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フォールト・ブレイブ  作者: 加藤けるる
一章 塔の村と地下王城
4/5

魔軍の襲撃

【古代政3993年・4の上弦】


 激しい鐘の物音が鳴る。

 寝起きのぼんやりした脳では、何が起こったのか理解が追いつかなかった。だが、「あの時」に似た、不快感のある胸のざわつきを感じた。


 アーガスはすぐに部屋を飛び出した。すると、ゲイルが図書館入り口の前に立って、外をじっと眺めていた。


「起きたか」

「ま……まさかこれって」

「襲撃だ。逃げるぞ」


 扉は全開しており、ゲイルにつられて、夜の外の光景を見やる。

 赤い。真っ赤だ。

 村全体が炎で燃えており、悲鳴がそこら中から聞こえてくる。煙と共に、微かに血の匂いもした。遠くで徘徊しているのは、黒い鎧に身を包んだ存在――クラニウム・ハンドだ。


「な、なんで、こんな……ッ」


 その時、真っ先にあの少女の顔が思い浮かんだ。


 ――リア。


 気付けば、アーガスは駆け出していた。ゲイルの制止が聞こえた気がするが、それを無視して突き進む。

 それはまるで、妹を失った瞬間を彷彿とさせるようで……嫌な予感をごまかそうと、必死に走る。

 途中、クラニウム・ハンドがアーガスを見つけ次第、襲いかかってくる。武器を忘れたアーガスは、身軽にそれらの攻撃をかわしながら、進んでいく。


 追っ手を撒いた後、やがて、リアのいる親子の家に着いた。この辺りは、奴らの気配も少なかった。

 そして――木製の扉が、完膚なきまでに壊されていた。


「……そだ」


 嘘だ。

 そう呟こうとして、叶わなかった。


 室内にいたリアは、父親に抱かれていた。父親の背中には、娘の身体と共に、どす黒い剣が突き刺さっている。


「あ。ああああ」


 親子は、死んでいた。

 赤黒い液体が、父親の背中、リアの全身に塗りたくられている。まるで、神々に見捨てられたように。現実を突き付けるように。

 昨日まで会話していたあの親子は、もういない。


「あ、ああああああああああああああ――ッ!!!!!」 


 その場に立ちすくみ、アーガスは慟哭した。

 同時に、一人のクラニウム・ハンドが背後から襲ってくる。声で駆けつけてきたのだろう。奴らはアーガスを発見するなり、その黒い剣を突き出してきた。


 戦意はもちろん、生きる意志すらも湧いてこなかった。

 希望なんて、なかった。

 希望のない世界なら、ここで終わってもいい。そう思った。

 それでも。


 ――ザシュッ!


 突き刺さった音は、自分のものではない。クラニウム・ハンドはその場に崩れる。アーガスが、親子から抜いた剣で、それを薙ぎ払ったのだ。


「……こんな場所で、死ねるかよ」


 せめて終わらせるなら、親子の復讐をしてからだと思い至ったのだ。

 こんなところで終わったら、天国でリアに見せる顔がない。母親にも見せる顔がない。

 だったら、地獄の縁まで暴れるまでだ。


「うあああああああああああ――ッ!!」


 アーガスは再び叫んだ。今度は、村を駆け出し、魔軍を斬りながら。

 この村の中心には塔がある。頂上では狼煙が焚けるようになっており、地下王城に警告を報せられる。

 だが、今は焚かれていなかった。彼は真っ先に、塔の頂上へ向かおうとして――。


 ふと、異変に気が付き、立ち止まる。

 なぜ地下王城は、村に兵を送ってくれないのか。この村は、狼煙以上に炎で燃えている。遠くから見ても、只事じゃないと分かるはずだ。



 まさか――襲撃が起こることを、あらかじめ知っていた?

 その上で、この村を見捨てた?


 最悪の推測を予感した時、アーガスの体中を、憎悪が支配していく。断罪すべきものはクラニウム軍だけではない、と思い至ったのだ。

 村を見捨て、親子を殺したのは、王家に他ならない。

 この世の全てが、憎い。憎い。憎い――。



 青年は戦った。薙ぎ払い、振り下ろし、襲いかかる黒鎧を斬り壊していく。

 しかし、やがて限界が訪れた。親子を貫いた剣は脆く、真っ二つに割れてしまった。


 気付けばアーガスは、クラニウム・ハンドたちに囲まれていた。全員がその剣先を、彼の方へと向けている。

 ああ、こんなところで死ぬくらいなら、ゲイルの制止をちゃんと聞き入れておくべきだった。

 赤い炎を反射していた瞳を、ゆっくりと閉じる。


「――アーガス!!」


 父の声がした。


「剣を受け取れ!!」


 白と金で造られたそれが、彼の手元に降りかかる。

 キングアーミー・ソード。

 王が数万の兵を率いる際に携えていたといわれる、決して砕けない剣。だが、その本質をアーガスは知らなかった。彼にとって、これはただ一人、妹のために振っていたものだったからだ。


 しかし、今は違う。妹だけじゃない。

 父親のため、あの親子のため――復讐のため。


 アーガスは、その剣を起動した。剣身がくるりと露わになる。


「うおおおおおおおお――ッ!!!!」


 そして、彼は本来の力を取り戻したかのように、クラニウム・ハンドをなぎ倒していく。しかし、奴らに付けられた剣の傷は、先ほどより一層美しいものだった。

 彼の元に、一体も敵が襲いかかってこなくなったのは、それからすぐのことだった。


「……アーガス、お前は」


 振り返ると、ゲイルが何かを恐れるような形相でその場に立っていた。

 やがて避難していた村人たちが戻ってきて、周りにあるクラニウム軍の屍を見て、救世主のアーガスに、まばらな拍手を送る。

 そんな時、彼の瞳は――どす黒く輝いていた。


「……いつか、魔軍と王家を破滅させてやる」


 引きつった狂気の笑みを浮かべながら、青年はぽつりと呟いた。

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