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奇襲

火の手が上がる最前線。普通の行軍ならば朝から昼までかかる移動も、風の魔術で移動できる俺にとっては一時間とかからない距離だった。


探知を行いながらだったので言えることだが、村には誰にもいなかった。一瞬で通り過ぎたが、人っ子一人いなかった。


この時点でやはり気づくべきだったと悔いるが遅い。


何故村に人がいないのか。そこが戦闘区域になるため村人たちを避難させたに違いない。


一体どれだけ用意周到に準備された反乱であったのかがわかる。


最前線攻撃、指揮と同時に食料を焼き払いに来るあたり抜け目がないのも恐ろしい。完全な二重の手と言っていいだろう。


村人を撤退させることで人や敵がいないと錯覚させることによる油断を生んでからの兵糧攻撃。


遠征による弱点はとにかく兵糧に尽きる。それは基本だが、基本過ぎることであるが故に落としやすい点でもある。



兵糧を敢えて回収せず燃やしに来たのは確実性を求めて来たのだろうと推測出来る。一地方の反乱なので食料はないのが実情だとは思うのだが、にも関わらず貴重な食料を焼き払おうとする算段に恐ろしさすら感じた。


ここまで考えて、果たして俺一人で太刀打ち出来る相手なのか?と考えたがその考えを振り払うように足にさらに魔力を込め加速した。


そんな考えでは勝てるものも勝てない。


生きて、帰るんだ。


───そうだろう、リリス。



そうして足を止める。村のさらに奥に細い道らしきものが見える、そして両側には切り立つ崖が高くそびえ立っていた。


そして、その奥。


大きながけ崩れのようなものが起きており、先に進めなくなっている。そしてそのさらに奥で黒煙が空に舞い上がっていた。


想像以上に酷い状況だと思う。ここまで死体の焼き焦げた独特の匂いがすることでさらに死を予感させた。


おそらく、このまま突っ込めば俺は、死ぬだろう。


この状況で焦らないわけがない。リリスが無事でいるのか、居てもたっても居られない。


だからか。心の中で「すまない、時間をくれ」と気づけば繰り返し呟いていた。



とにかく冷静にならねば。こんな気持ちでは助けられるものも助けられはしない。


よし、必要な情報を整理しよう。


いくつも情報があるから混乱するのだ。一つ一つ整理し、点を線につなげていくんだ。


そうしなければ、おそらくこの敵には勝てない。



今起きていることは、なるほどあの兵士が言っていた通り自然現象で出口を塞がれ、正面を木の柵で閉じ込められ火矢を受けている状態だ。


だが、この黒煙はどう説明するんだ?全ての人間が焼け焦げているということになりうるか?


答えは否。


そして最も問題なのはこのがけ崩れ。自然に起きたものではない。とするならば崖の上に何らかの仕掛けがあったと見て良い。例えば崩れやすくしておいて、いざ敵がきたら崩したか、上から石を転がしたか。


どちらにしても兵なしには成し得ないことだ。


ということは、だ。


この切り立つ崖、上にいく方法があるんじゃないか?


しかし左右どちらを見ても断崖絶壁と呼べる垂直な崖があるだけだった。


何か、何か方法はないか?


こちら側にないのなら、きっと向こうに上がる場所があるのだろう。


考えろ、上がる方法・・・上がる方法、か。


「あ・・・」


思い、ついた。


思わず唾を飲む。出来るのか、そんなことが。と正直思った。


───否


やるしかない。


今考えられる方法はこれしかない。やるしか、ないんだ!


そう思い、左側に走り探知を行う。とにかく崖の上に魔力があるかどうかを確認する。探知魔術に高低差はない。だからここから探知して上に敵がいるかどうかも十分確認は可能だった。



いない、万が一いても突破してみせる。


さて、次に上がる方法だが。周囲に敵がいないのは確認済みだ。おそらく撤退出来ないと踏んで兵士を前線に押し上げているのだろう。


だからこちら側は完全ながら空き。


一人でもかけるしかないだろう・・・攻撃を。


そう思いながら両手に土の魔力を込め地面に使う。出来る限り高い煉瓦を作り上げ土台を築いていく。


崖の3分目までを階段上に煉瓦を積み上げることで上がったわけだが、残り7分をどう上がるか、だが。


今度は風の魔術を込め、「風の足場」を造った。


そう、学舎の屋上に行くときにメルコが風の足場を作って階段を登ろうとしていたことがあった。あれを思い出したのだ。


試しに乗ってみると、とにかく不安定だった。が、やれないことはないと思った。


そこで次の風の魔術応用編。


投石をする際に風の魔術を使うわけだが、まず風の軌道を魔術で作る必要がある。そしてその軌道に載せるように石を投げるわけだが、自分自身を飛ばすことを考えたのだ。


この風の足場を縦状にし、自分自身を上まで押し上げる作戦である。


力技すぎて作戦でもなんでもない。何より失敗したら落下して死んでしまう可能性がある。


一度はなんとかなるかもしれない。地面にたたきつけられる前に風の足場を地面に向かって作れば・・・と考えてそこでやめた。


落ちたら死ぬ、きっと死ぬだろう。だから成功させる必要があるのだ。


なるべく足場を作って高いところまで来たのは風の軌道が作れる距離にも限界があるからだ。なるべく高い位置で風の軌道を作りたかったというのが本音だ。


風の軌道を縦に作り、上を見上げる。高さはまだ相当にあった。だが、届かない距離でもない。


行くしかない!


心のなかでそう叫び風の軌道に向かって、なるべく上に飛んだ。


するとみるみるうちに上に飛んでいった。自分でも驚くべき加速と浮遊感。


だが、上に行くほど減速しだした。おそらく風の軌道の力が先に行けば行くほど弱くなっているらしかった。石程度の軽さなら関係ないのだろうが・・・


と考え、そうか、そういうことかと思いついた。


風の魔術で自分自身の体重を石ころ並に軽くすればいいのだ。そう思い魔力を込め自身の体重を軽くした。


あまりに軽量化すると崖上空で吹いている横風にあおられて飛んでいく恐れがあったため最低限の重量は残しておいた。すると減速していた自身の身体が加速し上空に飛ばされる形になった。


まずい、勢いがありすぎる。


そう思った時には崖の頂上のさらに上に飛び上がっていた。


「掴めない、崖が!」


無意識にそう叫びながら風の魔力を両手に込め、すぐさま足場を空中の足元に形成し、思い切り崖に向かって自身を蹴った。


「がっ・・・はっ」


高さがありすぎたせいだった。着地に失敗し、気づけば地面に転がっていた。


だが、成功した・・・。口元の血を拭いながら内心ほっとする。


敵は予定通りいなかった。


が、奥から魔力を感じる。綺麗に整列されて感じるのでおそらくこれが敵だろう。上からも何らかの攻撃をしているに違いない。


崖の頂上に登ってみれば、なるほど。こちら側が高く切り立っており、徐々に下っていく形になっているようだった。


上から敵を確認出来るのは有利だな、と思う。おそらく下で崖下に向かってひたすらに攻撃をしているに違いなかった。


そしてそれは事実だった。上からそっと覗けば、下で攻撃をしている敵達がいた。その数わずか5人。


わずか5人、されど5人だ。


全員意識は崖下に向いている。見れば大きな岩を下に投げ落としていた。


仕留めるしかない、そう思い投石具を出す。


遠距離でやれるのはおそらく二人。上手くやれば三人。どちらにしても敵は残る形となるだろう。



どこを狙うか考える。


落ち着け。ここまで来て失敗は許されない。


深呼吸して、よし、と心のなかで行動を決める。


投石具に手頃な石を乗せ、振り回し一気に投げた。が、一投目は大きく崖側に外れた。風が強くて軌道がそれたのだ。


風を読みもう一度投げる。これも外れる。


内心焦る。だが、焦っても仕方のないことだと言い聞かせる。


とにかくこの一発が当たるまで投げ続けるのみ。敵にはばれていない。石は無音で飛んでいくだけだから目立たず気づかれないのだ。


諦めずにもう一度、当たってくれと願い投げた。


すると、最も奥の敵に当たり一人崖の下に落下した。


───今だ!


今しかない。投石具を腰に戻し、地面から石を拾い、一つ手前の敵に向かって魔力を込めて投げつけた。


こちらは風の影響を多少受けても問題なく直撃した。敵の腹を貫通し、もう一人落下していく。


それを残った三人が追いかけるように見ている。


予定通りだと思った。


だから飛び出し、一気に最も近い敵を全力で二人目めがけて蹴り飛ばした。勢いが思った以上にあったため三人目にも少しあたって体制を崩し、三人共まとめて崖の下に落ちていった。


見れば向かい側にも敵がいた。数は三人。


だがこちらに気づいた様子はなくひたすら下に投石を行なっている。


これらも魔力を込めた投石攻撃で全て一掃しておいた。


「よし、下はどうなっているんだ」


崖下の様子をみてみると、見るも無残な光景が目に入ってきた。もはや身体の跡形も残っていない状態のものがいくつも石の下に転がっていた。


が、これで退路は確保された。少なくとも生きている人間の退路は。


そう、思うことにした。今は死んでいった者達よりも生きている者をどう生還させるかだった。


さらに崖を下って前線を見届けることにした。上を確保しているのだ、援護のしようもあると言うものだ。


それもあるが、肝心のリリスがまだ見当たらなかったから帰るわけにはいかなかった。



本当の戦いは、これからだった。



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