EX:剣壁
リリス視点の剣壁。EXはエクストラシナリオ。
本編ではありませんが、読むと世界に浸りやすくなると思います。
「お待たせ致しました」私はヴェル様とおじさんにそう言った。
「うーん、お前はとりあえず見てろ。その、そこそこの魔術でわしとやりあえるか分からないからリリスからやる」
それにヴェル様は無言で頷き後ろに下がり距離を取る。
おじさんは地面にある大剣を一本拾うと、それを片手で軽々と持ち、
「いいぞ、どこからでも来い。殺す気でいいぞ」
と私に言ってきた。
───殺す気で・・・
本当にいいのかしら、とためらってしまう。もしも、殺してしまったら。
ヴェル様はどんな顔をするのか。
ちらと自分の主君の顔を伺う。真剣な表情でこちらを見ていた。
しかしそこから何の不安も感じなかった。きっとこちらの勝利を確信しているのだろう。
私もそう思う。そうだ、負けるはずはない。そう、私も確信する。
そうしながらおじさんと距離を取り、こう思う。
・・・私はこのおじさんを気に入っている。悪い人ではないし、色々と世話を焼いてくれる。
別に恨みもないですし。ヴェル様も気に入っているご様子。
だから出来れば殺したくはない。
そう思いつつ黒竜の牙を後ろに構える。
───横薙ぎ払い、狙うはあの大剣。武器破壊でいいでしょう。
そうしてしばしの静寂。
・・・動けない。あの大剣、長さがどれくらいか全然分からない。
剣が点にしか見えない。
さらにはその構えを維持し続けているこのおじさんは一体何者なのか。
偶然、と一瞬その言葉が脳裏をよぎったがすぐに消した。
あの構えは何かある、そう思った方がいい。
見たことがない。お父様もかなり戦いの「出来る」お方だと思う。けれど、もしかするとそれ以上にこの「男」は出来るのではないか
そう思ったその時
風。とてつもなく大きな風を目の前の男から感じた。
と、同時に男が何倍も大きく見える。見えるんじゃない。
───巨大な大男が目の前にいる。
普段の穏やかなおじさんではない、そこには見たこともない剣を持った大男がいた。
怖い。
手に汗をかいているのを感じた。手に持っている槍が震える。
ダメだ、これでは。
己を叱咤する。恐怖に飲み込まれたら負ける。気持ちで負けてどうするのだ。
動け・・・・動け!
震える足に力を込め地面を大きく前に向けて蹴った。
錯覚だ───そうだ。大きく見えるだけ。それだけのことではないか!
先制、それしか頭になかった。
振らなければ殺される、そう思った。
そして。それは恐怖を振り切るかのように───
持っている槍を大きく横に薙ぎ払った。
振った後しまったと思った。手加減なしに振ってしまった。
と思った所で
───え?
黒竜の牙が、ない。
何が、起こった・・・の。
確かに振ったはず、槍を目の前の男に振った。必殺の一振り、だった、はずだ。
なのに、どうして目の前の男は無事で、自分の武器がなくなっているのか。
ガスン、と鈍い音が後ろでした。音のする方を向く。
見れば、そこには自分の得物があった。
唾を飲む。そして先ほどとは違い、普通の「おじさん」に戻った男の方を向く。
微笑んでこちらを見ていた。その顔を見て衝撃が走った。
まさか・・・槍を振らされた?
いや、まさか。
何が、起こったの?
自分に問いかける。
おじさんは持っている大剣を軽く振り、肩に乗せ
「───手加減はいらんぜ。今の本気じゃ、ねえんだろ?」
余裕そうにそう言ってきた。
───は?
私は、本気だった。本気で薙ぎ払った、殺す気で。
何か、からくりがあるんだ。でないとこんな余裕、生まれるはずがない。
「何の、魔術ですか?」
思わず聞いていた。悔しさからだ。自分にもこんな感情があったのかと思う。
今まで「悔しい」と思ったことはあまりなかった。
そして、こんなに「焦る」ことも・・・なかった。
強い、この方は。私の何倍も強い。
どうして?何故?
知りたい、そう思ったその時
「は?魔術?なんだそりゃ。わしは使っとらんぞそんなもん」
とおじさんはとぼけるように答えてきた。
「とぼけないでください!」
反射的に叫んでいた。
それは「怒り」
我ながら驚いた。私も怒ることがあるんだ・・、どこかで冷静にそう考えている自分がいた。
けどこの方がいけない。「何かある」はずなのにとぼけるとは、許せなかった。
「そうはいってものう、使ってないんだからしょうがない。まあ、いいから本気で来いよリリス」
───本気。
冷静になれ。そうだ、迷いは捨てろ。
「分かりましたそこまでとぼけるなら、後悔しても知りませんよ」
迷いを断ち切るようにそう言い放った。
そうして、飛ばされた黒竜の牙を片手で思い切り引き抜き構えた。
何も考えるな。ただ目の前の「敵」を
───全力で突き穿て!
そう自身に命じ、全身に魔力を込める。黒竜の牙がそれに呼応して小さく吠えた。
殺す・・・!
「槍はそれが不便よのぅ。構えでわかっちまうんだよなあ」
おじさんは肩に大剣を乗せたまま言う。
その余裕ごと、全てを粉砕してみせる。
この、一突きで!
「───行きますよ?ただの突きだと思って甘く見ていたらちぎれ飛びますよ!」
その一言は最後の情けにして宣言。今ならまだ引ける。が───
「いいから来いよ、どっちが甘いんだ?」
そう言われ、弾けた。
捉えた!と思ったその時
・・・え?
突きが繰り出せない・・・?
見れば槍の切っ先に大剣がピタリとついていた。
何が、起こった?
力を前に込める、しかし動かない。否・・・「動けない」
「だから、甘いと言ったんだ」
いつ、踏み込んだ・・の?
初めてだった、槍の間合いのさらに奥に踏み込まれたのは。
なんなの、これ。
まるで「突きなど突かせなければ何の問題もない」と言わんばかりではないか。
事実、それを体現しているのがこの「化け物」だった。
「これで理解したか?魔術じゃないとな」
その一言でこの化け物は胆力、判断力、冷静さが桁外れ、武の頂点に達した者だと感じた。
勝てない、勝てるはずがない。どうすればこんな化け物に勝てるのか。
そもそも
───どうして自分は勝てると勘違いしていたのだろうか
地面に視線を落とす。勘違い、ともすれば錯覚。
勝てるという淡い期待を、何故抱いてしまったのか。
油断していたわけではない、決して。けれど、けれど・・・。
そう思ったその時。
「いい槍だとは思ったんだよなそれ。後3回は持つと思ったが2回しか持たなかったか」
おじさんがそう呟くと
パキン、と大剣の先が折れた。
「救われたなあ、リリス。───武器の性能にな」
武器の、性能に・・・。その一言で思わず漆黒の槍を見る。
そうして自分がこの槍を振ってきたことを思い返す。
否定出来なかった。そんなことはない、と言い返せなかった。
確かだった。
頼ってきた、頼りきってきた!心の中でそう叫ぶ。
悔しい。悔しさで歯噛みする。
ギリ、と口から音がした。
今気を抜けば涙が出そうだった。それほどに、ただただ悔しかった。
これは言わば依存、武器に頼りすぎてきた自分の「甘え」を実感する。
揺らぐ視界。目眩がした。
自分はこんなにも弱かったのか。
「さあ、2戦目だ。どんどんいくぞ切り替えていけよ。こっちも久しぶりに燃えてきたわい。次こそは見せてくれるよな───本気をな」
声が、聞こえる。
その声のする方を伺うようにチラと見る。
見れば「化け物」は笑みを浮かべつつこちらを睨んでいた。
気を抜けば殺す、無言でそう言われている気がした。
「はぁ・・・はぁ・・・」
気づけば自分の息が上がっていた。
なに、これ。焦り?恐怖?
それとも死の実感?
自分のことなのに分からない。分からない事が・・・ただ怖い。
と───
「おいおい、呆けるなよリリス!戦場なら、お前───死んでるぜ?」
それは一喝。
その一言ではっと我に返った。
自分は一体何をしていたのか。
慌てて槍を前に構える。
そうして、構えながら思う。
寒い、どうして?
どうして、こんなに寒いのか。
全身の震えは、止まりそうになかった。
お疲れ様です。読了有難うございます。EXは特別読む必要性がないものですが、「こういった心理で戦っていたのか」と少しでも感じて頂ければ幸いです。キャラを身近な存在として感じて頂ければ、と思い描きました。
感想としては別視点はとても難しかったです。前の話と見比べて書かないといけないから必死だった。ただ、書いていて面白かったです。
が、本編が進まないのはどうにも問題があると思うので頑張って本編進めたいと思います。




