特訓の日々
次の日から特訓の日々が始まった。
俺に関しては、武器の基本的な扱い。弓は午後から教わることになっていたので午前中は剣と槍の素振りだ。
リリスはひたすらに槍の素振り。突きや薙ぎ払いだけでなく石突きまで使うようになって槍と言うより棒を振り回しているようだった。
「おい、リリスに見とれてんな!」おじさんに叱られ、「すいません!」と言いながら剣をひたすら素振りする。
しばらくするとおじさんは「午後には戻る、二人でやっててくれ」とどこかに行ってしまった。
剣を振るのに飽きたので槍を練習することにした。
───と
「どうですか、少しなら槍を教えることも出来ますので一緒に」
とリリスから言われたがそれは断った。そういう段階に来ていない気がしたからだ。
「・・・影を使うか」
別に魔術を禁止されているわけではなかったので自分の影を呼び出し剣を手渡し、こちらは槍を持ってひたすら素振り。影が薄くなったら回収し、それを経験とすることで効率的な訓練をする。
しばらくやっていると探知にかかるものがあったので影での訓練は中断、近づいてくる者は案の定おじさんだった。
「気を抜かずやっていたろうな」と言われ頷いた。
昼飯の後は約束通り弓を教わることになった。
弓の使い方を教わり、いざ撃つ時になって問題が発生した。
弓が前に撃てない。
「済まない、矢が前に飛ばないんだが」
「なんて、不器用なんだ」
と、弓はいいからこれを使えと紐状の何かをもらった。
「・・・これは?」
「投石具だ、石を投げる道具だ」
投・・・石?
目眩がした。石を投げて戦えというのか。
いきなり戦力外だと言われてるようなものではないか、と思っていると
「これは使えれば強力な武器となる。何より弾がそこら中に転がってるのがいいんだよ」
と言われ適当に拳大の石を取り、紐に引っ掛ける。
「これは、投げる時に指から離せばいいんだな?」
「そうだ、石が滑りおちないように上手くやれよ」
言われるままに紐の間にある二本の紐に石を乗せもう片方を指で引っ掛ける。
そして適当に振り回して離した。
「ぬお、石が上に飛んだ」
「離す場所が悪かったな。一番下の時に投げてみろ」
もう一度やってみる。今度は下の方で離すと石はまっすぐ飛んでいった。
「ほう、これは・・・案外弓よりいいんじゃないか?」
見た目は格好悪いけれど・・・。
「ちなみにお前、魔力で何かを撃つ出したりしてるだろ。あれ石で試してみろ」
というので、また一つ拳大の石を適当に取り、氷の魔術のつららを飛ばす要領で石を投げると同時に魔力を込め石を飛ばしてみた。
石が恐ろしいほど早く前に飛び、遠くにある木に突き刺さったのが見えた。
「なんだ、これは」
思わず呟いていた。ただの投石じゃないのか。
「まあ、投石具での投石練習と、魔力による投石練習、どちらもしておけ。何、弓兵は要は遠くから敵を攻撃出来ればいいわけだろう。投石も立派な戦力になるさ」
おじさんはそう言うと、俺がさっき使っていた弓を拾い、木に向かって矢を放とうとしていた。
「いいか、矢に関して言うなら意識を集中しまずは放った後の想像をする。矢が当たった想像をしなければまず当たらん」
そういっておじさんは弓を引き絞った。
「そして風を読み、放つ。放った後も意識をそらすな。そして、当たったことを確認しても安心するな。何故か、当たるのが当たり前なのだから」
「優秀な弓兵ほど当たった所で何の意識もしない。当たるのが当たり前で、撃つ前から結果が見えているからだ。だから次の矢をすぐさま放つ、当たる。優秀な弓兵ほどな」
とおじさんは言った。
「さらに魔力を込め、撃つとこうなる」
おじさんはまた弓を引き絞り、今度は魔力を矢に込め発射した。おそらく風の魔術だろう。
木に突き刺さったらそのまま貫通していった。
「10本目あたりだろうな、当たったの」等と言っていた。
「風の魔術の応用であそこまで貫通するのか」
それに、まあな、と答えてきた。
「魔術は不得手ではなかったのか」
「いまのは純粋な魔術じゃないだろう。矢の周辺に風を纏わせただけの、そうだな。言わば風の弾のようなものだろう」
ふむ、なら出来るか?
と思い、拳大の石をまた一つ拾い、魔力を込め投げて見ることにした。
石を前に出し、風の魔術で軌道を作る。その軌道に乗せるように石を投げ、同時に石の周囲に風の魔力を纏わせた。
結果としては、風の魔術による軌道通りに石が飛び、木にあたり木が弾けた。
「なるほど、確かに矢より威力があるかもしれん」
等と言っていると
「こら!」と怒られた。
「何故怒られねばならない?」
「ズルをするな。あくまで投石器で石をまずは投げろ。その魔力で投石は最後の手段として取っておけ」
それに無言で頷きひたすら石を投げつけるのであった。
かたやリリスは器用に弓を撃っていた。相変わらず魔術を使う時は黒い霧が付き纏っているようで、矢に魔力を込めると真っ黒の霧が直線に飛んでいき、それはそれで綺麗なものではあったが・・。
一応弓の扱いも教えてもらい、矢は飛ばせるようにはなったが、投石の方がしっくりくるし、何より弾の補給が楽なのでこちらを主軸において練習するようになった。投石具の予備ももらったし。
後心持ち弓矢より射程が長い気がするのも個人的に嬉しかった。
やはり剣よりは槍というように、間合いが広ければ広いほど危険は少ない。さらに武器そのものに重量もなく移動も楽ときた。弾は現地調達だし、最悪土の魔術で石を作り出すか、風の魔術で足を強化し地面を蹴り砕いて石を作れば良い。
なんとも便利な武器ではないか。・・・見た目は格好悪いけれど。
様々な角度から、位置から投石する練習をした。移動している敵にも当てれるよう風で落ちた葉っぱ等を練習台に使いひたすらに投げ続けた。
夜は魔術の特訓。リリス達には内緒で就寝時間までこっそりやった。影を使い知りうる魔術を使って練習。時には影と武術の練習にも励んだ。
気づけば3ヶ月が経っていた。
その頃には、入隊前と違い、近距離、中距離、遠距離、全てにおいて人並み以上に戦えるようになっていた。毒の魔術に、毒消しの魔術、さらに毒薬、毒消しの薬、さらに薬草調合に山の葉を使った料理と生き残るすべをとにかく叩きこまれた。
厳しい日々だった。一日として気が抜ける日はなかった。おじさんはとにかく厳しかった。
「一分一秒を惜しむな、やれ」
とにかく重要視されたのが効率的な特訓方法。
例えば漠然とやる剣の素振りなど意味がない、と言われた。一振り一振りに「殺す」と気を込めて振り、最後まで力を抜かず素振りをするなど、一つ一つこだわった練習法をさせられた。
弓においては「数ではなく、その矢一本で何が出来るか」を。
槍は「一振りで一体何人の相手を足止めし、殺傷しうるか」を
剣は「最後の切り札」として。
さらに剣がダメならば・・と「短剣」を渡された。
おじさん曰く
「短剣は派手な動きは必要ない。例え周りから何と言われようが最も小回りが利く武器がその短剣だ。あらゆる角度から変幻自在に繰り出される短剣は使い方次第で最強だ。斬る、突く、引き裂く、最も選択肢が多い武器なのだ」
「いいか、お前は影の魔術がある。だから短剣こそ最高の相性を持っているといい。とにかくこれを練習しろ」
と言われあらゆる武器の中でも短剣を必死に振り続けた。時に木に向かってひたすら突き刺し、反復横飛しながら横に斬る、一歩下がる、踏み込み低めに斬る、とひたすら攻撃を繰り出し続けた日もあった。
さらに、おじさんの真似事をするように短剣を両手に一本ずつ持ち扱うようになった。左手にはやや長めの短剣を、右は短めの短剣を持ち、防御と攻撃を分けて扱うように。
もっと驚かせてやろうと「潜伏」の魔術を使い、普段は左手の武器は消して「相手に視えないように」した。こうすれば敵は右手の武器にしか意識がいかないはずで、油断があれば左の武器で即死を狙いに行く。
毒も携帯するようになった。短剣で少しでもかすれば麻痺する類の毒や、飲めば即死に至る毒、持続性のある毒等調合出来るよう道具を持つようになった。
万が一俺が死んだ場合でも、見る人が見なければ単なる草にしか見えないからこれはこれでいいだろう。
まだ他にもあるにはあるが、特訓内容は大まかな所こんな感じだ。
まあ、色々試したが、一番しっくり来たのが「短剣」と「投石」と最初からやっていた「拳」「蹴り」と「魔術」だな。後は基礎体力作りくらいで。
影との練習も相まって相当な練習が出来たように思える。自分で成長したと思う。
さて、リリスはというと。これはまた素晴らしい成長を遂げていた。槍でおじさんの二刀流と正面からやりあえるほどにまで成長していた。
まあ、おじさんが本気を出すと一方的にリリスがやられるが、普段の訓練では引けを取らなくなっていた。手数も増えたし、一撃でどうにかしてやろうという意識がなくなったからだろうか。
また、リリスに関しては剣を念の為にと渡されたが、おじさんが「バルバロッサは羽も武器にして使ってたぞ」という一言から羽を武器や防具として扱うよう訓練していた。
俺達はまだまだ強くなれる、おじさんと一緒ならどこまでも。
どこかそんなことを考えていたある日の事。
おじさんに二人して呼び出された。
「悪い、少し大きな反乱が起きたらしい。派兵を何度かしたらしいがどれも壊滅したとのことだ」
おじさんが忌々しそうにこちらにそう言ってきた。
「反乱・・・何故だ?」と言うと
「魔族軍に対する不満が高まったのだろうな。特に南西に位置する村などだが公平に税をかけると彼らの収入では重税だ。しかし国からすれば不公平に割り振るわけにもいかんからそのまま」
「そんな、それでは」
と俺が言った所を制止し、
「さらに行った者が悪かった。領地をもらうやつは大抵魔術師部隊からと決まっている。まあ、戦時じゃないから他の部隊でなかなか手柄を上げれないのもあるのだがな」
これはこれで問題だが、と述べつつ
「領地を手にした頭でっかちが人の気持を考えずさらなる重税を課した。不満が爆発し、それは暴動として発展」
「それに乗じた南西の国が支援を開始、争いは混迷を極めているらしい。この事態収拾にわしが行くことになった」
「俺達は・・・どうなるんだ?いや、それよりおじさんは生きて帰ってこれるのか?」
おじさんは少し考え
「どうだろうな、生きて帰れるかは五分五分と見ている。何度か派兵した奴らも馬鹿・・・ではあるが一応軍を率いている将だ、馬鹿ではないと信じたい。ここから考えるに何かあったとしか思えない」
そう言いながらこう付け加えた。
「優秀な参謀がいるのかもしれない、もしまずかったらすぐに撤退するが。得体が知れない時は様子見と撤退準備からだな。領土を取り返した所で人は戻ってこないだろうし、彼らをあまり戦火に巻き込むのも問題だろう」
それに無言で頷く。
「お前達はわしが帰るまで弓兵部隊に戻れ。手続きはしてある。何の心配もいらんとは思うがな。リリス、お前はこちらの幕舎を使え。男たちの中、女一人は何かとまずいし心配だ」
それにリリスは、分かりました、と答えた。そして俺には
「そう心配そうな顔をするな。まだまだ教えることはあるし、必ず生きて帰る」
おじさんが死ぬ想像は出来なかったのでそれに無言で頷くと頭を撫でられた。
「わしはな、お前をどことなく息子だと思って接してきた」
「・・・なんだよ、最後の別れみたいなこと言うなよ」
嬉しかった。
「もしわしに息子がいたらこういう風に接してたろうな、と接してきたつもりだ。ただのおじさんではなく、今だけは父と呼んではもらえんか?」
それに俺は無言で頷き
「父上、どうかご無事で」
と言った。
「有難う、行ってくる」
そう言うと後ろを向き、さあ行くのか、と思ったら足を止め、こちらをニヤリと見てきた。
「その言葉聞いたぞ。父上、な。嬉しいのう。お前、俺が帰ったら娘を紹介するから結婚しろ。どうもリリスと結婚するつもりはないみたいじゃないか。母に似て可愛い娘だぞ、これでわしが本当に父親じゃのう。父上、父上か。いいのう」
がっはっは、等と言いながらどこかに消えていった。
してやられたと思った。雰囲気に飲まれた・・・、俺としたことが。
何が「父上」だよ。顔が赤くなっているのが分かる。
チラとリリスを見たら冷たい眼差しでこちらを見ていた。
「父上・・ですか」
「あ、いや。これは雰囲気でな。おじさんの娘と結婚とか、結婚したら実質おじさんが父に当たっちゃうなとか、まあそんなことはどうでもいいじゃないか」
「ヴェル様はわたくしと結婚するのです」
それに苦笑しながら
「無事生きていたらな・・・」と答えるに留めておいた。
この先、どうなるか分からない。
南西で反乱。もしこれに乗じた反乱や反抗が幾つも起これば・・・。
どうにも嫌な予感がした。




