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自己分析

「ヴェル様、しっかり。大丈夫ですか!起きて下さい!」


その声に起こされた。


しかし身体は起こせなかった。気づけば身体中汗をかいていた。


地面が熱いと思った。一体どれくらいここで寝ていたのだろうか。


「お気づきになられましたか?」


見慣れた顔だった。


「リリスか、どうしてここに」


「3番隊の人達がわたくしが所属する1番隊に来たのです。1番隊は明日休みなので誘いに来たのでしょう。1番隊と3番隊で遊びに行こうという話になったのです。わたくしはお断りしたのですが」


それを無言で聞く。リリスはこう続けた。


「すると3番隊と仲良くしていると言っている方が一言言っていたのが妙に気になって」


「一言?」


「ええ、何でも3番隊で喧嘩があったとか。監視を袋叩きにしたらしいと聞いて、もしやヴェル様のことではないかと思い居ても立ってもいられず探しに来た次第です」


「・・・そうか。済まない、このことがばれたらお前が怒られてしまう。早く戻ってくれ。俺はもう大丈夫だから」


そうだ、リリスが抜けだしてここにいることが1番隊の者にばれてはまずい。いや、どこの隊の者にばれてもまずいだろう。


「今は昼休憩なので大丈夫です」


昼休憩・・・そんなものがあるのか。部署によって全然体制が違うのだな、と思った。


うちにもあるのだろうが、俺にはなかったなそんなもの。


もうないのが当たり前になっていた。


「済まない、貴重な休み時間を。大丈夫だからゆっくり休んで欲しい」


「ヴェル様、わたくしのことより貴方です!」


「何を・・・」


言っているのか分からない、と言おうとした所で


「普通ならば手を貸して欲しいとか、何かあってもいいはずです。どうしてそんな状態になってまで他人のことなのですか!」


言われてもよく分からなかった。


「リリス、いいから。お前の貴重な時間を使わせたくないんだ、分かってくれ」


それでも納得していない顔なので


「なら言い方を変えよう。今はしばらく一人になりたいから戻って欲しい。今は身体が動かないから動くようになったら幕舎に戻る。安心してくれ」


リリスは、分かりましたと言い立ち上がった。


「リリス」


「はい」


「有難う」


リリスは、勿体なきお言葉、と一言言い隊の方に戻っていった。


「さて・・・」


身体を動かすにはもうしばらく時間がかかりそうだった。



そこで一体何があったのか、少し整理してみることにした。


最後に見た隊長のあの顔は、おそらく。


「思惑通り」と言った所だろうか。なるほど、「これ」は考えていなかった。


なんとも、よく考えていると関心すると言うより呆れた。


仕込みは演説から、なのだろうな。


わざわざ「脱走者が出た」と宣言することで不満を自分ではなく俺に向けてきた。演説がやたら短くあっさりしていたのもそのためだろう。


もしあそこで脱走者の話振らずに「君達を休ませる。すぐにも解散」と済ませておけばここまではならなかったと思う。あの一言は完全に余計だ。


余計だが、あの隊長にとっては「必須」な一言だったのだろう。


結果として、兵士たちの不満は俺に向かい、全てを吐き出すように俺を殴り飛ばして終わったわけだ。


彼らは今頃意気揚々と休暇を過ごしているに違いなかった。


俺の存在など当然のように忘れて。


俺は一体何をしているのだろうな・・・。


気づけば涙が出ていた。


何故そんなものが出てきたのか自分でもわからなかった。



それからしばらくして、何とか這いつくばり木の傍まで行き、木にしがみつきながら立ち上がることには成功した。


が、一人では歩けそうになかった。


リリスに大丈夫だと強がり等言うものではなかった、と後悔するが遅かった。


「やむなし、か」


影に魔力を込め影を実体化し影の力を借りて途中まで行くことにした。


影の自分が言う。


「ひどい目にあったようだな」


「まあな。って影に魔力込めすぎて喋れるようにしてしまった」


「たまにはいいじゃないか。いつも便利に使って。けど、今回の件で俺の気持ちがよく分かったんじゃないか?」


「まて、あの隊長と同じにするな。俺はお前を大切にしているしこの魔術を大事にしているつもりだ」


と言うと、影に「違いない」と言われた。


互いに探知をしあい、人に見つからぬよう最短かつ最適の道を選び幕舎までたどり着いた。


そうして幕舎のベッドに倒れこむように入った。


うつ伏せの状態で、影の方に向かって


「済まない、助かった。自分に感謝するのも変な話だが」と言うと


「いや、自分を大事にせぬ者に他者を大事には出来ないと俺は思う。まあ、これからも大事にしろよ、俺のことも、当然お前のこともな。忘れるな、俺はお前で、お前は俺であるということを」


影はそう言うと俺の右手に触れ消えていった。


影は理想の自分。ならば今の言葉も俺の理想、なのだろうか。


それとも、俺が心の底で「そうでありたい」という願望に過ぎないのか。


そこで全身の疲れと眠気からそのままベッドで寝てしまった。


次に起きたのは深夜だった。


「いかん、寝過ぎた。監視を・・・」


と呟いた所で、次の日休みだということを思い出した。


「夜か。リリスはまだ戻ってきていないようだな」


身体が汚れているままだったのでまずは風呂に行こうと思った。


軋む身体を無理矢理に起こし風呂場に向かう。


久しぶりの薬草風呂か、と思い風呂場に行き、風呂に張られた水に触れるととても冷たかった。


「まあ、そうか」


両手に火の魔力を込め水の中に流しこむ。ぼこぼこと泡を立てながら水が一気に熱くなった。


「・・・やりすぎたか」


いや、熱いくらいでいいだろう。服を脱ぎ風呂に入る。


全身に染み渡る心地よさ。擦り傷が少し痛んだがしばらく入っているうちに慣れてしまった。


「ふう、さて大変なことになった」


どこか他人事のように呟く。


もうあの3番隊には居られないのではないか、と思う。


隊長からもいいように扱われ、周囲からも完全に孤立した。


別にそれで自分が困るかと言うとそれほどでもないのだが、もはや噂を収拾することも出来なければ他の部隊との交流もないので孤立無援、という言葉がぴったりだった。


別に辞めてもいいか、漠然とそう思った。


流れで魔族軍に入隊したわけで、特別入れ込んでいるわけではない。


誰かの役に立ちたいと願っているわけでもなければ守りたいと思うほどのものもなかった。


確かに、あの兵達の言うとおり、俺には「友」もいなければ「仲間」もいない。


そんなものは昔から作って来なかったし。が、その必要性は、あるといえばあるか。


強がりで「ない」と思おうとして、やっぱりあると心のなかで言い直した。


このままでいいのだろうか。


自分はこのまま一人でどこまで立ち向かっていけるのだろうか。


誰にも理解されず、同情もされず、そうして


生きている意味はあるのだろうか。


そこまで考えて虚しくなったのでやめた。


虚しい、という言葉は正確ではない。


きっと、これはそう「無力感」と呼べる感情なのかもしれない。


───と


幕舎の方から魔力を探知した。おそらくリリスだろう。


だが、しばらく風呂から出る気はなかった。もう少しのんびりしたかったのだ。


ここ最近忙しかったように思う。


毎日ほぼ寝ずに言われるままに仕事をし、貶されながらもそれに慣れ淡々とこなしてきた。


・・・その報いか。


言われたことを言われたとおりにする事くらい誰にでも出来る。


楽をした結果、ツケが今来たと言うこと、それだけのことか・・・。


だが、周囲の兵達もまた言われたことを言われたとおりにしかしていないのにこの差は何なのだろうか。


どこか理不尽さを感じずにはいられなかった。


「もしも・・・」


もし、彼らもまた報いが来るとすればいつ来るのだろうか。


俺はもう来た。これが何かの報いだというならば、きっと彼らにも全員報いが行って然るべきではないだろうか。


キリのないことを考えていると、リリスがこちらにやってきた。


「こちらにおられたのですね」リリスが服を脱ぎながらこちらに言ってくる。


「もう上がるがな。済まないな、見ないように出るから」


そう言って上がろうとすると、まだいいでしょうと押し倒される形で風呂に再び入らされた。


「どうした、普段はこんなことをしないだろう」


「いいえ、いつもしたくてしょうがなかったのです。明日はお休みですしゆっくり出来ます。ですから二人でゆっくりしましょう」


リリスはその美しい肌を隠そうともせず、こちらの傍によってピタリとついた。


「そうやって多くの男に言って来たのか?」といい、リリスの顔を伺うと顔を赤くして


「わたくしはそんなことはしません!ヴェル様だけです!」等と言うので面白くなり


「どうだかな、俺はここしばらくお前と合っていなかったしな。実際言い寄られるのではないか?お前ほど美しい女もおらんだろう」


事実だった。リリスは、美人だと思う。元聖女の母も相当に美しい女性と認識しているが、リリスもそれに匹敵する美しさだ。美しさの方向性が違うだけで。


母の方は明るい服を好んで着るため明るい美、とでも言おうか。リリスは黒い服を着ているため黒い宝石のような怪しい美しさを持っていた。


「声はかけられますけど、全て断って来ましたし・・。ああ、お高くとまりやがってと言われた男もいたのですがお高くとはどういう意味なのでしょう」


「高く?分からないな。そんなことより周りとは上手にやっているか?」


「そうですね、悪くはないですけれど良くもないですね。ヴェル様は・・・手酷いことになっているようですね」


否定出来なかった。


「ここにも傷が・・・ん・・・」リリスが首筋を舐めてきた。


「何を、する」


「傷があります、竜族が舐めると傷の治りが早くなる・・ん、そうです」


そういって丹念にあちこちの傷を舐めようとするのをなんとか制止させた。


なんだかいけないことをしている気分になったからだ。頭の中がジンジンし、体全体が心地よくなったし事実身体に良いのかもしれない、とも思ったがリリスに舐めさせることに悪気を感じたのだ。


「気持ちだけ受け取っておこう。ああ、そうだな。そういえば、さっきな」


「どうしました?」少し不満そうにリリスが離れて尋ねてくれたので


「さっきまで一人で考え事をしていた。今日起こったことをだ。俺には友も仲間もいないと兵達に指摘され否定出来なかった。おそらくこの休暇の後、俺は孤独だろう。それは別に構わないと思っていたが今回の一件でこのままではいけないとは思った」


それにリリスが無言で聞き行ってくれていた。


「兵達に囲まれ乱戦になった。その際一人では何も出来ないことを痛感させられたよ。何でも数なんだな、と」


するとリリスは、


「数が欲しいのですか?あくまでわたくしの考えですが述べても?」と言うので無言で頷いた。


「わたくしはそういう繋がりは必要ないと思います。確かにわたくしも周囲とそれなりに上手くやってはいるのでしょうが、だからといって彼らのことを友だとも仲間だとも思ったことはございません」


「妙だな、3番隊の連中は同じ飯を食べて寝ていたらもう友であり仲間であるとかなんとか言っていたぞ。後お前に人の心はあるのかと言われた」


リリスは少し考え、こう答えた。


「そういう考え方もあるのでしょう。ただわたくしは、どうしても彼らを仲間だとは思えません。そうですね、頼ろうとも思いませんし、頼りたいとも思っていませんから」


その後間を空け、リリスは笑顔で


「わたくしは、ヴェル様がいればいいのです。まあ、それとそうですね。後はおじさんがいればそれで楽しかったではありませんか。色々あるのでしょうが、わたくしは家族のような間柄にならなければ友とも仲間だとも思えないようです」


ああ、それと、とリリスは言い置き、


「わたくしは竜族ですしね、魔族でもありますが。人の心など持ちあわせてはいないのですよ」


苦笑しながらそう締めくくった。


「どうだろう、何故かリリスの方が温かみのある感情だと思うのは俺だけなんだろうか」


「まあ、考え方も色々あるのだろうな。有難うリリス、参考になった。それとありがとな」


「何が、ですか?」


「いや、俺がいればいい、という言葉が嬉しかった。俺もまたやっぱりリリスとおじさんがいればそれでいいようだ。俺も人の心を持ちあわせていないようだな」


と苦笑した。


「大切なのは数ではないと思います。どれだけその人のことを強く想えるか。大切に出来るか、なのだと思います。彼らは凄いですね、多くの者を守ろうと大切にしようとしてるのでしょうか。わたくしには真似出来ません。ヴェル様のことだけで頭がいっぱいです」


いや、それもどうかと思うぞリリス。


それからしばらく風呂に入り続け、頭がぼぅっとしてきた。


このままではのぼせてしまう、と足だけ浸かるようにし、まだ風呂に浸かっているリリスにこう言った。


「魔族軍を辞めようか、とさっきまで実は考えていた」


「───え?」リリスは驚いてこちらをみてきた。


「いやなに、俺は役に立っていないし見ての通り孤立無援だ。そこまでしてここにいる必要があるのかと考えただけのことだ。そしてその答えは出ていない」


「ヴェル様がお辞めになるならわたくしも」


「いや、リリスの力は役に立つ。誰かを守れるし、きっとこれからを切り開いていくのだろうなと漠然と思う。だが俺には何もなくてな。無力感を感じていた」


お前に言うことでもないのだがな、と付け加えた。


するとリリスは、


「ヴェル様は無力ではありません。例え手足がなくなってもヴェル様は無力ではありません」


等と言い出した。


「その例えは酷いが、どうしてそう思うんだ?」


「わたくしが無力ではないと仰られるなら、そのわたくしをここの繋ぎ止めているのはヴェル様の存在であってそれ以上でもそれ以下でもないからです」


と答えが来た。


「なんだそれは。では魔族軍をやめれないではないか?」


「いいえ、いつでも辞めれるのです。それはヴェル様次第でございます。わたくしはそれに従います」


「・・・そうか」


それに、そうです、と答えた。


「もし、万が一だが。おじさんが戻ってこないような事があれば辞めようと思う。それでも、いいか?」


「分かりました。決してお一人でお辞めになられぬようそこだけは言っておきますよ」


と言われ頷いた。


辞める、か。両親にも一言言っておかねばならないか。





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