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正体

「本題・・・ですか」


「そうです、娘が貴方を主君と決めたそうですな」


なるほど、確かにそれが本題だった。それに無言で頷く。


「では、これも明かさねばなりませんな・・・」


「いえ、失礼ながら娘さんの眼と羽は見せて頂きました」


ここは先攻だ。


「ああ。いえ、そのことではありません」


は?


「本題とは、そのことではないのですか?」


「まあ、それと関係あることですが」


リリスのお父さんは足を組み、腕を組んだ。


───と


後ろから二つの魔力を探知した。どうやらリリスの母とリリスのようだ。


ガチャ、と後ろから音がした。後ろを振り向く。いかにも今気づいたと言わんばかりに大げさに。


「失礼します」リリスのお母さんとリリスが入ってきた。お母さんの方は飲み物をコップに入れてきたようだ。丸いトレイにコップを4つ載せて来た。


そしてそのコップを机に並べる。音が全くしなかった。動きが洗練されているように感じた。俺の母と来たらとにかくガチャガチャ五月蝿いのに、素晴らしいと思った。


そしてリリスは・・・・



リリスは、なんとも言えない格好をしていた。


「なんだ、その格好は」


思わず言ってしまった。


「正装です、戦争ではこれに鎧を着ます」


黒いドレスだった。スカートにはヒラヒラしたものがついている。腕周りは袖がなく、肘から下には黒く薄い手袋をしていた。そして手首に黒いヒラヒラしたものを巻いている。


「どうです、似合いますか?」


それに無言で頷く。美しい。


「東方にある街の服でフリルドレスと言うそうです」


フリルドレス・・・なんと見事な服だろう。全身は黒、否、漆黒。


黒は女性をここまで美しくするものなのか、驚いた。


「素晴らしい・・・」


思わず呟いていた。それに有難うございます、と答えるリリス。


「ごほん、そ、それで戦闘も行うのか。もったいなくないか?汚れたりしたら」


「裁縫は得意なので大丈夫です」


「そ、そのドレスで動けるのか?」


「後でお見せしましょう」 ニコリ、とそう答えてきた。


あれ、ふと。


「リリス、槍はどうした?」


と尋ねると、


「それはそこに立てかけてありますわ。この部屋では狭いでしょうし」


それも後でお見せしますね、とニコリと言われた。


「全員揃ったようですし、母さんもリリィも座りなさい」


どうやらリリスの家ではリリスのことをリリィと言っているようだ。


・・・リリィ?


何か引っかかるな、なんだこの感じはと考えていると


「全員座ったようだね、では話そう」


お父さんが話を進める。自分も含めて全員がそちらに向く。


「私は、竜族です」


「───え?」


まて、ちょっとよく分からないのだが。


「竜の眼をもう見ましたね。あれは竜族特有の眼です。そして羽も竜族特有のものです」


もちろん私も出せます、と言葉を続ける。


「ちょ、ちょっとお待ちください」


「何でしょうか?」


「竜族は、もっとこう大きくてトカゲのようで、そもそも人間の形をしていないと伝承で残っていますし、何より人里離れた場所に住んでいるのではないのですか」


思わず尋ねていた。


「どこから説明したものか・・・アルカディア戦争のことを話さねば説明ができませんね」


「では、そこからで」


すると、分かりました、とお父さんは答え話をはじめた。


曰く、


アルカディア歴150年、人間は火矢を開発し魔族を攻撃。その効果は絶大で、当時魔族は火矢を火の魔術だと思い込んでいたそうだ。魔術耐性が高く、また魔術妨害を有した魔族が負けるはずはなかった。


が、火矢は魔術ではなく物理攻撃。無防備に突き刺さる矢。魔族は油断から壊滅状態に陥った。


人間の勝利で終わるかと思いきや、人間は調子に乗って竜族にまで手出しをした。傍観を決めていた竜族にちょっかいをだした形だ。人間にとっては魔族も竜族も羽を持ち化け物だったのだという。


これにほとほと困り果てた竜族は魔族に味方をする。


人間も痛い目を見れば分かるだろう、ということだった。しかし戦争は激化。魔術に頼りきっている魔族と知恵で乗り切る人間では大きな差があった。生きたいという欲求の強さでは人間の方が優っていたのだ。泥沼状態に。


そこで登場したのが赤雷帝バルバロッサと当時魔族の長と評されていたファフニルだった。バルバロッサは竜族の中でも強大で、散り散りだった竜族をまとめあげた。そしてファフニルは魔族を指揮し魔族の勝利となる。


特に大きな功績があったのはバルバロッサである。竜族をまとめあげるのは至難を極めた。が、彼らも馬鹿ではなかったし、人間たちが知恵で来るのならば竜族も知恵で戦おうとしたのである。


だがバルバロッサが纏めれた要因は魅力だとかそういうものではない、ただこの一言だった。


「人間とは面白き種族であるな。これなら我らも楽しめるのではないか。ただ生きることは退屈だったろう、ここで人間と知恵比べをし戦というものを楽しもうではないか」


そこでリリスのお父さんは息をつき、こう続けた。


「竜族にとって、人間には失礼ではありますが、あの戦は自分たちの力を試し楽しむ場に過ぎませんでした。そして最も人間を効率的に刈り取ったのがバルバロッサだったのです。竜族はそれを称賛し、彼を王と認めたのです」


ふむ、そういうことか。


「ちなみに竜族は子供の頃は大きな身体をしておりトカゲのような姿をしています。が、成熟すると人や魔族に似た形をとれるようになるのです」


さらにこう続ける。


「バルバロッサは子供の竜の参戦を禁止しました。ただでさえ巨体でしょう、人間を押しつぶしてしまう。単純な力比べではまず竜が勝つだろう、それはつまらんし卑怯だ。竜族の誇りが許さないと」


「そこで条件をつけたのです、人間にも勝てるように。ルールに則った戦争をしたのです。その一つが人間の姿で戦争に参戦することでした。羽を出すのは有りでしたが。魔族も羽はついてますしね。竜族も人型では相当弱体化します。上がる能力もありますけどね」


「まあ、結果としてファフニル殿の戦略もあってバルバロッサの勝利となったわけです。最後は和睦という形にしたのは人間を絶滅させると退屈だから、だそうです」


なんとも酷い理屈だ。竜族が圧倒的すぎるではないか。


「上から目線と言われても傲慢と言われても仕方ありませんが、これが真実なのです」


そしてバルバロッサはしばし待っているようですね・・・、と最後に締めくくった。


「待っているとは?」


「バルバロッサはそう遠くない未来に王から退きます。そうなれば我こそが王と出てくる人間の一人や二人いるのではありませんか」


「権力闘争・・・か」と呟いていた。


「さらには静観していた竜族も動くかもしれません、赤雷帝不在となれば王になろうとする竜がいてもおかしくはありません」


「そして当然魔族も。これは何かに似ていると思いませんか?」


似ている・・・。なるほど、確かに似ている。


「アルカディア戦争、ですか」


「そうです、何故歴史でわざわざ第一次アルカディア戦争と名付けたのでしょうか」


リリスのお父さんは少し微笑みながらそう問いかけてきた。


「それは・・・」


答えられなかった。いや、しかし。


「二次があるからでしょう。バルバロッサは周到に準備しています」


そう言うと、リリスのお父さんは飲み物を飲んだ。


「話を戻しましょう。竜族については多少分かっていただけたと思います。差し上げた本にも色々書いてあるので少しずつ読むとよろしいでしょう」


「はい・・」


「そしてリリスですが、私とこの魔族の母の間の子です。そうですな、間を取って魔竜と言いましょうか」


「竜族は生殖能力が低いのですが、異種と交わって子を授かることが出来るようでして。これは最近分かったことなのですけどね」


「それで竜族の生殖能力を上げていると」


「そうですな、と言っても数は少ないでしょう。人間や魔族と交わってまで子を成したいと思う竜も多くはないですし」


そう言うと、リリスのお父さんは何が嬉しいのかふっふっふと声を出しはじめた。


「しかし私は違います。ごらんください、美しいでしょう。一目惚れでした、そしてこの娘です、可愛いでしょう」


・・・なんなんだ、この人は。


「里に降りて魔族軍に参加している時に見つけたのです。即求婚ですよ。ああ、魔族とはなんと美しいのか」


「あらあら、もう」お母さんの方も本当のことを言わないで下さい照れてしまいます、と満更でもない様子だった。


のろけ・・・話なのか?幸せそうな家族だな。


ふとリリスを見ると苦笑しているようだった。


───と


「その話はさておき、リリスは竜族であり魔族でもあります。竜の血を強く受け継いでいるので竜族に近いでしょう。まあ、戦争中に隠すことは難しいでしょうが普段は隠してあげてください」


「分かりました、お引き受けします」


それから飲み物を飲み、ふうと一息ついて一つ疑問に思い浮かんだことを聞いて見ることにした。


「あの、どうして私が主君なのでしょうか」


これに関してはお父さんも色々思う所があるのか、うーむと考え


「そう、ですな。娘のことですから確かなことは言えませんが、どうやら子供の頃に人間に助けられたらしいのですよ。ほら、近くの村があるでしょう。あそこにこっそり遊びに行った時のことのようです」


なるほど、全く同じ事か・・・。


「その時に魔族に囲まれ羽と眼の違いから虐められていたらしく、そこを人間が助けたとか」


「まあ、しかし人間が魔族相手にどう立ち回ったのかさっぱり分かりませんがね」


「ああ、リリィは近頃は上手く眼と羽を操れるようになったようですが、子供の頃は常に出ておりましたので。村には行くなと言っておいたのですがこっそり行ってしまったみたいなのですよ」


と、付け加えられた。


「まあしかし、世の中には立派な人間もいたものですな。リリィの姿を見たら普通逃げ出すと思いますがね。魔族も下手に刺激してたら死んでたと思いますし。子供の頃は力が上手く操れず殺してしまう場合の方が圧倒的に多いのです。特にリリィはもはや暴力に近かったので、一つ間違えると村が消えていたでしょう。よく止めてくれたと思いますよ」


「もう、お父様、わたくしが未熟だった時の話はおやめになって」


少し顔をふくらませながら言うリリス。


「ああ、ごめんね。まあ、その人間と貴方をどこか似ていると感じたのではないですか。高潔さとか、価値観とか。何かなければリリィも主君等と言わないでしょう」


「そう、ですか」


「よく考えて下さい。竜族が人間に頭を下げているのです。何かありますよそれは。そしてそれは私ではなくリリィに直接お尋ね下さい。いずれ答えてくれますよ」


「分かりました」


「あの、ところで・・・」リリスのお母さんだった。


「何でしょうか?」


「もう、娘のことはお抱きになられたのですか?」


あん、聞いちゃったとか言ってますお母さん。


「抱き・・・いえ」


抱いておりません、と答えようとすると


「抱かれました」リリスだった。


「二人で裸で抱き合って眠りました」


顔を赤らめながらリリスは答え


「なんだ」 お父さんとお母さんは少ししょんぼりした顔で下を見た。


「あの、なんかすいません。大切な娘さんでしょう、そういうことはしないので」


「どういうことですか!」


お父さんだった。何故食いつかれる。俺は何か、間違えたことを言ったのか?


「こんなに可愛い娘ですよ、普通抱きたいと思うでしょう。何が不満なんですか?」


必死だった。


「は、すいません」


反射的に謝っていた。これがいけなかった。


「いいですか、リリィは非常に良い子です。そして非常に可愛い。約束して下さい、必ず子を作ると!」


「は・・、あの私が戦争で生き抜ければということで」


「大丈夫です、リリィが貴方を守りますよ!ですから、ね!」


そう言い、こう続けた。


「竜族である私達をこうも理解してくれる人間は極めて貴重だと私は思います。貴方もその一人でしょう」


「そうですか?」


「ええ、リリィも幸せだと思います。二人で幸せを掴んで下さい。お願いします」



と、頭を下げられた。それにお母さんも釣られたのか一緒に頭を下げてくる。


「分かりました、子を成すかは分かりませんが、幸せに出来るよう努力はしましょう」


と答えておいた。



・・・いいのか、この答えで。


いや良かったのだ。拒否することなど出来なかった。理由もなかったし。


「あの、所で・・」


「何でしょうか?」


「このリリスの着ている服ですが、リリスが選んだのですか?」


するとお父さんは首を振り


「私が選びました、どうですか」どこか誇らしげに微笑んでくるお父さん。


「素晴らしいです!よく分かっておられる!」


そうして二人で握手。ここに一つ、また竜族との友情が芽生えた気がした。



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