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剣壁

幕舎を一人で出るとおじさんが外にいた。


「済まない、遅くなった」


「いや、ちょうど良かった。ここにいくつか武器を持ってきたんだ。お前、得物は何なんだ?リリスは槍だと聞いているが」


と言われおじさんが指を指した方を見る。地面には大剣・剣・短槍・長槍・斧・短剣と武器が並んでいた。数も多い。


その武器を眺めながら考える。


「おいおい、そんな考える物でもないだろう。学舎で多少は使ってたんだろう?」


と言われ


「どれも、なあ。強いて言うなら素手かな」


と素直に答えた。


するとおじさんは訝しげに、


「お前は細身だし、腕力はなさそうだが・・・」


そうか、素手か、と遠くを見ながらそうおじさんは呟いた。


それを聞きながら思う。確かに、見た目は腕力がないし事実腕力はない方だろう。しかし今までそれを魔術で補ってきた。戦闘の流れは魔術で始まり、魔術に終わる。


それが当たり前だと思っていた。


しかしいざ武器を並べられると困った。


そうか、得意な武器があるのが自然な流れか。考えたこともなかった。弓も得意というわけではなく、「非力だから」という単純な理由で選んだだけだ。


そんなことを考えていると、


「一人だけ思い当たるヤツがいるがな。ここの参謀長が素手なんだよな」


おじさんが頭を掻きながらそう言う。意外だった、親父を知っているのか。


「参謀長と知り合いなのか?」それとなく尋ねてみる。すると、まあなと答えられた。


「ただあいつは特殊でな、純粋な素手というわけじゃないんだよな。魔術戦というか。魔術師らしからぬ魔術師と言った感じで。ああ、どう表現すればいいんだ」


「魔術と近接戦闘する魔術戦士とでも言っておこうか。あいつは特殊だ、卑怯。あれのせいでいつも引き分けなんだよな」


等と言い出した。


親父と引き分けか。


───このおじさん、何者だ?


俺が本気で戦っても親父にはまず勝てない。あの鍛えぬかれた身体から繰り出される一撃一撃が必殺と表現しても差支えがない状態で、はっきり言って防御など考えたら「死」を意味した。回避以外にありえない。さらに魔術戦までとなると当然勝ち目はなかった。


「うーむ、お前魔術は人並みには使えるのか?」


「そこそこは。だから素手なんだ」


そこそこか、等と呟かれている。


「大丈夫かな、死ななけりゃいいけど」


と、言われた所で


「お待たせ致しました」と、幕舎から正装のリリスが出てきた。相変わらず「漆黒」と言う表現がぴったりだった。武器も防具も黒。


「うーん、お前はとりあえず見てろ。その、そこそこの魔術でわしとやりあえるか分からないからリリスからやる」


それに無言で頷き後ろに下がった。


おじさんは地面にある大剣を一本拾うと、それを片手で軽々と持ち、


「いいぞ、どこからでも来い。殺す気でいいぞ」


とリリスに言い放った。


リリスも構える。槍を後ろに構えている。


二人が戦闘体制に入る。


しばらくの静けさ。


どちらが先に動くのか、と思っていたら突然強い風が吹いた。


それと同時にリリスが動く。


あの暴漢を一瞬で薙ぎ倒したリリスだ、おじさんもひとたまりもないんじゃないかと思ったら


───大間違いだった。


確かにリリスは槍で横薙ぎにした。恐ろしく早いスピードだ。


それをおじさんは紙一重で後ろに回避し、持っている大剣で「槍を」上に突き上げた・・・ように見えた。


どうやらそう見えたのは正しかったらしく、黒い槍がその瞬間上空に飛び綺麗な弧を描きながら落ちてくる。


ガスン、と鈍い音がした。地面にリリスの槍が突き刺さった音だった。


リリスが驚いた顔をしている。何が起こったのか分からない、と言ったように。


事実、見ているこっちが分からなかった。あの槍は相当な重量があった。風の魔術なしでとてもじゃないが持ち上げられる代物でもない。


が、どうだ。いとも容易く空中に叩き上げられている。一体何をしたのか訳が分からなかった。


おじさんは持っている大剣を軽く振り、肩に乗せ


「───手加減はいらんぜ。今の本気じゃ、ねえんだろ?」


余裕そうにそう言った。


リリスは「何の、魔術ですか?」とおじさんに尋ねた。まだ信じられないのだろう、身体が動けていなかった。


そうだな、確かに何の魔術か気になる所だ。何かしなければこんなことには───



「は?魔術?なんだそりゃ。わしは使っとらんぞそんなもん」


とおじさんはとぼけるように答えた。


「とぼけないでください!」とリリスが怒る。初めて聞く大声だった。


それはそうだろう、何かないとこんなことになるわけがない。


「そうはいってものう、使ってないんだからしょうがない。まあ、いいから本気で来いよリリス」


「分かりましたそこまでとぼけるなら、後悔しても知りませんよ」


そう言うとリリスは後ろに飛ばされた黒竜の牙を片手で思い切り引き抜き構えた。


今度はどうやら突きのようだ。


「槍はそれが不便よのぅ。構えでわかっちまうんだよなあ」


おじさんは肩に大剣を乗せたまま言う。そんな余裕で大丈夫か?


流石に心配になってくる。


───と


おい、リリスそれはやりすぎなんじゃ・・・。思わずそう言いそうになるほどの魔力を感じる。


大気が震える。


バサリ、と羽の音がした。リリスの背中から黒い羽がゆっくりと展開される。


本気だ、と思った。


黒い羽が大きく一度羽ばたいた。


「───行きますよ?ただの突きだと思って甘く見ていたらちぎれ飛びますよ!」


「いいから来いよ、どっちが甘いんだ?」


しかしそれでも余裕のおじさん。それどころか挑発まで。


そのおじさんの声を合図にリリスが少し前屈みになり、そして・・・姿が消えた。


同時に、ガツンと激しい金属と金属がぶつかり合う音がした。


何が起こったのか。


「だから、甘いと言ったんだ」


そう言ったおじさんはさっき立っていた位置より前にいた。そのすぐ傍にリリス。どうやら自分から突っ込んだようだ。



槍に正面から突っ込むとは、どうなんだ。


リリスの槍さばきは二度見た気がするがまさに「必殺」だった。


振れば即死だったし、それが槍本領発揮の「突き」ならばだ。


繰り出されれば「確殺」だろう、あの感じからして。


その中、前に踏み込めるものなのか。


そもそも前に踏み込んだかさえ分からなかった。おそらく前に行ったとしか言えない。


そしてこの状況はなんなんだ、と思った。


おそらくリリスは槍で突こうとした。


そしてその瞬間槍に向かっておじさんは大剣を突き入れた。


でないと今の状況を説明出来ない。


見ればおじさんは突きを繰り出そうとした槍を大剣でピタリと止めていた。


「これで理解したか?魔術じゃないとな」


───と


「いい槍だとは思ったんだよなそれ。後3回は持つと思ったが2回しか持たなかったか」


おじさんがそう呟くと


パキン、と大剣の先が折れた。


「救われたなあ、リリス。───武器の性能にな」


おじさんはそう言うと退屈そうに折れた大剣を横に放り投げ、折れた先を大剣の投げた方へ荒っぽく蹴り飛ばした。


その大剣を追いかけるように見るリリス。


「さあ、2戦目だ。どんどんいくぞ切り替えていけよ。こっちも久しぶりに燃えてきたわい。次こそは見せてくれるよな───本気をな」


おじさんはリリスを笑みを浮かべつつも睨みながらそう言うと、地面に並べられた武器の方に行き、新しい大剣を一本持ってきた。


そしてリリスに大剣を構えこう言い放った。


「おいおい、呆けるなよリリス!戦場なら、お前───死んでるぜ?」


そう言っておじさんは大剣を肩に乗せた。







 次回はお気に入り登録数5人突破記念で、リリス視点でこの戦闘パートを描きたいと思っています。

 物語には入りやすいですし、戦闘で一体何が繰り広げられたのか分かりやすく描ければ、と思っております。


 6人も登録してくださり有難うございます。こんな日が来ると思っていなかったのでとても嬉しいですし励みになります。頑張って書ききりたいと思っているので末永くお付き合い頂ければ、と願う次第でございます。


 後すいません、短編のつもりで書き始めたのですが長編になりそうです。読者が追いかけるのがお疲れになるかも、と思いつつも「ごめんなさい、やっぱ書きたい」ってなってます。


 特に一番最初に「お気に入り」にして頂いた読者に感謝を。あの方のタイミングが絶妙でした。一息ついたところで登録されましたから「書かなきゃ!」と必死になれました。確か「卒業」の所で登録されたような。あそこ、ちょうど物語のプロローグ終盤部分だったので。偶然かも知れないですが、偶然もここまでタイミングが良いと必然にしか感じられません。

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