就寝
それからしばらくしておじさんが戻ってきた。
「おい、二人共喜べ。お前ら明日休みだ!」
がっはっは、と言いながら俺とリリスに言う。
思わずリリスの方を見ると、リリスもこちらを見ていた。
「あの、失礼ですがどういうことでしょう?」
リリスが尋ねる。
「ん、聞きたいか?いやー、ワシが言ってきたのよ魔術師部隊の部隊長様に」
「なんて、だ?」俺が尋ねると
「貴重なうちの弓兵をお前らなんぞにくれてやるかと」
「何ケンカ売ってるんだよ!」
思わず突っ込んでしまった。
「いやいやいや、あんな所いっても腐るだけだぞ。わしも腐りそうじゃ、匂いが移ったかものう」
カビ臭くないか?とこちらに聞いてきて無言で首を振る。
「というのは冗談で体調不良が出たので二名休ませると伝えておいた、他部隊にも根回ししてる」
ああ、お前らな、と付け加えて言われた。
「それと今日からお前らこの部署な」
「は?」
「え?」
二人共間の抜けた声だったと思う。
「嬉しいだろう?弓矢の輸送が仕事だぞ」
「嬉しいも何もあるか。俺達は弓兵になるために参加したわけで・・・」
安心しろ、とおじさんはいいおき
「弓はわしが教えてやるよ。何、ただ弓を射るだけなら誰にでも出来る」
ただ・・・、とおじさんは続ける。
「必殺の矢となると話は別だ。お前らには生命を射抜く矢の撃ち方を教えてやろう」
「すいませんが、言うだけなら誰でも出来そうですが・・・」
リリスだった。俺も同じ事は思った、しかし口にするのはためらわれたのに。
「まあ、明日は休みだ。有意義に使え。本格的なことは明後日からにしよう」
おじさんは特に不機嫌になることもなく、むしろ機嫌よくそう答えた。
「ああ、そうだ。裏にもう一つ幕舎を作らせておいたからそっちで休め」
そうしておじさんはこちらに来て
「おい、今度は上手くやるんだぞ」
耳元で囁かれた。
「何を上手くやれと」
「そりゃ年頃の男女がやることと言ったら一つしかないじゃろ!」
にししし、と言いながらおじさんは歌いながら幕舎を出て行った。
全く、「それ」しか頭にないのかこのおじさんは。
───と
「おかしな話になってきましたね」
リリスだった。
「あのおじさんに翻弄されている気がする。大丈夫か俺達は」
嗚呼、どこに行く。
「まあ、心配しても仕方がありません」
明日は明日の風が吹くでしょう、と呑気なことをリリスは言っていた。
・・・それもそうか。
「そんなことよりも明日は休みです、出来ればお付き合い頂きたいのですが」
と、突然話を変えてきた。
「なんだ、行きたい所でもあるのか?」
「はい、わたくし、槍が使えると言ったのを覚えておいでですか?」
そういえばそんなことも言っていたな。
それに無言で頷く。
「それを実家から取ってこようかと。それでよろしければご一緒にどうでしょうか」
まあ、やることもないから断る理由もないか。
「いいだろう」
「そうと決まれば早速寝ましょう。裏の幕舎でしたわね」
言われるまま裏の幕舎に入って思わずなんだこれはと呟いてしまった。
大きなベッドが一つしかない!
「まあ、素晴らしいですわ!」
何が素晴らしいのか。
「俺は床か・・・」
と呟くと
「何を仰っているのですか?もちろん、当然二人で仲良くベッドで寝るのですよ」
そう言うとリリスはいそいそとベッドの方に向かい、上の服を脱ごうとする。
「おい、何をしている」
「汗をかきますし、裸で寝ようと・・・裸で寝ないのですか?」
「いや、まあそれはいいんだが・・・」
自分で言っていて何がいいのか分からなくなっていたが。
「ヴェル様も裸でいいではありませんか?」
まあいいか。
ベッドに近づき服を脱ぎ捨てる。そして布団に入った。リリスもそれに倣って入ってくる。
薬草のいい香りがした。
「ヴェル様の匂いいい香りです」
そう言って胸の方に入り込んでくる。
妙なことになった。いや、大丈夫だ。妙なことはしていない。
まだ、何もしていない。
・・・まだ?
自分で自分のことがよく分からなくなってくる。
まだということはなんだ、これからしようと言うのか。
と、考えていると
柔らかな感触が自分の唇に広がった。リリスの唇の感触だと気づくのに数秒はかかった。
「おやすみなさいませ、ヴェル様」
ニコリ、そう微笑みリリスは俺の腕の中で寝た。
寝るの早いな。まあ、今日は疲れたしな。
「・・・ああ、おやすみ」
俺も疲れていたのだろう、すぐにも寝てしまった。




