真実
次の日となった。一応三番隊に顔を出すと、新隊長から「二番隊隊長から挨拶がある」と隊全員に言われそれを聞きに行くことになった。
二番隊は出来たばかりで、隊員も5人程と寂しい感じではあった。が、士気は高かった。
一番、二番、三番隊がそれぞれ集められ、俺は一番後ろにいた。
───と
二番隊隊長になったリリスが前に出てきた。
「おはようございます。はじめまして、リリスと申します。色々分からぬこと、至らぬことがあると思いますがどうかご指導賜りますようよろしくお願いいたします」
その後副隊長が出てきて「彼女をしっかり支えていくように」と言われ解散となった。
俺はその後すぐにも魔族軍を抜け、家に帰ることにした。
何、俺一人いなくなっても問題はないだろう。
逃亡扱い?
それでも結構と思うし、何よりばれない自信があった。ばれた所でそいつを殺して死体を隠せばいいことだし何の問題もなかった。
三番隊にいられないことが問題か?
魔族軍に居場所がないことが問題か?
否
重要なのは俺自身が自由でないことが問題なのだ。自由であるうちは何の問題もなかった。
そう、俺は居場所は失ったが、逆に一時的に「自由」を得た。
後はこの自由のままおじさんの帰還を待てば良かった。
何の問題もない。
そんなことを言い聞かせ、探知をし、誰にも見つからないよう帰宅するのであった。
帰宅した理由は二つ。生存していることを報告に来たことと、確認すべきことがあったからだ。
家に帰ると母が一人出迎えてくれた。どうやら親父はまだ仕事のようだった。
食卓まで連れられて行き、今までの報告を行った。
その上でこう話を切り出した。
「母よ、教えて欲しい。俺は竜の力が使えた。きっかけは分からない。が、問題はそれではない。羽の色が問題だ」
すると母は深い溜息をつき、
「ヴェル、どういうこと?」
「率直に聞くが、母の羽の色は白だったよな。金色では、ないよな」
「そうね、私は白よ。けれどそれが何なの?」
「あくまでとぼけるつもりか。羽の色がそうおいそれと変わるものでもなかろう。どういうことだ。俺の羽の色はまごうことなき金色なのだが」
「・・・そう」
それっきり母は何も言わなくなった。しばらく無言の時間が過ぎ、じれったくなったので俺が先に口を出した。
「何故だ、何故羽の色が違う!それとも何か、特殊な何かなのか?特異なものだというならそれはそれで」
と言った所で、母が観念したように
「分かったわ、けれどお父さんが帰ってからにしましょう。それまで訓練でもしておきなさい」
そう言うと母は奥の部屋に消えていった。
言われるまま修行場に行き、竜の力を使う。
羽を出したり、入れたり。羽を武器変わりに振り回して見たり、防御体制を取ってみたりもした。
羽を動かすたびにバチッ、という静電気のような音がするのがどうにも気になったが取り立てて痛いわけでもなかった。
が、これではこっそりと行動するときに不便だな、と魔力を抑えながら羽を動かすと音がしなくなったので安心した。
どうやら魔力を上げれば上がるほどこの音も出るようで、さらに上げると電光のようなものが走るようになった。
うーん、面白い。夜に松明がいらんな、と思わず口元が緩む。
魔力を上げれば羽が発光するので夜暗ければ羽を明かり代わりにすればいい、と考えていると、
トントン、と扉から音がした。羽を消し、魔力を抑え扉を開けると親父がいた。
「力が使えるようになったと聞いたが」
親父が扉を締めながら言う。
「ああ、今試していたところだ。と、一体何時間続けていたんだろうな。面白くてずっとやっていた」
「どれ、試してみるか。展開しろ、本気で行くぞ」
部屋の奥に行くなり構えてきた。
羽を展開し、こちらも構える。親父が動く。
突き、か。動く前に動きが読めた。
だからそれを回避するように動き、蹴りを入れる。
「う、うおおおおお」
親父があっさりと吹き飛んだ。相手の威力を使った反撃技だった。前なら出来なかった芸当である。
「ごほっ・・・参った」
羽を収め、魔力を抑える。親父が咳き込んでいるのでこちらが勝手に話を進めることにした。
「親父よ、俺は魔族軍に居場所がなくなったよ。評価もされなかったしな」
「ごほっ、話は聞いてる。まあ、家に戻ろう」
肩を貸そう、と一言言い親父を引っ張りながら家に入った。
そして食卓に俺が一人座り、二人はその前に座った。
「まあ、災難だったな。しかしよく生きて戻った。スカーレットと言えば相当な家柄の魔術師で、北東の国の者だな。領地もあるし、由緒正しい歴史ある家系。そこが動いてるとなると、北東の国が反乱に力を貸しているのは間違いないな」
親父がそう言う。
「強敵だった。彼らの戦略は見事としかいいようがなかった。こちらが間抜けすぎたのもあったろうが」
すると親父は苦笑し、
「そうだな、それもあるだろう。南西の反乱に北東の反乱、これはやはり繋がっていると見ていいな。未だ根強く残る人間と魔族の禍根、さらには魔族軍に対する不満。もはや限界なのかもしれん」
「俺はどうにも人材不足にしか感じられないんだがな。こう、優れた人間と出会ったことがない。魔族にもだが。ジークフリートのおじさんくらいじゃないか」
「まあ、概ね間違いない。ところで、リリスといったかな。女性で初めての将か」
それに、ああ、と答えると、つまらなそうだな、と言ってきた。
「別にいいが、俺は評価されず彼女だけ評価されたということがな。いやいいんだ、理由は分かっているから」
すると親父はカッカと笑い、
「代わりに自由を得たろ。まあ、ジークフリートの帰還を待て。それからだ」
それに、分かっている、と答えた。
「俺は今回の戦で学んだ。一人では何も出来ないと。何も変えられないと。俺に必要なのは力だ、しかも俺一人だけでなく多くの力を一つにし一丸となって戦い抜く必要があると感じた」
「ほう、それで」
「俺は決めた、遊撃軍を作ろうと」
すると親父はふむ、と一言言い、
「気合が入っている所悪いが、それは無理だな」
と言われた。
「何故だ」
「正確に言おう。お前はそういう類の軍は決して作れん。だが、唯一作れるものがある」
それは、と言おうとした所で親父に手で止められた。
「どういう意味か、と言いたいのだろう?お前は魔族軍という枠でもう物事を考えられる類の者じゃないんだ」
よく分からないので首を傾げる。
「お前はな、これからは一つの戦だけでなく、民のことを考え、大地を考え、城を考え、法を考え、そして戦を考え、生き抜いていかなくてはならない立場になったのだ」
「どういう、意味だ。それではまるで」
王ではないか、そう言おうとしたら
「今こそ言おう。お前は竜の力に目覚めた。聞けば羽の色は金色。もはや何も驚くなよ、そして時は待ってはくれん」
黙って次の言葉を待つ。
「お前は俺の実の息子ではない。お前はな、バルバロッサの息子なんだよ」
「───は?」
「バルバロッサと、こちら第五王妃であるエルグランド様の子」
「おいよせ、一体何を・・・」
何を言っているんだ。
俺は、普通・・・ではないにしてもこの家庭で生まれ、育ち、それなりに幸せな人生を送ってきた。
それが何だ?
実は親父の息子ではなく、魔族軍の王、顔も見たこともないバルバロッサが父でしたと言われ納得が行くわけがない。
いやまて、冷静になれ。ここは冷静に。
「落ち着こう。じゃあ何か、親父と母の生活は嘘だったのか?幸せな家庭だとか言ってたろ」
「それは嘘ではない。エルグランド様、まあもう他人行儀なのはよそうな。母さんと結婚しているのも事実だ」
「どういう、ことだ」
「バルバロッサの正妻、つまり第一王妃がとても嫉妬深い女性だったのだ。事実第二王妃は第一王妃によって殺されている。竜族の中でも恐るべき力を持ったお方よ・・・」
「そして第五王妃に当たる母さんだな、密かに子を産んだわけだが、嫉妬深い第一王妃にばれるわけにはいかなかった。そこで私と結婚する形を取ったのだ」
「ならば尋ねるが、何故バルバロッサはそんなにも女を囲うのか分からない。そんな嫉妬深い女がいるならば子など作らねばいいだろう」
「確かに一理ある。が、バルバロッサは王であるが前に竜族。竜族は生殖能力が低いのは先刻承知の上だと思うが」
それに頷く。
「第一王妃とバルバロッサの間に子は出来なかった。実はこれが問題なのだ」
「もう全部聞こう。話してくれ」
話が早くて助かる、親父はそう言うと
「第二王妃との間に子が生まれた。待望の子だ。が、それは第一王妃によって殺されることとなる。子ごと殺された。もちろんバルバロッサは第一王妃を責めた。その結果第一王妃はおとなしくなった。そして第三、第四との間には生まれなかった。が、第五、つまりお前の母さんとの間には出来たんだ、子が」
「今度こそ待望の子が生まれたと安心した。が、バルバロッサはあることを恐れ私に相談をした。おそらく次の子もまた第一王妃は殺すだろう、と。そこで一つ手を打ったわけだ。私と母さんとの結婚だ。子を身篭った母さんと結婚することで、あたかも私との子であるようにしたのだ」
「ちょっと待て、人間と最前線で戦ったとか言う話があったろう、あれは」
「あれも事実だ。戦に負けた母さんをバルバロッサは救い、交渉した。バルバロッサはどうしても、そこまでしてでも子が欲しかったのだ」
「その理由、それは」
「そこからは母さんが話すわ」
母だった。親父が腕を組み黙る。母さんがそれを見て、話を始めた。
「竜族にはどうしても抗えない本能があるの。それは強い雄に惹かれてしまう習性。母さんもそれには勝てなかった。バルバロッサを一目見た瞬間に惹かれたわ。生殖本能が目覚めてしまうの、これはどうしようもなかった」
「けれど人間を代表して戦っていた私、バルバロッサと抱き合うことは出来なかった。が、ある時人目を盗んで一度だけ二人で会うことがあった。そこでバルバロッサに求愛し、私は彼と抱き合った。そうして子を身篭るわけだけど・・・」
「戦に負けたわけか」
「そう、子を身篭り、その期間中魔術も魔法も使えなくなった。正確には使わなくなったの。子供に悪影響があると言われていたからよ。結果的に敗北し、後は聞いたとおりよ。唯一違ったのは、周囲の人間を殺したのは父さんとバルバロッサの仕業なのだけれど」
「そう、なのか」
「だが母さんの手で殺したことにしなければならなかったのはお前でも分かろう」
親父が腕を組みながら言う。それに少し考え、
「そうか、母さんが加担した人間を自らの手で殺した、という事実が欲しかったわけだな」
それに親父は満足そうに頷く。
「私と結婚する前提条件。母さんが人間と決別する儀式が必要だったのだ。そして人間たちは犠牲になったわけだな。勿論母さんの一言もあったが」
「あれは人間たちが悪いのよ。自分たちを棚上げして私を生贄にしようとしたから」
それもそうか、と二人で言い合っている。
「なんとなく背景は分かった。そして第一王妃の目も欺けたわけか?」
「うむ、私と母さんの子としてお前は生まれ育てられた。怪しまれないよう第一王妃の前にも一度見せている」
「母さんによく似たいい子だと言われたぞ」
と親父に言われ
「まあ、母さん似なのは確かだな。親父にはとてもじゃないが似てないとは思っていた」
良かったわね、うふふ、と母。
「うーん、しかし。問題は羽の色じゃないかそしたら」
「そうだな、魔族軍でその金色の羽はまずい。第一王妃にしれたらお前は殺されるだろう」
「まずいな、この羽の色を知る者が一人いる。リリスだ」
「例の子か・・・殺すか?」
「よしてくれ!」
慌てて止めた。
「どうした、ヴェル。お前らしくもない」
「済まない、それだけは・・・」
「父さん、察してあげなさいよ。大事な子なんじゃないの」
今は母の言葉が有難かった。
「が、問題は問題か。これは、自分の手でなんとかしよう」
すると、親父は
「お前の手で、というがどうするつもりだ」
「・・・記憶を消す、リリスの」
そんな都合のいい話が、と二人揃って言われた
「雷の魔術にその類の魔術がある。勿論都合よく羽のことだけ記憶を消すのは無理があるだろう。何の拍子で思い出すかも分からない。だから・・・」
だからどうした、と親父に言われ
「───俺との記憶ごと消す」
これならば問題はない。俺との出会いから記憶を消し飛ばせば問題はないだろう。
「本当に、それでいいの?」
母だった。
「だって、それしかないじゃないか。俺にはリリスは殺せん。殺したくないし死なせたくもないのだ。が、羽のことはばれたらまずい。これは危険だ、仕方ないことだ」
「それは、その子を殺すよりも辛いことになるんじゃない?」
「最初は辛いだろうけど、すぐに慣れるさ」
すると、親父は分かったといい、
「ジークフリートにも話をつけねばなるまい。その女と訓練した期間があろう。話を合わせねば。何、あいつならうまくやってくれるさ。記憶を消すのはジークフリートが戻ってから、それでいいな?」
「分かった、消す前にもう一度親父と話し合いに来るとしよう。その方が辻褄が合わせやすい」
「話が長くなったが、大体そんな所か」
親父がそういい締めくくろうとする。
「いや待て、まだあるだろう。バルバロッサは何故そこまで子を欲した?」
すると二人は顔を見合わせ、こちらにこう言ってきた。
「それは、彼がもうじき動けなくなるからだ」
「この大陸を得るために相当な無茶をしたせいね」
「そう、なのか」
「転戦を重ねた結果もあって、彼は病に倒れた。一度は回復したのだけれど、もう戦うことは無理だと周囲は判断した。自身も思う所があったのでしょう。戦いを任せ、一線を引いた。そんな時、彼は気づいたの。自分自身に何も残すものがないということに」
それを聞いて、そうか?と思った。だからこう言った。
「歴史に名は残ろう。そういうことではないのか?」
すると、親父は苦笑しながら
「そういうことではないな。お前も戦って感じたはずだ。虚しさのようなものを。戦争は命の奪い合い、失うことしかないのだ。バルバロッサから戦を取ったらそのことが残ったらしい。命を奪うことはしたが、育む事、生んだことはなかったのだ」
そうして親父はどこか遠くを見ながら、
「子が出来ると分かるものさ。何を伝えられるか、どう生きさせてやりたいか、どう育って欲しいか。子とは何物にも勝る宝だよ。そのことをバルバロッサは遅くも気づいたわけさ。それはとても遅く、時間のかかったことだが」
母も、そうね、と言いながら
「ヴェル、私も貴方に立派に育って欲しいと思う。人に誇れる人生を歩んで欲しいと。もちろん父さんもそう思っているし、貴方は会ったことがないでしょうけどバルバロッサもまたそう願っているわ」
すると親父は苦笑し、
「あいつにお前のことを報告するとそれはとても嬉しそうに話をする。そして、今度はああしろ、こうしろと私に命令してくるんだ。全く面倒なやつだよ、あいつは」
親父は、そう言いながら、まてよと呟きこう続けた。
「もう真実は伝えたのだからバルバロッサと会う分には問題ないだろう。今度会わせよう。まあ、楽しみにしておけ」
そう言われてもな・・・。
「まあ、これくらいにしておこう。ヴェル、前にも言ったがお前の力は王の力。そのことを忘れるな」
「・・・そういえば、もう一つあったな質問が。何故俺は人型でいられる?」
竜族は最初は竜の状態で生まれてくるのではなかったのか。成熟して人の形を成す、と聞いた気がしたのだが。
「それは母さんが答えるわ。バルバロッサとの相性が良かったのでしょうね。貴方、最強の竜として生まれてきたの。生まれながらにして成熟した竜かそれ以上の魔力を備えて生まれてきた。だから人型から始まったのよ。勿論私が魔力を外に放出せず内に巡らせていたから、それもあるでしょうけど」
「それじゃないのか・・・」
常に体内に奇跡にも似た魔力が巡っていたわけだ。そっちが成長に影響したと考えるのが妥当だろう。
「まあ、いいわかった。とにかく目下すべきはリリスの記憶を消すことか・・・」
すると母が心配そうに、
「それ、辞めたほうがいいと思うけど。その子と逃げるという手も・・・」
「それは無理だ」
即答だった。
「リリスは今や魔族軍の部隊長の一人。もう俺の手が届かぬ位置にいる身だ。逃げるという選択肢はない。かといって殺す選択肢もない。記憶を消すか、とにかく口止めするか。だが、口止め程度では問題があるだろう?」
それに親父が頷く。
「だから、消すさ。期日と作戦は親父に任せる。話は以上だ」
そう言って席を立つ。
「どこに行く?」
親父だった。
「修行場に。この派手な羽、なんとかせねばなるまい」
一つ考えがあった。潜伏の魔術で羽を視えなくするのだ。その練習をしようと思った。
「無茶はするなよ。いいか、お前の命はお前のものであってそうではない。バルバロッサの気持ちを、私達の気持ちを決して無駄にするな」
それに力強く無言で頷いた。




