置いておきましたから」
ミリアがそう言ってきた。
「ああ、すまない。助かる」
そう言って出て、準備された着替えを見て、これを一体どうしろと、と思った。
傍にいるミリアに、
「これは、なんだ?」
思わず尋ねていた。
「バスローブと言うものです。それ一枚着ればいいのです」
見ればミリアも一枚バスローブを羽織っているだけである。何とも色っぽい格好である。
「あの、俺の服は?」
「あれは処分です。大体、結婚式で何故弓兵の服なんですか。もっときちんとした服があったはずです」
と、済んだことを言われてしまった。思わずしょんぼりする。
あれしかなかったのだ、仕方ないではないか。そう思っているのが顔に出ていたのか、ミリアはくすりと微笑み、
「大丈夫です、きちんとヴェル用の服を準備してもらっています。お父様に言っておきましたから大丈夫でしょう」
「そうか、何から何まで済まないな」
気が回るミリアに感謝した。
「それでは、参りましょうか」
「参る、とはどこにだ?」
「ヴェル、決まっているでしょう。昼食を運んで貰っています、その部屋で。これ以上は言わせないで下さい。リリス、姉さんは先に行ってます」
と、言われドキリとした。そうか、昨日は酒で飲みつぶれた形になったが、代わりに今日ミリアとリリスを抱くのか、と思うと少し気恥ずかしくなった。
部屋につき、ミリアが扉を開ける。
部屋の中は別世界のようだった。赤絨毯が引いてあり、豪華なベッドや調度品がこれでもか、と置いてあった。
「第一王妃がここを、とのことです」
ミリアにそう言われ、部屋に入り唖然とした。凄い、豪華だ。絢爛豪華、と言う言葉があるが、こういう時に使うのかもしれない。
ベッドもただのベッドではない、屋根がついていて、薄布が垂れ下がっているベッドだ。
見たこともないぞ、こんなベッド。
きっとふかふかなのだろうな、とベッドに乗ると、おお。本当にふかふかだった。
「ヴェル様、凄いでしょう」
先に来ていたリリスが椅子に座りながら言ってくる。
「お、おお。すまない、ベッドの方に目が行っていた」
リリスに挨拶する前に思わずベッドに飛び込んでしまった。
そのリリスの格好だが、リリスもまたバスローブ一枚であった。
「喉が渇いたな」
「コップはあるので、水は私が入れましょう」
と言うなり、ミリアは水の魔術でコップに水を注ぎ、はい、と渡された。ごくり、と飲むと冷たくてとても美味しかった。さらに、そばにある机に昼飯らしきパンが置いてあり、それを三人で食べ、水を飲み終えた。
「さて、ヴェル。どちらから抱きますか」
ミリアだった。単刀直入である。
「突然だな、まあ、二人同時に、という方法もあるが」
影の魔術を使えば二人同時に相手をすることも可能だ。不公平もなくていいだろうと思っていると、二人はとたんに不機嫌な顔をし、ありえません、とリリスに言われ、ないですね、とミリアに言われてしまった。
「いいですか、ヴェル。これは初夜なのです。女にとって大切な日、いいですか」
いいですか、と二度も念を押されて、うむむ、と唸る。
「そうですヴェル様。ここははっきりどちらから抱く、と決めねば」
「分かった、じゃあ先にリリスから。次がミリアだ」
そう言い、二人の顔を見ると、特に不機嫌そうな顔はしていなかった。どちらも抱くのだから問題はない、ということだろう。
「そうだ、な。ミリアはそこで見ていてくれ。やり方が分からんだろう」
「え、あの。見て、いればいいのですか」
ミリアが珍しく、あらぬ方向をちらちらと見ながらそう尋ねてきた。
「そうだが、何か問題があるのか。だってそうだろう。ミリア、お前は初体験なわけだ。きちんとやり方を見ていて欲しいわけだ。最初は痛いらしいしな」
「わ、分かりました。ヴェルが、そこまで仰るなら」
そう言ってミリアはベッドの少し離れた所に椅子を持って行き、そこに座った。こちらをじっくりと観察できるように、という事だろう。その様子に無言で頷き、
「リリス、では。大丈夫、か」
「あ、はい。抱いて、下さい。出来れば優しく」
リリスが胸元で手をもじもじさせながらそう言ってきた。
「何を言っているんだ、当たり前だろう」
それからは、リリスの髪を優しく撫で、文字通り優しく抱いた。
リリス一人で果てていることが圧倒的に多かったが、俺は気にしなかった。
「一人で果ててばかりで、ごめんなさい」
リリスは消え入るような声で最後にそう言い、気づけば気を失ってしまっていたようだった。
すいません、ではなく、ごめんなさい、と言う辺り相当気にしていたようだが、気持よくなってくれたならいい、と寝ているリリスに一言言っておいた。
そしてその様子を観察していたであろうミリアに、
「どう、だ。大丈夫か?」
と声をかけると、
「ひっ」
と言われて驚いたし、普段ならミリアが驚く所を見る場面が少ないので面白く笑いそうになったがそれは堪えた。
あまりに熱心に見ていたらしく、突然声をかけられて驚いた、という所だろうか。よっぽど熱心に見ていたんだな、と関心した。
「よく見ていたようだな。どうだ、次はお前の番だが。まあ、リリスがしばらく動けそうにないからもう少し後になるが」
ベッドでぐったり倒れているリリスを見ながらそう言う。
抱いている途中、普段ならば見せない表情をし声を出すリリスを見ていると興奮し、激しく抱きすぎたかもしれない。
そうだよな、普通に考えたら高嶺の花、とも言えるか。普段においては魔族軍の将。一兵卒の俺が当然抱けるわけも、本来声すらかけれない、か。
そう考えると、結婚もだが、こうして抱くことすら本当に良かったのかと思ったが、考えた所でどうにもなるまい、と首を振って考えるのをやめた。
と、そこで、
「怖い、です」
「え」
突然だった。ミリアの口から、怖い、と言う単語が出てきて驚いた。
「何が」
怖いのか、と続けようとすると、ミリアは、
「普段はリリス、姉さんはあんな声だしません。あんな大声も、嬌声も」
「それは、そうだろうな」
普段からあんな声を出していたら、それはおかしな話だろう。
「まるで人が変わったように。私も、自分が自分でなくなってしまうのかと思うと」
「そう、か。ならばやめるか?」
別に無理強いする必要はなかった。怖いというなら別に抱かなくても問題はない。要は一緒に過ごせばいいだけのことで、結婚したからと言って必ずしも抱き合う必要はないだろう。
「ヴェル、本気で、言っているのですか」
ミリアの声は震えていた。
どうやら何か勘違いさせてしまったらしい。
「いや、何故そうなる。怖いと言うなら無理してまで抱き合う必要はないと考えていただけだ。結婚したからといって無理してまで抱こうとは思わない。お前の気持ちを尊重しているだけだ」
「それは尊重しているとは言いません。はなから抱こうと、興味を抱いていないではありませんか」
「そうではない、と思うが。じゃあどっちなんだ」
多少苛立ちを隠せず言ってしまっていた。
「抱いて欲しいに決まっています。けど怖いのも」
「分かった、ならこっちに来い。まずはゆっくり抱きしめる所から始めよう」
いきなり抱こうとするから怖いのだと思った。だから最初は優しく抱きしめる所から始めようと、そう考えたのだ。
ミリアは言われるまま俺の傍によりかかり、俺はそれを後ろから抱きしめ耳の傍で、
「これでも怖い、か?」
と、尋ねると、
「いいえ、温かい、です」
と、そう囁くように返してきた。
「そうか、ならばしばらくこうしていよう」
リリスが気づき、ベッドから降りるまで俺達はそうしていた。
リリスは起きるなり、ただただ、すいません、と言い、ベッドを降りた。
「謝る必要はない、と言ったが気を失っていたか。良かったか?」
「とても、良かったです」
その言葉に俺は内心安堵し、
「そうか」
と、一言言い、満足し頷くのみであった。
「あんなに激しいなんて、思わなかったです」
「ん、そうか?」
「は、はい。また、何度でも、抱いて下さいませ」
リリスは頬を赤らめながら小声でそう言った。
「そうは言っても、な。リリスとそう滅多に会えないと俺は思うぞ」
もう何度となく考えたこと。リリスは将で、俺は兵。その事がどうしても頭から離れなかった。
「いかに義兄弟の誓いをしようと、例え結婚しようと、やはりお前との距離は縮まらない、そんな気がする」
「結婚を理由に将を辞退します」
「何を馬鹿な。結婚したことは黙っておけ。いいな」
「いいえ、そうは参りません。きちんと副部隊長に報告しておく必要があるでしょう」
「部隊長はこの事を知っているのに、か。改めて報告する必要があるだろうか」
「どうでしょうか、しかしわたくしを将に任命したのは副部隊長です。報告義務はあるのでは」
「それも、そうか」
と、言った所で、
「あの」
傍にいるミリアが俺の腕を引っ張ってきた。
「ああ、すまない。ミリアの番だったな。出来る限り優しく抱くから」
「はい、お願い致します」
怖いとか言っていたがミリアの方が激しかった。最初は、痛い、とおとなしくしていたが、しばらくすると慣れてきたのか、自ら俺を求めてきた。
途中からは、
「上からだとやられっぱなしのようで嫌だ」
とミリアが言い出し、ミリアが上に、俺に跨る形で抱き合った。
事が済んだその後、
ミリアは息を切らせながら、
「これは、いいですね。癖になりそうです。こんな心地よい事があったなんて」
と言っていた辺り満足したのだろう。
「そうか、良かったな」
その後も情事は続く。
昼夜分からぬ部屋だからいつまで抱き合っていたのかは分からない。
最初は交互に抱いて、途中からは一緒に抱いて。気づけば三人ベッドで寝ていた。ベッドが大きくて良かった、と思う。
真ん中に俺が、両手にそれぞれミリアとリリスがすやすやと寝ていた。
その二人の幸せそうな顔を見ながら俺も満足し、最初に邪魔だとばかりに振り落とした布団をそっと引っ張りあげ、三人の上にかけ眠りにつくのであった。
ご助言有難うございました。




