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開幕

大きな扉が開けられ、中に入る。そこには、机も椅子も何もない石畳で出来た大きな部屋があるだけであった。


何故このような大きな何もない部屋を作ったのかは分からない。巨大な何かを入れようとしたのだろうか?


───と


全員が入ったのを確認したのだろう。扉が大きな音を立てて閉められた。


「さあ、行くぞ」


前を行くおじさんがそう言い、前に進む。俺達もそれに無言で従う。


進んで行きながら周囲を確認するが、取り立てて何もない。強いて言うなら壁に松明が灯されているだけであった。


「連れてきたぞ、待たせたな」


部屋の中程まで来ておじさんがそう言う。そしてそこには親父が腕を組みながらおり、隣には見たこともない身長2mはあろうかという大男が一人いた。立派な服を着ており、金色の髪に、金色の髭を生やし、顔は傷だらけである。こちらから見て右側なので向こうからすれば左目になるのか黒い眼帯をしている。


おそらくこの男こそがバルバロッサだと、俺は思った。


「紹介しよう。まあヴェルには不要かもしれないが、このちびっちい方がファフニル」


おい、ちびとはなんだ、と親父が言っている。内心苦笑した。まあ、確かにおじさんやバルバロッサと比較したら小さい。俺よりは断然大きいのだが、比較対象が悪すぎる。


「で、この大きい方がバルバロッサだ」


「バルバロッサである!」


紹介を受けた大男が声を発する。大きい声だった。強面な顔付きでとても威圧的な声だ。が、威厳は何故か感じなかった、何故だろう。


そう、威圧的ではあるのだがどこか親しみを感じた俺がいた。


が、ミリアとリリスはそうでもないらしい。見れば小刻みに震えていた。


確かに強大な魔力は感じる、だがそこまで怯える必要があるのだろうか。思わず首を傾げていた。


「で、さらにもう一人」


そうおじさんが言いながらこちらを見て、ニヤリとした、気がした。


スッと、奥からバルバロッサの隣に出てくる一人の女性。全身黒ずくめの女、髪はすらっと長く漆黒、目も黒。肌は健康的、かは分からないが白いが対照的に着ている服は真っ黒。胸元が大きく開いたドレスを着ている。


よくは分からないが、大きなスカートを履いていて動きづらそうだった。よくこんな服着れるな、綺麗だけど。


見たところ、高貴な女性であることは分かった。今までこんな格好をした女性は見たことがない。


いや、一人いるか。リリスがフリルドレスだ。


が、質が違う気がした。何と表現するべきか。そう、この女性が身に纏っているドレスはきらびやかなのだ。


と、よく見て例えではないことが分かった。よく見れば本当にキラキラと妖しく光っていた。


「ふぅん、この男の子があのファフニルとエルグランドとの子なの?」


女性がこちらを品定めするように見て興味なさそうにそう発言した。


おじさんが女性に深く頭を下げながら、は、と一言言い、今度はこちらを向き、


「───こちらが第一王妃のロゼッタ王妃である」


と言ってきた。


───は?


思考が停止した。


ま、て。


「すまない、よく分からなかった。もう一度、言って欲しい」


なんとか言葉にする。


すると、おじさんは向こうの三人に見えないようにこちらを見、ニヤリとしながら、


「第一王妃のロゼッタ王妃である」


と、力強くはっきりした口調で言った。


「うふふ、緊張しているのね。ロゼッタよ、よろしくね」


「は・・・、よろしくお願い致します」


咄嗟の事ではあるが、なんとか頭を下げ挨拶する。


頭を下げながら、これはどういうことだ、と考える。考えるが分からない。


一体何を考えてる、親父におじさん。


「バルバロッサである!」


考えていると、また大声が聞こえた。それに内心ビクリとする。それはさっきも聞いたぞ?


「あ、もうそれいいから」


親父が言う。


「ああ、そう?最初が肝心だと思ったんだよな。あ、お嬢さんたちごめんね、驚いた?」


頭を上げ、バルバロッサと名乗った男を見ると先ほどの強面の男とは思えない優しい顔でこちらを見ていた。


ティルファングが語っていたバルバロッサという人物とは大きくかけ離れたただの優しい大男が、そこにはいた。


なんだ、あの全身血を出しながらも戦っただとか赤雷帝だとか。


───全然違うじゃないか!


心の中で思わず叫んでいた。


もはや威厳も何もない。


「もう、驚かしすぎよぅ。三人とも驚いてたじゃない」


ロゼッタが右手に持っていたのだろう扇を広げて口元を隠しながら微笑み、言う。


すまんすまん、とバルバロッサ。そしてそれに笑いかけている第一王妃。


なんだ、この構図は。


「それで、ここに呼ばれた訳は?」


俺が問いかけた。もう考えるより聞いた方が話は早いと思ったからだ。


どうにも思い違いをしている気がする。


そう、俺はミリアと俺との結婚の話をするのだとばかり思っていた。そして俺の生まれのことをどう隠蔽するか、今後の対策を練るのだと。


だが実際はどうだ。第一王妃が居る、このことがこの考えは間違いだと言っているような気がした。


そうだ、俺の正体を隠すなら第一王妃はここにいるわけがない。大前提ではないか。


「そうよ、私も何故呼ばれたのかわからないわ」


ロゼッタが言う。


この一言から第一王妃には何も知らされていないことは分かった。


が、確かに呼ばれた理由が分からなかった。


するとバルバロッサが笑顔で、


「いや何、俺の息子を紹介しようと思ってな」


と、言い出した。


───馬鹿な!


「───は?」


ロゼッタの扇を扇ぐ手が、その一言で止まった。


「何ですって?」


雰囲気が一変した。周囲の空気が明らかに変わる。背筋が凍った、それは比喩ではない。部屋の温度が急激に冷え、急に寒くなったのだ。


震える、手が、足が。寒くて動かない。


ごくり、と唾を飲む。


パシン、と音がしてはっとする。ロゼッタが扇を思い切り閉じた音であった。


「今、なんて仰ったの?」


「いや、だから俺の息子を紹介する、と言ったんだ」


バルバロッサはあくまで笑顔でそう言うのみである。周囲もそれを止めようとはしない。


おじさんが部屋の奥の方に静かに歩いて行くのが目に入った。


この状況を何とかしようとは思わないのか?


───と


「王妃、大変申し訳ございません。今まで隠しておりましたが、これは私の息子ではないのです」


親父だった。


一体何を、と思っていると親父が言葉を続けた。


「王妃、落ち着いてお聞き下さい。こちらはバルバロッサ王とエルグランド様の子なのです」


「何を馬鹿な!冗談でしょう?そんな馬鹿げた話信じられるわけないじゃない!」


それはそうだろう。王妃にしてみれば突然の話、信じられるわけがないはずだ。


・・・そうか。敢えて真実を話すことで王妃を逆の意味で安心させようという考えか。


こんな突拍子もない話、一体誰が信じられようか。十数年も経って突然こんな話を告げられて誰が。よく出来た嘘にしか聞こえない。


実際俺が信じられないのだ。他人が突然言われて信じられるわけがない。


「信じられないでしょうが真実でございます。何ならば試されてみては如何ですか?」


親父がそう薦める。


「試す?試す、とは?」


ロゼッタが尋ね、親父が、こう答えた。


「はい、王妃。あれに暗黒剣をお使い下さい。暗黒魔術を打ち消せるのはバルバロッサのみです」


「いや、けど。貴方の息子が死ぬことになるのよ。いいの?」


「ですから王妃。あれは私の息子ではありません。バルバロッサの息子なのです。バルバロッサの息子が暗黒魔術を消せぬはずはございますまい」


「いいのね?本当に死ぬわよ?」


何度となく確認するように親父と俺を見るロゼッタ。戸惑っているようだ。


「くどいぞロゼッタ!」


バルバロッサだった。そうしてバルバロッサはこう続けた。


「では尋ねるが、あれが俺の息子だとしてお前はどうする?また嫉妬に狂って俺の目の届かぬ所でいずれ殺すつもりなのだろう。言っておくが俺はそこだけはお前を信用していない」


断言した。この男は、はっきりとそう言ってのけた。


「早いか遅いかの違いなのだ。真実は早くに知っておいた方がいい。お前のためにもこの子のためにもな」


「どういう、ことよ」


そうだ、ロゼッタ王妃の言うとおりだ。どういうことなのだ。


「ヴェルファリアよ、聞け。お前は王妃に殺されることを恐れ縮こまって生きたいのか?そんな人生で良いのか?つまらんだろう。俺はつまらんと思う」


そう言い、バルバロッサは獰猛な笑みを浮かべた。それは普通の笑みではない、そう。愉悦に浸る狂気の笑みだった。


「お前がお前らしく生きるためにこの場を用意してやった。見事ロゼッタを倒し、ロゼッタを認めさせよ。せっかくこの世に生を受けたのに何かに怯えて生きる生き方とは真つまらぬ。そのような人生、俺は認めぬ」


そしてバルバロッサが、吼えた。


「今一度問おう!お前は、どうしたいのか!お前は、どう生きたいのか!答えよ!」


「とりあえず試せばいいのね」


そう言いロゼッタが扇を開き、そして背中に漆黒の羽を展開した。


リリスの羽と色は似ているが、枚数が違った。ロゼッタは六枚。感じる魔力は尋常ならざる量だ。あまりの魔力の大きさで大気が震える。


「嘘か真実か、この暗黒剣で問うことにするわ。その方が話は早いでしょう」


どうもややこしいし、そう言いながらロゼッタが睨みながら、左手をこちらに向ける。


そして掌から黒い刃状の物を出し、こちらに飛ばしてきた。


まずい、と思った瞬間だった。


あまりの速度に反応出来ず俺の右肩に「それ」は突き刺さった。


威力があったのだろう、後ろに飛ばされる。このままではまずい、そう思い後ろに地面を蹴り威力を殺した。


「かっ・・・はっ」


後ろの壁にまで飛ばされたらしい。さらに凄まじい威力があったのだろう、後ろの壁に突き刺さっている。


「今の、よく動けたわねえ貴方」


ロゼッタが離れた所からそう言ってきた。


おそらく後ろに飛び威力を殺していなければそのまま身体が引きちぎれていたかもしれない。


全身に走る激痛の中そう思う。


ヴェル様、とリリスが叫びながらこちらに走って来る。


「悪いわねえ。バルバロッサってこうと決めたら誰の意見も聞かないの。己こそが絶対。彼がそう言うなら嘘だろうが真だろうが貴方を試すしかないわ」


「今引き抜きますから」


そう言ってリリスが槍を地面に落とし、黒い刃状の物を引き抜こうとする。


───が


「痛っ!なに、これ・・・」


見れば、リリスの手が赤く染まっていた。


「どうやら触れるだけで殺傷能力のある物らしいな。この、暗黒剣とやらは」


暗黒剣と言うから近接武器か近接魔術だと思ったがとんでもない。剣を超高速で飛ばしてくる魔術だった。


氷のつらら等とは格が違う。


その威力も、長さも、そして特性も。


「お嬢さんは引っ込んでなさい。これは私とヴェルファリアとの問題よ」


激痛は通り越してもはや痛みはなかった。


だから、思い切り前のめりになって自分から引き抜いた。


「・・・っ」


目の前が一瞬赤くなった。


痛みはない。が、両足に力が入らず地面に倒れてしまった。


ロゼッタの方を見ると、また暗黒剣を飛ばす構えを見せていた。


「ヴェル様!」


「いかん、リリスどいていろ」


痛みはないが動けなかった。


「いいえ、動きません。私が貴方の盾になります」


そう言ってリリスが俺の前に立つ。


「冗談じゃない・・・冗談じゃ!」


気づけば叫んでいた。


「俺が死ぬのは構わん。だが、俺のために他人が死ぬことは断じて許さんぞ。下がれリリス、これは命令だ!」


「いいえ、いいえ!」


あくまで壁になろうとするリリス。


「うーん、じゃあ二人仲良く死んでもらおうかしら。寂しくないでしょ、お互いに」


ロゼッタがそう言って暗黒剣を飛ばしてくる、と思ったその時、


「はあああああああ」


ミリアの咆哮に似た声が部屋中に響いた。


慌ててロゼッタが後ろに飛ぶ姿が目に入った。見ればミリアが刀を抜きロゼッタに攻撃を振っていた。


「逃すとお思いですか!二の太刀残月!」


裂帛の気合と共に振るわれる必殺の技。


が、空を斬る音がした。予想以上に動きが早かったのだろうか。


ミリアがロゼッタと距離を取るように後ろに飛び刀を納める。


「え・・・あ・・・ああああああ」


ロゼッタが、悲鳴を上げながら右手の扇を落とした。


理由は、明白だった。見れば額から真っ赤な血が流れ地面に垂れていた。それを見て彼女は悲鳴を上げたのだ。


その悲鳴と共に膨らむ魔力と殺気。


「逃げましょう!」


遠くからミリアが叫んでいる。


その声にはっとする。呆然と様子を見ている場合ではなかった。


が、動かない。身体が動かない、動けない!


駄目だ。


どうやらあの暗黒剣に貫かれると一時的に動けなくなるらしかった。


「ヴェル様、早く!」


リリスが俺を抱きかかえるように持ち上げる。


「俺は動けん!いいから一人で逃げろ」


「まだそのようなことを。一人で逃げられるわけがないでしょう!」


───と


「この私に、傷を・・・?ふざけるなよ・・・お前らあああああ、逃すと思うかぁ!?絶対に生かして返さん!」


ロゼッタが、吼えた。それと共に部屋中が震えた気がした。


気がしたのではない、本当に震えていた。


それはロゼッタの魔力によるものだった。最初よりもさらに増大する魔力を感じた。


どうやら、今まで本気ではなかったらしい。


ミリアの一撃がロゼッタを本気にさせてしまったようだ。







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