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段取り

おじさんの幕舎に戻っておじさんに挨拶をし、「お嬢さん、その服はなんだ」と問われ、「正装です」とリリスが答え、「箱に保管して普段は着るなよ」と箱を俺達の幕舎に準備され、そして晩飯に風呂に、で昨日は終わった。


そして今日。本格的な仕事がスタートする、はずだ。


俺達の前におじさんがいた。


「では、これから仕事を始める。やることは矢の補充だ。単純な話で弓矢工場から矢を受け取り、弓兵の訓練所に持っていくだけ」おじさんは俺とリリスにそう説明した。


ふむ、誰にでも出来そうな仕事だな、と思った。


おじさんはニヤリとしながら


「じゃあ連れて行く。移動しながら覚えろ」と言われついていった。


仕事は本当に単純で、工場に備え付けられた荷台に矢を積んで訓練所に持っていくだけだった。


荷台は10個ほどあり、まずは3人でひたすら訓練所に持っていった。


訓練所には的があり、それぞれ一人の弓兵に対して一つの的が用意されている形だった。おじさん曰くそれが50個ほどあるそうだ。そこに入れ替わり交代で矢を射る練習をするとのことだったが訓練はまだ始まっていなかった。


「まだ始まっていないようだが・・・」


「二時間前くらい、といった所かな」


早すぎると思った。


「お前は矢を机に運べ」


机?と思い周りを見渡すと、なるほど。的を射る場所に木の小さな机があった。


「あそこに矢を並べればいいんだな」


と、確認すると、そうだと返答がきた。


「分かった」と言い、荷台を手前に運んだ所で「馬鹿!」とおじさんに止められた。


何が悪いのだろうか。


「お前、奥から運べ。いいか、入り口側から矢を運び入れたら効率が悪かろう」


なるほど、出口側から矢を運び入れろということか。ただ矢を運び込むこと一つにも色々あるものだなと思った。


「入り口出口二つあるのは何のためか考えろよな」


と言われた所でふと疑問に思ったことを聞いてみた。


「・・・だったら荷台を入り口側に集める必要はなかったんじゃないか?」


出口側から矢を運ぶなら出口側に集めればよかったではないか、と考えたのだ。


「半分正解」


「半分?」


「いいか、リリスとわしは別の仕事をする。こちらは時間がかかる。矢の運び入れよりもだ。3人で出口側まで矢を運んでみろ、それだけ時間のロスが発生するではないか」


「ロスという単語は初めて聞いたのだが、浪費とかそういう意味合いでいいのか?」


「それでいい、時間のロス、作業効率のロス。いいか、ロスを減らし効率を上げるのが仕事だ」


それに無言で頷いた。


「じゃ、まずは運び入れろよ。わしらは弓の手入れをしてくる。どうせお前手先不器用そうだしな」


と、笑いながら言われた。


事実、手先は不器用だった。内心ほっとする。荷台を運ぶだけなら何も考えずに出来る。


荷台を一つ一つ出口側まで運んでいった。そして10個全て運び終えて、一つ目の荷台を引っ張っていく。そして各机に矢を置いていった。


半分もいかないうちに一つ目の荷台が空っぽになった。


「え、結構載せていたつもりなのにもうなくなったのか」


急いで一台目を入口側に持っていく。入り口に置いて、さあ出口側に戻ろうかとした時におじさんが遠くから「こらー!」と叫んできた。こちらに走ってくる。


え?なんだ・・・。何か間違えたか?


「こら、空の荷台をここに置いたら次はどうするんだ?」


「いや、そりゃ一つ奥に持っていけばいいじゃないか?」


と、言った所であちゃー、と頭を抱えられた。


「な、なんだ。なにか間違えたか?」


「お前なあ、じゃあ二台目、三台目と手前から置いてみろ。最後どうなるんだ。回りこんで入れるわけか?」


そういうことか・・・


「そこまで考えていなかった、すいません」


自然と出るすいませんという言葉。


「いいか、それは導線というものを考えるんだ。物を置けば置くほど道はなくなっていく。倉庫に物が増えると動きづらくなるのと同じようにな。今回の荷台もそうだ、手前手前に置いていくと導線がなくなって動きづらくなる、結果効率が悪くなるんだ」


同じようで違うんだぞ、と言われた。そうしておじさんは向こうに戻っていった。


言われたとおり荷台を奥から詰めていくことにした。


大体4台目で矢を運び終えた。余った矢は訓練所の中においておくことにした。一台くらいいいだろう。


さて、次はどうするんだ。


「おーい、こっちにきてくれー」


おじさんに呼ばれて「はーい」と返事をしてそちらに向かう。向かったら向かったで「なんで手ぶらできた!」と笑顔で言われた。


「え、こっちに来てくれと呼ばれたから・・・」


「それもそうか、空の荷台を持ってきてくれ。リリスと弓の修繕をして今終わった。それを机に並べてくれ」


分かった、と空の荷台を持ってきて弓を運び入れ机に運び並べていく。


さて、次は・・・、と思ってふと見たらおじさんもリリスもいなくなっていた。


弓も並び終えたし、とりあえず空の荷台を入口側に並べるか、と並べる。


が、一向に戻ってこない。何か指示があるなら指示してくれればいいものを。


等と思っていると「おーい」と声がかかる。工場の方からだった。見ればリリスもいた。荷台を引いてこっちに来ている。


「はーい」と返事をして向かおうとして、手ぶらだとまた何か言われそうなので空の荷台を持っていった。


そして「お前、なんで荷台を持ってきた?」と言われ、素直に「手ぶらだと何か言われそうだから」と答えた。


「偉い、お前矢運び入れてこい」


偶然だが、空の荷台を持ってきてよかった。工場に向かい矢を貰いに行く。


矢を貰うのには結構時間がかかった。矢をすぐに作ったり修理したりすることは難しいようだ。大変なんだな。


矢が出来たようだ。だが量は半分ほどしかなかった。とりあえずこれで運ぶか。と、運んだ所でおじさんに「こら」と言われた。


今日これで何度目だ?


「矢が出来るまで時間がかかるのは分かるよな」


「それは分かる。なんで怒られたんだ?」


「だったら空の荷台を工場に運んで矢を入れる準備をしたほうが有意義だろ。矢の搬入待ちしてどうする。時間は無限にはない、有限だ。その限りある時間をギリギリまで使わないとダメだ」


と言われた。これで何度目かの「すいません」だった。


空の荷台を運びながら、今日まで生きてきて時間だとか作業効率だとか考えて生きてきたことはなかったな、と考えた。


ロスだとか、導線だとか、そんなこと一つも考えたことはなかった。


一人の力で何とかなると思っていたし、魔術でどうとでもなるとどこかで思っていた自分がいた。


けれど、この矢の運搬作業一つだけでどうだ。俺はこんなにも怒られ、何も考えていなかった自分を知ることとなった。


こんなにも無力で無知だったのか。


考えながらも身体を動かす。空の荷台を工場に置き、矢がいっぱいになった荷台を訓練所に運び入れる。


気づけば訓練が始まっていた。矢の消費が思った以上に早いのを感じた。焦る、気づけば荷台を走って押していた。


「いいぞ、よく気づいた」


おじさんにすれ違いに褒められた。素直に嬉しかったので「有難うございます!」と答えていた。


そして矢を運び入れる。


そして出口側から矢を補充していく。


補充していてやりづらさを感じた。一人一人矢を撃つペースが違うのだ。矢の補充がしづらい。矢をひとつかみして適当に机に並べることにした。別にここらは丁寧じゃなくてもいいだろう。


ざっと消費量を見て、そういえば途中に置いてきた荷台があったな。そっちの矢で補充するかと補充。


全員のを補充した所で、声をかけられた。


「お前見てたぞ。最初の方は律儀に数えて矢を補充してたのに途中からやめたんだな」


「あー、一人一人撃つのにムラがあって補充するのがやりづらかったので」


と答えたら頭にポンポンと手をおかれた。


「それでいい、大体の数を覚えろ。後一人一人のペースをある程度掴んでおけ」



それを繰り返し夕方になって、昼飯を食べていないことに気づいた。


「よく頑張ったな」と褒められて嬉しかった。


「楽しかった」


素直にそう思ったのでそう答えた。


矢の回収の方は弓兵達がやるようだった。


「俺達は回収しなくていいのかな」


その光景を見ていて呟いた。


「あれは無理だな。矢を撃ってるうちは回収できんしな。ひたすらに撃たせてたからな今日は」


───と


「ん?」


一人何か違う行動をしてる弓兵がいた。


「あれは、何をしてるんだ?」


思わず指を指していた。


「ほう、あいつ矢筒に回収してるのか」


それを見て、


「なあ、効率悪くないか?」


「まあな、わしなら荷台にとっとと矢を載せるがなあ」


「俺でもそうすると思う」


「ま、これで分かったろ?」


と言われ、何がと言う顔をしてたのだろう。


「ここの連中は馬鹿だということがだよ。まあ、あいつらは日暮れまでやるんじゃないか。管轄外だしわしらは戻ろう」


「教えてやりゃいいものを」


「んー、仕事って教えて全部出来るものではないんじゃないか?」と言われ首を傾げた。


「いや、現に俺はやってた気がするんだが。おじさんに全部教えてもらってたし」


「全部ではないぞ、お前はお前なりによくやっていたと思う」


そして、ああちなみに、とこう付け加えられた。


「お前はまだ夜目が利かないから見えないだろうがあの矢筒の弓兵、あれ3番だったかの今は。一応弓兵の部隊長の一人だぞ」と言われ驚いた。部隊長があんな効率悪いことしてるのか。


「うわ、やりたくねえ・・・」


思わず呟いていた。わしもやりたくないわいとおじさんに隣から言われ、肩に手を回された。


「帰ろう」


「喉が乾いたな・・・」


「果実絞ったあれ、用意してあるから皆で飲もう」と言われよっしゃ!と飛び跳ねた。


「愉快なやつだな」と言われ二人で肩を組みながら幕舎に帰った。


ちなみに、後でリリスに何をしていたのかと聞いたら「弓矢の修理をしておりました」とのこと。手先が器用だったので弓矢の修理を片っ端からしていたそうだ。工場で働いた方がいいんじゃないのか・・・。


と思ったら「工場にも居ましたよ」とニコリと言われておじさんに


「何やらせてんだよ・・・」


「そりゃあいつらの矢の消費量馬鹿にならんのだから補充の手が足りなかったらそっちに人数充てるわい」


とのことだった。よく考えていらっしゃる。


そして最後にこう付け加えられた。


「何より驚いたのはお前だな。何も言わずにペースを考えて矢を補給してたろ。だからこっちは矢の消費量と供給量と生産量考えてりゃ良かったし、楽だった」


と褒められた。


別に、なんとなくやってただけなんだが、褒められて悪い気はしなかったのでよしとしよう。



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