昼休み
「仕事はとりあえず終わりだ、昼飯にして、昼寝でもしてから近接攻撃の鍛錬を行うぞ」
とおじさんに言われ無言で頷く。
「昼寝、ですか・・・?」対しリリスは首を傾げる。
「飯くった後眠くなるだろう。効率も悪いし休息してから始めるんだよ」
おじさんはそう言うと、お前先に行ってろとこちらに言ってきた。それに頷き一人幕舎に向かう。
そして幕舎に入り左側の椅子に座っているとリリスが入ってきた。
「何か話をしていたのか?」と尋ねると
「ええ、そうですね。後でお話します」と機嫌よさそうにそう言った。
「えらく機嫌がいいようだが、朗報か何かか?」
「朗報・・・そうですね。それで合ってると思います」
と言った所でおじさんがスープを出してきた。
ふと、疑問に思ったので
「なあ、食料使わないのここ?」
見た感じ食料倉庫にあった食料は固形物だろう。食事のことは詳しくないから分からないけど、少なくともスープで使うものではないはずだ。
「あー、食料庫の食料は使ってねえなあうちは」
とおじさんはそう答えた。
「どうして?」
「森で自給自足出来るからよ。後戦争行って食料なくなった時に生き残れるよう常にな」
と言われた。
「お前達にもそのうち食べれる葉っぱやきのこ、後は水の確保。色々教えてやるからな」
あ、きのこは注意しろよ似てるのあるし新種は食うなと言われた。
「どうしても食べたきゃ誰かに食わせるんだな・・・毒味させろ、死んだら悪いが」
と付け加えられた。
まあ、どうしても生き抜きたければ手段もなりふり構わず・・・もやむなしか。
「リリスにはやらせんからな、俺が最悪毒見する」
「わたくしも同じ事を考えておりました」
「譲らんぞ」
「わたくしもです」
と言い合っていたら
「おいおい、要は食わなきゃいいんだよ危険なのは。それに、先に毒の魔術、毒消しの魔術と薬の作り方教えるからそれほど悪くはならねえよ。冗談きつくて悪かったな」
とおじさんに言われた。
「ほっとしたらお腹がすいたな。おじさん、毒見お願い」
と言ったらおい!と軽く拳骨で叩かれた。
「全く可愛げのないやつめ」
とか何とか言って毎回毒見してくれるおじさんはいい人なんじゃないかと思う。
昼飯を食べたら昼寝の時間になった。
「いいか、昼寝の後は厳しい鍛錬が待っている。だから体力を消耗するような行為はするなよ」
と真顔で言われ、そんなことはしないぞと言ったら何故か拳骨を食らった。面白くないやつめ!と言われて。
俺とリリスはそんなおじさんと別れて二人の幕舎に帰ってきた。
そしてそそくさと裸になりベッドに入る。リリスも裸で入ってきた。
「木の香りがするな・・・」
「あまり匂いをかいではいけません、汗くさいです。工場にいたものですから」と言われた。
じゃあくっつかないようにするな、と言ったらいけません!と逆に抱きつかれた。何故だろう。
しばらくして。寝付けなかったので話しかけてみることにした。
「ふーむ、工場は楽しいか?」と聞いた。
「ええ、色々なことをやらせてもらっていますよ」
「そうか、どんなことをやっているんだ?」
「そうですね、組立作業が主でしょうか」リリスの吐息が胸に当たって少し暖かかった。少しくすぐったい。
「詳しく聞いても分からなそうだな」
「そうですね、けど不思議なこともあるのですよ」
「不思議?」下にいるリリスに向き聞いてみる。
リリスはこちらを上目で見上げながら
「手順がおかしいと言うか、部品の置き場所の問題なんでしょうけど。例えばですけど、1・2・3の順番で部品を使うとします」
ふむ、と言うとリリスは続けた。
「通常1・2・3の順に部品が置いてあって然るべきだと思うのですが、何故か1・3・2と置いてあったり、人によっては3・1・2と置いてあるのです。尋ねるとやりやすいからこうしてると言って。私は1・2・3に使うんだから1・2・3の順においてあるほうが楽なのですがどうなんでしょう」
うーん、と少し考え
「その例えからすると、リリスの考え方で正しいと俺は思う。ただ、なんなんだろうな。作業がばらけてるのは違和感があるな」
「不思議でございましょう」
「そうだな、言われると不思議だ・・・。まあ、人それぞれ色々な価値観や常識があることはよく分かったからその類のせいなんだろうな。そんなことが起こりうるのは」
と、考え
・・・あれ?と思った。
「おいリリス。それ3人でやってるんだよな?」
ええそうですが?と聞かれたので
「だったらさ、1・2・3の順番に並んで、1の人は1の部品を、2の人は2の部品を、3は3の部品を使うようにすればいいんじゃないのか?」
ダメか、単純な話ではないのか?と尋ねたら
「そうか、その手がありましたね」
と言われた。
「流石はヴェル様、発想が違いますね」
と言われた。
「いや、単純に世間知らずなだけなんじゃないか。現場を知っていたらもっと凄い答えを出す者なんていくらもいそうだけど」
どうにも近頃「使えない」「非常識」「鈍臭い」と言われ自分に自信が持てなかった。
今の考え方だってどこまで正しいのやら。
「いいえ、改めてヴェル様の素晴らしさを感じましたわ」
とぎゅっと力強く抱きしめられた。自然とリリスの頭を撫でていた。
「俺を褒めてくれるのは、おじさんと、リリスだけだな。嬉しいよ」
今はこの二人を大事にしよう、とそう思ったのと同時に眠気が襲いかかってきて
「悪い、眠気が来た」小声で言う。もう力も入らない。
意外と午前中の作業が堪えたようだ。
「ええ、おやすみなさいませヴェル様」リリスが囁くように言う。美しい声だ、それに優しい声だと思った。
心が落ち着いていく。
───あれ、何か忘れてるような。そういえば昼飯の時えらくご機嫌だったリリスがいたが、あれは何だったのか。
と聞こうとした所で俺の意識は途切れた。
それからどれだけ経ったのだろうか。
俺は目を覚ました。
すると目の前には見たことのない少女が立っていた。
背中には黒い羽、そしてこちらを見つめてくる金色の眼。黒い髪の毛に、白い服。
その少女は俺に言う。
「助けてくれて、有難う」
何のことだ。俺は何もしていない。
「わたくしを助けて下さいました」
助ける・・・?
「どうか貴方のお名前をお聞かせ下さい」
俺の名前は・・・
「長くて全部は覚えられませんでした。そうですね・・・」
「───くん。どうですか?短くて覚えやすいでしょう」
「また会えたら、その時今度は────」
「・・様・・様」懐かしい声が遠くから聞こえる。
「ヴェル様・・・ヴェル様・・・」
今度ははっきりと声が聞こえてきた。聞き覚えのある声。
「起きて下さい、大丈夫ですか?」
「───っ、はっ・・!」
起きると、目の前にリリスがいた。
「大丈夫ですか?酷くうなされていましたけど・・・」心配そうな顔でこちらを覗いてくる。
「い、いや・・・大丈夫だ。どうやら夢を見ていたようだ。済まない、気づいたら眠っていたらしい」
どうにも寝る前の記憶が曖昧だ。
「いいえ、わたくしもすぐ眠ってしまいましたので。どんな夢だったのですか?」
「う・・む。見たこともない少女が助けてくれたとか、名前がどうとか、今度はきっと、とか言ってたような。よく分からない夢だった。夢など近頃見ることすらなかったんだがな。疲れが早くも溜まっているのか、気が抜けてるのか。このままではいかんな。まあ、どうでもいい。夢だしな」
「そんなことより鍛錬だな。どれくらい経ったか分からない、準備をしよう」
そう言って服を着る。
───と
おかしい、リリスが動く気配がない。
「リリス、どうした?」
「いいえ、何でもないのです。はい、準備しましょう」
その声が何故か少しかすれていた。何かを堪えながら答えているような。
どうした?と言おうと振り返り、声をかけるのをやめた。
その顔は、何故か涙が溢れているようだった。
その涙の理由は聞けなかった。
どうしてだろうか、その涙には触れてはいけない神聖さを感じたのだ。




