玉砕攻撃
崖の下の様子を見ると、やはり八人が崖下に弓矢を撃っていた。
さて、どうしたものかと考えながらしばらく様子を伺っていると敵から動きがあった。
「おい、こっちは矢が尽きたわい」
こっちも、こちらも、と数人の矢が尽きたようだった。
「サムとトーマスはどこに行ったんだ?」
誰かが言う。その声にドキリとした。
もはやその二人はいない、さっき俺が始末したばかりだからだ。
「逃げた敵を追いかけてるんじゃないか?」
「それにしては時間がかかりすぎてやしないか?」
「じゃあ、俺が呼んでくる」
そういって一人こちらに向かってきた。
「任せたー。俺達はもう降りるぞ」
そういって他の七人は全員撤収を始めだした。
これは、絶好の機会だと思った。これを逃せば次はない。思わず唾を飲む。
「早くしろよー」
向こうで声がする。こちらに来ている兵がその声の方を振り向き、
「わかってるよ、今日は戦勝祝いだろ」
そういって七人は崖を一人、また一人と下っていく。
と、先ほどこちらに向かってきていた敵が再びこちらに近づいてきた。
それを見ながら大きく息を吸い込み「潜伏」の魔術を使い姿を消した。そっと座りながらこちらに来るのを待つ。高低差で下の敵がこちらの様子が見えない所で即殺すことにしたのだ。
どの道足跡でばれてしまうなら危険が少ない早い段階で殺してしまおう、そういう算段だった。
そして敵が横を素通りする。
「やれやれ、この戦いが終わったら酒でも飲みたいぜ・・。ったく、しかしあいつらはどこまで行ってるんだ?」
そんなことを呟きながらとぼとぼと歩いて行く。どうやらばれていないらしい。
おい、サム、トーマスと叫びながら向こうの方へ歩いて行く。
もはや息の限界だった。潜伏を解き、一足飛びに敵の背後に忍び寄り、
「おい、もう降りてんぞー。今日は飲む・・・ガッ」 それが、敵の最後の言葉であった。
敵の後ろから短剣で首を掻き切った。
そして先ほどの岩陰に運び、また袋を漁る。
「・・・やはり、か」
袋の中には、今度は火矢で使うであろう油を染み込ませた紙を見つけた。矢の先に括りつけ火をつけるのだろう。こちらの袋と一緒にすると油臭くなるのでこのままこの袋を拝借することにした。
さらに短剣を奪い、腰につける。これで三本。投擲用だな、と心のなかで呟いた。
そして、肝心の食料は見当たらなかった。
これで確信に至る。
こいつらの食料はこの近辺にある。今は夕方前という所を見ると、夕方になる頃か夜に到着出来るであろう範囲に敵の食料が必ずあると思った。
ようやく先ほど抱いた違和感を払拭した所で立ち上がり、水筒から水を二口飲み腰に戻した。
敵は残り七人。だが、やり過ごせるならこれはやり過ごそうと思った。
そう思いながら岩陰を出て、先ほどの位置で再び様子を見る。敵はもういなかった。探知にもかからない所を見ると、どうやら崖を下って行っているようだった。
心のなかで、よし、と思いながら崖を急いで下る。そして先ほど敵達が矢を射っていた場所に立ち下の様子を伺ってみる。
ほぼ全滅だった。中には空を飛んで逃げようとしたものもいたようだったが、崖の中腹あたりで矢で射抜かれて崖に突き刺さってぶら下がっていた。
なんと無謀な、と思う。魔族には確かに羽はあるが空を飛ぶにはとても労力がかかる上、頑張ってもこの高度まで飛ぶことなど出来ない。
───と
前方の方が見えてきた。見れば木の柵で塞がれ、今も火矢で攻撃を受けている軍団を見つけた。
「良かった、全滅ではなかった」
おそらく崖上からではあの位置には攻撃が出来ないのだろう。だから敵もここで逃げてくる敵を迎撃していたわけだ。崖も残り僅かか、と思いながら前方のいけるところまで走った。
崖の先まで来る。
眼下を急いで見て、探す。あれだけ目立つ格好をしているのだ、おそらく生きているならいるはずだ。
そう思い目を凝らし探す。
───居た。
なるほど、最前線の少し手前で立ち往生しているわけか。
リリスだった。黒い羽を展開し、矢を防いでいた。
が、それ以外の者が見当たらない。見れば周囲の兵達は網のようなものを投げ込まれ身動きが取れなくなっているようだった。そしてそこを矢で攻撃されたのだろう。
リリスが無事なのは、おそらく網を槍で捌いて助かったとしか思えない。後ろでかばっているのは三番隊長か。
生き残っているのは何人か分からない。だが、このままでは流石のリリスも時間の問題だろう。
というか・・・よく今まで持ったものだと関心するばかりだが。
そんなことを考えていると、火矢がリリスに向かって集中攻撃が浴びせられようとしていた。
が、それを槍で防ぎ、羽で全てたたき落としている。
そしてそれは、周囲の兵達に当たり兵達が焼けていた。
倒れてる兵達は全員死んでいる、のか。とその光景を見ながら肩の力が少し抜けた。
・・・が。
俺もこうしてはいられない。やれることを考えなければ。
ここからの魔力を込めての投石攻撃をした所でたかが知れている。一応ギリギリの射程圏内ではあるが、命中には期待出来ないし、命中させたからなんなのだと思う。
もっと根本的な解決法を考えるべきだろう。
そう、例えばあの木の柵をどうにか出来るような方法・・・
と周囲を見て、これは、いけるんじゃないかと言う方法を思いついた。
崖の傍にはとても大きな岩が一つ転がっていた。
その傍に行き、影に魔力を相当込めて影を創りだした。
「本当にやる気なのか?」
影に確認される。
「これしか思い浮かばない、おそらく上手く行く。頼んだぞ」
「分かった」
影が頷く。
そうして二人で大岩を挟み込み、せーので持ち上げた。もちろん風の魔術で重さを風のように軽くして、だ。
そして影の方にその岩を上手く支えさせる。
「む、横風に煽られて調整がきかんな」
影がぼやく。
「そこを上手く調整させるために相当な魔力を使った。頼む、行ってくれ」
「やれやれ、無茶を考える・・・」
そういう影をさらに本体の俺が持ち上げる。
そして、風の軌道を崖下の木の柵に向けて打ち出し、そこに載せるようにして思い切り大岩を持つ影を魔力を込めて全力で放り投げた。
「いけええええええええええ!」
風の魔術の重力調整は「触れていなければ」使えない魔術。逆を言えば触れている限りは常に軽量化出来る。
今回は影にあの大岩を常時触れさせ軽量化させた。そしてそれを持ち上げ、木の柵に投げつけたわけだ。
───何、石ころでも射程圏内ならば、「石ころのように軽い何か」でも当然射程圏内だろうと単純に考えたのである。
そしてその考えは正しかったことを確信する。
見れば木の柵に直撃し、木の柵が粉々に吹き飛んでいた。それと同時に大岩も粉々になり、影はその衝撃を受け消し飛んでいるようだった。
自分がやっていたら間違いなく身体が粉々になっていただろう。
「完全な、玉砕攻撃だったな」
まあ、けれど。影の正しい使い方の一つだろうと思う。
あまりに上手く行って思わず口元が緩んだ。
これで退路も確保し、進路も確保。前進するか後退するかは分からないが・・・
と思っていると、真っ先に動いたのはリリスだった。
「ちょ、おい!?」
思わず叫んでいた。見ればチラとリリスがこちらを見たように、見えた。
・・・気づいている?
ならばまずい、急がねば。
先ほど降っていった連中の方へ行き、一気に下っていく。途中から探知に敵が7つ引っ掛かり、先ほどの敵に追いついたことに気づいた。
七人か・・・。
そう思いながら足を急ぐと、いた。
崖を慎重に降りている敵が。どうやら道を選んで降りているようだった。
これは生かしておいてついていって無事に降りるべきだろうか、と考えていると
「ここさえ下ってしまえば後は道なりだ。」
やれやれ、などと声が聞こえてきた。親切に助かる。
こちらも急いでいる、慎重に降りている敵が急にも対応出来るとは思えない。
───殺るか
そう思い石を3つ拾う。
見れば、敵は細い道を一列に並んで歩いている所だった。そしてゆっくりと下を見ながら下っている。
この道を行けばいいのだな。感謝する。
そう思いながら最後尾の敵から魔力を込めて投石を行う。
さらにもう2発投げ、石を拾い投げつけた。
ガツン、という金属音が聞こえ、「何の音だ」と敵が後ろを振り向いた所でさらに二人が吹き飛ぶ。
真ん中にいる敵は前と後ろで何が起こったのかわからないのだろう。
「な、何が起きたんだ!?」と叫んでいる。そこにさらに投石をぶちかました。
「うわああああ」
残った三人が逃げようとするが、遅い。
後ろに振り返って一人が慌ててこける。それを放置して最も前の敵に向かって腰につけていた短剣を2本引き抜き一本を投げつけた。それは服を貫通して心臓に突き刺さり前方に吹き飛んだ。
「ひえええ」
残り一人が別の方向に逃げようとするが足が止まる。どうやらこの崖は見た目以上に危険な道らしい。そこを狙って残った短剣を投げつけた。顔面に突き刺さり、崖に落ちていった。
しまった、死体が確認出来ないではないか。
そう思いながら下る。すると先ほどこけて逃げ遅れた敵がいたので
「おい、まて!」
思わず声を出していた。
「ひっ、どうか、どうかご容赦を」
土下座してこちらに謝ってくる敵。全身が震え、どうすればいいのか分かっていないのだろう。
「怯える必要はない。道案内をお願いしたい。俺はここを無事に降りたいだけだ」
「わ、分かりました。ここまで来ればすぐにも降りられます」
そういって立とうとする敵に
「・・・誰が動いていいと言った?」
冷たくそう言い放った。
「そのまま土下座してろ、さもないと殺す。動くな、でないと殺す」
「ひ、ひっ・・・!」
そう言って向こうに逃げ去ろうとする敵。
そこを魔力も何も込めずに投石攻撃した。それは敵の後頭部に直撃し、敵は倒れた。
「気絶で済んでいればいいがな」
一番最初に投石攻撃した敵を確認する。ガツンという音が気になったのだ。どうやらこの隊の隊長なのだろう、金属の兜か何かをしていたらしい。
見れば息をしていた。虫の息、とも言えるが。
危ない、念の為に確認していてよかった。そう思い腰の短剣を引きぬき首に突き刺した。そして敵の腰袋を漁る。油紙があったのでそれを回収し、先ほど敵から回収した腰袋の入れておいた。
他の敵も死亡を確認し、それぞれ腰袋を漁った。油紙は回収し、水筒は水を全て飲んで捨てておいた。
そして、気絶させた敵の方に近寄り、掌に雷の魔力を込め、脳に流し込み命じる。
「俺の命令に従え」と。
すると、はい、と力なく答えた敵がゆっくりと立ち上がる。
・・・大丈夫か、これは。
「俺を無事に降ろせ、なるべく急げ」
そう言うと、敵は先程の無気力感が嘘のように早歩きで歩き出し崖を降りだした。どうやら大丈夫らしかった。
「下りながら喋れ、さっきもしお前をそのまま生かしていたら俺をどうした?」
「はい、途中崖から落とそうと思っておりました」
「そうだろうな。よし、お前に命じる。ここを降りたら自害しろ。崖の上に再び登って頭から落ちて死ね」
「分かりました、仰せのとおりに」
溜飲が下がる思いだった。どうにも土下座しているこの男が信用ならんと思っていたが正解だったらしい。この手の人間は生かしておいても仕方がないだろう。だが、自分の手を汚すのも癪だったので自害をさせることにしたのだ。殺す時間も惜しい。
途中まで下りながら質問をした。
「お前達の食料はどこにある?」
「ここから降りた先、見ればわかりますが北西の方に村のようなものが見えると思いますがそこです。村人たちも避難しています」
そうして崖の下についた。
「ここまで来れば大丈夫でしょう、では私は崖の上に行って頭から飛び降りてきます」
満面の笑みでそう言われた。
「ご苦労。ではな」
思うことはあったが、そう言うに留めておいた。
この敵がどうなろうと知ったことではない。そもそも殺さなければ殺されていた、それだけのことだ。
そんなことよりも、俺には今やるべきことがある。
そうだな、リリス。
心のなかでそう呟き、俺は走り出していた。
次回のストーリーは二種類に派生します。選択肢が発生。
選択肢は以下の二つ。
この後ヴェルがどう行動するか?
1.リリスと合流しない→EXへ
2.リリスと合流する→本編続きへ




