疲労
問題は次の日に起こった。3番隊が一箇所に集められ、
「おい、見張り!」
隊長が顔を真赤にして俺に怒鳴ってくる。
「・・・は?」
一体何が起こるのか分からなかった。
「食料が少し減っている、なんだこれは」
なんだこれは・・・と思い浮かべてしまったと思った。が、小さくしか穴を開けていないのによく気づいたなこのおっさん、等と思っていると
「私は食料配給後全て見まわった時、袋にこんな穴は開いていなかった」
等と言い出した。
「そこで見張りだ!お前、何か見なかったか?おかしいだろう」
「・・・は。何も見ておりません」
どれだけ細かいおっさんだ、こいつ、と思った。
「実戦においてはこういった事から命を失うこともあるのだ。それを・・たるんでいる!」
「申し訳ありません」
と。
別の兵が「虫か何かが食い散らかしたのでは」と発した。それに、ふむと考えこみ
「分かった、それでとりあえず納得しよう。だが、その虫を監視し損ねたお前は罰が必要だ」
───え?
「ここの穴は私が塞ごう。お前は食料を取りにいけ。一つ一つ手で運べよ」
等と言い出した。
「お、お待ちください。この食料倉庫はほぼ空で、荷台で運ばねば終わりませんよ」
思わず言っていた。
「それくらいしなければ君は分からんだろう、君は馬鹿で無知で無能なんだから。新人の君に一体何が分かるんだ?いいからやりなさい」
と言われ、もはや何を言っても無駄だと食料倉庫に走っていった。
内心で舌打ちする。
なんなんだ、あの隊長は。完全なる嫌がらせではないか!
この、食料運搬で一体何が分かるというのか。否、ただの無駄な作業だ!
くそ、面白くもない。
内心舌打ちしながら黙々と一つずつ食料を運び込む。
朝飯も食わず、昼飯も食わず淡々と同じ作業をしているとまた隊長に呼び止められた。
「今度はなんですか?」
「なんだ、まだ減らず口を叩く余裕があるのかね。体力だけはあるようだね、褒めてあげよう」
いちいちいけ好かないやつだと思った。
「有難うございます、それで何か?何もなければ作業に戻りますが」
「その作業だが、君、まだ半分も埋まってないよ。実戦なら食料が足りずに全滅しているところだ。どうなんだ、そこは。遅いと自分で思わないのかね」
「は、頑張ってはいるのですが・・・」と答えておいた。
「走りなさい、常に走って運びなさい。夕方までに絶対終わらせるように」
とてもじゃないが終わる量でも速度でもなかった。
睡眠不足で上手く魔術も扱えない状態で、重量すらまともに変化出来ない現状にさらに速度を上げろと言うこのおっさん。
「・・・分かりました。では失礼します」
もはやヤケだった。必死にやった結果なんとか時間内に終わった。
目眩がした。朝から飯を食べていないし、思えば何も飲んですらいない。流石に水がいるよな・・・と思っていると招集がかけられた。
「夜の監視役にはまた君がやるように。昨日のようなことが起こらないように」と言われ
「すいません、晩飯と水は・・・」
思わず聞いていた。
「昨日もありませんでしたが、今日もなしですか」
と言うと
「はあ?そんなもの自分で用意なさい。当たり前でしょう。ではみなさん解散」
・・・なんなんだ、こいつは・・。
流石の俺も腹が立つぞ。
何が「当たり前」なんだ?
見張りに適した場所で見張りをしながら考える。
探知の魔術を扱い、周りに誰も怪しい動きをしているものがいないことを確認すると眠たくなってきた。
が、まずい。影もなしに寝るのは・・・。
ここからは完全に自分との戦いだった。
───と
誰か一人来る。
誰だ?
誰かが宿舎に入ろうとしていた。なけなしの魔力を足に込め、そこから蹴り、飛ぶ。
そして腰につけていた「短剣」を持ち、そっと近づいた。
怪しければ、殺す。それしか頭になかった。
眠い、だから理由すら聞かずに殺す。
何、問題ない。監視の仕事をしたまでだ。殺すなとは言われていない。
と、思っていると宿舎前には見覚えのある姿があった。
静かに近づき
「おい、こっちだ」
その者を手引きし、先ほどの高台に戻ってきた。
「どうした、リリス」
その正体はリリスだった。
「ヴェル様を探しに参りました、大丈夫ですか?」
「・・・大丈夫、ではないな正直」
とりあえず探知魔術を使うが、クラクラして魔力を上手く探知出来ない。
「昨日から・・・かな。飯を食べていないし寝てもいない」
「わたくしが監視をしましょう。ヴェル様は少しお休み下さい。顔色も悪いご様子ですし」
「・・・お言葉に甘えよう」
とにかく少し寝て魔力を回復せねば。
「一時間、いや30分程休む。起こしてくれ」
それにリリスはわかりました、と答えて。
そこで俺の意識は途切れた。
それからどれだけ経っただろうか。
はっと気づいたら目の前にリリスがいなかった。
「なっ、俺はどれだけ寝ていたんだ?」
気づけば先ほどより暗くなっていた。大体3時間くらいか・・・?
と思っていると後ろからリリスの気配がした。
「どういうことだ、俺は起こしてほしいと言ったが」
「申し訳ありません、あまりにお疲れのご様子でしたし、何より敵襲などないと思ったので・・・」
リリスは横に座り水を手渡してきた。
「・・・済まない、有難うもらおう」
その水をもらい飲む。とても美味しかった。
「今のところ誰もいませんね。宿舎からは出ていません。出てきた所を射抜こうと弓も準備しておいたのですが」
「・・・そういうリリスはいいのか?というか、ここまでよくばれなかったな」
すると
「わたくしはいいのです、むしろもっと暗いほうが好都合で」
黒い霧を自分に纏わせて帰るつもりだな、と思った。
「おいおい、それ誰かに見られたら不審な者がいたと見張りが怒られるんじゃないか」
「誰が怒るんですか?」
リリスが苦笑してそう言ってきた。
「そりゃ、お前・・・・。うちの隊長様がさ」
それからしばらくリリスと隊長のことで愚痴を話し、別れ、今日もやはり探知に誰もかからなかった。
なんとも平和な一日だった。




