誤算
おじさんが戻って俺の前に来る。後ろにはリリスがいた。
そのリリスが後ろで息を飲んでいるのが分かった。
それはそうだろう。
「さあ、やるぞ。本気で行くぜ?」
───まずい。
完全なる誤算。
まさか、そんな馬鹿なと。
おじさんは、こちらの想像を遥かに超えていたらしい。
なんと大剣を左右に持って来たのだ。
「二刀流と言ってな、そう滅多にお目にかかれんぞ」
見たことがなかった。武器を二本扱うのか。
いや、だが。原理は同じだろう。
要は振るんだ。剣を振るわけだ、何も変わりがない、はずだ。
そうだ、落ち着け。
剣を二本持ったからといって単純に攻撃力が倍になるなんてことはないはずだ。
───と
「一応こいつの利点を説明しておくと、片方で攻撃、片方で防御が可能というのが利点だ。短所は習得が難しい、と言った所か」
なるほど、確かに腕力を必要とする。それが二本ともなると腕力だけでなく相当な技量も必要とするだろう。
問題は、この二刀流とやらがどれくらいの能力を持っているのかが未知だ。
とにかく試すか。やれることをやってみよう。
「リリス、後ろに飛んで距離を置こう」
「分かりました」それにリリスが答え二人で後ろに飛ぶ。
そうして距離を開けて
「まあ、それくらいは許してやる」
ニヤリとこちらに言ってくる。
そうしておじさんが構える。
左手を前に、右手を上に。
なんだ、この構えは。
片手剣の構え、なのか?
まるで左手が盾のようじゃないか、と考え、その考えをすぐに否定した。
違う、盾のようだが盾じゃない。あれは純然たる武器であり、おそらくあれは必殺の構え。
よく考えろ、防御も出来、攻撃も出来る。
片方で、とか言っていた気もするが、あの感じはその気になればどちらの剣でも防御も攻撃も可能なのではないか。
厄介だな、と思う。
───と
後ろのリリスが左に来て俺にこう告げる。
「わたくしが参ります」
と言われ少し考えて
「いや駄目だ」と答えた。何故、と言われたのを制止し、おじさんに
「済まない、少し時間をくれ。現状の俺達ではその二刀流とやらを攻略出来そうにない」
すると剣を下に下げ、いいだろう、とおじさんは引いてくれた。
「3分やろう」
「感謝する」
この貴重な3分で一体何が出来るのか。考えを纏める。
「いいか、さっき立てた戦い方ではまず二人共死んでしまう」
「え、何故ですか。要は武器破壊してしまえばいいのでは」と言ってくるリリス。
「事はそう簡単ではなくなった。おそらくリリスの薙ぎ払いも突きも左手の剣で防がれ無効化される。となれば、だ。右手に持った剣で、どうなるか考えてみろ」
リリスが少し考える仕草を見せ
「死にますね・・・」と呟いた。それに無言で頷く。
「おそらく無防備の所に頭に向けてあの大剣を振り下ろすだろう。二刀流とは厄介なものらしい」
となれば。
「防御と回避が必須になる。が、リリスはその経験はないんだよな」と言うと
「あるにはあるのですが、得意ではありませんね」
こっちは期待出来ない。
「うーむ、これは俺が素手では限界があるのかもしれない」
そう言うと俺は急いで先ほど武器が置いてあった場所に走り戻ってくる。持ってきたのは剣を二本だ。
「それで一体どうなさるおつもりなのですか?」
「さっき、俺とおじさんとの訓練を見ていたか?」
「ええ、最後の方だけですけれど」
「ならば話が早い。俺は影の魔術と言って自分自身をもう一体生成することが出来る。その影を2体使いこの剣を使わせる」
時間がないので手早く説明する。細かい説明はだいぶ飛ばしたつもりだ。
「その2体を正面から突っ込ませる。もちろん死ぬ気で攻撃させる。相手もそれなりに動くだろう。それでリリスが攻撃可能だと思えば攻撃しろ。ダメなら引け」
「引いて、どうするのですか」
「リリス、一つ尋ねるが素手で戦うことは出来るか?」
それにリリスは少し考え
「試したことはありませんが、先ほど拝見した攻撃方法でよろしいのでしたら見様見真似で出来そうです」
その解答を待っていた。そっちは期待出来る。単純な素手攻撃や蹴りなら可能、と。
よし、案外いけるかもしれない。
「後もう一つ、影の俺はいくら斬られても死なない。ただ消えるだけだ。だから何の問題もない。構わずその槍で薙ぎ払え」
「え、どういうことですか?」
リリスがこの一言に驚いた。
「時間がないから手短に伝えたが、要は影二人を正面で牽制に使う。その後ろからおじさんの武器を破壊しろ。影ごとで構わんということだ」
おそらく影の魔術本来の使い方なのだろう。今までは背後からの攻撃ばかりだった。
だが、そんな小細工はどうにも通用しそうにない。その想像が出来なかった。
想像出来ないものはおそらく通じない。
だったらもうやりあうしかないだろう、正面から。
「よし、3分経ったろう。行くぞ」
おじさんが二刀流の構えを見せる。
「待たせた、こちらも準備ができた。行くぞ」
そうして少し前に踏み出し、自分も二刀流の構えを取ってみる。
意外と重かったので風の魔術で軽量化してそれらしく見えるようにした。
「おいおい、確かに目がいいと褒めたがいきなり真似は出来ないんじゃないか?」
笑いながらそう言われた。
だが、それでいい。笑いたければ笑え。
───どうせ俺は剣で攻撃する気はないのだから。
そうして一気に地面を蹴って前に踏み出した。リリスも魔力を込め背中に羽を展開、動きを高速化しつつこれに付いてくる。
よく合わせてくれている、それが心強かった。
さて、作戦通りに行くかどうか。
影に魔力を込め影を実体化する。そして影がもう一体の影を出し、その二体に自分が持っている剣を渡した。
小細工がどこまで通用するかわからないが、試せるものは全て試す!
二つの影に剣を渡し終えるとおじさんの右側に周り、右手に氷の魔力を込め、氷のつららを3つほどおじさんに向けて飛ばす。
全く同じ軌道で飛ばしたので一本にしか見えないだろう。だがこれが通用するとは考えづらい。
さらに左手に風の魔力を込め氷のつららに向けて撃ちだし加速させる。
速度さえ急に変われば当たるかもしれない、と考えたのだ。
そうして、影がおじさんと交錯する。
おじさんがニヤリと口を歪ませた気がした。
その後は神業としかいいようがなかった。
持っている左手の剣で、かつ最小の動きで影を突き消される。
だが、右さえ振らせればいいと思った。
が、右の剣を振らずに体当たりしてきた。
何、体当たりだと・・・?
いや、だが問題ない。隙は作ったろう。
心の中で叫ぶ。
───行け、リリスッ!
「はああああああ!」
それと同時に裂帛の気合を込めたリリスの一撃が振り降ろされる。
横薙ぎ払いではなかった。
縦による振り下ろし攻撃。
狙いは左の武器のようだった。
良い流れと思う。
今までリリスは単純な突きと薙ぎ払いしかしてこなかった。
だが、縦の振り下ろし攻撃も有効な攻撃なのだ。
決まるか決まらないかは分からない。それを確認する余裕などはない。
自分は自分の行動を起こすだけだ。
そう思い足に魔力を込め地面を蹴り、リリスの背後に回るように飛ぶ。
───と
ガツン、と鈍い音がした。
どうやら「点」をずらすことに成功したらしく、左手の武器を粉砕したようだった。
が、見れば無防備なリリスの頭に右手の武器が振り下ろされようとしていた。
「出来るか、それ!」
思わず大声を出す。
「むっ?・・・なっ!」
先ほど飛ばした氷のつららがおじさんめがけて右から飛んできていた。
「左手に集中しすぎたようだな。さらに、もう一撃ッ!」
左手に氷の魔力を込め、氷のつららを一撃発射。これは当たらずともいい。
これで氷のつららがおじさんの左右から挟み撃ちするように飛んできた形になっていた。
さて、行けるか?
おそらく氷のつらら3発はばれている。
だがいい。
いける、これなら。
そう思い最後の一手を使う。
両手にありったけの魔力を使い、リリスの背後にある「リリス」の影に魔力を込めた。
そうしてリリスの影をおじさんの背後に回らせ命じる。
───全力で、蹴り飛ばせ!
おじさんの後ろから漆黒の羽を広げたリリスの影が全力で右蹴りを繰り出すのが見える。
嗚呼、出来るじゃないか。思わず口元が緩む。
それと同時に目眩がした。
魔力の、使いすぎか・・・。
いや、ダメだ。ここで倒れては。
そう思うが身体はいうことをきかなかった。
ふらっと、力が入らず地面に倒れながら。
「いけ・・・リリィ」
もはや目を開けていられなかった。暗くなっていく視界の中でなんとか。そう、最後の一言を口に出来た。
いい、これで。
俺の・・役目は・・・これで。
心の中に広がる満足感を感じながら、そこで俺の意識はなくなった。
本編に行くべきか、EXをきちんと書くべきか・・・それが、問題だ!




