配属
弓兵部隊には5つの部隊がある。
朝起きてリリスと朝飯を食べ終わり少し時間があったのでその話をしていた。
「今日から部隊に配属されるわけだが」
それにはい、と答えるリリス。リリスはそれもあって今日は弓兵の服でいる。
「おそらく俺とお前は別になるだろう。1と2は分からないが、3がおそらく最悪、5が次点か」
「わたくしはヴェル様とご一緒ならどこでもよかったのですが・・・」
それに苦笑し
「あくまでおそらく、だ。まあ、どこに行っても通用はするだろうが・・・」
その後に懸念していることを続けた。
「もしかするともうリリスとは会えないかもしれない。部署が違えば、な」
「わたくしが会いに行きます」というので
「いや、それはやめたほうがいいだろう。何か噂されてもお前のためにならない。お前と俺は知らない間柄ということにしておこう」
リリスはそれに不満があるのだろう、とても嫌そうな顔をして
「リリスのことがお嫌いになったのですか?ならば自害を───」
というのを制止し、
「お前のためだ。どうにも嫌な予感しかしないんだよな。だからしばらく様子を見たい」
と、とりあえず納得させた。
そして別々で弓兵部隊に行くことにした。
弓兵部隊に行くと、俺はどうやら3番隊に入隊が決まっていたらしい。あのひたすら矢を回収する作業をしていたあの部隊である。
とりあえず隊長に挨拶をする。
「本日付けで3番隊に入隊しました!」
それに覇気も何もない顔で3番隊長は、「あ、そう」と一言だけだった。
「周りに指示仰いでもらって、私はちょっと腰がいたいので部屋で休んでくる」とのことだった。
なんだろうな、やはりぱっとしない指揮官だと思っていたら同じ3番隊の男に声をかけられた。
「よう、隊長はまた休みか。腰抜けなんだよなー」大声でそんなことを言い出した。
「腰抜け?」
「あー、矢の回収のしすぎで腰を痛めたらしいんだよ。それから動けなくなったみたいで。色々噂されてるぜ、ただやる気が無くて仕事から逃げたくて言い訳に使ってるんじゃないかとかな」
・・・ありそうだった。
「お、それは確かにそうかもしれないって顔だな。どうやら俺達は仲良く出来そうだ。まあ、気楽にいこう。あんな奴のために必死になっても仕方ない」
とりあえず頷いておき、
「これからどうすればいいのでしょうか」と尋ねると
「そうだな、弓の訓練するから矢を配給してくれ」
と言われ頷いた。
おじさんに言われたとおりのやり方でひたすら矢を補給し続けた。初日あたりでやった作業だな、と懐かしく思う。
気づけば夕方になり、矢を拾う作業になった。
「やれやれ、これが面倒なんだよな」と朝声をかけられた兵に言われる。
「荷台に載せていけばいいんじゃ?」と言うと
「そうか、その手があったな」と空の荷台を引いて来て矢を回収した。
回収後「お前は偉いな」と言われたが、「有難う、ございます」と一言に留めておいた。
別に偉くもなんでもない、当たり前のことではないのだろうか。
沈む夕日を見ながら思うのであった。
そんな日々を繰り返す事一週間。なんと3番隊長は別の配属先に回されることになった。どうやら魔術師部隊に行くようだ。
「知ってるか新入り。あれ栄転という名の左遷だぜ。使えない、けど年齢が高くて降格処分も出来ない。だから苦し紛れに魔術師部隊に回したんだってよ、噂だがな」と言われた。
「ところで、俺達はどうなるんだ?」一週間も経てば敬語もなくなっていた。慣れとは怖いものである。
「あー、これも噂だが4番隊の副隊長が来るらしい。これが曲者らしくてな」
「どう、曲者なんだ?」
「複雑なんだが、元3番隊の隊長をしていたのだが上の命令で4番隊の副隊長に任命された人らしい。部隊のテコ入れがいるらしくて」
「なんだ、その話を聞く限りだと出来る人間なんじゃないか?」
「いや、それがな・・・」
という所で招集がかけられた。
何故か3番と4番らしき部隊が一箇所に集められ、4番隊長から一言があった。
「3番隊長は栄転され出世された。そこで代わりの人員として我が部隊から副隊長を出し3番隊部隊長に任命したいと思う。では、副隊長殿、一言を」
・・・妙だな、と思った。
なんだ、4番隊長なのに副隊長に「殿」をつけるのか?
等と思っていると新3番隊長が前に出て一言を述べる。
「あー、諸君の戸惑いも分かる。突然のことなので混乱もするだろうが落ち着いてほしい。今日より3番隊隊長となる者だ。これから一つ、よろしくお願いします」
本当に一言で終わった。
その後解散となり、ここからが大変だった。
この新3番隊長はとにかく細かく、1から10まで説明しないといけない類の者だったらしい。
「あ、君は10人集めて弓の訓練を。一本一本大切に撃つように。撃ったらすぐ回収を」
等と指示を飛ばしている。なんとも効率の悪い指示だな、と思っていると一人自分だけが残った。
「あー、君は。なんとも冴えない顔をしているな」
といわれる。他の奴らにそんなことは言ってなかったじゃないか・・・と思いつつも
「すいません」
「いやいい。君はー・・・、君は何が出来るんだ?」
「新入りなので矢の回収くらいしか」
「ふむ、では矢の回収を。彼らが撃つから撃つたびに回収するように。で、君が回収するのだから他の人達は回収しなくて済むわけだ。そのことを彼らに伝え、君が矢を回収し続けるように」
と言われ「はあ・・」と答えると、「なんだ、私の言うことに文句があるのか?」と言われ、いえ、と答えると「よろしい、分からないことがあれば聞くように。君はまだ新入りなんだ、わからないことだらけだろう」
「分かりました・・」
そういい、周りの弓兵達に事情を説明すると「何いってんだ?」と言われた。
俺がそう言いたいよ!
思わず心のなかで叫んだ。
とにかく矢が降り注ぐ中、矢をひたすら矢筒を持ち回収することにした。
的の方に立ち、矢を回収しようとする。
が、シュンシュンと矢が飛び交い、気を抜けば一瞬で死ぬように思えた。
「本当にこの中で矢を回収するのか?」
思わずそう呟くが仕方がない。まあ、よほど運が悪くない限りは当たるまい。矢を避ける練習だと思えばいいだろう・・・。
と、コツコツと回収し始めた。矢が雨のように降ってくるがそれを回避し、よけきれない時は手刀で叩き落とした。
そんな作業を続けると
「中止!おい、そこの。何をやってるんだ!」大声で怒鳴り声が聞こえてきた。
そこの、はどうやら俺のことらしく、怒鳴り声がする方へ走っていくとそこには3番隊長がいた。
「何をしているんだ!」
「え?矢を回収しろというので周りに撃たせながら矢を回収しておりました。ご命令通りですが・・」
すると隊長は頭を抱えながら
「君は実に馬鹿だな。一人にまず一本撃たせてから回収すればいいだろう。他の人達も真似しないように。一本ずつ撃ち彼に全部回収させなさい」
そう言うと隊長はまたどこかに消えていった。
兵達がざわめき出す
「あの人何言ってるんだ?」
「よく分からないな」
「噂によると自分の言うとおりにしないとめちゃくちゃ怒るらしいぞ」
「まあ、とにかく言われたとおりちまちま撃つしかねえなあ」
と、全員言われたとおりにやった。とても効率も悪く、一体何をしたいのか分からなかった。
その後3番隊員が集められ、さあ晩飯かと思ったら隊長がまた何か言い出した。
「夜は昔は見張りを立てるのが当たり前だった。その訓練をしたいと思う。おい、そこの出来ない奴」
どうやら俺のようだった。静かに一歩前に出る。
「夜の見張りを任せる。寝ずに当番しろ。交代はない、いいな。見張りくらいしろよ・・・」
「はい」
そう言って3番隊は解散となった。
・・・ところで俺の晩飯は・・?
後「はい」と返事したけど、夜休みないのか?
とにかく高い所に登り見張りをすることになった。が、どうにも腹が減ったので影を見張りに残し、自分は食料庫に行くことにした。
「ま、少しぐらい減っても分からないだろう」
食料を自前のお椀に入れ見張り場に戻り影を回収した。特に異変はなかったようだ。
探知魔術もあるし、まあ何か近づいてくれば一発で分かるだろう。
食事をしながら周囲を見渡す。夜目も鍛えているので周囲もよく見えた。
「くそいいな・・・。今頃あいつら晩飯くってんだろうな」
明かりが漏れている宿舎を見ながらそう一人呟くのであった。
夜風にあたりながら、それにしても、と思う。
一体どういう隊長なんだろうな。何を考えてるのかさっぱり分からない。
もしそれを「分かりません」等と言えば余計におかしな話になってくるんだろうな、と思うとお腹のあたりが少し痛んだ。
いや、そんなことより前向きなことを考えよう、と思った。
影の魔術をさらに発展させようと思ったのだ。
このままでは夜眠れない。影に見張りを立たせ、自分本体は寝ることをしなくては。
さらに、影との探知魔術を繋げようと思った。
影が探知すれば自分にも探知が分かるよう魔力の繋がりを作るべきだろう。寝ていても分かるように、だ。
そして探知魔術の強化。今までは魔力と魔術の敵、味方の識別はできなかった。
が、これを機会に識別出来るよう改良を加えようと思った。
まあ、思った所ですぐ出来るものでもないのだが。
魔力には波があるから、その波に色でもつければ簡単に識別できよう。
何故そんな改良が必要だと思ったのか。
例えば夜に魔力が二つ反応したとする。二人いることになるわけだが、これでは目視でどちらが味方なのか、はたまたどちらも味方なのか、どちらも敵なのか判別が出来ないという問題に直面したのである。
「まあ、まさか夜の監視があるとは思ってなかったしな」
そういう意味では今回の隊長に感謝するべきなのだろうが・・・。
「けど、まあ、あれだな・・・。こんな意味の無さそうな所を敵は狙うのか?」
どうにも、それはありそうにない。何のための、何に対する見張りか全く分からなかった。
そう考えると深い溜息が出るのであった。




