表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/85

承諾

薬草スープを飲みながら、二人から一週間の間に起こった出来事を掻い摘んで説明してもらった。


おじさんが言うには遊撃部隊の設置は無事認可されたらしい。が、隊長はミリアだ。俺が不在だったのもあるが、軍団長の娘の方が何かと話が通りやすかったらしい。晴れて二人目の女性部隊長が生まれたわけである。


そして部下が俺、のみ。何とも心許ない部隊がここに誕生したのであった。


別段陰口などは叩かれてはいないが、娘だから色目を使ったと言われてはいけない。気を引き締めねばと思う。


そんな俺の気持ちとは裏腹に、ミリアは呑気なものだった。特に部隊を盛りたてるわけもない。まあ、俺がいないから盛り立てようもないだろうが・・・。


いつものようにこの幕舎で生活していたらしい。そして俺を待ち続けたのだとミリアが付け加えて言われ少し心が痛んだ。


「そういえば結婚の話はどうなったんだ?」


「満場一致で結婚しても良いということになった」


おじさんが嬉しそうに言って来る。


「何故、と聞いていいか?」


「そうだな。ファフニルが言うには男は守る者があったほうがより大きく成長出来るのだと言っていた。まあ、あいつも苦労してきているから、とお前に言っても仕方ないなこれは」


それに頷く。おじさんはこう続けた。


「バルバロッサもミリアのことを痛く気に入ってな。人間の血を色濃く引き継ぎながら。まあ、羽もねえしなミリアは。人間の血の方が強いだろう。唯一俺に似たのは武の流れくらいか。話を戻すがバルバロッサはその武力が気に入ったらしい。ロゼッタに対してあそこまで戦えるのは相当だと」


「俺もそれは思った。だが、だからこそいいのかと思う俺がいる。ミリアは、俺より強い。それは相当に。魔術の力や竜の力なしにミリアに勝つことは不可能だろう」


「逆を言えば武力以外では勝ってるわけだろ、相性もいいんじゃねえかとなったわけだ」


「そういうことか」


だが、問題があった。見ればミリアは前に座っているが先程から無言である。相当に機嫌が悪いらしい。理由はおそらく一週間もの間ロゼッタと情事に耽っていたからだろう。いや、本当に一週間なのかと疑問に思うが、ミリアが一週間というのだから一週間なのだろうな。


「だが、ミリアはこの通り不機嫌なようだ。結婚など無理ではないか?」


ミリアは無言でこちらを見るのみである。


「話にもならんか、ならばこの話はなかったことに」


そう言いかけた時、ミリアが口を開いた。


「まずは謝罪の言葉を。あの場には婚約をしにいったはず。その私をおいて他の女と抱き合うとは破廉恥です」


「すまない」


「心が篭っていません」


「すまないな、篭め方が分からない。俺には人の心を解する能力はないらしい」


「喧嘩を売っているのですか?」


「何故そうなる。正直に言えば悪いことをしたとは思っていない。ロゼッタを一時的にでも満足させられたのだ。そうすることで命を狙われる心配もなくなったし、決して悪くはないだろう。こちらは命を狙われていたのだ。だがロゼッタは俺という存在を認めてくれ、一時的にとはいえ愛してくれたのだ。心の片隅では色々思う所はあったであろうこの俺を」


「ロゼッタ・・・?ロゼッタですって?」


そう言われて、しまった、と思った。そう、この一週間の間に「王妃」ではなく「ロゼッタ」と呼ぶようになっていたのだ。それほどの仲にまで進展していたことにミリアの怒りの表情を見て気づいたが遅かった。


「あの女をロゼッタと親しみを篭め呼び捨てにまでするとは。貴方はそこまで堕ちたのですか!」


「堕ちた、か。いや、元々堕ちていたのだと思う。ミリア、お前は最初から高潔で、俺は落ちぶれていた。それが明確になっただけではないか?」


「ご自分のことを悪く言うのはお辞め下さい!」



「ミリア、お前は俺をどうしたいんだ?責めたいのではないのか?」


するとミリアは首を振り、


「違います!貴方は私に何か言葉はないのですか?帰ってくるなりこの一週間の話を頼む、ですよ?それは怒りたくもなります。私たちは婚約者なのですよ?」


その言葉に少し考える。


「婚約者、確かにそうだ。命を救ってくれたことに感謝をしている、このことを忘れていたのは申し訳なかった」


「私が言いたいのはそういうことではありません!」


「では、どういうことなんだ?」


「ただいま、とか」


ただいま、と言う単語を聞いて首を傾げた自分がいた。


別にここは俺の帰る場所ではない。そう思っていると、ミリアが泣きだした。


「貴方は、では尋ねますけど、貴方の帰る場所はどこなのですか。私は貴方を待っていました、ずっと。いつ帰ってくるのか心配もしました」


「それは、お前が勝手にしたことではないのか?」


「そう、ですね。そうですけど、好きな人を待つのに理由がいるのでしょうか。そこまで合理性が必要ですか?」


そう言われて考える。


別に合理性とは言わない。ただ、意に沿わないと思っただけだ。


「ミリア、ミリアが俺を好きなのには驚いた。この短期間のうちに俺を好きになってくれたことは嬉しい。何故、とは言うまい。ただ、俺からも言うべきことがある。俺は、お前を好いてはいない。正確に言おう、遠慮している」


「何故」


何故、と来たか。


「お前は、俺には過ぎた女性であることは周知の事実だろう」


「だったら貴方が私を超えればいいじゃないですか!」


「それは、無理だ。お前は眩しすぎる。太陽のようなものだ。それを超えることは不可能だろう」


「何故最初から諦めるのですか。望まずにそうなることは出来ないでしょう」


「何故望む必要があるのか理解しかねる」


「貴方は・・・!」


そう言うなりミリアは走って幕舎を出て行った。


「おいおい、お前は馬鹿か。この先結婚するのだからと黙って聞いていたがわしは呆れたぞ」


「おじさんには俺の本音を語っておこうと思う。ロゼッタを抱いた時、ロゼッタは俺とバルバロッサを重ねていた。その時、俺はとても複雑な気持ちになったんだ。別に好いてくれているわけでもない、俺を愛してくれてもいない。にも関わらず俺を抱いているロゼッタを見て」


おじさんは黙って聞いてくれていた。だから続けた。


「俺もまた、ミリアをいざ抱く時になった時。ひょっとするとリリスのことを想い、重ね抱くかもしれぬとそう思ったんだ。そう思ったら自分が嫌になってしまった。目の前にミリアがいるのに、それとは別にそこにおらぬリリスを想いミリアを抱くのかと思うと。もしそうしたら俺は最低な奴だと自己嫌悪するだろう。ならば最初から抱かない方がいいだろう。その方がお互いのためだと思う」


ロゼッタを抱き、満足感も得たが同時に空虚な気持ちにもなった。ロゼッタを一時的に愛した所で彼女はバルバロッサの妻。では俺は一体なんだったのだ?


ロゼッタを満足させるためだけの道具だったのか?


心の何処かでそう思わずにはいられなかったのだ。


「分かった、そうミリアに伝えよう」


おじさんは一言、そう言うだけだった。


「その上でミリアが結婚したいと言うならば、俺は結婚しよう。それを承知の上で結婚するならば。そんなことはないだろうと思っているが」


するとおじさんはニヤリとし、どうだろうな、と一言言うだけであった。


「まあ、気分転換でもしてこいよ。皿はわしが片付けておく。湖にでも、どうだ?静かな風景を見て心を落ち着かせることも大切だとわしは思う。後そのボロボロの服、着替えとけよ。新しい服適当に取り寄せてやるから」


そう言われ、俺は言われたとおり服を着替え、湖に向かった。


湖につき、木陰に座り湖を見ながら思う。


俺は一体何をしているのだろう、と。


ミリアと結婚の承諾を得るために俺はあそこに行った。結果として承認されたようだが、実感が湧かなかった。


結局俺はどうしたいのか。


色々と言い訳をしたが、結局の所ミリアを愛する自信がないだけではないか。


そうだ、別に好きでもない。ただ親が決めただけの許嫁。


別に悪い女性ではない、むしろ何度も言うように過ぎた女性だと思う。そんな女をどう愛せと言うのだろうか。


よく分からなかった。


「そういえば、この湖にリリスとまた来ようと約束をしたっけか」


ふと、そんなことを思い出していた。


しかし、その約束は果たされることはない。


そんなことを考えていると、魔力が一つ近づいてきた。


こんな所に一人誰だ、と木の裏に隠れ様子を伺う。


「ヴェル、いるのは分かっていますよ」


ミリアの声だった。こちらに向け声を出しているあたり、隠れているのはばれているらしい。


リリスではなかったか、と心の何処かでそう思い、ため息をつきながら出た。


「何をしにきた」


「貴方に再度結婚を申し込みに」


ミリアは微笑みながらそう言ってきた。


その言葉に俺は言葉を失った。何を言っていいのか分からなかったからだ。


「どうして」


それがやっと出た言葉であった。この言葉一つ出すのに数分かかったと思う。


するとミリアは、そっと俺を抱き寄せ、


「お父様から話は聞きました。それで思ったのです、貴方は可哀想な人だと」


「俺が、可哀想?」


「そうです。だって、貴方に好意を向けてくれた人が今までいなかったのでしょう?」


確かにそうだった。それを否定することは出来なかった。


いや、一人だけいたか。それは───


「いいえ、一人いましたね。リリスです。あの方だけが貴方に真っ直ぐに想いを伝えてきた」


こちらの気持ちが読める、そう言っているかのようだった。将に同じ事を考えていたのだから。


「そしてさらに私が貴方に告白し、貴方は戸惑っている。では、私からすれば答えは明白です」


「明白・・・?」


「そうです。ヴェル、私を抱いて下さい。別にいいのですよ、リリスを私に重ねても」


「何を、馬鹿なことを言っているんだ!」


思わず叫んでいた。そう言って傍に寄っていたミリアを突き放した。ミリアは手を広げ、微笑みながらこちらに近づきこう言った。


「最初はそれでもいいです。私はきっと貴方の頭からリリスのことを忘れさせてみせる。私だけ見てくれるまで貴方を愛し続ける。絶対に振り向かせてみせる。だから、貴方の好きなように私をお抱きなさい」


ミリアの覚悟は本物だった。


「お前を傷つけることになるのかもしれないんだぞ、本当にいいんだな?」


「往生際の悪い男は、嫌われますよ?」


ミリアは意地の悪い顔をしながらそう言い、こちらに近づいてきて抱きしめてきた。そうして静かに口づけを交わす。


「俺は、弱い男だぞ、それでも───」


「知ってます、全て。その上で貴方を愛してみせます。愛し、続けましょう」


もはや言葉はいらなかった。


ただ、無言でミリアを抱きしめ、口づけをした。


その日、俺はおじさんにミリアとの結婚を承諾した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ