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フォールト・ブレイブ  作者: 加藤けるる
一章 塔の村と地下王城
3/5

赤夜の誓い

【古代政3993年・3の満月】


 塔の村のはずれ、夕焼けに染まったグリム森林。


「うおおおおっ……!」


『キングアーミー・ソード』を両手に握っていたアーガスは、最大の力を込めて、目の前の障害物を薙ぎ払った。


 バシュッ! ゴゴゴゴゴ……バサ――ッ!!


 竜の鱗のごとく硬い大木が、一瞬で切れ、葉っぱの音を鳴らして倒れた。

 彼は剣を一心に見つめる。白の刃は鋭さを損なわず、橙色の光を反射して輝いている。


「す、すごいよ! アーガスにーちゃん!」

「はは、まあな」


 額に汗を流すアーガスを、離れた場所にいたリアは目を輝かせて見つめている。彼はスイッチを押し、剣身を柄の中に収める。

 あの日以来、毎日の特訓で磨いてきたアーガスは、クラニウム・ハンド数体に太刀打ちできる剣術、筋力を持っている。



「──そーいえば、アーガスにーちゃんって、どうしてそんなに特訓してるの?」

「え? ……あー。それは……」


 アーガスは頭を掻いた。幼い子供に素朴な視線を向けられながら、指に顎を置き、瞳を伏せて考え込む。


「……旅に出ようと思ってるんだ、俺」

「たび?」

「長い長ーい散歩だよ」


 少女は、アーガスの言葉に首を傾げる。

 その愛らしい仕草に、思わず笑みが溢れた。リアの方に近づいてしゃがみ、目前まで顔を近づける。


「俺の場合は、失くしものを探しに行くための、な。俺の妹がクラニウム軍に攫われてさ。だから、生きている姿を見つけられたらなって」


 でも、もう生きてないかもな……そう言おうとして黙り込む。気付けば彼の面持ちは、憂いを帯びていた。

 クラニウム軍に攫われた者は、奴隷にされるか、拷問されるか……しかし大半は、命を奪われる。

 よからぬ考えを打ち消そうと、彼は首を横に振った。


「……実はな、リア。明日になったら、俺は旅立ちたいと思ってる」

「ふーん……」


 それを聞いて考え込んだリアは、


「──アーガスのきょうだい、生きてるといいね」


 アーガスは絶句した。

 彼にとって妹の存在は、ずっと諦めきれない存在だった。彼女の無事を確認し、再会を果たすことが、生涯の夢だった。

 リアの一言でその思いを改めて自覚し、


「ああ! リア。俺が旅立っても寂しがらずに、父さんの図書館でたっくさん絵本読めよ!」


 アーガスは声を潜めたまま、満面の笑顔を見せて言う。それを見た少女もつられて、にこっと笑い、「うん!」と頷いた。

 ……もしかすれば、数年前に攫われた妹と、この少女を照らし合わせたのかもしれない。青年は、その小さな頭を撫でた。



 塔の村の城壁の上で、アーガスは夜空を眺めていた。

 仄かに赤く輝く、奇妙な星たち。淡い赤の星たちは、十万年以上もの間、夜の空を美しく彩っているという。

 肘を胸壁に置きながら、青年はため息をついていた。


 そんな時、靴の足音が、彼の背後から近づく。

 門の見張りかもしれないと感じたのか、アーガスは振り返った。


「早く家に帰ってこい」

「あ、父さん」


 呆れた顔をするアーガスの父、ゲイルだ。

 彼は息子の隣に立ち、グリム森林より先の景色を見つめる。


「聞いたぞ。旅に出るんだってな」

「ん? 誰から聞いたんだよ、まさかリアか!?」

「まあ、そんなところだ」


 唯一の家族には秘密にしようと思っていた。心配させてしまうかもしれないから。

 しかし、彼のことだ。騒がしい息子がいなくなって、清々するとすら思っているかもしれない。


「……お前、あそこに行くつもりか」


 ゲイルが指したのは、森林よりも先にある、巨大な建物。大きな山の中に埋まっている、要塞のような城だ。

 カステリ中心部、少し南側に佇む、地下王城『アインスワルグ』。


 ここには、南の旅の者が多く集まる。東にある大きな橋『ハルソン橋』を所有しており、それを渡るのに許可が必要だからだ。

 妹を捜すためには、東の『ハルソン橋』を渡る許可を、そこで貰わなければならない。


「……まあな。父さんに黙ってて、悪かった」

「死んだ妹でも捜すってことか。結構なことだな」


アーガスは、父親の発言に不快感を覚えた。


「レオナを死んだって決めつけるのは、よくないだろ……!」

「あの子が攫われて、何年かかったと思っている? 十年だぞ。……いくら待っても未だに、レオナは戻ってこない」


そう話すゲイルは、無表情だ。数年の月日で希望が薄れ、もはや娘は戻ってこないと確信したのだろう。


「アーガス。現実を見ろ」

「嫌だ。レオナは……確かに生きてる! 感じるんだ、今も生きてるかもしれないって」


 ゲイルはため息を吐く。


「何の冗談だ?」

「……冗談? 冗談じゃねえよ。分かるんだよ、レオナは生きてるって! 感じるんだよ、俺には!」


 気付けばアーガスは、感情的な眼差しを父親に向けていた。「感じる」。確かに冗談じみた台詞だが、彼の中には微かに、しかし相応の確信を持っていた。



「はぁ。お前はいつだってバカだ」

「バカだって言われたっていい。俺は――」

「十年も特訓してきたのは、レオナのためだろう?」


ため息をつきながら、アーガスを見て、呆れ返るゲイル。

しかし、息子が心の奥に潜めていた決意を感じ、彼の口角は僅かに上がっていた。


「バカな奴ほど成功を見る。なぜなら、バカな考えこそが、希望に繋がるからだ。行ってこい」

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