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休暇

そして朝になった。目を覚ますと隣にはリリスがいた。


いい匂いがする。その匂いを嗅いでいるとまた眠くなってきた。


温かい。その温もりを感じたくて力強く抱き寄せ、そして、そのまま抵抗もなく眠る。



それからしばらく経ったのだろう、おじさんが起こしにきた。


「お邪魔かもしれんが、一応起床時間なんでな」


「おはよう・・・」眠気眼をこすりながら挨拶をする。


「で、どうだった?」


ニヤリとおじさんが笑ってきて、そこで目が覚めた。


「いや、何もしてないぞ」


「なんだ、また何もしてねえのか。裸で抱き合いながら眠るだけとか」


まあ、けどそれも幸せの一つかのう、等とつぶやいているおじさん。


とりあえず横で寝ているリリスを起こさねば。


「起きろ、リリス。起床時間だ」


「うーん、ヴェルく・・ん・・・ん・・・はっ!」


最初は寝ぼけて何か呟いていたが、ばっと目を覚まし


「おはようございます!」


と、元気な挨拶をしてきた。布団をリリスに渡し裸体を隠させ自分は服を着た。


「さて、今日の休暇しっかり楽しんでこいよ。朝飯は昨日の幕舎の方に用意しておいた」


「済まないな」


と、答えて


「ん、けど一応ここの部隊長だろおじさん。敬語を使った方がいいよな?」


と言うと


「いらんいらん、敬語は寒気がするわい」


まあ、お嬢さんのは悪い気がせんからそのままでいいわい、と鼻の下を伸ばしながら答えた。


「ならいいか、とりあえずリリスが着替えるから出て行け!」


「ほう、リリスと言うのか。知らなんだ、なんだお前ら仲良くやってるじゃないか」


ツンツンと、ほっぺたをつついてきたのでその指を掴んで上に捻っておいた。


いてて、何をする。可愛げのないやつめ!とコツンと拳骨をくらわせるだけくらわせておじさんは出て行った。


「さて、今日は槍を取りに行くんだったな」


いつの間にか服の着替えを終えていたリリスに言う。


「はい、そうです。馬を調達して行きましょう」


「馬・・・か。軍で使っているのかな?借りれるか?」


「おじさんに尋ねてみましょう」


そうして朝ごはんを食べにおじさんの幕舎へ向かう。そして机の正面側におじさん、左に自分、右にリリスが座り朝ごはんを食べる。朝ごはんは簡素なもので、おそらく隣の森から取ってきただろうきのこのスープだった。薬草入りで美味しかった。


もちろん、毒見はおじさんにさせた。かなり慎重になったと思う。


それを食べ終わると、


「すいません、馬をお借り出来ませんか?」リリスが早速尋ねていた。


「馬?・・・馬はちと無理だなあ。今日訓練で使ってるんじゃないか?」


と聞いて疑問に思ったことを述べる。


「ん、なんだ騎馬部隊というのもあるのか?」


「そりゃあるさ。まあ、使ってるのは剣兵だがな。あれ弓兵も使えりゃまた違うんだがなあ」


馬の量産が追いつかんのだよ、貴重品だなとおじさんは答えた。


「少し考えたことを述べていいか?」


なんだ?とおじさんが興味を示す。


「近接攻撃するために馬で突撃してるのだろう、消耗する一方じゃないのか。確かに弓兵が使った方が役立つ気がせんでもないが。死亡率低いだろう」


「まあ、そうなんだが馬上で戦うと凄く安全なんだ。戦いやすい、目線も上になるしあれで槍を振るうだけで訓練された兵士なら相当の歩兵を倒せる。そうだな、目安としては10人か」


単純計算10倍の戦闘力か。それは凄いな・・・。


「それに何より機動力が違いすぎる。凄まじいぞ、実戦できっとお前ら驚くぞ」


ふむ、馬か・・・。考えたこともなかったな。と、そういえば俺は馬に乗ったことがないぞ。


「話を戻すが、すまんが馬は借りれそうにない。徒歩でなんとかしてほしい」


「分かりました」


「すまんリリス。馬があっても俺が乗れなかったと思う」


「なんだ馬に乗ったことがないのか?」おじさんに言われ、ああと答えた。


「馬はいいぞ、風になれる。自然と一体になれるんだ。流れる景色は美しく、普段歩く道ですら風景と感じ方が変わる。よし、今度馬を3頭ほどこちらに持ってこよう」


「おじさん、どこまで権限持ってるんだ?」


思わず尋ねていた。


「権限・・・?そんなもんありゃせんよ、これは人徳のなせる業というやつだな」


信頼とも言うだろうな、等と言っていた。


何かごまかされた気がしないでもないが。


「仕方ありません、今から早速出ましょう。下手をすると夜になってしまいます」


リリスが席を立つ。


「おいおい、片付けくらいしなければまずいだろう」


と言った所で、そんなのいいわいわしがやっとくから、とおじさんに言われた。


「お言葉に甘えさせてもらう、有難う」


そうして幕舎を出て二人で歩く。と、ここでしまったと気づく。探知を忘れていた。色々あるとすぐ忘れてしまうな、注意しなければと探知を使う。二人以外近くにはいないようだ。


「どこまで行くつもりだ?」


「ここより南にある村ですね、少し遠いです。昼までにはつくと思いますが」


ふむ、と考え


「そうか、道案内を頼む」


そう言うとリリスをお姫様抱っこで抱え、足に風の魔力を込める。さらにリリスの重量を風のように軽く魔術で調整。


「ヴェ、ヴェル様?!」


「お前が手始めに自分を信じろと言った。その言葉、試しに信じてみたい」


そう言い、


「俺の力も見せよう、まあ、視えないかもしれないがな」


そう言って跳躍。人がいない道を選びひたすら加速し走る。


「馬より、ずっとはやい!」


リリスは嬉しそうだった。


「いいか、これは秘密だ。お前の竜の眼や羽と同じようにな。手の内がばれてしまっては死に直結してしまう恐れがある。それは分かるだろう?」


「はい、分かります。それに人間も魔族も自分にない力を恐れますし、その結果彼らは誹謗や中傷を使いそういったものを排除しようとします。表でダメなら裏で、影で陰湿に」


話しつつも探知と加速をし続ける。あ、そこを左に、と言われそちらに向かった。


「だが、彼らを恨んではいけない。それが正しい姿なんだ。醜いとも思わない、それが自然なのだ」


「はい、分かっております」


リリスは利口だった。だが、もしかすると、と思って尋ねてみることにした。


「リリス、俺が間違っていると思えば正せ」


「はい、今のところ正しいかと」


「・・・そうか」


きちんと善悪の判断はつけているようだ。


「俺が主君だからと全て、はいでは信頼は得られない」


「分かっております、そのような者は価値がありません」


いえ、道具としての価値はあるでしょうが、とリリスは言い直した。


「お前は道具ではない。俺の初めて出来た部下なのだ。自ら考え生きる力を養ってほしい」


「ヴェル様の元で養いそして活かしたいと思っております」


「そうは言っても、俺も立派な人間というわけでもないんだがな。案外お前の方が立派になるのかもしれない」


「嬉しそうに、仰られるのですね」


リリスも嬉しそうにそう言ってきた。


「嬉しい・・・か。そうかもしれない。何故嬉しいのか、それは説明出来ないが」


「今までにない関係が築けたから、ではありませんか?わたくしはそうなのですが・・・」


それもそうかもな、と言おうとした所で探知に多くの人数がかかったのでリリスを降ろす。


「近くまで参りました、もうすぐ村が見えてくるでしょう。しかしこの村は素通りします」


「そうか」


「さらに奥の森の中に家があるのでそちらへ」


分かったと言おうとした所で疑問に思ったことがあったので尋ねてみた。


「いいのか、俺まで行って」


「え?」


ここまで来て何をおっしゃっておられるのですか、という顔をされた。


「勝手な推測だが、お前は村で遊びまわったりはしていなかったろう。その魔力は隠す必要があったのではないか?大丈夫なのか」


するとリリスは少し思案し


「そう、ですね・・・。いえ、けれど大丈夫でしょう」


ニコリとそう答えた。


「そうか、ならばついていこう」


だが念には念を入れねば。最悪殺し合いもあるかもしれない。大事な娘を守るために、俺くらい殺す両親が出てきてもおかしくはない。


俺の親父が母を守ったように。


リリスの両親も娘の秘密を守ろうとするかもしれない。いや、ともすれば両親の方に秘密があるのかもしれない。



───と


村に入って少しした所から


「やめてください、離して下さい」


という声が聞こえてきた。どこから聞こえてきたのか、建物と建物の間にある裏通りから聞こえてくるようだった。


「追い剥ぎか何かか?」


「予定より早くつきましたし、少し運動をしましょうか」


リリスはそう言うと近くにある箒を手に取り裏通りに入っていった。それに無言でついていく。


裏通りでは女と、それを囲うように屈強な男が3人揃っていた。それぞれ剣や短剣を持っている。


「やめなさい」


リリスが言う。


まあ、やめるわけないだろうけどな。と考えていると


「なんだお前は・・・ほう、いい女じゃねえか」


と、一人男がリリスに近づいた所でその男が吹き飛んだ。


何が起こったのかさっぱり分からなかった。魔力は一切感じなかったので魔術ではないことは確かだろう。


バキリ、何かが折れた音がした。木が割れるような音。見ればリリスの持っていた箒が2つに折れていた。


・・・突き?単純な突きを繰り出したのか?


「お、おい。手伝おう」


流石に得物がなければ戦えまい。しかしリリスはこちらを見ずに制止してきた。


「いえ、これくらいならば問題ありません」


な、なめやがって!という声が聞こえてきた。男たちが一斉にリリスに襲いかかる。


それを───


素早く殴り、同時に蹴り、繰り出される短剣を回避し肘で叩き落とし顔面を殴打して。


男たちはその場で全員崩れ倒れた。ピクリとも動かない所を見ると気絶したようだ。


「さあ、行きましょう」


魔族軍ですね、有難うございます、と囲まれていた女が言う。


「そうか、俺達今弓兵の格好してるからか・・・」


「治安維持です」リリスが適当なことを言っていた。


有難うございました、女はそう言うと奥の方へ消えていった。


「何が治安維持です、だ」


「世は未だ乱れております。この乱世を治められる人間が今必要とされているのです」


そうか、中央から少し離れればこうも治安が乱れているのか。勉強になった。


奥の森に進みながら話を続ける。


「治安は乱れているのか?済まないな、比較的落ち着いた場所にいたらしく勉強不足らしい」


「そうですね、全ての地域や村というわけではないのでしょうが。中には重税を科している村もあるらしくそこは大変ですね。逃げれば処刑され、働いても税収で取り立てられ。何のために生きているのか分からないとわたくしは思いました」


「そうか・・・だがそうしたことを憂いても俺達ではどうしようもないな。軍に所属してるし」


「偉くなれば領地をもらえるそうです。そういう所から良い村作りを進めていけば良いのではありませんか?」


ふむ、考えたこともなかった。


「まあ、当面そういう機会に恵まれそうにはありませんが」


リリスは苦笑しながらそういった。


「そうだな、特に功績を上げれるわけでもないしな」


「いいえ、上げたいと思っていないのでございましょう?」


「そういえば、偉くなりたいと思ったことはないな。立派になりたいとは思うが。少なくとも人に見られて恥ずかしくない人生を送りたいとは思う」


「それでいいのではありませんか?いずれやりたいことも見つかるでしょう」


そうこうしているうちに森についた。奥に進むと立派な赤煉瓦のお屋敷があった。


そして魔力探知に二人かかった。中に二人いるようだ。


念の為に魔術妨害を何重にもかけておく。何かあっても即死は免れるだろう。


攻撃を受けた場合はどうするか、リリスには悪いが殺すか・・・。


等と考えていたらリリスは無防備にガチャリと屋敷の扉を開けた。


「ただいま戻りました、お父様お母様」玄関で声を上げるリリス。


「ああ、おかえり」どうやら父親のようだった。見たところ人間らしかった。


「おかえりなさい」そして母親が出てくる。ふむ、リリスは母似か。


遠くからそんなことを考えていると


「そんな所で何をなさっているのですか、早くおいでください」


とリリスに言われ呼ばれた方へ行く。


「なんだい、誰か来ているのかい?」お父さんがそう言う。


「リリスが人を連れてくるなんて初めてね!」お母さんの方も嬉しそうだ。


・・・殺意はないよな。いや、しかし油断はならない。


「こちらわたくしの主君です」


あの、リリス。いきなりその紹介はどうかと思う。


「ほう、主君・・・か」お父さんの眼の色が黄色く変わる。眼の方は父譲りだったらしい。


「それはそれは、丁重にもてなさないと」お母さんの方も魔力が膨らんでいく。



冷静になれ。俺には影の魔術があるし、奥の手もまだいくつもある。


あの眼さえ注意すれば殺れないこともない・・・。遠くからなら十分耐えれる。


一気に距離を詰め、近接に持ち込もう。最悪初手は目潰しからだ。あの眼さえ潰せば確実だ。



───と


「冗談はやめてください」


リリスだった。


いやーごめんごめん、とお父さんとお母さん。膨らんだ魔力が一気に落ちる。



・・・冗談、だったのか?









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