EX:誤算
EXは本編ではありませんが、読むとより世界に入り込めると思います。
リリス視点による前話「誤算」
おじさんがこちらに戻ってきて、その姿を見て思わず息を飲む。
何、あれは・・・。
見れば大剣を2本持ってきているではないか。まさかあれを2本使うつもりなの?
「さあ、やるぞ。本気で行くぜ?」
おじさんの宣言。と、同時に剣圧を感じる。
が、先ほどとは違い気を張っていれば気圧される事はない。
もう、遅れは取らない。ヴェル様の手をはたいてしまったことを少し思い出す。
不甲斐なかった。情けない姿を、見せてしまったと悔いる。
けれど、その後悔は捨て去る。
それは迷いを捨てるように。
取り返す、失いかけた自らの誇りを。
───そして、ヴェル様の信頼を
「二刀流と言ってな、そう滅多にお目にかかれんぞ」
おじさんが説明をしてくる。説明している間も常に出し続けられる剣圧。
ヴェル様に話した所よく分かっておられなかったあたり、ヴェル様は何も感じていない。
何故、私だけこうも感じるのか疑問に思う。
とにかく耐えないと。
気を抜けば足から力が抜けて立てなくなる。
そうなれば、今度こそ何もかもを失ってしまうだろう。
その場限りの話ではない。これから一生、きっと立てなくなるに違いない。
何もかもに言い訳をして
何もかもに諦めをつけて
そんな一生になるに違いない。
失ってしまった誇りは、二度とは戻らない。
落ちた槍は拾えばいい、しかし。
折れた槍は拾えない。拾っても、もう槍として機能しない。
それと同じなのではないだろうか。
何故かそんな気がした。
だからこそ。
ここで。
こんな所で折れるわけにはいかなかった。
気圧されるな・・・!
そうして。気づけば静かに目を瞑っていた。
ヴェル様が仰られた言葉を思い返す。
「リリス、自信を持て。お前の槍は出会った頃と変わらず必殺であり折れることはないだろう。俺が保証しよう。───心さえ折れなければ、お前は決して負けはしないんだ」
ヴェル様は信じてくれた、私を。
───何が起こっても驚くな、何があっても己を信じろ。自分を信じ貫け。それが槍兵の在り方ではないのか
そして教えてくれた、槍のなんたるかを。
槍兵の在り方。今まで考えたこともなかった。
そうして強く思う。
自分を信じ貫く。
───自分の槍を信じる、貫けると。
自らの気持ちを、
自らの信念を、
そして、自らの槍を───
ただ、それらを信じ、今は貫き通す・・・!
「リリス、後ろに飛んで距離を置こう」
前にいるヴェル様がそう言われ、その声に反応するように目を開けた。
剣圧は感じなくなっていた。
「分かりました」
そう答え後ろに飛ぶ。
気づけば自分の口元が緩んでいた。
熱。胸が、頭が熱い。
何故だろう。
さっきはあんなにも寒かったのに、今は只々熱かった。
けれど、嫌な感じはしない。むしろこの熱さが今は自分にとって好ましかった。
おじさんが剣を構えていた。隙は、当然なかった。
───だが、今度は逃げない。
ヴェル様の左に行き、「わたくしが参ります」と言うと、いや駄目だ、と制止された。
それが少し不満だった。
さっきのような遅れは決して取らない。今度こそ、と思っていたのに。
「済まない、少し時間をくれ。現状の俺達ではその二刀流とやらを攻略出来そうにない」
ヴェル様はそうおじさんに宣言した。
一体、何を、と思った。
すると剣を下に下げ、いいだろう、とおじさんは引いてくれた。
「3分やろう」
「感謝する」ヴェル様はそれに頭を小さく下げていた。
「いいか、さっき立てた戦い方ではまず二人共死んでしまう」
───え?
「え、何故ですか。要は武器破壊してしまえばいいのでは」
咄嗟に答えていた。そうだ、左手のあの武器を薙ぎ払いで壊せば、そう思っていると
「事はそう簡単ではなくなった。おそらくリリスの薙ぎ払いも突きも左手の剣で防がれ無効化される。となれば、だ。右手に持った剣で、どうなるか考えてみろ」
と言われ考えてみる。
もし自分の槍が吹き飛ばされたら、右で・・・
一瞬目の前が赤くなった。「死」を連想してしまった。
ごくり、と唾を飲む。
「死にますね・・・」気づけば、そう呟いていた。それにヴェル様は無言で頷かれる。
「おそらく無防備の所に頭に向けてあの大剣を振り下ろすだろう。二刀流とは厄介なものらしい」
そしてこう続けた。
「防御と回避が必須になる。が、リリスはその経験はないんだよな」
ないわけではなかった。お父様から教わっていたので一応出来るつもりではいる。けれどどこまで通用するかは分からなかった。
「あるにはあるのですが、得意ではありませんね」素直にそう答えておいた。
そう、得意ではない。だが出来ないわけではないと思う。
───と
「うーむ、これは俺が素手では限界があるのかもしれない」
ヴェル様はそう仰られるとどこかに走っていった。
そうして戻ってきて何をするのかと思えば剣を2本持ってきていた。
「それで一体どうなさるおつもりなのですか?」
思わずそう尋ねていた。
「さっき、俺とおじさんとの訓練を見ていたか?」
「ええ、最後の方だけですけれど」
あれは驚いた。ヴェル様が二人いた。一体何をしたらあんなことが起こるのか分からなかった。
「ならば話が早い。俺は影の魔術と言って自分自身をもう一体生成することが出来る。その影を2体使いこの剣を使わせる」
実のところ、この説明ではよく分からなかった。影に剣を使わせる?
「その2体を正面から突っ込ませる。もちろん死ぬ気で攻撃させる。相手もそれなりに動くだろう。それでリリスが攻撃可能だと思えば攻撃しろ。ダメなら引け」
・・・引く?
「引いて、どうするのですか」
もちろんここまで覚悟を決めて引くつもりは毛頭なかった。だが、それでもなお主君は引けと言う。何かしら考えがあるのだろう。それを聞こうと思った。
「リリス、一つ尋ねるが素手で戦うことは出来るか?」
素手・・・。叩いたり蹴ったりということかしら。
もちろん出来ないこともないと思う。やったことはないですけど。
「試したことはありませんが、先ほど拝見した攻撃方法でよろしいのでしたら見様見真似で出来そうです」
そう、ヴェル様の先ほどの動きを真似て攻撃するという方法ならば、出来ると思った。
単純に足を振ればいいのだ。誰にだって出来るはずだ。
・・・と、自分で言った所で疑問に思った。
───手を振ったり足を振ったりするだけで攻撃になるのかしら?
するとヴェル様はその言葉にとても満足されたのか、笑みを浮かべながら頷いていた。
「後もう一つ、影の俺はいくら斬られても死なない。ただ消えるだけだ。だから何の問題もない。構わずその槍で薙ぎ払え」
影、と言うのはヴェル様瓜二つのあれ、ですよね・・。
しかし構わず薙ぎ払う、と言うのは。
「え、どういうことですか?」
躊躇う。ヴェル様と同じ姿なわけで、私の手で殺した感じがするではないか。
「時間がないから手短に伝えたが、要は影二人を正面で牽制に使う。その後ろからおじさんの武器を破壊しろ。影ごとで構わんということだ」
そう言われ小さく頷くしかなかった。
信じるしかない。
おそらく、影は幻影のようなもので手応えのないものなのだろう。それを見越しているとしか思えなかった。
「よし、3分経ったろう。行くぞ」
おじさんが二刀流の構えを見せる。
「待たせた、こちらも準備ができた。行くぞ」
ヴェル様はそう言うと、おじさんと同じ構えを見せた。
───え?
どうして?
ヴェル様はさっき「影に剣を使わせる」と言っていたではないか。
けど、この構えはご自分で使われるということ?
一体どうするつもりなのか分からない。
分からないが、疑うわけにもいかなかった。
信じることで始まることもある。
きっと、これもそう。
信じなければ、動けない。───始められない、戦い
「おいおい、確かに目がいいと褒めたがいきなり真似は出来ないんじゃないか?」
おじさんが笑ってこちらに言ってくる。
確かに、おじさんのいうことが一理ある。一朝一夕で出来るようなものではないはずだ。
しかしヴェル様に迷いは見られない。
それどころかむしろ。この展開を待ち望んでいた、と言うように
───ヴェル様の横顔は自信に満ちており、笑っていた。
それを見て槍を構える。
やはり。
何かあるのだ、勝算が。
魔力を全力で込める。
信じろ、己を
───信じろ、主君を!
そうして、背中に羽を展開する。いつでも加速出来るように。
ヴェル様が前に踏み出した。それに合わせるようにこちらも動く。
先に動いたのはヴェル様だった。
おじさんとの距離はまだ少し、ある。歩幅にして後5歩。だが動いた。
影の魔術か?と思う。
どうやらその考えは正しく、ヴェル様の左右に影が出てきた。その影に持っていた剣を渡す。
影がそこからさらに前に踏み出しおじさんに襲いかかる。
死ぬ気で襲わせるというのはこのことらしい。
なるほど、二刀流は完全なはったり。はなから剣を振る気はなかったのか。
さらにヴェル様自身は右に飛んだ。何かあるのだろう。
こちらも何か考えて動かねば。
・・・飛ぼう、上に。
そこから跳躍、おじさんの頭上から急襲を狙うことにした。
見れば、ヴェル様は氷の針のようなものを飛ばしていた。
あれが本命の一撃なのか?
分からない、けど何かあるのだろう。
信じるより他はない!
見れば左の影は一瞬で貫かれて消えていた。
もはや迷いはない、狙うは「左手の武器」
魔力と全身に力を込め、この一撃にッ!
さらに身体を縦に回転させ威力を高める。
「はああああああ!」
気づけば叫んでいた。
おじさんがこちらに気づき左手を引こうとしていた。だが、させるか!
魔力で再加速。これで・・・
「点」をずらす!
そうして黒竜の牙を全力で振り下ろした。
ガツン、と鈍い音がした。手応えは、あった。
見れば左手の武器破壊に成功していた。
が、加速したせいで勢いが止まらない。このままでは前に飛んでいってしまう。
そう思い地面に突き刺さった槍を思い切り持つ。
───と
「出来るか、それ!」
後ろから大声が聞こえビクリとした。
そうして上を見ると将に右手の大剣が振り下ろされようとしていた。
「むっ?・・・なっ!」おじさんが慌てて右の方を見て動きを止める。
そうか、さっきの氷か、と思ったのと同時に
「左手に集中しすぎたようだな。さらに、もう一撃ッ!」
左側から声がした。
もう一撃、ということは何かをするのだろう。
───今だ。
動きは、止まっている。
だから突き刺さった槍を両手で引き抜き、狙うは「両足」
柄の部分で横薙ぎにする。
直感でそうした。単純に右手の武器破壊を狙った所で成功する気がしなかったからだ。
ジャリ、と地面が擦れる音が後ろからした気がした。
「冗談じゃねえよ!」
おじさんは右に持った大剣を右の氷の針に振るう。針が叩き落とされる。
さらに左の氷を手刀で叩き割る。
同時に横薙ぎにした槍を上に飛んで回避された。
なんてこと、全部回避された、と思った
次の瞬間、何が起こったのか分からなかった。突然おじさんが真正面に吹き飛んだ。
「ぐわ・・・馬鹿な!」
見れば自分がいた。漆黒の羽を広げた自分が目の前に。
微笑みながらこちらに手を伸ばしてきて、それを自然と取っていた。
するとスッと目の前の自分が消える。
何、これは。
どうやら背後からおじさんを蹴り飛ばしたようだった。
だから、おじさんはこちらからみて正面に吹き飛んだ・・・。
おじさんが飛んだ方を振り返って見る。とても小さく見えた。
凄い、「蹴り」ってこんなに威力があったのだわ。
───と
「ヴェ・・・ヴェル様!」
ヴェル様が地面に倒れているのが目に入った。
「しっかり・・・!ヴェル様!」
槍を放り投げ、近づきヴェル様を抱え上を向かせる。しかし反応はない。顔色も悪く、唇は青ざめていた。
が、息はしているようだった。死んではいない、けれど。
このままではまずい、と思う。
これは、一体何が起きたのか。
そしてどうすれば。
私には、分からなかった。
「た、助けてください!」大声でおじさんの方に声をかける。
おじさんが飛び跳ね起き上がりこちらに走ってくる。
そうして、おじさんがヴェル様を見て
「こりゃ・・・まずいな」
どこか遠くを見ながら呟いた。
お疲れ様です。読了有難うございます。
というわけで書きたくて書きました。EX第二弾。
さて、今回書いていて思ったことは「リリスは一人で突っ走ると死ぬな」と思いました。ヴェルなしで二刀流に挑んでいたら間違いなく死んでいたと思います。何気なくヴェルが「駄目だ」と止めた一言がリリスを救った感じがします。
前回書けなかった事がかけてすっきりしました。多分前回の終わり方だと「ええ、続きは!?」とか「この間はどうなったのさ!?」となって然るべきだと思ったんですよね。何より書いている私がそう思いました。
しかし書いていて別の疑問も湧いて来ました。EXは特別読む必要性がない、と前回書いたのですが、これは読まないと分からない気がしてきました。書いてる途中「本当に読む必要性がないのか?」と首を傾げた自分がいます。となれば、次回からこう表現を変える必要があるんでしょう。
EXは本編ではありませんが、読む必要性が高いシナリオだと。そう表現せざるを得ない気がします。読まないよりは間違いなく読んだ方が面白いし、いい。が、あくまで主人公視点のみを求めているなら読む必要性はない。
ここの判断に関しては読者に委ねるのが正解なのでしょう。
では、また頑張って本編を進めることにします。




