剣舞
一の太刀とやらを見切った、らしい。
見切ったと言っても、ただ「見た」だけで、攻略そのものが出来ているわけではない。
どう攻略するんだ、この技。
と考えて、ふと。
そういえば今まで「技」と言うものを見たことがなかった。なんと言えばいいのか、「型」という物を見たことがなかったことに気づいた。
強いて言うなら、おじさんの「点の攻防」と「二刀流」くらいなものではないか。
しかし、これも「型」が決まっていた気がしないでもない。
ここに来て、そういえば自分にこれといった「技」というのはないな、と思い至った。
「かっこいいな」
思わず呟いていた。
「───え?」
ミリアがきょとんとしている。
「あ、いや。純粋に凄いと思ってな。なんだ、その技というのは。見事と言うか美しさすら感じた」
洗練された動き、無駄のない動きに素直に感動したのだ。
すると、ミリアはちょっと待って下さい、と言い、
「お父様、この人何を言ってるのかちょっと分からないんですけど。戦闘経験がないのですか、この人は」
おじさんに話しかけている。おじさんは腕を組みながら首を振り、
「いいや、訓練は全て完璧というわけではないがやっているし、これからも教えるつもりだ。更に言えば、そいつ一人で相当の人間を殺している」
それがどうした?とおじさんが言い、俺もそう思っていると、
「あの・・・、技もなしに人を殺せるんですか?」
等と言われ考える。
するとおじさんは笑いながら、おい、とこちらに話しかけてきた。
「お前がどうやって人を殺してきたのか教えてやれ」
と言うので答える。
「主に中距離からの投石攻撃、影による近接攻撃、拘束攻撃、それから暗殺?背面攻撃」
「あの、何ですかそれ」
ミリアが怪訝そうな顔をしながら言う。
「が、実際これしか行ってない気がする。強いて言うなら魔術を使っているが実戦でほとんど使った記憶はない。投石が圧倒的に多かった」
するとおじさんは、
「ミリア、いいか。実戦においてはこう一対一でやりあうことの方が圧倒的に少ないんだ。こいつは一対複数をやっている、しかもこの短期間において誰よりもそれを行なっていると言っていい。だから参考にはならんよ」
と述べられた。
そうか、参考にはならないのか・・・。
「すまない」
頭を下げていた。
「いいえ、貴方のこと少し見直しました。さっきの投石攻撃が通用するのが驚きですけど」
いや、それはどうかと思う。投石攻撃が通用しない方が驚きだ。
今まで当たらないと思ったことはない。通用しないと思ったのは今回が初めてだ。
と考え、そういえば実戦で真正面から投石したことはあっただろうか、と思う。
主に奇襲攻撃しかしてない。
「ミリア、すまない。もう一つあった。奇襲攻撃だ。正面からまともにやりあってない」
と言うと、
「卑怯ですね」
と睨まれ言われた。
「そうなのかもしれない。だが、俺一人で戦うには、生きるためにはそれしかなかった。絶対に負けられない戦いだったんだ。分かってくれとは言わない、だが否定もさせない」
「分かりませんね、何ですかその負けられない戦いというのは」
「そうだな、大切な人を守りたかったんだ」
「大切な、人?」
「大切な物でもいい。ただ守りたかった、味方を救いたかった、そしてそれが出来るのは偶然にも俺だけだったんだ。そしてそれは俺が死んでは成し得ないことだった、それだけだ」
すると、さらにミリアはこちらを睨みつけ、
「貴方の話を聞いていると苛々します。英雄気取りですか、勇者にでもなったつもりですか。馬鹿げてる」
そう言ってミリアは鞘を左に持ち、刀を引き抜きやすい体制を取った。
「そんな話、聞いたこともない。貴方のような弱者がそんなこと出来るわけがない。そのことをこの一刀で証明してあげます」
「───他人のために振るう武など、ありはしない」
そう言うなりミリアの姿が目の前から消える。
嫌な予感がした。
だから思い切り地面を蹴り、右に飛んだ。
と同時に左の方から何かが空を斬る音と、地面を擦る音が聞こえた。
「二の太刀残月、よくぞ回避しました、しかし」
そう言うなり、またしてもミリアの姿が消える。
もはやこれまでか、全身に魔力を込め羽を展開し竜の眼で動きを確認する。
見れば竜の眼でもぎりぎり動きが捉えられるかどうかの速度。と言うより敵の姿が揺らいで見えた。
歩法を工夫しているのかもしれない。
これではどこから攻撃が来るか分からない。
とにかく後ろに飛んで回避、と思い後ろに飛ぶ
───が
下から声がした。
「残月は後退出来ぬ技、追撃術です」
下から上に斬り上げる斬撃攻撃が飛んできた。
思い切り身体を左に仰け反らせすんでのところで回避した。
つもりが、右手の甲がぱっくりと割れ、血が出てきた。
「勝負、ありましたね。やはり他人のための武など信じられない。弱すぎます」
分からなかった。どうしてそこまで強さに拘るのか。だから思わず尋ねていた。
「それほどまでに強さが重要か?大切なのは己の想いを成し得ることではないか」
ミリアが、何を、と言う。
「人はそれぞれ強弱がある。そうだな、お前から見れば俺は弱者に映るのかもしれない。では聞こう、弱者は他人のために生きてはいけないのか?お前の考えではそうなるのだが」
「それは・・・」
「お前の強さは、そういう類の物か。そんなのは強さじゃない。何のために己を鍛えてるんだ?お前は、誰かを守りたいと思ったことはないのか」
「そんなこと、自分を守れるようになってから言って下さい。貴方には言われたくない!」
そう言い、ミリアはまた姿を消す。
「二度、見たな。三度目はない」
この技の弱点、それは───
羽に魔力を込め、一気に空中に飛ぶ。
残月と言ったな、それは対地技なのだろう。
追撃術と言った時点でその弱点が露呈したな、と思う。
そうして氷の魔力を自分の周辺に展開する。
出来るつららは空中に展開させたものを含めて二十にもなる。
「───なっ」
ミリアがさっき俺がいた所で立ち止まり上を見上げてくる。
が、遅い。
一気に周囲に展開した氷のつららをミリアめがけて投げつけた。
さらに影を展開、ミリアの後ろから追撃させる。
まあ、影は「万が一」の場合の物だが。
案の定、ミリアはその場で動けずにいた。
「おい、死ぬぞ。一の太刀はどうした?」
「えっ・・・あっ・・・」
万が一に備えておいて正解だった。影に氷の魔術妨害をさせ棒立ちのミリアを守らせる。
そして俺自身はそっと着地した。
氷を全てかき消し仕事を終えた影は静かに消える。
「お前の言う力とは、その程度のものなのかミリア。所詮己のために振るう力とはその程度なのではないか?」
「貴方は・・・今まで本気ではなかったのですか?」
それに無言で頷く。
そして先ほど傷ついた右手の甲を左手で押さえて傷口を塞ぐ。
「は───治ってる」
ミリアが呟くように言う。
一瞬にして怪我は完治。即死するほどの傷を負わない限りは治せる。
「二の太刀、見事だと思うが所詮は対地技。対空技がないんだろ、その居合と言うのは」
当たり前と言えば当たり前だった。
一瞬で空を飛べるのは竜族の特権だ。魔族の羽でも空を飛ぶのにかなりの時間を要する上にかなりの労力がかかるだろう。
その間にミリアは斬撃を繰り出せばいい、だから対空技など持ち合わせているわけがなかった。
逆にこちらは対地、対空を常に想定して戦っていた。何故か。
元々俺には羽など備わっていなかった。そして、俺は今まで空を飛ぶ相手を当たり前に相手にしていたのだから。
まあ、主に親父が相手だったが。
ここに来てミリアと俺の経験の差が出たのだろう。
「まだやるか?だが、次は殺すつもりでやるが」
「いいえ、私の、負けです」
ミリアが敗北宣言をする。
そうか、と言い羽を消す。
「俺もまた自分自身のために力を振るっている。が、結果として他人のためにもなっているだけで。別に英雄になりたいわけでも、勇者になりたいわけでもない。そういうつもりもない。ただ目の前で起こった光景に、出来事に対して出来ることを考えられる限りのことを全力でしただけのことだ」
無言でミリアがこちらを見ている。次の言葉を待っているのかもしれない、と思い言葉を続けた。
「別に押し付けるわけではないがな。ミリア、お前もいずれ自分のためにだけでなく、人のために力を振るうことが出来るといいな」
そう言って締めくくった。
「私の、完敗ですね」
どこか諦めに似た声が聞こえた気がした。
「完敗・・・か。どうだろうな、だからと言って生き方を突然変えろと言うわけでもないし、お前はお前の考えている通りこれからも生きていけばいいじゃないか」
そう言い、
「おじさん、結婚の話はなしでいいだろ?ミリアにも嫌われてるみたいだし」
おじさんに叫ぶ。おじさんが腕を組み唸っている。
───と
「お待ちください!」
ミリアだった。
「どうした?」
「結婚させて下さい。私を守って下さい」
「断る」
俺は即答で断った。
何故、と言うので
「お前を守ってやれるほど俺は強くない。ではな」
「貴方は十分強いです。さっきも守ってくださいました!」
「と、言ってもな。実戦において守ってやれるほど俺は器用ではない。もしここで守ってやると約束してお前に死なれては後味が悪い。依存されてもな」
「では、どうすれば?どうすれば結婚させてくれるのですか?」
あくまで食い下がってくるミリア。
「何故そこまで必死なのかわからないが。そもそも結婚したくなかったのではないか?まあ、そうだな。どうしても、と言うなら俺の横に常にいて幸せを共有出来るならそれでいいかな、と漠然と思う」
「私は料理も出来ますし、家事もこなせます。武器も作れますし、舞も出来ます。武芸だけでなく詩歌も。きっと貴方の力になれると思います」
と、言われ考える。
そういえばリリスも料理が出来ると言っていたが、料理と言っても薬草スープしか飲んでいなかった記憶しかないし、近頃食べた豪華な料理と言えば宴会で出た肉くらいで。後家で食べた飯だが、種類は覚えてない。
あまり飯に関しては拘りがないというか、薬草スープで満足なんだよな。魔力回復に持ってこいだし。
家事が出来るというのも別に。服を洗うのも自分で出来ることだし、風呂も備えつきのがある上、水を温めればいつでも入れるしな。そういえば風呂の水張り替えてるの誰なんだろうか。
・・・武器を作れると言うのはなんだ?
舞は、よく分からない。詩歌と言うのもよく分からないな。
「すまん、その武器を作るというのと舞と、詩歌が分からない」
「文化的なものです。武芸とは違うのですが、きっと人生を豊かにしてくれます」
ふむ・・・。
───が
「そこまで何でも出来るならやっぱり俺よりもっと別の男と結婚した方がいいのではないか?聞いていれば万能のようだし、お金持ちの男とか、偉い男とか、色々いるだろう。そうしたほうが幸せな気がするが。おじさん、そういうわけだから結婚はなしで」
おじさんがこちらに歩いてくる。そして拳骨をくらった。
「いてっ。何をするんだ」
「流石に腹が立ってな。これでも娘なんだ、頼むからもらってやってくれ。出来た子なんだ」
「出来る子だから困るんじゃないか。もっといい男に嫁がせた方がおじさんも鼻が高いんじゃないのか?違うのか?」
「お前は馬鹿か、男とは金や偉さではないんだよ。そうだな、将来その男がどうなっているかが重要で」
「尚の事だな。俺はそれほど立派な男にはなっていないと思う。そうなりたいとは願っているがな。分からぬ未来より、しっかり地に足ついた現実を直視すべきだと思う。ああ、そうだ。おじさん、俺三番隊追い出されたから今魔族軍に居場所がないんだ。こんな男が将来どうなるかなんて分からないだろ?俺自身が分からないし」
「お前、どうしても結婚したくないのか?」
おじさんが腕を組みながら言う。
「いや、そんなことは言っていない。俺はミリアのためを思って言っているんだ。ミリアも聞け。俺は無知で無学で無能と周りから言われている。さらに居場所も今はない。さっきも言ったが色々戦争でやったけどその功績が認められたわけでもない。そんな男と結婚しても仕方あるまい」
諦めろ、と付け加えて言った。
「リリスか?」
おじさんが言う。
「は?リリスこそもう高嶺の花と言うか、結婚なんて考えてないぞ。彼女は今や二番隊隊長。もはや話しかけることすら躊躇われるだろう?なるべく近づかないようにはしている」
ふーむ、とおじさんが首を傾げる。
「お前、なんでそんなに孤独でいたがるんだ?」
「───え?」
そんなことはなかった。何故そんなことを言われるのか分からなかった。
「いや、待ってくれ。俺は孤独は嫌いだ。今回の戦争で孤独で戦って嫌というほど思い知ったが、一人で戦うのは辛い。だからこれからは一緒に戦える仲間を集めようと思っている。そうして戦争で力を発揮し勝利に貢献したいと考えているんだ」
「ならば尋ねるが、ミリアはその仲間に加えてはもらえないのか?わしは?」
「おじさんは・・・師匠のようなもので仲間と呼ぶのはおかしくないか?仲間ならこれほど心強いものはないけど」
すると、
「わしはお前の事を子供のように思っているし仲間だとも思っている。次の戦争には一緒に連れて行こうともな。戦友にもなれるだろうと。そこにミリアも加えてやってはもらえんか?」
と言われそっとミリアの方を見ると、ミリアは涙を流して泣いていた。
なんか女を泣かせてばかりいる気がする。
「だが、命の保証は出来ないぞ。大切な娘じゃないのか」
「だからこそお前に託したいと思うんだよ。それに命の保証が出来ないのはこの世が乱れている限りそうだしな。まあ、それほど弱くもねえよミリアは」
「うーん、じゃあ分かった。命の保証は出来ないが、それでいいならいいぞ」
と言うと、
「本当ですか!」
ミリアが喜ぶ。まあ、これくらいで喜んでくれるならいいか。
「では結婚ですね」
と言われてしまった、と思った。そうか、これは戦友がどうとか仲間がどうとかそういう話ではなかった。結婚の話だった。
が、遅かった。
「よし、決まりだな。明日バルバロッサにファフニル、そしてわしとお前で会談を行うことになっていたがそこにミリアも連れて行く。結婚の報告をな」
おじさんがニヤリと、してやったりと言う風な笑みを浮かべた。
まあ、いいか。親の承諾なしに結婚はないだろうし。親父ならきっと断るだろう。
そう思うと安心した。
安心した所でふと疑問なので尋ねてみた。
「ミリア、ところで舞?というのは何なんだ?」
「お見せします」
そういって刀を抜き、その場で一振りする。
そうして刀をゆっくりと振ったり、早く振ったりしながら周囲を周り、回転したりしている。
さらにそこに歌が加わる。
「激しき剣戟の音が───」
どうやら戦争の歌のようだった。美しい声から発せられるその歌は聞いていて心地が良かった。
聞いているだけで心が熱くなる。
夢心地の中、それに見入っていると、カチンと刀を納める音がしはっとした。
どうやら舞が終わったらしい。
「う、美しい」
「有難うございます。剣舞の戦の儀と呼ばれるもので戦う前に兵達に見せ士気を高めるのです」
そういうものもあるのだな、何より歌が良かった。
「歌の、なんだ。例えこの戦で死のうとも、その想いは祖国にきっと届くだろう、という一節が気に入った」
「そこは歌の中で盛り上がる箇所でサビと呼ばれる場所です。ここをどう表現するかで決まりますね」
面白いと思った。
「これが文化、という物か。知らなかった。面白い、凄いぞミリア!」
感動した。世の中にはこんなものがあるんだな。
「私はまだまだですけど、母のムラマサは凄いですよ。刀剣の鍛冶師としてもですが、奉納の舞と言ってそれは美しい剣舞を行います。母から習っているんですよ」
「素晴らしいな、おじさん。なんて素晴らしい環境にいるんだ」
と言うと、おじさんは複雑そうな顔をしながら
「いやなあ、わし、あまり見たことがないんだよな。ほら、女同士は仲がいいけどわしはそういうのはな。ただ剣の訓練は家族でするけどな」
まあ、仲がいいか悪いかはともかく流石軍団長というだけあって武芸に秀でた家族であることは分かった。
「なあ、本当に結婚とかしていいのか?こんな優れた女性、滅多にいないと思うけど」
何というか、勿体ないと思った。
「いいんだ。何よりミリアが望んでいる。きっと感じる物があるんだろうよ。わしは娘の直感を信じたい」
それに、そうかと一言答えるのみに留めておいた。
まあ、決めるのは俺じゃなくて親父だろうと思ったからだ。
全ては明日の会談で決まるだろう。




