連撃
それからもリリスとおじさんは戦いあった。
が、どうにも見ていて違和感があった。
どことなくリリスの動きが硬い気がした。硬いと言うと多少語弊があるか。そうだな、単調。
突き、突き、薙ぎ払い。これを繰り返している気がする。
あれでは当たるものも当たらないんじゃないか。
しかしあのおじさんも凄い。おそらく一撃一撃が必殺の槍なのによく避ける。
結果的に、リリスは何度となく槍を飛ばされ、攻撃はすべて回避された。
これは、ひょっとしてとんでもない化け物なんじゃないか?
何者だ、このおじさん。
見ればリリスの息が上がっていた。息が上がっているなんてものではなかった。
見れば地面にへばって息を切らせていた。
・・・ん?
いや待て、おかしい。
リリスが・・・息を切らせる?
ふと思い返す。そう、丘の上まで走った時のことだ。
あの時、リリスは息など上げていただろうか。汗一つかいていなかった気がするのだが。
これは止めに入るべきなんじゃないか?
と思った所で
「よし、一度休憩。リリス、よくやったな」
とおじさんがリリスに近づき頭を撫でようとした所で、その手をリリスは払った。
「───」
リリスが少し後ずさりしながら何か言っているようだった。
───これは、どうなっているんだ?
何が起こったのか分からなかった。
二人に近づきおじさんに尋ねる。
「これはどうなってるんだ?」
「んー、やりすぎたのう。ちょっと熱くなってしまったからなあ」
あれで熱くなってたのか。淡々と回避してたようにしか見えなかったが。
「リリスはなんて言ったんだ?あそこからでは聞こえなかったのだが」
「来ないで、らしい」
と言われ、はて、となった。
「なんでそうなるんだ?ただ槍を振ってたのとおじさんは回避してただけだろう?」
「お前にはそう見えたか?」
おじさんはニヤリとしながらそう言った。
「そうだな、正確に言えばリリスが決まった行動。例えば突き突き薙ぎ払いをひたすらやってたくらいなら分かったが。あれでは当たるものも当たらないんじゃないかと見ていた」
「よく見ていたな」と言われた。別に褒められることでもない。誰でもずっと見ていれば分かる事だろう。
「まあ、見ていてよかった。最初は動きがあまり見えなかったが途中から見えるようになった」
「あ・・・あ・・・」見ればリリスが泣きだしていた。
「んー、しばらく休憩かのう」
「分かった、この調子じゃどうしようもないだろうな」そう言って、リリス終わったぞと手を差し出した所で
パチンと、横にはたかれたと気づいたのは世界が回り地面に倒れた時だった。
「お前でもダメか」
おじさんが上から見下ろしてくる。
「何が起きたのかわからないが、重症なようだな」
「あ・・・ごめんなさいごめんなさい」
リリスが泣きながら謝ってくる。
「別に構わん、俺は怒っていない。落ち着け、深呼吸しろ。俺達は向こうに行っているから落ち着いたらこっちに戻っておいで」
そういって起き上がり、おじさんを連れてリリスから離れることにした。
リリスに声が聞こえないだろうところまで離れ、聞いてみることにした。
「これは、一体どうなってるのか説明してくれ」
「そうだな、剣圧を当てた。最初は分かりやすかったろ」
と言われ、最初は?と言うと
「風がそっちまで行ったと思うんだが、どうだ?」と言われ
ああ、最初のか。
「あれは偶然だと思っていた」
そう言うと、おじさんはニヤリとし
「いや、あれは必然だな。あれで大体相手の力量が分かるんだ」
まあ、実戦じゃ使わんがなぁとおじさんは呟いた。
「なんだ、実戦で使えないんじゃ意味ないんじゃないか?」
「そうだな、試してみるか」
おじさんは大剣を片手で肩に乗せ、お前少し離れろと言われた。
言われたとおり20歩程度離れてみた。
───と
先ほどの風が起きた。全く同じ風。
なるほど、確かに必然なようだ。
が・・・
「なんだ、何も起きないじゃないか?」と言うと
「わはは、こりゃいい」と言われた。何がいいのかさっぱり分からない。
おじさんは笑顔でこちらに近づいてきて
「お前は凄い。大抵のやつはこれ一発で終わるんだがな」
「殺傷能力のないこの風でどうして終わるんだ?」思わず聞いていた。
「相手に想像させる技。例えば恐怖や死を直接叩きこめば、どうだ?」
「それは・・・」
動けなくなるかもな、と首を傾げながら答えた。
「そう、前にも少し説明したと思うが所謂移動不能もしくは攻撃不能状態に出来るんだ」
なんかとてつもなく便利な技じゃないか。
と思ったが
「・・・技?魔術じゃなくて?」
疑問だった。
「わしは魔術はあまり使えん。得意、不得意はあるしの」
「そうなのか、その割にリリスの槍をしっかり受けていたような気がするが」
そういえばあれも凄いな。序盤は結構な確率で大剣が壊れていたが、途中からほとんど壊れていなかったように思える。魔術か何かで剣を補強しているのかと思っていたが口ぶりからして違うようだ。
「あれも技だ。まあ、教えてやるからお前もやってみろ」
と言われ
「いや待て、俺に出来るのか?」思わず尋ねていた。
「なんだなんだ、やる前から弱気か?」不満気に口を尖らせながらおじさんが言うので
「いや違う、確認だ。俺は槍の間合いに無防備で入り込む術を知らないしその神経がない」
それに、ほうとおじさんは関心したように言い
「あれも、見えていたのか?」と尋ねてきた。
「はっきりと見えたわけじゃないが、どうもあれは槍の間合いに入って槍そのものを動けなくさせていたようだった。槍の動作を押さえ込むという表現が正しいのか?」
と言うと、そうだと言われた。
「いいか、攻撃とは線じゃなくて点だ」
「点?」首を傾げる。
「そうだ、よく考えてみろ。槍なら突きだろ。突くまでの動きは攻撃か?相手を殺せるか?」
と言われ、
「そりゃ攻撃するまでの前提動作では?」
「それで概ね正解だ。要は攻撃を発生させなければいい。攻撃に入る前提の動きを止めれば大抵の攻撃は無効化出来る」
理屈は分かるが、それをやってみろと言われると別問題なのでは。
「どうやらお前は目がいいらしい。見たらすぐ覚えるのも才能だろう。良かったな」
と褒められた。よく分からないが「有難うございます」と頭を下げておいた。嬉しかったので。
「さて、お前は素手と言っていたな。素手こそ最も厳しいよな。それこそ自分の間合いに持ち込まないと殴れないじゃないか。お前今までどうしてたんだ?」
「どうしてたんだ、と言われても・・・。ただ殴っていただけだな」
主に親父や自分の影と。ああ、最初は母もだが。
そういえば途中に絡まれたことがあったな。どうやって殴り飛ばしたか思い返す。
「あー、そうだ。基本的に後ろから殴る、だ」
「背面攻撃か・・・」とおじさんが呟いた。
「お前、どうやって敵の背後を取るんだ?必ずしも取れるとは限らないだろう?」
と言われ
「うーん、いや。必ず取ってきた」
と答えた。影の魔術があるのだから必ず一度は背後が取れる。正確に言えば魔力さえ尽きなければ何度でも背後は取れる。
「そうか、えらく自信があるようだな。なら試してみるか」
大剣を肩に担ぎおじさんはそう言った。
それに無言で頷き距離を取る。
そして、俺は構えなかった。
「なんだ、やる気あるのか?まあいい、いつでも来い、殺す気で来いよ」
と大声で言われ
さて、どうしたものかと考えた。
リリスの槍さばきは素人目から見ても相当なものだと思う。あの重量の槍を振り回し、かつあの速度。特に羽を出して羽から魔力開放し加速、そこからの突き攻撃は最強・・・だと思って見ていたが実際は違った。
ここまでが現状だ。
つまり、あれは最強とは言えなかった。とはいえ通用してないわけでもなかった。結果的に武器破壊に成功しているし実戦ならこのおじさんだって次の一突きで死んでいたはずだ。
が、問題はそこじゃない。「確殺」だと思った一撃を防ぎ得たのが問題なのだ。
もしかしてあの芸当は魔族軍の全員が出来るのか?
・・そうかもしれない。どうにも自分に自信が持てない。「非常識」や「使えない」と言われてきたしな。
思わずその現実に舌打ちする。
確かに、あの芸当は「使えない」
少なくとも、今の俺には。いずれ使えるようにならねば。全員が使えるなら当たり前に使えるようにしなければ。
が・・・それは先の話で重要なのは今だ。
さて、どうだろうか。使う必要があるのか?
要は相手を殺せればいいわけだろう?
別に、そんな芸当を使う必要性はないだろう。大げさな一撃は必要ない。
要は殺せばいいのだ。
「じゃあ、行くぞ」
リリスの攻撃は通用していなかった。おそらく、本気でないと勝てない。
後、あのおじさんの腕力も相当に異常だ。片手で人間が両手で持つはずの大剣を軽々と扱っている。
親父並か、それ以上か。
背中に汗が流れたのを感じる。だが嫌な感じはしない。
熱い。熱いな・・・。
「どうした、顔が笑っているぞ」
何か嬉しいことでもあったか、と言われ
「あるさ、これから技を教えてくれるんだろう。よろしくお願いします!」
よろしくお願いします、は自然に口から出ていた。何故そんな言葉が出たのか自分でも分からなかった。
「じゃあいくぞ」
「いいから来いよ。お前もリリスも甘い・・・がっ!」
全てを言い終える前に一撃を加えてやった。
思った通り綺麗に入って思わず口元が緩む。
おじさんが喋ってる間に自分の影に魔力を集中、おじさんの背後に地面から回らせ影に思い切り蹴らせたのだ。
おじさんがこちらに飛んでくる。
「な・・・んだと・・!?」
魔力を足に集中、一気に前に蹴りだす。
「馬鹿な、自分から間合いに入ってくるのか」
分かっている。迎撃するつもりなのだろう。
そこで、影に命令する。
───もう一体正面に影を出せ
「なっ!?」
おじさんはそれに驚いたのか大剣を振っていた。
よし、予定通り。
影の影は魔力が足りないのか、それともおじさんの一撃が重すぎたかその一振りで消えた。
十分だ、と思う。十分にその役目を果たした。
それに満足しながら魔力を右手に集中させ、飛んできたおじさんの顔面に思い切り叩き込んだ、つもりだった。
が、それはおじさんの左手で防御される。
だが、いい。
それでいい。
何故なら
影は本体より優秀だから。
本体の攻撃より優秀なので攻撃は影任せだった。影に背後から追撃させ、おじさんの後頭部を思い切り蹴らせた。
その勢いで左手が上にずれる。
素早く左足に魔力を込め、おじさんの左脇腹めがけ思い切り叩き込んだ。
綺麗に決まった。おじさんは右に飛んでいった。
おじさんの手から大剣が滑り落ちガランと地面に転がる音がした。
その音で我に返る。
───やばい、やりすぎたか。
ここは、記憶消去するべきか。
そうだな、その方がいいだろう。手の内がばれるのもあるが、それより怖いことがあった。
こう見えておじさんは一応部署の上役なのだ。上の人をここまですっ飛ばしたらまずいだろう。
大丈夫、俺は「常識」がある。ここに来て学んだ。
そう思いうつ伏せで倒れているおじさんの方に向かう。
───と
「やれやれ、やってくれるじゃねえか」
おじさんは何事もなかったかのように立ち上がり、ニヤリとこちらに笑顔を向けてきた。
「お前はやっぱり凄い。誰だ使えないとか言ったやつ。十分使えるじゃないか」
やっぱりと言えばやっぱりだった。親父と引き分ける相手だ、おそらくこういう展開もあり得るのではないかとどこかで思っていた。だから驚きもしなかった。
「第2戦目だ───今ので本気だったんだろう?」
おじさんはこちらにそう言って来た。
「あのな、今ので本気だったらこれ以上どうしようもないだろう」
どう頑張れというのか。実際本気だったので否定も出来なかった。
「だからやるんだよ、2戦目を。稽古つけてやるっていってるんだよ。かわいがってやる・・って中断か」
中断?
はて、どうしたのかと思っていると
「あの、すいません」
後ろから声が聞こえた。
「ん?」
探知を使っていなかったので正直驚いた。
いつからいたんだ?
そこには先程怯えていたリリスが槍を持ってこちらに来ていた。




